PART 9(ba)

 芳佳からの電話を切った梨沙は、そのまま階段を下りて行った。何か言いたそうだった芳佳の声が気になったが、今はそれを気にする余裕はなかった。ついに階段を降りきった梨沙は、一旦立ち止まって小さく息を吸い、ゆっくりと目の前の扉を開けた。

「いらっしゃい・・・お?」
手元の携帯の画面に眼を落としていた店員が眼を上げてその来客を見た。
「あれ、梨沙ちゃん、また来てくれたの? 今日、学校は?」

「今日は午前中は休んで来ました。」
見覚えのある店員のにやけ顔を見て、梨沙は表情を硬くした。前回の記憶が蘇り、身体がかあっと熱くなった。
「ちょっとお話ししたいことがあってまいりましたが、今、少しお時間よろしいでしょうか?」
ちらりと店内を見回したが、他の客や店員はいないようで、梨沙はほっとした。開店と同時に来て正解だわ・・・

「おいおい、何だか他人行儀だなあ。透けたオッパイとアソコを見られちゃったんだから、そんなに気取らなくてもいいじゃない?」
店員はニヤニヤしながら梨沙の全身を舐めるよう見回した。
「それで、話って何かな。またパンティ、買って欲しいの?(笑)」

「ち、違いますっ!」
梨沙は顔を赤らめながら語気を強めた。服を透視するような眼で見られるのは死ぬほど辛かった。こんな男に、ブラウス越しに透けた乳首を見られ、写真を撮られてしまったなんて・・・
「こ、これを見てくださいっ!」
梨沙は鞄を開くと手探りで例の領収書を取り出し、店員の前に叩きつけるようにして置いた。挑発に乗って冷静さを失うな、という柏原の助言も忘れかけていた。

「・・・え、これは、領収書かな・・・ふーん、これがどうしたの?」
店員がしげしげとその領収書を見ながら言った。
「ひょっとして、これでウチを脅してるつもり?」

「・・・え、だけど、これを警察に持って行ったら、条例違反の証拠になりますよね・・・」
予想外に店員が表情を変えないのを見て、梨沙は内心で焦った。

「ふーん、これを警察に、ねえ・・・だけどその場合、この、みどりちゃんも、下着をウチに売ってたことがばれちゃうよ?」
店員は指でとんとんと机を叩きながら言った。それはある意味、動揺を隠しているようにも見えた。

「もちろん、それは本人も了解しています。今はとても反省しているそうです。」
梨沙は店員の目をまっすぐ見ながら言った。
「・・・それに、自分から名乗り出たんだし、私からも口添えすれば、学校側の処分も穏便になると思います。」

「ふーん、さすが、生徒会長さん、そんな力もあるんだ・・・」
店員は梨沙の視線を避けるように顔を少し横に向けた。
「・・・だけど、もしウチが潰れちゃったら、商品管理が甘くなっちゃうかもしれないよ。・・・例えば、梨沙ちゃんの未公開動画がネットから不正にアクセスされて、外部に漏洩しちゃったり・・・もちろん、そんなことが無いように最後までしっかりするつもりだけどね。」

 もちろんそれは、梨沙の乳首透け写真や、パンティが透けた動画を公開するぞ、という脅しだった。梨沙が何らかの方法でこの会話を録音していることを警戒して婉曲に言っているのは明らかだった。

「・・・そ、その時は、仕方ありません・・・それに、私、沢山の過激な合成写真をばら撒かれてしまってるから、今更そんな写真が流出したって、誰も騒がないかもしれないし。」
梨沙は必死に強がりを言った。それは16歳の女の子にとって死んだ方がましですらあったが、ここで負けたらいつまでもいいようにされてしまう・・・
「私、早く学校に行きたいので、はっきり言いますね。今日中に、インターネットのサイトは閉鎖して、このお店も、ブルセラの販売は今後一切やめてください。」
梨沙は今度は落ち着きを取り戻して言った。どう、これで何も言えないでしょ?

「うーん、困ったなあ、急に仕事をやめろって言われても、俺、失業しちゃうしなあ・・・」
店員は困ったような顔をして天井を仰いだ。そして店員は、奥の扉の方に大きな声で言った。
「ちょっと店長、お客さんですよ!」
え、もう一人いるの、と強張った梨沙の顔を、店員は横目で見て小さく笑った。

しばらくすると、ごそごそ、がたがたっ、と音が聞こえ、奥の扉が開いた。
「何だ、もうちょっと寝かせてくれよ・・・あ? 梨沙ちゃん、何しに来たの?」
店長と呼ばれた男が頭を掻きながら梨沙に軽く頭を下げた。

そして店員からいきさつを聞いた店長は、感心したような顔で梨沙を見た。
「へえ、正義のためには、オッパイとオマンコを透けて見られちゃっても平気なんだ、すごいねえ、名門校の生徒会長さんにもなると!(笑)」

「・・・! とにかく、私が言いたいことはもう言いました。お約束していただけないなら、今から警察に行きますけど、それでもいいですか?」
梨沙は内心の怒りを必死に堪えて言った。そうよ、挑発には乗らないわ。これは交渉がうまくいってあっちが焦っている証拠・・・

しかし、店長は意外な行動を始めた。ポケットから携帯端末を出して何か操作し、次にパソコンのキーボードを何度か操作した後、そのディスプレイを梨沙の方に向けたのだ。
「まあまあ、そう早まらないで。梨沙ちゃん、ちょっとこれを見てくれる?」

「な、何ですか、私、急いでるんですけど・・・」
梨沙はそう言いながらも、その画面を見ずにはいられなかった。ひょっとして、他にもあるの、私の恥ずかしい写真?・・・
「・・・え、こ、これは!?・・・う、うそっ」
その画面に映し出された画像を見て、梨沙は驚愕して絶句した。

「どうしたの、梨沙ちゃん? そんなにすごい写真かなあ、これ?」
店長は梨沙の表情を楽しそうに見ながら言った。
「いやあ、ちょうどさっき仕入れたんだよ。まあ、普通の痴漢の写真だし、そんなに過激でも無いんだけど、女の子が可愛いし、この恥ずかしそうな顔が本当の痴漢ぽいし、それに、このリボン、君と同じK附の制服だからね。」

「・・・そ、そんな、そんなっ・・・」
梨沙はパソコンの画面からまだ眼が離せなかった。
「あ、あなた達、ひどいっ、やり方が汚すぎるっ!」
ようやく顔を上げた梨沙は、店長の顔を睨んで叫ぶように言った。

その写真は、電車の中で痴漢されている女子高生を、駅の反対側のホームから撮ったものだった。扉のところに追い込まれたその女子高生は、扉の大きな窓からその全身像をこちらに向けていた。そのスカートは大きく捲り上げられて白いパンティがほぼ完全に露出し、ブラウスのボタンはすべて外されて、やはり純白のブラジャーに包まれた胸が露出していた。
 その黒髪の美貌の女子高生は、梨沙の親友の芳佳だった。

「朝8時18分、○○駅を通過する急行電車を、超高速カメラで撮った写真だよ。野球のボールの縫い目も撮影できる奴だから、すごく鮮明に撮れてるだろ?」
絶句する梨沙を見ながら、店長は端末を操作して次の写真を表示した。今度は、電車の中で撮った、芳佳の下半身を背後から捉えた写真だった。そして、一緒に映っている鞄に付けられた3つのマスコットは、芳佳がいつも付けているものだった。やはりスカートは大きく捲られ、白いパンティに包まれた芳佳の尻がアップになっていた。その柔らかそうな白い肌にも、梨沙は見覚えがあった。
「梨沙ちゃんも可愛いけど、この子は少し大人びた雰囲気があって、別の魅力があるよね。芳佳ちゃん、ていう名前らしいよ。」
店長はそう言って、また携帯端末のボタンを押した。

「きゃ、きゃあっ!」
梨沙はその画面を見て、堪らず悲鳴を上げた。そこには、さっきと同じ構図で、駅の反対側のホームから撮った、芳佳の全身像が映っていた。そして今度は、パンティが膝まで下げられて黒い恥毛が露出し、胸は後ろから伸びた手に揉みしだかれていた。
「も、もうやめて!、は、早く消してっ!」
梨沙は画面から目を逸らして絶叫した。よ、芳佳ちゃん・・・

「あれ、もういいの、生徒会長さん? 次はケツの穴のアップなんだけど?」
店長はそう言いながら、ディスプレイを消した。
「だけど、もし、さっきの写真がさ、本人の学生証と一緒にネットに流れちゃったら、キツイよねえ。」

「それがもし動画付きだったら、もう学校になんか行けないよなあ。もちろん、就職も結婚もできなくて、なれるのはAV女優くらいじゃないですか?」
わなわなと震える梨沙を横目に、店員が調子を合わせて言った。

(ご、ごめん、芳佳ちゃん・・・)さっき、どうして芳佳が電話してきたか、梨沙はその理由を悟り、激しい後悔の念に駆られた。芳佳ちゃん、この写真で脅されてて、私に相談したかったんだ、きっと・・・私のせいで・・・

「・・・要求は何なの?」
梨沙は屈辱に塗れながら、絞り出すようにそう言った。(ひどい、最低っ、あなた達!)

「おいおい、何だよ、その挑戦的な眼は? それじゃあ、俺達が脅迫してるみたいじゃないか?」
録音を警戒している店長は、相変わらずのらりくらりとした口調で言った。
「いや、たださ、こういう写真も流出したら可哀想だねって言っただけなんだけど。」

「・・・分かりました。もちろん、脅迫だなんて思っていません・・・」
狡猾な言い方に憤りを感じながら、梨沙は話を合わせるしかなかった。
「・・・ブルセラの営業を停止するように要望したり、警察に相談するのはやめた方がいい、とアドバイスしてくださっているということでしょうか? そうすれば、この写真や動画は、外部に流出したり、販売されることはないということでよろしいですか?」

「うーん、まあ、そういうことかもしれないね・・・」
店長は飽くまでも曖昧な言葉を用いつつ肯定した。そして、ニヤケ顔で梨沙の胸を見つめた。
「まあ、それとは別の話なんだけどさ・・・梨沙ちゃん、さっきの芳佳ちゃんの写真と同じ格好して、撮らせてくれないかな? そしたら、芳佳ちゃんの写真と同じくらい価値があると思うんだけどな。もちろん、全然強制じゃないから、梨沙ちゃんがよかったら、ね?」


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