PART 34(a)

 「皆さん、おはようございます。N放送の本澤です。昨日に引き続き、今日もお邪魔しました。今日はこんな格好で申し訳ありません」
麻衣子の鈴のような声が競技場に響いた。数百人の視線が自分の身体にまとわりつくのを感じ、頬がぱっと赤くなった。

 ほんのり朱に染まった顔が、紐ビキニとヘルメットとブーツだけの肢体と共に、競技場に設置された大スクリーンに映し出されていた。楕円形の競技場の長い辺の真ん中辺りの最上段に、2つの大スクリーンは競技場を挟んで向かい合う形で設置されていた。

 会場の空気が概ね好意的なのが麻衣子にとってせめてもの救いだった。麻衣子の上品・清楚な雰囲気が、ぎりぎりのところで白いビキニ姿を下品に感じさせなかった。もちろん、男性達の視線は、麻衣子の美貌と、美しい肢体の間を何度も往復していた。大スクリーンに映った肢体のうち、布地の少ない胸の部分と、サイドが紐の腰の部分には特に視線が集中した。むっちりとした生白い肌が魅力的だった。

 手短に挨拶を済ませて早々に退散しよう・・・麻衣子がそう思った瞬間、「声」が聞こえた。
"まさか麻衣子ちゃん、挨拶って、ここで適当にしゃべって終わりのつもり?"

 「えー、なんて言いますか、今日は私は仕事ではなく、プライベートできております・・・っ・・・」
くいっとボトムのサイドの紐が引っ張られた気がして、麻衣子は動揺した。
(お願い、こんな時にやめてっ!)

 "やめてもいいけど、条件があるよ。昨日と同じように、模範演技をするんた。ここにいる男達みんな、内心でそう願ってるよ。君の身体、エッチだからね(笑)"

 「・・・少し開放的になってしまい、こんな格好をしていますが・・・」
(!? そんなこと、できるわけないでしょ!)麻衣子は憤った。少し歩くだけでも乳房が上下に揺れて恥ずかしいのに、駆け足をさせて、障害をジャンプで越えるなんて、できるわけがない・・・しかし、その間にもボトムの紐が引っ張られ続けていた。

 苦渋に小さく歪んだ表情が、大スクリーンにアップで映し出された。それはどこか、麻衣子に対する意地悪な意図が感じられた。

 ふっと観客の雰囲気が変わったのを感じ、大スクリーンに自分の顔が大写しになっていることに麻衣子も気づいた。
(いや、顔なんかアップにしないで・・・)

 "サプライズゲストが美人なんだから、色っぽくなった顔をアップで映すのは当たり前だろ?"
「声」が割り込んできた。
"みんな、ビキニでの模範演技期待してるよ。すっぽんぽんでの演技を想像してる人も多いけど(笑)"

 「・・・やっぱり、少し、恥ずかしいです・・・くっ・・・」
麻衣子のコメントは支離滅裂になっていた。しかし、その恥じらいの表情とたどたどしい口調が可愛らしく、会場は暖かい笑いに包まれた。

 (!?)麻衣子にとっては笑っている場合ではなかった。ビキニの股間部分の布の端から、指らしきものが侵入しようとしているのが感じられたのだ。

 "麻衣子ちゃん、千人の観衆の前でアソコを触られちゃうのって、どんな気持ち?"
「声」が響いた。
"変な声出すと、みんな興奮しちゃうよ。一輪車の時の麻衣子ちゃんのエロい声を思い出すかもね(笑)”

 (ひどい、こんなの!)
麻衣子の顔が少し強張った。
(・・・どうすれば、やめてくれるの?)

 「お邪魔してしまって、申し訳ありませんでした・・・んっ・・・」
脳内で「声」の主にメッセージを送りながら、麻衣子は挨拶を続けた。「指」らしきものが内ももを撫でさすり、麻衣子は思わずびぐっと震えた。

 "だから、そのまま模範演技をするんだよ。全部の障害を失敗しないで越えられたら、終わりにしてあげるよ。規定時間は30秒くらいオーバーしても成功ってことにしてあげるるから、余裕でしょ?"

 「えー・・・本日も、選手の皆様のご健闘を祈念して、挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。・・・」
晴天の下、半裸での乗馬姿を千人もの観衆に見つめられながら、秘裂付近をいやらしく触られている・・・あまりに非現実的な状況に、麻衣子は目の前がぼおっとしてきた。

 一方、観客の男達は今起きていることに驚愕しつつも喜びを隠しきれなかった。美人女子アナの本澤麻衣子が、グラビアアイドルのような際どい紐ビキニ姿で馬に乗っているのだ。すっと背を伸ばした美しい姿勢、かすかに揺れる乳房、キュッと締まったウエストからお尻に向けての優雅なカーブ・・・男たちの半分は大スクリーンに見とれ、あとの半分は携帯端末でその肢体を撮影していた。女性達は概ね、美貌と肢体に憧れる者と、卑猥な姿を非難する者に分かれていた。

 挨拶を終えた麻衣子は、馬に旋回を指示しようとした。しかしその時、「指」がクリトリスの辺りをスルッと撫であげた。
「く、くぅっ・・・」
思わず呻き声を漏らしてしまった麻衣子は、はっとして周囲を見回した。呆気にとられている大会スタッフと選手達、しんと静まった観客・・・何か言わなくてはと思ったが、さらに膣内に侵入してくるディルドに意識を奪われて頭が真っ白になってしまった・・・

 「それでは、本澤さんに模範演技の披露をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか?」
突然、スタッフの声がマイクに乗って響いた。それは、麻衣子達を最初に見つけた男だった。

 麻衣子は、え?と戸惑った表情を浮かべ、慌てて首を振った。
「い、いえ、こんな格好で・・・んん・・・とんでも、ありませ・・・」

 しかし麻衣子の声は、会場から湧き上がった歓声と拍手にかき消されてしまった。

 "ほら、やっぱりみんな期待してるんだよ、麻衣子ちゃんが紐ビキニでおっぱい揺らしながらジャンプするところ"
満足そうな「声」が聞こえた。
"もう邪魔しないから、ばっちりと模範演技、見せてあげなよ"
その言葉と共に、「指」の雰囲気がすっと消えた。

 脳内でこれだけの会話がなされたのは、時間にすればほんの1秒もなかった。なんとか逃れることはできないか?・・・麻衣子は思考を巡らせたが、この状況では「声」に従うしかないと観念した。

 「ありがとうございます・・・それでは、僭越ではございますが、・・・演技をさせていただきたいと思います」
麻衣子の声は少し震えていた。本当に、こんな裸みたいな格好で?・・・麻衣子は目の前がうっすらと白くなるのを感じた。

 麻衣子は茫然としながら、ふと競技場を見回した。スタンドの最上段に設置された大スクリーンには、紐ビキニだけの自分の姿が大きく映しだされている。そして、スタンドの観客の男達の視線がスクリーンと自分をちらちらと往復しているのも分かった。競技場の端に控えている、出場選手の男たちもやはり、自分の身体をじっと見ていた。女子の視線の色は様々で、えー、やだあ、本当にぃ、と言い合いながら軽蔑する声も聞こえた。

 今はそんなことに構っていられない・・・麻衣子は慎重に手綱を操作し、両脚で馬を挟み込み、重心を移動させた。その結果、馬はゆっくりと向きを変えて、演技のスタート位置に立ち、最初のハードルを正面に見る形となった。ゆっくり動いたので、頼りないトップスに覆われた乳房もほとんど揺れていなかった。しかし、これから皆の前で大きくジャンプしなければならないのだから、それはあまりにも儚い抵抗だった。

 「それでは、本澤さん、よろしくお願いします」
大会スタッフの声がスピーカーから流れ、競技場に響いた。スタッフ達は、サプライズゲストの提案を受け入れることに決めたようだった。

 「はい・・・」
競技場の千人もの視線が集中するのを感じながら、麻衣子は覚悟を決めた。衣装のことは気にしないで、とにかく演技を成功させるのだ。昨日もここで演技をしているし、コースは頭に入っている。無理をしなければ失敗することはない・・・できるだけ、胸が揺れないように滑らかに動くのよ・・・

 今回の大会では、障害は11箇所あり、一番高い障害は130センチだった。コースは途中で大きく旋回したり、障害が2つ連続していたり(オクサー)と、やや難易度が高いものだった。そのコースを規定時間の60秒以内に、全ての障害を落とすことなくゴールできれば成功と言える。順位を決める大会では、そのタイムをベースに、障害を落とした分だけタイムが加算されて合計タイムの早い選手が上位となるが、今の麻衣子はそこまで気にする必要はなかった。また、馬が障害前で停止したり、障害を回避したりした場合も、「不従順」としてタイム加算となる。

 (大丈夫)麻衣子は内心で再度自分に言い聞かせた。トップスは小さめだけどしっかり胸を覆っているし、ボトムの紐は長めでしっかり結んであるんだし・・・しかし、何度確認しても、もしもの時のことを考えると、身体がかあっと熱くなった。障害を飛越するときに変な着地をしてしまったら、トップスがずれてしまわないか、不自然に動いたら、ボトムの紐が解けたりしないか・・・麻衣子は小さく首を振った。腰をあまり浮かせなくても、何とかジャンプできる! とにかく、やるしかない!

 ついに麻衣子は演技を開始した。
(いくわよ、よろしくね・・・)
すっと背中を伸ばし、両脚で挟んだ馬のお腹をやさしく圧迫しつつ、足首を柔らかく上下に動かし馬のお腹に発信の合図を送った。

 馬は素直に従い、常歩(なみあし)で前進を始めた。もうすっかり、麻衣子と息が合うようになっていた。カッカッカッ、と軽快な音が響いた。うん、いい感じだわ・・・

 麻衣子は衣装のことも、観客のことも忘れて、とにかく演技に集中することにした。十メートル向こうには、第一障害の110cm‐120cmの幅130cmオクサーが迫っているのだ。オクサーとは、複数の垂直障害がセットとなっているものであり、今回のものは、手前の障害の高さが110センチ、向こう側の障害の高さが120センチ、二つの障害の幅が130センチということになる。つまり、高く飛ぶだけでなく、勢いをつけて遠くまで飛ぶことが必要だ。

 (行くわよ!)
麻衣子は馬に負担をかけないように緩く手綱を握りつつ適度な張りを保つようにした。そしていつもどおりに両脚を巧みに動かして、馬に駈歩(かけあし)の合図を出した。

 パッパカッ・・・馬は即座に反応し、はつらくと駈歩を始めた。反動で麻衣子の身体も揺れ、つられて乳房がブルブルと上下してしまったが、今は気にしていられない。

 すぐに馬は、第1障害の前の踏切ポイントに達した。
(ここだ!)麻衣子が合図をすると、馬は少し速度を緩め、腰を一旦低く沈めてタメを作った。次の瞬間、馬は両方の後肢で地面を強く蹴り、馬体を空中に押し上げた。麻衣子はタイミングを合わせて
自然に上体を前傾し、尻を鞍から浮かせた。そのままの流れで、麻衣子は馬の上で小さく立ち上がる形になり、馬と一体になって宙を飛んでいく。
 オクサーを越えて落下していく馬体に合わせ、立ち上がる時に伸ばした股関節や膝を折り畳むようにして抜重しつつ、馬の着地とほぼ同時に鞍に着座した。麻衣子は背筋をすっと伸ばして体勢を整え、馬に次の指示を与えた。

 おおー・・・目の肥えた観客や大会スタッフ、出場選手達は、思わず感嘆の声を漏らした。滑らかな一連の動作は、さすが元入賞者のものだった。
 また、昨日のような乗馬服姿でなく、ビキニの半裸姿である非日常性があまりに刺激的だった。若い美女が胸と腰回りだけを隠した半裸姿で馬と一体となって飛翔する・・・それはさながら、女神か天使のように眩しく見えた。

 しかし一方、やはり男性達は卑俗な目でその姿を見ることはやめられなかった。清純・知的なイメージの美貌の女子アナがビキニ姿で乗馬しているだけでも興奮するのに、目の前で障害の飛越までしてくれるなんて・・・宙に浮いている時に、くいっと後ろに突き出されたお尻には食い入るような視線が集中した。また、着地の時に大きく揺れる乳房にも。

 憧憬と淫らな欲望ーーー異様な興奮と緊張の雰囲気に包まれたまま、麻衣子は馬とともに次の障害に向かった。


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