PART 32(a)

 10分後。更衣室から出てきた麻衣子は、羞恥に頬を朱に染め、両腕で体を必死に庇っていた。
「鍋島さん、やっぱりこんなの、無理で・・・」

 「いやあ、可愛いじゃないですか、本澤さん!」
麻衣子の言葉に被せて、鍋島が大げさな声を出した。
「白ビキニがこんなに似合うなんて、さっすがお嬢様!」

 「うん、すっごく綺麗ですよ! 可愛い可愛い!」
すかさずカメラマンがカメラを構え、麻衣子の姿を連写した。必死に身体を隠し、本気で恥ずかしがっているその表情こそが、最高の被写体だった。

 「ちょっと、乗る前に撮らないでください!」
次々に浴びせられるフラッシュに、麻衣子は身体を庇う両腕に力を込めた。
「乗馬姿だけの約束ですよね!」

 「乗馬服を着てから、馬に乗って、降りるまでが乗馬姿じゃないですか? いいね、その恥ずかしそうな顔! もっと苛めたくなっちゃうな!」
カメラマンはそう言いながらシャッターを切り続けた。
「あ、その怒った顔も、すごくいいね! カメラを見てもう一回、お願いします(笑)」

 「麻衣子ちゃん、今日はスケベな男向けの雑誌用の取材なんだからさ、気取ってもしょうがないよ」
そう言いながら、鍋島は麻衣子の後ろに回り、携帯端末のレンズを麻衣子の水着姿に向けた。
「お、やっぱりケツがプリプリしてるね、麻衣子ちゃん!(笑) なんかビキニが食い込んで、丸出しになってるよ」
鍋島の嘘に、慌てて手を後ろに回して尻を隠す麻衣子の仕草が可愛いらしかった。麻衣子の全裸動画はすっかり堪能していたが、この反応の瑞々しさがたまらなかった。

 馬の隣まできたところで、カメラマンは麻衣子に一つリクエストした。馬の前に立って、笑顔を見せてほしいというものだった。

 それは、ごく自然な要求でもあったが、麻衣子はかなり抵抗を感じた。今の自分は、布地の少ない紐ビキニ姿なのだ。とても馬の横に立って笑顔になれる気分ではない。

 しかし、要求を拒むことのできない麻衣子は、しばらく虚しい抵抗をして男たちを喜ばせた後、恥ずかしいビキニ姿での立ち姿を二人の男に撮影されまくることになった。濃い茶色のブーツと赤いヘルメットも身につけているのがどこか滑稽かつ淫靡だった。抜けるように白い太ももと、濃い茶色のブーツの対比が艶めかしさを際だたせていた。・・・あの全裸動画を公開されるよりはいいんだからと、麻衣子は必死に自分に言い聞かせ、ぎこちない笑顔を浮かべた。

 一方、鍋島とカメラマンの二人は、滅多にないチャンスに仕事を半分忘れて夢中になっていた。23歳と若い女性が、本人に意思に反してビキニの姿を晒す恥ずかしさに必死に耐えている・・・しかもそれは、天下の公共放送で一番人気の女子アナ、本澤麻衣子なのだ・・・
 抜けるように白いという表現がぴったりのつややかな肌、トップスの下で弾むように揺れる乳房、きゅっと締まったお腹、悩ましく膨らんだお尻、太くはないがむちっとした太もも・・・少し引きつった笑みとぎこちないポーズが二人の男の心をさらに刺激し、青空の下での馬をバックにしたビキニ撮影会はなかなか終わらなかった。

 「えー、それでは、10分後に開会式となりますので、選手の方は指定の場所に集合してください・・・」
突然、アナウンスの声が遠くから響いてきた。もうすぐ、競技場で全国大会の二日目が始まるのだ。

 麻衣子ははっとして周囲を見回したが、この馬場は奥まった場所にあるため、他の人間の姿は見あたらなかった。でも、人が増えてくれば、こっちに来る人もいるかもしれない・・・
「お願いです、早く撮影を終わらせてください・・・」
今は両腕を頭の後ろで組むように指示されていた麻衣子は、胸を突き出すようなポーズのままで懇願した。薄いビキニのため、乳首の隆起までが見えてしまっているような気がして、身体がかあっと熱くなった。

 「ああ、ごめんごめん、そろそろ馬に乗ってもらわないとね」
鍋島はあっさりと言った。その様子は少し慌てているようにも見えた。本澤さん、笑顔のままカメラ目線で乗ってくださいねー、とカメラマンの声が続いた。

 (ああ、こんなのひどい・・・早く終わって・・・)
麻衣子はそう思いながらも、カメラに笑顔を向けて馬に乗ろうとした。
 
 しかし、馬に乗るということ自体が、今の麻衣子にとっては難問だということにその時気付いた。馬に乗るためには、左手で手綱をまとめて持って馬の首の付け根あたりに置いて、左足を大きく上げて鐙に掛けなければならない。その時左足は、膝が胸に付きそうになる位にぐっと曲げ、さらに膝を100度以上開いて足先を斜め上に突き出す必要があった。紐ビキニを着た自分がそんな格好をしたら・・・

 「どうしたの、麻衣子ちゃん、早くしないと、この馬場の使用時間が終わっちゃうんだけど?」
鍋島が麻衣子の恥じらいに気づいていながら淡々と言った。その手にはカメラを持ち、麻衣子のむちっとした太ももに向けられていた。
「ほら、足をがばっと開いて、馬に乗らないと!」

 (ふ、ふざけないで!)
学生時代に打ち込んでいた馬術競技を汚されたような気がして、麻衣子はかちんときた。

 麻衣子はきっとした表情で鍋島を睨みつけると、覚悟を決めて左足を大きく上げた。途端に、カメラマンのカメラがカシャカシャカシャっと連写の音を響かせ、鍋島は股間を狙って動画撮影を始めた。

 (恥ずかしがったら駄目!)麻衣子は自分に必死に言い聞かせて左脚を上げ続け、鐙に足を掛けた。紐ビキニだけの股間がぱっくりと開き、カメラとビデオの餌食になった。麻衣子は馬の方に顔を向け、右手で鞍の後ろ端を掴んだ。弾みをつけながら右足で地面を蹴り、身体を宙に浮かせた。左足で鐙の上に立つ形になってから、右足を大きく開いて馬を跨ぎ、鞍に座った。

 「さすが、馬の乗り方も颯爽としてて、格好いいですね!」
カメラマンは心にも無いことを言いながら、シャッター音を立て続けていた。
「それじゃあ馬に乗ったところで、こっちを笑顔で見てください!」
鍋島は嘗めるようにビデオカメラを動かして、馬の濃茶と生白い女体のコントラストを記録していた。

 一体自分はなんていうことをしているんだろう・・・ふと我に帰った麻衣子は激しい羞恥に身震いした。いつもはかっちりと乗馬服を着て乗っているのに、今は裸同然の紐ビキニしか身に付けていない・・・しかも、帽子とブーツだけはしっかりと付けているのがかえって恥ずかしさを増していた。

 もうすぐ、終わるんだから・・・麻衣子は羞恥をこらえてなんとか笑顔を作った。脚を根本まで剥き出しにして大股開きになっている姿を撮影され続け、麻衣子は目の前がぼおっとしてきた。

 なぜか鍋島がからかいの言葉をかけてこない・・・ふと気づいて辺りを見回すと、鍋島は自分の右後方にいた。にやけながらカメラのレンズをお尻に向けている・・・!!

 「きゃあ! 撮らないでくださいっ!」
麻衣子は鍋島の笑みの理由がわかって悲鳴を上げた。ビキニのボトムが尻の溝に食い込み、右のお尻が大きく露出していたのだ。麻衣子は右手を手綱から離して後ろに回し、ボトムを引っ張り出した。

 「いやいや、いいものを見せてもらったよ、麻衣子ちゃん」
鍋島はいやらしい顔で撮影したばかりの動画を再生した。
「ほら、麻衣子ちゃんのプリプリのケツ! これ、載っけてもいいかな?」

 「駄目です! そんなの、消してください!」
麻衣子は顔を真っ赤にして懇願した。馬に跨がるとき、右足を大きく開いたために食い込んだのだ・・・それからずっと、鍋島は私のお尻をじっと見ていた・・・

 「まあまあ、からかうのはそのくらいにしましょうよ、鍋島さん」
カメラマンが声をかけた。
「それじゃあ麻衣子ちゃん、最後にちょっと、馬を歩かせてみて」

 「は、はい・・・」
これで最後、という言葉だけを救いに感じ、麻衣子は背筋をすっと伸ばし、馬の腹をすねでぎゅっと挟んだ。馬が前に歩き出すと、首の動きに合わせて手綱をすっと前に出す。

 その辺りを一周するように指示され、麻衣子はいわゆる常歩(なみあし)で馬を歩かせた。パカッパカッと軽快な音が馬場に響いた。布地の少ないトップスに包まれた双乳が大きく上下に揺れるのが気になったが、手綱から手を離すことはできない。おお、いいねえ、と鍋島がにやつきながら胸にカメラを向けるのを見ながら、麻衣子は羞恥に唇を噛むしかなかった。


 ようやく馬が一周した時、突然、馬場の入り口の方から声が響いた。
「すみませーん、次の予約の方がいますので、そろそろよろしいでしょうか・・・え?」
騎乗している女性が紐ビキニの半裸姿であることに気づき、その男性は戸惑った声を出した。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか!? AVの撮影? 困るんてすよね、そういうの!」
男は憤った様子でずんずんと近づいてきた。

 (!)麻衣子は男と反対側に顔を背けたまま困惑した。事情を知らない者から見たら、これはあまりに破廉恥な状況だった。

 「大丈夫、なんとかするから、俺に合わせて」
鍋島が小さな声で麻衣子にそう言うと、男に顔を向けた。
「ああ、ご苦労様です。すみません、彼女、大会のサプライズゲストなんですよ」

 え?、麻衣子が不審な表情を浮かべた。

 「は、何言ってるんですか? 大学の全国大会にこんな格好の女が出るわけないでしょ!」
男はつかつか歩み寄ると、馬上の女の前に回ろうとした。
「あなた、馬術を馬鹿にしてるの? こんな破廉恥な格好で馬に乗るなんて、警察呼びますよ・・・え?・・・」
うつむく女の顔を下から見上げた男が絶句した。
「あの、ひょっとして・・・本澤さん?」

 「え、ええ・・・おはようごさいます」
麻衣子は仕方なく顔を上げ、男に笑みを向けた。私だと分かってしまった! この状況をどう説明すればいいの・・・


前章へ 目次へ 次章へ


アクセスカウンター