PART 10

 (ス、ストリップ!)理絵は絶句した。確かにこの前はそんな話になったが、いくらなんでもあんまりだ。ここでそんなことをしたら、店の全員に見られてしまう。でも、拒否をしたら・・・理絵は何も言えず、固まってしまった。

 「加藤君、君、この前ここで、ストリップなんかしたのかね?」
驚いた谷村が言った。その場にいられなかったのが悔しい、というのが顔に書いてあるような表情だった。

 「違うんですよぉ。場を白けさせた罰としてブラとパンティだけになる筈だったのに、この子、逃げたんですよぉ。職場放棄ですよ、信じられないでしょ?」
真奈美がすかさず補足した。
「だから、これからその続きをやってもらおうという訳。あの、理絵ちゃんのストリップですよお。良かったですね、課長。」

 「ち、違います! 確か、ズボンを脱ぐだけになった筈です!」
慌てて理絵は訂正した。もちろん、それでも受け入れがたいことには違いなかったが、放っておいたらどこまで話がエスカレートするか分からなかった。

 「あら、そうだったっけ? だけど、理絵ちゃんのパンティ姿はさっき嫌って程、見せてもらったから、ちょっとはサービスしてもらわないと、盛り上がらないじゃない?」
真奈美はしゃあしゃあとそう言って、周囲の同意を求めた。もちろん、洋子とアケミ、エミは大きく頷いた。昌子はどうしていいか分からず、おろおろしている。

 「じゃあ、決まり! 理絵ちゃん、ストリップして、自慢の体をみなさんに見せてくださ〜い!」
エミが調子に乗って言った。
「あ、ねぇ、ママさ〜ん、カラオケのステージ、使っていいでしょお? 理絵ちゃんがストリップをして、この前のお詫びをしたいんだってぇ」

 「あら、理絵さん、いいの?」
30代前半で落ち着いた雰囲気を持つママは、おっとりとした口調で理絵に言った。
「そうしてくれたら、他のお客さんも喜ぶわあ。どうぞ、お好きなように使ってね。」

 「あ、あの・・・」
ママの雰囲気に押されながらも、理絵は何とか否定しようとした。

 しかし、ママはそんな理絵に取り合わない。一回り、あたりを見回してから、興味津々といった表情をしている他のテーブルの客達に向かって言った。
「みなさ〜ん、これから、特別ショーを始めさせて頂きます。何と、こちらの美人のお嬢さん、理絵さんが、ストリップをしてくれるそうです!」
途端に、全ての席から、やんやの大喝采が起こった。まさか、こんな美人のストリップが拝めるなんて、夢のような話なのだから無理も無い。いいぞー、理絵ちゃん、という声があちこちから飛んだ。
「だけど、下着までですよぉ。その先は、特別料金を頂きますからね、百万円ですよ〜。はい、残念でした。」
皆のスケベ心を見透かす様なママの言葉に、男達は苦笑した。

 (どうしよう、みんな私を見ている・・・私の裸を期待しているんだわ。)恐怖を感じた理絵は、両腕で胸を覆った。
「ご、ごめんなさい、私、できませ・・・」
言い終わらない内に、理絵は両腕を掴まれ強引に立ち上がらされた。
「いい、これ以上ぐずぐずしたら、本当に写真、ばらまくからね。」
洋子が耳元で囁いた。

 もはや逃げ場を完全に塞がれた形となった理絵は、二人に引きずられる様に、ステージに上がらされた。
「では、FJEの新係長、加藤理絵ちゃんのストリップをはじめま〜す。ぱちぱちぱち。」
ステージから降りた洋子がそう言うと、一斉に拍手が起こった。

 ステージに一人残された理絵は、ちらっと出口の方を見た。しかし、そこにはしっかりとママが立っていた。僅かな望みも無いことを悟った理絵は、仕方なく、スーツのボタンに手をかけた。セミロングの髪が垂れ、理絵の顔の一部を覆い隠したが、それもまた、色っぽかった。

 理絵がイエローのスーツを脱ぐと、横から伸びてきた手がそれを取り上げた。アケミだ。
「はい、次! テンポ良く頼むわよ、理絵嬢!」
理絵嬢、という言い方に蔑みがこもっていた。

 しかし、今の理絵にはどうすることもできない。
「はい。分かりました。」
と、小さく返事をしてブラウスに手をかけた。

 すっかり静まった男達の視線がその手元に集中するのを感じ、理絵は一瞬、手を止めた。(これを脱いだら、上半身はブラジャーだけだわ・・・恥ずかしい。)しかし、理絵には作業を続けるしか選択肢が無かった。ためらいながらも、一つ一つボタンを外していく。

 ボタンが全て外れると、前がはだけ、ちらりとピンクのブラジャーが皆の視線に晒された。
「いいねぇ、ピンクのブラ!」
「かっわいい、係長さん!」
「俺もFJEに転勤しようかな〜」
ギャラリーからからかいの声がかけられた。

 (い、いやよ、こんな男達に見られるなんて・・・)研修の時よりもはっきりした男達の欲望を肌に感じ、理絵は思わずブラウスを合わせた。

 「ちょっとお、いい加減にしなさいよぉ。」
途端に、洋子の叱咤の声が飛ぶ。
「そんな調子だと、本当に全部脱がすわよ。」

 「ご、ごめんなさい!」
理絵は慌てて謝ると、一気にブラウスを脱いだ。ボリュームのある胸が外気にさらされる。その膨らみは、ハーフカップのブラからこぼれ出しそうだった。

 「いいぞー、理絵ちゃん!」
「めっちゃめちゃおいしそうなオッパイ!」
「係長さん、サービスいいねぇ」
男達はもう大喜びだ。理絵は、その美貌がずば抜けているだけでなく、その体も男を引きつけて離さないスタイルをしていることが明らかになったのだ。

 「あら、羨ましいわねぇ。」
「若いだけに、肌もピチピチじゃない」
「見せびらかしたくなる気持ちも分かるわねぇ。」
一方、店の女の子は徐々に不機嫌になっていった。客の男達の眼が理絵に釘付けになっているのが、プロのプライドを傷つけているのだ。

 皆の興奮に押されて立ちつくしている理絵に、洋子が言った。
「ほら、何してるのよ、理絵。早くズボンを脱いでパンティを見せなさいよ。」
洋子の眼の中の嫉妬の光も、さっきより遥かに強くなっていた。(恥ずかしがったふりで、男達を喜ばすなんて、なんて女なの。本当に恥ずかしい思いを味わわせてあげるわ)

 (やっぱり脱がなくてはならないのね・・・)理絵はがっくりと首を垂れ、ズボンに手をかけた。あまりの羞恥に、首まで真っ赤に染めているのが、皆の嗜虐心を煽った。

 意図しない事とは言え、散々皆をじらしてから、理絵はズボンを脱いだ。それもすぐに洋子に取り上げられた理絵は、ブラとパンティだけの姿で、ステージに立ちつくした。皆の視線を一身に浴びながら、必死に両腕で股間と胸を隠した。
「こ、これでいいんでしょう? こ、この前の事はお詫びしますので、ど、どうか、許して下さい。」
血を吐くような思いで、理絵はアケミの許しを請うた。自分の席の方を見ると、谷村、大友、三宅達と眼があった。三人とも、食い入るように理絵の体を見ていた。同僚の前で晒す痴態に理絵はがっくりした。

 「う〜ん、そうねぇ。」
すっかり嗜虐の喜びに捕らわれていたアケミがすぐに許す筈が無かった。
「だけど、体を隠すストリップってのは変よねぇ。両手を頭の後ろで組んで下さらないかしら。」
わざと上品な口調で言って、アケミは笑顔を見せた。

 「そうだそうだ、理絵ちゃん、観念しろぉ。」
「言うこと聞かなきゃ、すっぽんぽんだぞ。」
「ついでに大股開きだあ!」
ギャラリーの男達も、関係無いくせに悪のりして喜んでいた。もし本当に、この羞恥に喘ぐ美女を全裸に剥けるなら、いくら金を出しても惜しくないと皆が思っていた。

 「脱ぎます! 脱ぎますから・・・」
ギャラリーの興奮を恐れた理絵は、仕方なく両腕を羞恥の部分から外し、頭の後ろに組んだ。ついに理絵は、下着だけの姿を見て下さい、と言わんばかりの格好をその場の皆の眼前に晒すことになってしまった。

 「お願い、もう許して下さい・・・」
火が出そうなくらいに顔を真っ赤に染めて許しを請う理絵の姿に、皆が見惚れた。理絵の体は、その美貌に負けず劣らず、あまりにも美しかった。量感のある胸、ふくよかな尻の膨らみ、引き締まったウエスト、そして吸い付いて来そうな白い肌・・・男達の誰もが唾を飲み込んだ。

 「もうちょっと、そのままで反省していることね。」」
洋子は満面の笑みを浮かべてそう言った。(さて、今日の所はこれくらいかしらね。後は土下座でもさせとくか・・・)と最後の詰めを頭の中で思いめぐらす。

 その時、ママが洋子に話しかけた。
「ねえ、洋子さん、お願いがあるんだけど・・・」

 アケミと打ち合わせた今日の予定はこれで終わりの筈だ。洋子は訝しみながらママを見た。
「あの、何でしょうか?」
遊び慣れている洋子でも、ママにはどこか位負けしている自分を感じていた。

 「あのね、他のテーブルのお客さんがどうしても理絵ちゃんにお酌をしてもらいたいって言うんだけど、ちょっと貸して頂けないかしら?」
ママはにこやかな笑みを崩さずにそこまで言うと、洋子の反応を待った。

 「え、それはちょっと・・・」
部長の広田には、あまり大っぴらにはやるな、と釘を刺されている洋子は迷った。これでも結構やりすぎではないかと気になっていたのだ。結婚の見込みが当分無く、東京での一人暮らしの味だけを覚えた洋子には、今会社を首になっては困る事情があった。首を振って洋子は続けた。
「やっぱりそこまではできません。」

 「そんなあ、冷たいこと言わないでよ、洋子ちゃん。」
そう言っても洋子の反応が芳しく無いことを見て取ったママは、声を潜めて続けた。
「じゃあ、今日のお代はチャラでいいから、ね? 好きな物食べて。極上のスモークサーモンなんて、どう?」ママは熱心に言った。僅かに洋子の表情が動いた。

 そんなやりとりは知らず、理絵は壇上で下着姿の披露を続けさせられていた。男達の欲望に満ちた視線を一身に浴び、その羞恥のボルテージは一層上昇していた。
 


次章へ 目次へ 前章へ



MonkeyBanana2.Com Free Counter