PART 63(b)

 沖田の指示を受けた知佳がようやく解放されると、扉の外で待ちかまえていた総務部の関口課長と広報部の米山課長に捕まり、そのまま会社の外に出て、近くの喫茶店の半個室に連れていかれた。2人とも、まずは何よりも、知佳が週刊BJの記者に脅迫されてあのヌード写真が撮られたかを告白したかどうかを確認した。そして知佳が、そもそもそのヌード写真は自分のものだと認めなかったことを説明し、その後のやりとりを説明していくと、2人とも露骨に安堵の表情を浮かべた。
「・・・そっか、それじゃあ俺たちは、SHにそれとなく接触して、奴らの真意を探ればいいってことだな。」
「ま、俺たちもあの写真が本当は君のものだなんて、絶対に言わないから安心してくれよ。」

 「・・・それにしても、どうしてあの写真がBJではなくて、SHに掲載されたか、分からないんですか?」
自分達の保身しか考えていない2人の課長に対し、知佳は事務的な口調で聞いた。(何が絶対に言わないから安心しろ、よ。自分達が許可した撮影での写真が外部に漏れたら、責任問題になるからでしょ・・・)
「社長じゃありませんけど、本当に次号の掲載は何とか止めないと・・・」
『裏バイト』というどぎつい文字が脳裏に浮かび、知佳は顔を歪めた。そう言われて思い当たることは山ほどあるのだ。宴会での変則ストリップや絶頂シーン披露、露天風呂でのM字開脚や全裸尻上げポーズで自ら秘裂を開いての恥ずかしい告白、マットプレイにフェラなどの全裸奉仕、ゴルフ場での全裸プレイ、放尿ショーや産卵ショー、秘裂からぶら下げてのパター・・・どれ一つが流出しても、知佳にとっては死んだ方がましの恥辱だった。公開されたのが眼を隠したヌード写真一枚だけ、というのはある意味ラッキーとすら言えた。

 「うん、それなんだけど、・・・たぶん、あのカメラマンじゃないかな。」
小刻みに震える知佳に気付かず、広報課長の米山が声を潜めていった。
「記者はさすがに裏切らないだろうけど、カメラマンはフリーっぽかったからな。・・・せっかくの特ダネがBJの方針で公開されないことになって、SHに持ち込んだってことじゃないか?」

 「ああ、俺もそう思う。・・・ただその場合、やっかいだよな。あいつら、動画もさんざん撮影したし、もともと脅迫に使っていた、ゴルフ場での知佳ちゃんの恥ずかしい動画と写真も持っているんだろう?」
総務課長の関口が手を顎に当てながら言った。
「だから、下手にうちの会社が突っ張ったり、SH書房に上から圧力をかけたりしたら、あいつら、どう動くか分からないぞ。そうやってSHは押さえ込めても、もっとやばいルートで売りさばくかもしれないしな・・・そしたら今度は、脅迫相手が無限に増えるぞ・・・」

 そして3人はそれぞれ、「犯人」との接触があったらできるだけ刺激しないように対応しつつできるだけ情報を引き出し、逐次連絡を取り合って対策を考える、ということで一致した。最後に知佳が、社長の沖田に命令されたことを話すと、2人は驚愕の表情を浮かべたが、同時に唇の端を緩めたのを知佳は見逃さなかった。

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 毎週金曜日は、知佳がテレビジャパンのニュース番組での生放送のコーナーがある日だった。好奇の視線に晒されながらも何とか定時に業務を終えた知佳は、その足でテレビジャパンに向かった。本当はこんな時に生中継のテレビになんて出たくなかったが、普段どおりに過ごすことが、あの写真が本物ではないことの証拠になる、という社長の意見と知佳も同じ考えだった。
 しかし問題は、社長のもう一つの命令だった。それは、今日の番組の知佳のコーナーに、知佳は自ブランドの服のうち、できるだけ露出が多いものを着て、しかも素足で出演しろ、というものだった。そこまで見せれば、ヌード写真と本物を比較でき、知佳の疑惑も晴れるのではないか、というのがその理由だった。
 社長のその考えには同意できなかったが、否定することもできず、知佳はその命令に従わなければならなかった。服の選定は商品企画部と広報部で行い、テレビ局に届けておく、ということだった。

 ただ、奇妙なことにそこには一つの救いがあった。知佳のその話を聞いたときに米山が気付いたことだが、SHに掲載された見開き一杯のヌード写真には、妙な細工が施されていた。それは、肌の色が足と腕がやや日に灼けたように濃くなっており、首筋や太ももには、なぜかホクロが付け加えられていた。そこに気付くこと自体、米山が知佳の恥辱写真を丹念に見ていたことの証でもあったが、知佳はそれを非難するよりもほっとしていた。それは「犯人」が、知佳を完全な破滅に陥れる気はまだない、というメッセージにも感じられた。

 知佳がいつものようにテレビジャパンの中に入って行くと、ロビーの皆の視線が一斉に集中したが、知佳は敢えて無視して、控え室がある8階に向かった。ただ、表情は平静を装っていても、ここにいる全員が自分の全裸を見ているだろうと思うと、身体の小刻みな震えが止められない知佳だった。

 8階に到着すると、準備をしていたスタッフがいつもの笑顔で迎えてくれた。既に会社から連絡があり、週刊誌にヌードをでっち上げられた知佳を皆が心配している様子だった。番組開始前のミーティングが始まると、知佳はまず立ち上がり、週刊SHの件ではお騒がせして申し訳なかったことを謝罪し、次に、もちろんその写真は自分のものではなく、会社としての対応策を検討中であることを説明した。さらに、その証明のためもあり、今日の放送では露出度の高い服装になること、どうせなら自分で立ち上げたブランドの中で一番ミニで、可愛い服を着ることを告げると、会議室には明るい笑い声と拍手が響いた。さすが商社、転んでもタダでは起きないわねえ、頑張ってっ、とメインキャスターの女性アナ、中谷佳織が声をかけ、ぽんと肩を叩いた。

 打ち合わせを終えた知佳は、いつも通りに控え室で待機することになった。人気コーナーを担当し、大口取引先のM商事の社員である知佳は優遇され、ゆったりとした個室が与えられていた。分かり易い場所に今日の衣装であるスーツが置いてあり、それに着替えて鏡の前に立ち、顔を赤らめた。
「やだ、こんなに短いなんて・・・」
それはピンクをメインとした可愛いスーツだったが、その丈があまりに短く、太ももの半ばまでが露出していた。しかも、パンティストッキングを穿くことを禁じられていたため、生白い肌がまともに見られることになる・・・

 放送時間の30分前になると、知佳はいつもどおり、早めにスタジオに入った。そしてスタッフの一人一人に挨拶をしていく。そうしたきめ細やかな対応が皆に支持されていたため、週刊SHのことを持ち出してからかう者は一人もいなかった。ミニスカートのピンクのスーツ姿を、皆が可愛いと褒めてくれた。
 しかし遅れて入ってきた一人のスタッフに挨拶しようとした時、知佳の表情がさっと変わった。
「お、おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
周囲に気付かれないよう、知佳は無理やり笑顔を作った。

 「こちらこそよろしく。今日は可愛いスーツだね。その脚、うんときれいに撮ってあげるからね。」
そう言ったのは、テレビカメラマンだった。そしてそれは、週刊BJの取材に来た時のカメラマンと同じ男だった。

 あの男がここにいる!・・・知佳の心臓の鼓動が一気に跳ね上がった。ゴルフ場での痴態のデータを持って会社を脅迫し、会議室での数々の恥辱ショーを撮影し、ヌード写真を週刊SHに持ち込んで公表した男・・・その男のカメラに映され、生放送のテレビに出なければならない・・・徐々に集まる他の出演者に挨拶しながら、知佳はカメラマンの視線を痛いほど意識していた。

 そして放送まで15分になった時、携帯端末がメールの着信を告げた。差出人はランダムなアルファベットで、件名は「SH関連」だった。机の陰でその内容を見ると、すぐに控え室に行くこと、とだけ記されていた。

 知佳は仕事の緊急の電話を受けたふりをして席を立ち、小走りに控え室に向かった。そして部屋に入って鍵をかけた瞬間、今度は携帯端末が電話の着信を告げた。もちろん、知佳の知らない番号だ。(い、いやあっ)知佳は内心で悲鳴を上げたが、電話に出ないわけにはいかなかった。
「は、はい・・・」

 『やあ知佳ちゃん、久しぶり。ピンクのミニスカスーツ、よく似合ってるよ。』
電話の声は、さっきの男とは違う声だったが、知佳にはすぐ分かった。あの時の、もう一人のカメラマン!

 「あ、あなたっ! ど、どこにいるの!?」
知佳は悲鳴のような声で言って周囲を見回した。

 『やだなあ、教えるわけないだろ、知佳ちゃん・・・そんなことより、今からちょっと楽しませてもらうよ。今すぐ、そこでストリップをしてくれるかな、この携帯で生中継しながらさ。』

 知佳は必死に抵抗したが、全裸M字開脚で自己紹介をする動画を送りつけられてはどうしようもなかった。電話の男の指示どおり、携帯端末を指定されたアドレスに接続し、映像が生中継されるように設定した。電話はスピーカーホンにして接続したままだ。

 『はい、それじゃあ生出演前の麻倉知佳さんによる、本日の出演衣装からのストリップショーを開催します! それでは麻倉さん、カメラに向かって自己紹介をしてから、色っぽく、カメラ目線でよろしくお願いしまーす!』
それはまるで、どこかに観客がいるかのような言い方だった。

 (こ、こんなの、いやあ・・・)電話での命令だけでストリップをしなければならない恥辱に知佳は唇を噛んだが、躊躇する暇はなかった。(は、早く戻らなくちゃ・・・)
「・・・M商事の、麻倉、知佳と申します。これから、この衣装でニュースに生出演しますが、その前に、ストリップをご覧いただきたいと思います。」

 −−−今までの散々の恥辱責めの結果、切なそうな表情で、自然と男を喜ばせるセリフを言い、服を脱ぎ始めた美女の姿を各々のモニターで眺め、各地のVIP会員達は心から堪能していた。まさか、あの麻倉知佳のストリップが生中継で見られるなんて−−−
 
 そして、大勢の男達や美月旅館の女将、仲居達に見られているとも知らず、知佳は次々に服を脱いでいき、ついに素っ裸になった。その美しいバストに視線が集中し、VIP会員達は皆確信した。週刊SHに載っているのは、やはり知佳本人の裸だ・・・淡い乳輪、小振りで溶けてしまいそうなピンクの乳首、抜けるような白さ、大きさ、形・・・本人と確信した後は、全身のラインを舐めるように見て、股間の中心部分を注視した。

 「ど、どうですか、知佳の裸・・・」
知佳はそう言いながら、両手を頭の後ろで組んだ。もちろんこのポーズが男を興奮させることを知っていて、自然に身体が動いたのだ。気のせいか、大勢の男達の視線に見られているように感じ、知佳は身体の奥がじんと熱くなるのを感じた。(だ、ため、もうすぐ本番なのに・・・)
「お、お願い、これで許して・・・早く、行かないと・・・」
有料のストリップショーのデビュー公演中だと知らない知佳は、カメラのレンズに映るように腰を左右に振って見せた。(こ、こうすれば満足、するのよね・・・)

 『よし、まあ、仕方ないか・・・それじゃあ、服を着ていいけど・・・』
電話のスピーカーから聞こえる男の声が一瞬止まった。
『それじゃあ、部屋の奥にもう一つの袋があるから、スーツの下にはそっちをつけてね。・・・もちろん、カメラで中継しながら、それが何かも説明つきでね。』

 不審に思いながらも知佳に選択の余地はなかった。しかし、指示どおりに紙袋を開けた知佳は思わず悲鳴を漏らした。そこには、白いビキニの水着と、2つのローターが入っていた。


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