PART 39(a)

 麻衣子の金切り声のような悲鳴が、馬を驚かせ、興奮させてしまった。
「ブヒヒィィ!」
馬は首を捻りながらいななくと、一目散に真っ直ぐ走りだした。

 十メートルほど先には、第5障害の、高さ120cmx125cm・幅130cmのオクサーがある。
「ちょっ、ちょっと!」
麻衣子が必死に手綱を引いても馬は減速しなかった。もう、飛越するしかなかった。

 ザッ・・・次の瞬間、麻衣子と馬は一体となって宙を飛び、見事にオクサーを越えていった。

 そしてそれが、麻衣子のストリップの仕上げになってしまった。飛越の際には、騎乗者は腰を鞍から上げて上体を大きく前に倒さなければならない・・・腰を後ろに突き出す姿勢で宙を飛ぶことになるため、その空気の流れを受けて、左足に絡まっていたボトムが、するするっと落ちてしまったのだ。麻衣子は宙を舞いながら、ついに下半身を全て露わにしてしまった。しかも、馬を跨いでいるために両脚は大股開きであり、前傾姿勢であるため、後方に裸の股間を見せつけるようなポーズになってしまっていた。

 それはほんの一瞬だったが、馬術を見慣れているギャラリーは、後方から麻衣子の最も恥ずかしい部分を見ることができた。また、大スクリーンにも飛越を斜め後ろから捉えた映像が流れ、麻衣子の丸出しの尻とその間の溝が大きく映し出された。

 おおおっ、うわっ、すっげっ、きゃあっ・・・ヘルメットとブーツ以外はほとんど全裸になってしまった麻衣子の姿に、観客席のあちこちから、どよめき、歓声、悲鳴があがった。真っ白な乳房を激しく揺らし、ふっくらと膨らんだ丸いお尻を突き上げ、前屈みで必死に馬にしがみつく美女の姿は、馬術をしている男達にとってある意味で理想の姿だった。大学時代には馬術界のアイドル、今は有名女子アナの本澤麻衣子が、おっぱいもお尻も丸出しで障害の演技をしている・・・男達は瞬きも惜しんでその光景を食い入るように見つめていた。

 一方、麻衣子にはそんな観客席の悲鳴も聞こえず、熱い視線を気にする余裕もなかった。いきり立った馬の暴走に、振り落とされずにいるだけで精一杯だったのだ。ザッザッと馬が地面を蹴る音、苛立った鳴き声と荒い息、目まぐるしく変わる周囲の光景、身体の激しい揺れ、迫ってくる障害・・・麻衣子は、下半身を覆う布がすっかり足首まで落ちてしまったことにも、まだ気づいていなかった。

 第5障害を越えた馬はそのまま走り続け、第6障害に向かっていた。第5障害は競技場の真ん中あたりだったが、第6障害は入り口側の短辺の中央あたりにあった。そのため、馬は二度右側に曲がることになった。なかなか指示を出さない騎乗者に苛立ち、馬は勝手にコースを進んでいくつもりのようだった。
 そしてそれは、ギャラリーとって願ってもないことだった。麻衣子の全裸騎乗姿が、角度を変えてほぼ全員の観客に前からも後ろからも見えることになったのだ。悲鳴を上げながらも、暴れ馬を素っ裸で乗りこなす馬術界のアイドルの姿に、皆が馬を応援するようになっていた。

 すると馬は、観客の期待に応えるかのようにサービスをした。右に曲がる時にいつもより強い反動をつけ、麻衣子の身体を振り回した。その結果、麻衣子の左足が鐙から外れ、外側に真っ直ぐ伸びた。足首に絡みついていたボトムが外れ、ふわりと宙に舞った。見事な演出のストリップに、ギャラリーがはっと息を呑んだ。

 第6障害は高さ130cmの垂直障害だったが、その飛越はギャラリーにとって格好の見世物だった。麻衣子が鞍から腰を浮かせる瞬間、大股開きの股間を観客達はふたたび目にすることになった。二度目となるため、観客達はさっきよりもコツを掴み、麻衣子の尻の穴まで見ることができた者もいた。また、お尻の穴の下にある秘密の部分の翳りまで・・・

 「お願い、落ち着いて!」
着地の反動な身体が跳ねるのをこらえて、麻衣子は太ももをギュッと締め、手綱を引いた。お願い、止まって! ボトムの紐を早く結ばなくちゃ・・・

 すると馬は、唐突に脚を止め、その場に止まった。ブフッと荒い息遣いのまま、騎乗者の指示を待っているようだった。

 「よしよし、少し待っててね」
馬の急な心変わりにほっとしながら、麻衣子は優しく声をかけた。その声がマイクに乗って競技場に響き、奇妙な感覚をギャラリーにもたらした。それは、いつも公共放送の朝のニュースで聞いている、清楚な美人女子アナの声だったが、今の彼女の格好とはあまりにアンマッチだった。麻衣子ちゃん、まだ気づいてないんだな、お尻の穴も、アソコも、見られちゃってること・・・

 競技場がまたしんと静まりかえっていた。さっきとは少し違う雰囲気が少し気になったが、今の麻衣子にそんなことを気にしている余裕はなかった。早く、紐を結び直さないと・・・今度はうんと固く・・・え?

 右手を下ろして紐のあるだろう位置を探った麻衣子は違和感を覚えた。紐がない?・・・太ももをこするように右手の位置をずらしたが、露わな肌しか感じられない。まさか・・・麻衣子は恐る恐る顔を下に向けた。
「きゃ、きゃあっ!」
麻衣子の悲鳴がマイクに乗り、競技場全体に響いた。

 ボトムがない・・・下半身に身につけているのは、乗馬用ブーツだけ・・・上半身はヘルメットだけ・・・私、今、裸で馬に乗っているの?・・・

 「・・・とざわさん・・・本澤さん?」
不意に、斜め下から男の声が聞こえた。

 「・・・あ、え?」
ぼうっとして麻衣子は、大会スタッフの男が何度も声をかけていただろうことに気づき、間の抜けた声を出してしまった。第6障害を越えたところは、ちょうど大会運営事務局の前であることにも気づき、かあっと全身が熱くなった。
「す、すみませんっ」
麻衣子は左手を手綱から離し、慌てて胸を庇った。男の目のやりどころに困るといった表情が辛かった。

 麻衣子は馬の腹を足で軽く蹴り、手綱で軽く引いて、重心を少し前に移動した。それは、方向を反転して歩くための馬への合図だった。

 しかし、馬はしばらく待ってもぴくりとも動かなかった。意地を張って命令を無視しているのではなく、単純に指示が伝わっていない様子だった。全裸で馬に跨がる姿にちらちら大会スタッフ達の視線が向けられるのを感じ、麻衣子は焦って何度も指示を出した。

 やはり、馬は反応せず、麻衣子はすっぽんぽんの姿をギャラリーにじっくりと見られることになった。ふと見ると、大スクリーンには今の自分の姿が大きく映し出されていた。

 「あの・・・本澤さん・・・」
大会スタッフの男は困惑の表情で再び声をかけた。
「模範演技でしたら、もう十分披露していただきましたから、その・・・」
裸で演技をするのはやめてほしい、という言葉を呑み込んだのは明白だった。ちょっと、いつまで見せつけてるつもりい?という女性の意地悪な声も聞こえた。

 「す、すみません、すぐ戻りますから!」
おかしい、こんなの!、麻衣子は不思議に思いながらも、同じ指示を出し続けるしかなかった。馬が言うことを聞かないなら、馬を降りて退場しようかと考えたが、素っ裸で皆の前を歩く勇気も出なかった。お願い、動いて!・・・おかしい、どうして?・・・こんなこと、普通ではありえない・・・

 まさか!・・・馬に指示を繰り返しながら、麻衣子の脳裏に一つの考えが閃いた。もしかして、「声」が馬を操っている!?

 "分かった? なんかこの馬、やたら僕と相性がいいみたいでさ、不思議なんだけど指示が通じるんだよね"
脳裏に「声」が鮮明に聞こえた。
"それより、約束覚えているよね? ちゃんと模範演技してくれなかったら、すっぽんぽんでニュース読んでる姿、ネットに流すからね。あ、終了後のオナニー動画もつけようかな? それから、君の知り合い全員には、メールでも送ってあげようか?(笑)"

 "ひ、ひどい、そんなの・・・"
麻衣子の顔が少し歪んだ。「声」は麻衣子を破滅させずに弄ぶのが目的であっていつかは終わる、という有川の言葉だけが望みだったのに・・・

 "そうだよ、僕だって、麻衣子ちゃんにそんなひどい目に遭わせたくないからね"
麻衣子の思考はすぐに読まれ、「声」が瞬時に反応した。
"だから逃げないで、ちゃんと模範演技、してくれればいいんだよ。いいじゃん、ここにいるみんなには、すっぽんぽんでジャンプするところ、もう見られちゃってるんだし"

 "そ、そんな・・・"
若い女性にとって、公衆の面前で裸を晒されるということが死ぬほど恥ずかしいこと、分かってるくせに・・・しかし、結局麻衣子が命令に従うことになることも、分かっているのだ・・・障害はあと五カ所、時間にすれば30秒くらい・・・

 「声」とのやりとりは脳裏でなされるため、以上の内容も時間にするとほんの数秒だった。事情を知らないギャラリーにとって、その間の麻衣子の表情の変化は見物だった。はっと目を見開き、息を呑み、羞恥にかあっと赤くなり、目を泳がせ、がっくりうなだれる・・・

 「あのう・・・本澤さん?」
馬の近くのスタッフの男がまた声をかけた。
「このまま退場されるということで、よろしいんですよね?」

 「え、あ、あの・・・」
麻衣子は困惑した。ついさっきそう言ったのだが、やはりこのまま演技を続けるしかない・・・しかし、男の顔を見ると、改めて羞恥が込み上げてきた。やっぱり無理よ、こんな格好で演技するなんて・・・

 "麻衣子ちゃん、思い切りが悪いなあ"
すかさず「声」が脳裏に聞こえた。
"そんなことより、脚を締めた方がいいんじゃない? その男、さっきから麻衣子ちゃんを心配するふりして、アソコをちらちら見てるよ。アソコの毛も上品な生え方だなって思いながら(笑)"

 (え!?)
麻衣子がはっとして男の顔を見ると、確かに彼の視線は麻衣子の股間に向けられていた。急に麻衣子に見られ、自分の下心を悟られたと知ると、男はバツが悪そうに目を逸らした。

 (あ、い、いやあっ!)
麻衣子は下を見て、自分の恥毛がはっきり見えていることを認識した。さらに、大股開きのため、秘裂が少し開いているところまで透けている・・・上目遣いに前を見ると、前方にいる他の大会スタッフ達や、観客席の男女も麻衣子の下半身に視線を向けているのが分かった・・・


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