PART 64(b)

 ・・・知佳がスタジオに戻ってきたのは、番組開始の3分前だった。さっきと同じく可憐で可愛いピンクのミニスカスーツの姿は変わらない。
「す、すみませんでした・・・」
知佳は小声で周囲に謝ると、そそくさと席についた。

 「麻倉さん、大丈夫? 顔が赤いわよ。」
メインキャスターの中谷アナが心配そうに声をかけた。知佳の頬は傍目にも分かるくらい赤く火照っていた。彼女は、知佳が美貌に甘えず、常に真摯に仕事と向き合っている姿勢を高く評価していた。それにしても、今日はちょっと様子がおかしい・・・

 「恥ずかしいんだろ、知佳ちゃん?」
知佳が口ごもっていると、テレビカメラの向こうから男性の声が響いた。それは、番組のプロデューサーだった。知佳の顔がはっとなったのを見て、明るく笑った。
「そりゃそうだよな、偽物とは言え、ヌード写真が週刊誌の載った日にテレビに出なくちゃいけないんだもんね。・・・でも偉いよ、逃げずによく来たね。それに、そのミニスカート、よく似合ってるよ。その真っ白な足なら、あの写真とは全然違うしね。」

 「そうそう、あと、もう少し短くしてもらったら、太股のホクロがあるかどうかでも判定できるんだけど。」
コメンテーターの男性が同調すると、ちょっと安原さん、買ったんですか、あの雑誌、と中谷アナが呆れた顔で言い、皆の笑いを誘った。

 「・・・す、すみません、大丈夫ですから・・・」
皆の視線を浴びて、知佳は消え入りそうな声で言った。みんなやっぱり、今日の週刊SHを買って、私の全裸姿をじっくり見ているのね・・・いや、そんな眼で見ないで・・・冗談めかした皆の暖かい笑顔の中に、今までと違う隠微な視線を感じ、知佳は小さく震えた。

 そして知佳が顔を真っ赤にしている理由はもう一つあった。今の知佳は、スーツの下にサイドが紐の白いビキニを着けていて、さらに秘裂と尻の穴の中にローターを咥え込んでいるのだ。控え室の中で、2つの穴にローターを入れる様子をアップで生中継するように命令され、知佳は死ぬ思いでそれを実行してきたのだった。

 『知佳ちゃん、そんなに顔真っ赤にしてたらばれちゃうよ。ほら、顔を上げてにっこり笑って。』
インカムから突然、男の声が聞こえた。それは間違いなく、控え室で聞いたあのカメラマンの声だった。知佳が慌てて周囲を見回すと男の声が続いて聞こえた。
『だから、君からは見えないって。それから、この声は君にしか聞こえない設定にしてあるから安心していいよ。・・・それじゃあ、番組中は指示に従ってもらうからね・・・もし逆らったらどうなるか分かるよね? 分かったら、右手を上げて。』

 その言葉が終わると同時に、秘裂の奥のローターが振動を始めた。知佳の顔が驚愕に引きつった。(きゃ、きゃあ、やめて!)知佳が右手で髪を掻き上げると、その振動はすぐに止まった。(ひ、ひどい、こんなの・・・私をどうするつもりなの・・・)

 番組が始まる直前、プロデューサーから緊急の報告があった。それは、他での急遽の撮影や故障のため、テレビカメラが2台しかないということだった。1台は万一のため予備とするため、今日の放送は1台だけで行う・・・異例の措置に緊張が走ったが、私達はいつもどおりにするだけよ、と中谷アナが言うと、皆の顔に落ち着きが戻った。

 いよいよ放送が始まった。女性キャスターはいつもどおりの落ち着いた口調でトップニュースを話し、さらに皆を安心させた。

 そしてカメラが切り替えられないという異常な状況ながらも番組は無難に進行し、知佳も何度かコメントを求められたが、うまく答えることができた。
(お願い、このまま終わって・・・何もしないで)自分にカメラが向けられていない時、知佳は祈るような目でカメラマンの男を見たが、男は片手でピースサインを返しただけだった。

 次はいよいよ知佳の本格的な出番だ。知佳が担当しているのは起業家を招いての対談だったが、今日は室内クライミングクラブのチェーンのオーナーが相手だった。知佳はクライミングについてはほとんど知識が無かったが、ブームになる前から積極的なチェーン展開を行っていた和田社長の浅黒い顔はビジネス誌で見たことがあった。絶妙のタイミングでチェーン展開を始めた理由、女性など、市場はどこまで広がるか、課題は何か、屋外のクライミングはメニューに入れないのか・・・これまでのインタビュー記事などで勉強しながら、知佳は聞きたい内容を事前に整理していた。

 「それでは、今日の特集ですが、最近、静かなブームになっている、室内型のクライミングクラブについてです。まずはこちらをご覧ください・・・」
知佳はいつもどおりに話すことができ、内心でほっとしていた。そして、取材ビデオが流れたことをモニターで確認すると、スタジオの隅で出番を待っている和田社長に視線を向け、軽く会釈をした。和田が山男らしい顔を崩して満面の笑みで応じてくれたのを見て、知佳は安堵した。(大丈夫、きっとうまくいくわ・・・)

 そしてその間に、スタジオには大掛かりなクライミングパネルが設置されていった。それは透明で5メートルもの高さがあり、上に行くほどホールド(握る部分)が少なく、更に角度が急になり、途中からは反り返る形になっていた。

 取材ビデオが終わると、いよいよ対談の開始だ。きっとテレビの向こうでは、あの雑誌を開きながら大勢の男達が見ているに違いない・・・気にしないで、いつもどおりに・・・
「えー、それでは和田社長、よろしくお願いいたします。・・・それにしても、大きな壁なんですねえ・・・こんな急な壁を、初心者でもすぐに登れるというのは本当ですか?」
知佳が事前の打ち合わせどおりの話題を和田に振り、対談は順調にスタートした。

 そして一通りの質問が終わると、和田による実演が行われることになった。今日披露するのはトップロープクライミング、即ち、一番上の目的地にロープを掛け、そこから下ろした片端をクライマーがハーネス(腰に巻く安全ベルト)に付け、壁面を登っていくものだ。逆の端はビレイラー(保持者)が器具を使って保持しているため、常に上からのロープに引っ張られている形となり、クライミングの中では初心者向きの方法だった。今回そのロープは、スタジオの上に張り巡らされている梁の一つに掛けられていた。

 「すごいですね、こんなに急な壁をあんなに高いところまで登って行くんですね。それでは、和田さん、よろしくお願いします。」
知佳は上を見上げ、お世辞ではなく感心して言った。

 和田は装備や登り方の説明を簡単にした後、するするとその壁を登り始めた。パネルが透明であるため、本カメラと予備用のカメラで前後からその姿が中継された。素早く
足を上げ、必要があれば脚を大きく広げて横に展開し、オーバーハングのところまで登ると足を壁から離して懸垂の状態になり、あとは両手だけで進んでいき、頂点に辿り着いた。そして今度は今のルートを辿るように戻り、あっという間に下に降りてきた。その鮮やかなテクニックにスタジオのあちこちから自然に拍手が湧いた。

 しかしその中で一人、知佳の様子だけが少し変わっていた。笑顔で拍手をしながらも、耳元のインカムから聞こえる声に当惑し、絶体絶命の窮地に追い込まれていた。
「和田社長、ありがとうございました! すごいですね、こんな絶壁をいとも簡単に登ってしまうなんて・・・」
(そ、そんなこと、無理よ、お願い、許して・・・)会話を続けながら、知佳は必死に打開策を考えた。

知佳はしかし、インカムから聞こえたその命令に逆らうことができなかった。
「・・・あの、できればこれから、私も挑戦してもいいですか?」

 その瞬間、スタジオの雰囲気が変わった。事前の打ち合わせでは、これからの経営上の目標や課題、健康ブームとの関連などの話題を話し合って終了の筈だった。それなのに、自分もやってみたいなんて一体何を言い出すんだ?・・・ミニスカスーツ姿なのに、どうやって?

 「え、あの、今から、麻倉さんが、ですか?」
あまりに意表を付く申し出に、和田は戸惑いながら答えた。
「まあ、装備としては、私のハーネスと、先ほどお見せした女性用シューズを使えば可能とは思いますが・・・しかし、その服装では・・・」
和田が困惑するのも無理はなかった。そのハーネスはレッグループタイプであり、両方の太股に巻いたループを腰の前方で繋ぐ部分に垂直にビレイループが掛けられ、すぐ上のウエストベルトに繋げられている・・・それをタイトミニスカートの上に装着したら、スカートの裾はレッグループの所までは捲り上げられ、さらに各レッグループとウエストのベルト正面を繋ぐコードがスカートの全面を完全に捲り、パンティ前面の三角地帯が露出してしまう・・・

 『おい知佳ちゃん、何を言っているんだ? 確かに面白いけど、そんなサービス、しなくてもいいよ。』
ようやくインカムから、ディレクターの声が聞こえた。現場のトラブルには慣れていたディレクターだったが、さすがに動揺しているようだった。

 しかし、今の知佳に後戻りする選択肢は無かった。カメラマンの男の指示に逆らったら、比べものにならない痴態が全国に公開されてしまうのだ。(やるしかないのよ・・・例え生放送で全国に恥ずかしい姿を晒しても・・・)
「はい、服装なら大丈夫です。実は今日は、M商事の衣料品事業としまして私が関わっているブランドのスーツを着てきたのですが、こちらのスーツ、ちょっと思い切ったデザインですけど、可愛いと思いませんか?・・・」
きっとテレビの向こうでは視聴者が呆れているだろうと思いながら、知佳は続けるしかなかった。
「それに、この下には今年の新製品の中でも、とっておきの水着を着ているんですよ。ですから、スーツは脱いでしまいたいと思います・・・」
知佳は内心の恥辱を押し殺してそう言うと、笑顔のままで手をブラウスのボタンにかけた。

 ミスK大にもなったM商事きっての美人社員が、テレビのニュース番組の自分のコーナーでストリップをして水着姿になる・・・テレビスタッフと出演者達は呆気に取られてその光景を眺めていた。冗談なのかとも思ったが、知佳はその手を止めず、ブラウスのボタンを全て外し、いよいよ前を開こうとしていた。

『・・・分かった。知佳ちゃん、5分あげるから、好きなようにしていいよ。だけど、無理はしないでくれ。』
ディレクターの声が全員のインカムに聞こえた。それでなくてもあの雑誌のせいで今日の放送の視聴率は凄い筈なので、番組の中でこんなハプニングがあったら、一体どうなるか・・・ディレクターがそう期待しているだろうことはその場の全員に分かっていた。まあ、知佳ちゃんが自分からやるって言っているんだから、これ以上止めることもないだろう・・・

 スタジオを奇妙な沈黙が支配する中、知佳はついにブラウスの前を開き、皆をまた驚かせた。
「えー、これは弊社の新作の中でも、比較的大胆なデザインになります・・・シンプルな白のビキニタイプですが、素材とフォルムにかなりこだわって作りました・・・」
知佳はほんのり顔を赤らめながら、ゆっくりとブラウスを取り去り、水着のトップだけの上半身を披露した。

 ほんの少しだが、スタジオに沈黙が訪れた。まさかビキニとは、誰もが夢に思わなかった。大人しいワンピースの水着になってくれると思っただけで興奮していたのに、小さめのカップで覆われただけの半裸の上半身をテレビカメラの前に晒しているのだ。
『うん、かわいいよ、知佳ちゃん。カメラさん、上半身をアップにして。中谷さん、フォローお願い!』
インカムからディレクターの声が聞こえ、皆の心が戻った。こんなにおいしい素材を前にして、時間を無駄にすることは許されない・・・早速モニターには知佳のバストと顔だけがアップで映り、全国に生中継された。

 「あら、知佳ちゃんにしては随分大胆ねえ。でも、とってもよく似合ってるわよ。そのビキニも、とっても」
中谷アナがいつものように親しみやすい口調で言うと、一気に場の雰囲気が和んだ。宣伝のために水着姿になったのだから、じっくり見ていいのだ・・・

 「はい、ありがとうございます・・・それでは、こちらもご覧ください・・・」
知佳はカメラを見ながら照れたような笑みを浮かべ、スカートのボタンを外し、ゆっくりと引き下ろしていった。スカートの上からビキニのボトムの上側が顔を覗かせたのを見て、スタッフ達はまた息を呑んだ。それは、サイドは紐だけのビキニだった。


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