PART 3
「おい、冗談言ったら困るぜ。」
犯人の笑い声が聞こえてきた。
「俺はスカート脱いでパンティ見せろ、って言った筈だぜ。何隠してるんだよ。ちゃんとそのブラウスまくってパンティ全部見せろよ。それから眼をつぶったら
許さないからな」
と非常な命令を告げる。
「そ、そんな・・・」
英里子は絶句した。自分からこれ見よがしにパンティを露出させるなんてとても出来ない。しかし、犯人の言うことも確かに筋が通っているため、絶句するしかな
かった。救いを求めて、西山の方を見たが、黙って頷くだけだ。その表情に、心なしかにやにやした雰囲気が感じられ、英里子はかっとした。確かに大変な事態だ
が、ある意味で西山にはチャンスだったし、英里子一人に恥を掻かせればいいと考えているのか。(ひどいわ、こんな恥ずかしい思いをしてるのに、西山さん、楽
しんでる)男性視聴者の大半も同じようなスケベな眼で今の自分を見ているに違いないと思うと、英里子はがっくりした。
しかし、状況が変わる訳ではない。英里子は止むを得ず、今度は両手でブラウスの裾を掴んだ。ゆっくりと持ち上げていく。
モニターには英里子のパンティが下から露出していく様子が克明に映し出されていた。やがてその全貌が姿を現したところで、英里子は震える手を止めた。その表
情は火を噴きそうなほど真っ赤になっていた。
うぶな英里子にとって、衆人環視の中、パンティだけの下半身を丸出しにする羞恥はいかばかりのものであったろう。カメラは意地悪く前後左右からその下半身
のアップを撮り、次々とモニターに映し出した。眼をつぶることが許されない英里子は、全国に放送されている自分の痴態を嫌でも眼にしなければならなかった。
(こんな格好をみんなに見られてしまうなんて・・・)絶望で瞳に涙が溜まってきた。
そんな英里子の様子を見ながら、久美は鬱憤が晴れる思いだった。(よくも引退するなんて言って悩ませてくれたわね。おかげさまで、私まで責任取らされると
こだったんだから。まあ、いいわ。せいぜい恥を掻いて罪滅ぼしをすることね)と思い、ニヤリと笑う。
「パンティ見られた位で何恥ずかしがってんのよ? ばっかじゃない? そのブラウスも邪魔だから脱いで、ブラジャーも見せなさいよ」
スタジオに今度は若い女の声が響いた。犯人一味の一人のものだった。
「そ、そんな! これで二人解放する約束です!」
今度は英里子も必死に抗議する。自分は約束を果たしたわけだし、これ以上恥ずかしいことは絶対に出来ないと思った。
「だけどさ、こっちは暇つぶしって言ってるのに、そんなにダラダラ脱いでたんじゃ暇つぶしにならねーんだよ。そうだろ、西山」
今度は主犯の男が話した。
英里子はその言葉に、訴えるような眼で西山を見たが、西山の言葉は英里子の予想外だった。
「分かりました。では、進藤さんにブラウスも脱いでもらって下着だけの姿を見せればいいんですね。」
「ひ、ひどい、西山さん!」
思わず声に出して抗議してしまった。だいたい「脱がせて下着だけにすれば」とか、人をモノ扱いするような言い方もあんまりだと思った。(私は自分の意志で
自分を犠牲にしたのに、どうしてそんな言われ方しなくちゃいけないの?)
その時、ADがこちらに紙を見せているのに気づいた。そこには、『警察からの連絡:もうすぐ作戦を開始するからそれまで我慢して』と書いてある。それは
つまり、立花プロデューサーの意思でもあるということだ。
自分に味方がいないことを悟った英里子は、せめてもの抵抗として、
「じゃあ、そうしたら必ず2人解放してもらえるですね。」
と念を押した。
「ああ、約束するぜ。じゃ、ストリップの続きを早く頼むよ。」
犯人はわざとストリップ、という言葉を使って英里子の羞恥を煽った。英里子の頬が屈辱に歪んだ。
しかし、もはや下着姿にならざるを得ない状況だ。英里子はボタンを上から外していった。これから衆人環視の中で晒さなければならない痴態を思うと恥ずかし
さで一杯だったが、もたもたしたらまた何を言われるか分からないので、できるだけ早くボタンを外していった。
そして、ボタンが全部外れた。ブラウスの下にはブラジャーしか着けていないから、ブラウスを脱げば、生放送のテレビで下着姿を公開することになる。しか
し、ためらいは許されなかった。
英里子は頬を真っ赤にしながらも、ブラウスを開き、一気に両腕から取り去った。しかし、羞恥に耐えきれず、右手で股間を、左手で胸をかばった。しかし、モ
ニターは容赦なくその胸と下半身のアップ、前後左右からの全身像を映しまくる。
英里子の胸は結構大きかった。サイズは84,59,84といったところだろう。下着姿で立ちつくしながら必死に羞恥に耐える英里子の様子に、スタジオの全員
が嗜虐心を刺激された。いじめがいのある獲物を前にして、これで終わりにするのはあまりにももったいないと全員が感じていた。
「ちょっと、何隠してるのよ。いちいち嫌みな娘ねえ。早く両手を頭の後ろで組みなさいよ。」
女の苛立った声が響いた。期待通りの展開に西山達は笑みを浮かべた。
(こ、これで終わりよ・・・)必死に自分に言い聞かせながら、英里子は両手を体から離し、言われた通りの格好になった。両手を頭の後ろで組むと、恥ずかし
い部分を隠せないだけでなく、胸を突き出すような格好になってしまうのが、何とも恥ずかしかった。また、英里子が眼を上げると田岡と久美がまともに自分の体
を見ているのが分かった。(ひ、ひどい、二人とも・・・)自分の窮状を楽しむような視線に怒りを覚えるが、どうすることもできない英里子であった。
「こ、これでいいんですね。早く二人を解放して下さい!」
英里子は必死に叫んだ。一刻でも早くこの羞恥から逃れたかった。
「そうだな。じゃあ、二人解放するから、そのままでいろよ。」
犯人の満足げな声が聞こえてきて、英里子はほっとした。しかし同時に、解放が終わるまでこの格好のままでいなければならなくなったことにがっくりする。(お
願い、早く解放して)下着姿を晒したまま必死に祈る英里子だった。
犯人の許可が無いため、モニターの映像は英里子の下着姿のままであり、人質が釈放される様子は分からなかった。そして3分後。西山の元に知らせが入った。
(早く確認して!)英里子が心の中で必死に急かす。
一瞬紙に眼を落とした西山が顔を上げて告げた。
「えー、只今人質が二人釈放された模様です。行員の鈴木武史さんと会社員の高木啓介さんです。」
英里子は耳を疑った。(え、男性? 母子じゃないの)
西山も犯人に話しかける口調でカメラに向かって言った。
「解放するのは母子の2人の筈だったでしょう?」
「勘違いするなよ。誰も母子の2人、とは言ってないぜ。2人とは言ったから約束を守ったまでだ。男がいると何すっかわかんねーからな。」
主犯の男はとぼけた口調で続けた。
「さて、どうする? 英里子ちゃん? もっと解放して欲しいなら考えてもいいぜ。もちろん、もっと楽しませてくれたらだけどな。」
「そ、そんなのひどいわ。どうして私が?」
この羞恥地獄がまだ続くのかと思い、英里子は呻いた。(いくら人命を救うためと言ったって、どうして私だけがこんなに恥ずかしい思いをしなければいけない
の? それにこれ以上なんて・・・そんなの、絶対無理よ!)
「あのさあ、じゃあ聞くがな。人命に重いも軽いもあるのか? どうして子供の命だけが大事なんだ。あいつらの妻子の気持ちはどうなるんだ? お前は母子
だけ解放されたら後は知らんぷり決め込むつもりだったのか?」
犯人の言葉に、英里子はぐうの音も出なかった。そもそも罪を犯しているのは犯人なのだが、その点に関してだけは犯人の言い分に理があった。
「ま、そんなにこだわるんなら、次は母子を解放してやるかもしれないぜ。じゃあ、全国の視聴者の皆様もお待ちかねだろうから、新藤英里子ちゃんのお楽しみ
ショーの続き、行こうか? そうだな、そのブラ取ってオッパイ丸出しにしたら、また2人解放してやろう。」
犯人はことさらにねちねち英里子をいたぶるつもりのようだった。言葉の端々でわざと英里子の羞恥心を刺激していた。
「はい、では、英里子ちゃんがパンティだけの格好になって胸を見せれば2人解放して頂けるんですね。」
西山が淡々とした口調で犯人に話しかける。その声がやや上ずっているのは、西山自身も興奮しているからであろう。
「ああ、誰を解放するかは言えないけど、約束するさ。ところでこの番組って、あの新宿のマルタの大スクリーンにも映ってるんだよな?」
「ええ、そうです。この番組は新宿のマルタだけでなく、全国の主要都市の繁華街の大スクリーンでも放送されております。」
「そうか、よかったな、英里子ちゃん。全国のファンのみんながお前のオッパイ見てくれるってさ。もうパンティとブラジャーは公開済みだしな。」
「それだけでなく、現在我が局の映像は、スクープとして特別に他局にも提供しておりますので、ほぼ全てのテレビ局でこの映像が流されております。」
「本当か・・・ああ、確かにチャンネンネル変えてもみんな英里子ちゃんの下着ショーやってるな。すごいぞ、英里子ちゃん。お前のオッパイ、視聴率100%
だ。」
西山と犯人は英里子の羞恥心を高めるために即席の掛け合いをしているようにぴったり呼吸の合った会話をしていた。一方、恐ろしい内容を聞かされた英里子の顔
は今度は青ざめていった。(そんな中で胸を出すなんて・・・いやよ! できない、絶対にできないわ)
英里子はついに我慢の限度が来た。
「私、もう駄目です。できません、そんなこと」
後は警察に何とかしてもらえばいいんだわ、と思った。田岡達の制止の視線を敢えて無視して、脱ぎ捨てた服を身に付けようとした。
その時、
「キャー、やめてぇ。」
という女の悲鳴と
「ギャー」
という子供の悲鳴がスタジオに響いた。
慌てて英里子がモニターを見ると、そこには頬を軽くナイフで傷付けられて血を流している子供の顔がアップで映っていた。子供は泣きじゃくり、母親は半狂乱
になっている。
「!」
英里子の顔が硬直した。ナイフで子供が傷つけられる! 子供好きの英里子には耐え難い光景だ。しかも、それが自分のせいで起こったなんて・・・
「あーあ、可哀想に。英里子姉ちゃんに見捨てられちゃったねー。次はもっと痛いけど、我慢できるかな?
そう言いながら、不気味な笑みを浮かべた犯人がナイフを煌めかせた。
「やめてえ! 分かりました、私、脱ぎますから!」
思わず英里子は叫んでいた。
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