PART 4
浩30−15彩。
コートは妙な空気で包まれていた。彩の圧勝で終わると誰もが思っていたのに、意外に浩が善戦しているのだ。彩の挙動も不審で、どこか調子が悪そうだ。もしかしたら……男子たちは、彩のコート上でのストリップを思わず期待していた。
「先輩、がんばって!」
「いつもどおりですよー」
「次、挽回しましょう」
一方、彩を慕う女子たちからは声援があがった。
静かに、という武田の声が響く中、浩はまた考えていた。
(一度時間を止めると、再開後の一分間は止められない……このポイントは無理だな……頼む、ファーストサーブ!)
ファーストサーブの確率は3割だが、入れるために弱めて打ったら、彩に打ち込まれる……ここは運に期待するしかなかった。
(頼む、神様!)
パンッ、と会心の手応えを残して飛んでいったボールは、サービスラインの真ん中ギリギリに着地した。ボディ狙いとなった鋭いサーブに、さすがの彩も面を作って当てるのが精一杯だった。
「あ……だめ」
ふらふらと力なく上がり、ネットを越えていくボールを見て、彩は焦った。とにかく下がって、打ち込みに備えるのよ……
「はい、いただきー!」
格好のチャンスボールを浩はあっさりとボレーで決めた。こういう時、ソフトテニスのダブルスで鍛えられた浩は強かった。
「フォーティー、フィフティーン!」
武田のコールが響くと、コートはどよめきと悲鳴に包まれた。ダブルゲームポイントだ。
(まぐれよ、こんなの……落ち着くのよ)
彩はそう自分に言い聞かせたが、心臓の鼓動が速くなるのを止められなかった
浩40−15彩。
圧倒的に有利になった第1ゲームの大詰めを迎え、バックサイドのエンドラインぎりぎりに立ったサービス浩はボールをゆっくりとついていた。
(さてと、あと1ポイントか……さっきの時間停止から1分経ったから、また止められるんだよな)
浩は顔を上げ、ネットの向こうで構える彩の姿を見つめた。心なしか、ラケットをしっかり握っているように見えた。
(やっぱりラケットの面をしっかりしようとしてるな……まあ、同じところはいじれないし……)
迷った末、浩は時間停止を使わずにファーストサーブを放った。今日はサーブの調子がいいし、実力で勝ちたいというプライドもあった。
しかし、そのサーブはサービスラインを僅かに越えてフォルトになった。ああ、だめだー、と男子たちのため息混じりの声が聞こえた。
セカンドサーブ。さっきはバックサイドに打ってリターンエースを決められた。今度はセンターの隅を狙うか、もう一度同じコースに打つか……浩は敢えてもう一度、オープンサイド、すなわち彩のバック側にサーブを打った。
(ふふ、やっぱりね)
彩は軽くステップを踏むと、バックハンドの構えに入った。
(滝沢くん、調子に乗ってるから絶対意地張ると思った)
スパン、と軽くラケットを振りぬく。そのボールはネット近くを越え、ストレートに飛んでいった。
(よし、もらったわ)
彩はちょろっと舌を出し、地面を軽く蹴ってジャンプし、スマッシュの構えに入った。
(まずい! ここで落としたら流れが変わる)
博は慌てて反対サイドにダッシュした。やはり実力は彩の方がずっと上だ。ここでポイントを取られたら、一気に流れが変わってしまう……走りながら浩は彩を見つめた。
(時間よ、止まれ!)
時間が止まった。青い靄の中、浩は素早くネットの向こうにダッシュした。もはやここまでは慣れている。
(このスマッシュ、絶対に邪魔しないと……そうだ)
浩は数秒考え、彩のサンバイザーに手を伸ばし、くいっと下に引っ張った。サンバイザーは抵抗なく動き、彩の目を覆った。
(はは、見えなかったら無理だよな)
浩は自らのアイデアに満足し、時間停止解除を待った。
時間停止解除。
その途端、可愛い悲鳴がコートに響いた。
「え、何?、きゃあっ!」
彩は何が起きたのか分からなかった。何かに目隠しされて前が見えない……
(ボールはきっとここよ)
見えないながらも必死にラケットを振り下ろしたが、それは虚しく空を切ってしまった。
ジャンプからの着地も乱れ、膝が崩れて体が後ろに倒れた。
「い、痛っ!」
慌てて両手を後ろにやり、地面につく彩。弾みで足が大きく開いてしまった。膝を立てているためスカートが大きく捲れ、ピンクのアンダースコートの前面が露わになり、太ももの根元までもがギャラリーの前に開陳された。彩は図らずも、サークルの皆の前でM字開脚のようなポーズを晒すことになった。
「あ、あれ? いや、こんなの!」
あまりに恥ずかしいポーズに彩は悲鳴をあげた。しかし、手と腰が痺れて、しばらく動くことができなかった。
「ちょっと、見ないでよ!」
男子たちが露骨に好奇の視線を浴びせるのを感じ、彩は顔を歪めた。
しかし、日頃の凛とした彩の羞恥の表情はギャラリーの嗜虐心を呼び起こしてしまった。
「おおっ!」
「彩ちゃんおっぴろげ!」
「うっげー、M字開脚!」
「太ももエロい」
「アンスコ丸見えー」
男子たちの歓声の前に、女子たちがたしなめる声は埋もれてしまった。
「ゲーム、滝沢」
歓声が収まったのを見計らって審判の武田がコールした。
「それじゃあ、若杉、ペナルティだよな」
武田からも、彩の太ももとアンスコがよく見えた。
(やっぱりエロい身体してたんだな、若杉……)
よっしゃ、一枚脱衣、とはしゃぐ声を聞きながら彩は顔を引きつらせた。
「う、嘘……そんな……」
まさか、浩にゲームを取られると思っていなかった彩は、心の準備がてきていなかった。
数秒間、大股開きポーズを晒した後、彩はあわてて立ち上がり、両手でスコートの前を押さえた。
「……あの、本当に脱がなきゃダメ?」
とたんに、周囲を取り囲むギャラリーからブーイングが起こった。
「さっきは偉そうに啖呵切ってたくせに」
「アンスコ脱ぐくらいいいだろ」
「太ももは根本まで見られてるんだし」
「今さら隠してもなあ(笑)」
「あれえ、いきなりギブアップかな?」
浩も小バカにした表情で彩に笑いかけた。
(負けず嫌いだもんな、若杉は……こう言えば、絶対に引けないだろ?)
浩の思惑どおり、彩はキッとした表情になった。
「わ、分かったわよ!」
今度は、心配げに見守っていた女子たちから声援が飛ぶ。
「さすが先輩!」
「男子に負けないでください!」
「滝沢さんなんて、まぐれがなければ若杉さんからゲーム取れるわけないんだし」
「それじゃあ若杉、時間もないからここで脱いでくれ」
武田はあくまでもクールに告げた。
「は、はい……」
(いいわよ、アンダースコートくらい。スコートが捲れないようにプレーしたって、滝沢くんになんて負けないんだから……)
彩は内心で自分に言い聞かせ、皆の注目を浴びながら、スコートの中に手を入れ、アンスコを脱ぎ始めた。
立ってアンダースコートを脱いでいくと、足から抜く時には身体を大きく前傾しなければならない。彩は慎重に、スコートの中が見られないように脱いでいった。うぶな彩にとって、それだけでも全身がかあっと熱くなるほど恥ずかしかった。
「いつも凛々しい若杉ちゃん、恥ずかしそうな顔もいいね」
「こっちにも視線くださーい(笑)」
「ストリップかよ(笑)」
周囲を取り囲むギャラリーが囃し立てる。
嫌らしい目で見られてからかわれ、彩は少しでも早く脱ぎたかったが、スコートが捲れるのが怖くてゆっくり脱ぐしかなかった。
(やっぱり恥ずかしい……アンスコなしでテニスしなくちゃいけないなんて)
彩がようやくアンスコを脱ぎ終わると、武田が淡々と言った。
「……長かったな。それじゃあ、次のゲームの準備、早くして!」
(次のゲームも落としたらブラ丸出しかな(笑)……でも、次は若杉のサーブか……頑張れよ、滝沢)
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