PART 72(b)

 それから一ヶ月後。異例の早さで進められた事業譲渡の処理が終わり、いよいよ知佳達がS物産の正式な社員となる日がやってきた。S物産の本社ビルの高層階の1フロアが丸々空けられ、M物産のアパレル部門の社員のために用意された。そして、その下のフロアが、S物産のアパレル部門であり、その配置自体が丁重な待遇の証となっていた。部長はS物産の部長が一人で勤めることとなり、商品企画部の前川や営業部の高城はM物産内で第1事業部の新規事業担当に配置換えされることなった。

 知佳達はその日はほとんど、社内のあちこちの部署を回っての挨拶回りに忙殺された。そして勤務時間終了後は、S物産のアパレル部門による歓迎会&新体制キックオフが待っていた。昨日までもM商事での業務の整理に繁忙を極めた社員達は正直ゆっくりしたい心境だったが、S物産で迎えてくれる社員達の気持ちを考えると、出席しないわけにはいかなかった。

 歓迎会は、近くにある一流ホテルの大広間で立食形式だった。歓迎会には、S物産の社長がわざわざ出席し、会社としての力の入り方を印象付けていた。社長は張りのある声で、M商事から移籍してきた社員達への歓迎と期待、既存のS物産アパレル部門の社員のさらなる頑張りへの励まし、今後、S物産としてアパレル部門を事業の柱の一つと育てる意気込みであることを冗談を交えて話し、大きな喝采を得た。社長の次は衣料品を扱う生活関連事業部部門長、そして営業部長の藤堂からの挨拶が続いた。藤堂は、以前カラオケで知佳の肩を抱いてセクハラで叱られたエピソードを頭を掻きながら話し、会場の笑いを誘った。

 その次は、M商事組からの挨拶だった。課長の袴田や鈴原が挨拶をし、それぞれが慎重な配慮を加えつつ前向きなコメントを含め、さらにユーモアも交え、お互いに警戒していたような部屋の雰囲気が徐々に和んでいった。

 それからしばらくは歓談の時間だった。知佳は積極的にS物産の社員達の輪の中に入り、笑顔と共に自己紹介をした。美人だけど仕事では上司にも平気でずけずけ言って可愛いげがないーーーそんな噂を聞いて警戒していたS物産の社員達は、知佳の清楚な雰囲気と愛想の良さと美貌にすっかり心を許していった。(なんだ、テレビの時よりも会社の方がもっと可愛いじゃないか)(そうだな、それにやっぱりスタイルもいいな。テレビでのビキニの時の胸とケツ、たまんなかったな)(あの雑誌に載ってたヌードが本物だったら良かったのにな)・・・男性社員があちこちでひそひそ話をしながら、知佳の姿をちらちらと見ていた。

 そしてしばらくした頃、知佳は課長の鈴原に呼ばれ、会場の外に出た。不審気な知佳に向かい、鈴原は微笑みを浮かべながら言った。
「知佳ちゃん、今日はどうもお疲れさま。・・・それでさ、さっき幹事から頼まれたんだけど、知佳ちゃん、ちょっと皆の前で挨拶してくれないかな?」

 「え、私が、ですか?・・・いえ、私はただの社員ですから、社長までいる席でそんな差し出がましいことは・・・」
知佳はいきなりの話に驚いて戸惑い気味に答えた。それに、ソーププレイでシックスナインまでさせられた男と2人になるのは1秒でも短くしたかった。
「すみません、遠慮させてください・・・もう、よろしいでしょうか?」

 「ごめんね、残念ながら君に拒否権はないんだよ。」
うつむき気味の知佳に向かって、鈴原は急に口調を変えた。
「これは部下に対してのお願いじゃないんだ。ビューティームーン所属のコンパニオンに対する命令だよ。・・・今日は一晩中、買ったんだからな、君の使用権。」
鈴原はそう言うと携帯端末の画面を見せた。そこにはビューティームーンの女将からの注文受諾メールが表示されていた。知佳の顔がさっと青ざめるのを見て、鈴原は片手を上げて宥めるような仕草をした。
「大丈夫だよ、さすがに一流ホテルで、この前の温泉旅館みたいなことをさせるつもりはないよ。・・・ただ、ちょっとした演出くらいはいいだろう?」

 その数分後、司会者の紹介で知佳からの挨拶があることを知らされると、会場からはやんやの拍手が起こった。わずか数十分で、会場の中にはすっかり友好的な雰囲気が醸成されていた。

 (あ、ああ、そんなこと、・・・)知佳は内心の羞恥心を抑えながら、微笑みを浮かべて壇上に上がった。
「・・・えー、本日からS物産でお世話になることになりました、麻倉知佳と申します。私などがお話をするのは大変僭越なのですが、ご指名をいただきましたので、少しだけご挨拶させていただきたいと思います。・・・」
そして知佳は、自分の略歴とM商事で立ち上げたブランドの戦略、苦労話、今後の取り組みを簡単に話し、次いでS物産の新ブランドも切り口は違うがとても素晴らしいと持ち上げた。まとめとして、今後はお互いのブランドの長所を活かし、相乗効果で販売を拡大していきたい、と締めて深々とお辞儀をすると、会場中から大きな拍手が起こった。

 にこやかな表情のままで大勢の顔を見ながら、知佳は足が小さく震えるのを止められなかった。コンパニオンだと気付かれずに皆を楽しませること・・・それが鈴原から告げられたオーダーの大前提だった。
「・・・すみません、もう一つ、付け加えさせて下さい。」
知佳が透き通った鈴のような声で話すと、拍手と歓声で沸いていた会場がさっと静まった。皆、この美人社員が何を付け加えたいのか、注目していた。
「先ほど、藤堂部長からお話がありましたが、以前、カラオケで肩を抱かれたくらいで騒いでしまい、大変失礼いたしました。・・・S物産の社員となったからには、営業の場でセクハラだなどとは絶対に言わないことを、誓います。」
知佳がそう言ってまた頭を下げると、会場が爆笑に包まれた。「S物産は下品で悪かったなあ」「この会も営業の場だからセクハラって言わないんだよね」、とヤジが飛んだが、言い方には知佳への親しみが含まれていた。

 「それから、私、S物産の新ブランド、本当にとても好きなんですよ。・・・今からそれを証明します・・・」
知佳はやや引きつった笑顔でそう言うと、スーツのボタンに指をかけた。そして、ボタンを一つ一つ外していく度に、驚愕のざわめきと淫靡な空気が広がり、視線が突き刺さってくるのを痛いほど感じた。それは知佳がもう何度も経験した、男達が嫌らしい想像をしながら女を見つめる視線だった。そしてその視線を浴びせられると、自分の身体の奥がジュワッと反応してしまうことも自覚していた。違う、私、見られて喜ぶ変態なんかじゃ、ないのに・・・

 知佳がスーツの上を脱いで清楚な白いブラウスを見せると、薄い布越しにはっきり分かる胸の膨らみに会場の興奮が更に高まった。そして知佳がさらにブラウスのボタンを外し出すと、会場の男達は囃し立てるのも忘れてじっとその上半身を見入っていた。

 ただ、会場の一角に固まっていた、元M商事の営業部の男女だけが、余裕を持ってニヤニヤとその光景を見つめていた。(久しぶりに見れて嬉しいよ、知佳ちゃんの生ストリップ(笑))(ほーんと、あのコ、男の前で脱ぐのが好きなのね、誘う用な眼で脱がなくてもいいのに)(おい見ろよ、あの表情! あれ、絶対にアソコぐっしょり濡らしてるぞ(笑))(あんなに可愛いのに露出狂なんて、最高だね、知佳ちゃん・・・)

 そしてついに、ブラウスのボタンが全て外された。少しはだけた隙間からは胸の谷間の真ん中の赤いブラ紐が見えた。
「そ、それでは皆様、ご覧ください!」
湿っぽい雰囲気にするなよ、と命令されていた知佳は、あえてにっこりと笑って明るい声で言った。ちょっと宴会で羽目を外しただけ、なんだから・・・そして知佳は、笑顔のままでブラウスの前をばっと広げ、すぐにそれを両腕から取り去った。ついにホテルのパーティーの壇上で、知佳は上半身にブラ一枚だけの姿を晒すことになった。

 「み、みなさん、お分かりでしょうか?・・・これは、S物産の新ブランドの水着の一つです。とつても可愛いビキニだと思いませんか?」
知佳はそう言うと、両腕を頭の後ろで組んで胸を強調するポーズを取った。

 あまりの大胆な行動に、会場が一瞬、しんと静まり返った。知佳が身に付けているビキニのトップは、新ブランドの中でもかなり最も大胆な部類のものだった。双乳の裾を隠しきれない小さな三角の布がそれぞれの乳房の上に乗り、細い紐がそれぞれをやっと繋いでいるだけ・・・それは、以前のテレビで見せた白のビキニよりもさらに布面積が小さいものだった。また、生地が薄く、頂点にある乳首が少し浮き出てしまっていた。

 「そ、それでは、ボトムもご覧ください・・・」
知佳はこの場から逃げ出したい気持ちを必死に押さえながら、両手を下ろし、スカートの裾を掴んだ。(いいじゃない、水着になるくらい・・・テレビ局やゴルフ場、温泉でのことに比べれば・・・あのことが皆に知られてしまうくらいなら・・・)知佳は自分を慰めながら手を動かしてホックを外し、ほんの一瞬手を止めて小さく息を吸った後、スカートを一気に引き下ろした。

 その結果、一流ホテルの立食パーティの中、知佳は皆が見つめるステージの上で真っ赤な紐ビキニ姿を晒して立っていた。今度は両手を腰の後ろに回して握り、きわどい三角の布で覆われた下半身も隠すことはしなかった。
「い、いかがでしょうか、S物産の新ブランドの大胆な赤のビキニを着てみました。・・・大胆なデザインの中にも、この赤の大人っぽい色合い、上質な布地、鮮やかなカットラインに拘を感じていただけると思います・・・」
そう言うと、知佳はその場でゆっくりと回り、背中とお尻も観客に向かって見せた。そしてまたターンし、正面のギャラリーを見つめた。(あ、う、うそっ・・・ああ、だ、だめ・・・そんな・・・)今はバイブもローターも入っていないのに、秘部がうっすらと濡れて来ているのを感じ、知佳は顔を少し引きつらせて動揺していた。
(も、もうすぐ終わりだから、頑張るのよ・・・あとはスーツ姿に戻っていいって言われたんだから・・・)

 そして、美人女子社員のあまりに大胆な行動に呆気に取られ、その肢体を凝視していたギャラリーから、ようやく声が上がり始めた。
「いいぞ、知佳ちゃん、最高だよ!」
「その度胸ならうちでも営業勤まるよ!」
「顔だけじゃなくてスタイルも抜群だね、知佳ちゃん。」
「それじゃあ、そのままお酌してみてくださいよ。接待だと思って。」
「そうそう、もちろん全員にですよ。それで少しくらい触られても絶対にセクハラなんて騒がないって証明してくださいよ。」
最後の2つの言葉は、M商事時代の営業部の後輩、綾子と恭子のものだった。

 「え、これでお酌、ですか・・・?」
さすがの知佳も予想外の展開に表情を引きつらせた。(そ、そんな・・・綾子ちゃん、恭子ちゃん・・・ここでも私に恥を掻かせるつもり?)
「あの、それはちょっと・・・」

 しかし、知佳の言葉はギャラリーの歓声に掻き消された。半裸の知佳の怯んだ表情が逆に皆の嗜虐心を刺激してしまったのだ。お・しゃ・く!
お・しゃ・く!、という合唱と拍手が始まり、拒否できない雰囲気を作った。

 知佳は救いを求めるように鈴原の方を見たが、視線に気付いた鈴原は、拍手をしながら頷いた。お客様の命令は絶対・・・鈴原の目がそう言っているのは明らかだった。

 「はい、リクエストありがとうございます・・・」
(い、いやあ・・・)知佳は内心で悲鳴を上げながら階段を下りていった。パーティー会場には100名以上が集まり、テーブルは12もあった。その全てをほとんど裸のような姿で回り、これからの仕事仲間逹に酌をしなければならない・・・

 しかし、綾子逹の意地悪にはさらに続きがあった。階段を降りきったところに待ち構えていた綾子が、一つのお盆を知佳の前に差し出したのだ。透明なガラス製のお盆の上には、ウイスキーの氷割りや赤白のワイン、ウーロン茶、オレンジジュースの入ったグラスが並べられていた。
「皆さん、もうビールは大分進んでますから、これを持って回ってくださいね。あ、両手で持たないとあぶないですからね。」
おお、気が利くねえ、と藤堂が大きな声で言うと、皆が賛同の声を上げた。もちろん、考えていることは同じで、ビキニを震わせる柔らかそうなバストやきわどい股間、膨らんだヒップを舐めるように見回していた。


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