PART 9(bb)

 すると、電話の向こうの芳佳の切迫した声が聞こえた。
「梨沙ちゃん、その店に入らないで! そこで15分待ってから、階段を上がって。それで3人にはうまくいかなかったって言うのよ。」

 「え、どういうこと?」
梨沙は呆気に取られてその場に立ち止まった。なぜ、芳佳が今の自分の状況をそこまで知っているのか?
「だけど、みんなにもそう約束してるし・・・それに私、あんなことをされて黙っているなんて、できない・・・」

 「分かってるわ。でもね、梨沙ちゃん、これは罠よ。」
梨沙が電話を切らないことに芳佳はほっとした声になった。
「梨沙ちゃんは今、ブルセラの証拠の領収書を持ってショウブ堂に行こうとしているのよね。これ以上嫌がらせをされないように。・・・でもね、それじゃあいつらの思う壺よ。」

 「え、どうしてそう思うの?」
梨沙は手で口を庇い、小さな声で電話に向かって話しかけた。なぜかは分からないけど、芳佳ちゃんは私の知らないことを知っている・・・

 「だって、おかしいじゃない、この前にショウブ堂に行った時の話だって、梨沙ちゃんがいつ来るか、どんな作戦で来るか、最初からばれていたと思わない? それに、誰かが下着を移動しないとポールに掲げたりできないし、梨沙ちゃんの机に隠しカメラを付けるなんて、部外者ができるかしら?」
芳佳はそこまで一気に話してから、梨沙の沈黙に気付いて言葉を止めた。
「・・・ごめんね、梨沙ちゃん。あんまり人に知られたくないことだと思うけど、私、心配で、ある人にお願いして、今まで本当は何があったか、教えてもらったの。それで、今日のことも・・・ごめんね。」

 「・・・う、ううん、いいの。ありがとう、芳佳ちゃん、私のこと、そこまで心配してくれて・・・」
柏原くんに聞いたのね・・・梨沙はそう思いながら言った。
「・・・それで芳佳ちゃんは、私の味方を装っている人の中の誰かが、ショウブ堂と繋がっている、って思ったのよね・・・確かに、そう考えるのが自然ね・・・」
どうして今まで思いつかなかったんだろう・・・考えるほど、芳佳の言葉に説得力を感じ、梨沙はしばらく沈黙した。
「・・・ということは、みどりちゃんが怪しい、っていうことかな・・・あまり友達を疑いたくないけど。」

 「そうね、正直言って、その可能性は高いと思うわ。でも確かに、証拠も無いのに犯人扱いするのは失礼よね。本当に協力してくれているかもしれないんだし。」
芳佳の声はすっかりいつもの落ち着いたトーンになっていた。
「・・・だけど、今、ショウブ堂に入るのは危険過ぎるわ。お願い、私を信じて、今は言うとおりにして。」

 「・・・うん、分かった。私もそう思う。・・・だけど、それからどうするの?」
梨沙は内心で決意を固めながら聞いた。あの、パンティがほとんど透けてしまった写真をばら撒かれたら・・・

 「今、お店に本当は入らないんだけど、入ったふりをして、待っているみんなに報告をするの。そして、誰かがしつこく探ってきたら、その人があっちと通じてるってこと。」
芳佳が用意していたように滑らかに答えた。
「そしたらね、その人に誰かを近づかせて、ショウブ堂の背後にいるキーマンを探し出したいの。ああいうお店って、裏で誰かに仕切られていると思うの。ちょっとずるいけど、そういう立場の人が相手の方が、私の父の力を使いやすいと思うし。」

 「あ、ありがとう、芳佳ちゃん・・・」

梨沙は心から感謝して言った。芳佳は何気ない様子で言っているが、このように情報を聞き出して、整理して分析し、さらに実現性のある対策まで考えるなんて、簡単にできることではないと思った。しかも相手は卑劣な手段を取ることを躊躇しない連中なのだから、普通は関わりたくないと思う筈だ。
「分かった、芳佳ちゃんの言うとおりにする。また後で、今後のことを相談させて。」
梨沙は小さな声でそう言うと、電話を切った。


 ・・・梨沙はその後の十数分間、階段の踊り場に留まり、時間が経つのを待った。幸いにも、そんな朝早くにブルセラショップを訪れる客は無く、梨沙は誰にも会わずに済んだ。

 そして梨沙は頃合いを見計らって階段を上がり、3人が待っている店に戻って、結果報告をした。それは、黒川達に領収書を見せたが、警察に届けたかったら届ければいい、と軽くあしらわれた、という内容だった。ただしその場合、K大附属高の別の女子の恥ずかしい写真もばら撒かれることになる、と脅されたとも付け加えた。

 「・・・ふーん、そっかあ・・・それでどうするの、梨沙ちゃん?」
話を聞き終わったみどりが困ったような顔で言った。
「それってつまり、私のこと、盗撮してたってことかな・・・」

 「うん、それはちょっとはっきり言われなかったから分からなかったんだけど・・・他にもいるような口振りだったし・・・」
梨沙はそこで言葉を濁した。みどりがショウブ堂と繋がっている可能性を考えると下手なことは言えなかった。ただ、柏原達がすぐに警察に行こう、と言うのを防ぐためにそういう設定にしただけだった。

 柏原と紀子はやはり、警察に行くと判断することはできず、4人は中途半端な気持ちのまま帰路につくことになった。(ごめんね、柏原くん、紀子ちゃん・・・)梨沙は2人の浮かない表情を見ながら内心で謝っていた。しかし、芳佳との約束で、本当のことを言うことはできなかった。

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 その日の夜。梨沙は芳佳と電話で今後に向けた相談をした。まず最初に芳佳が提案したのは、この件が解決するまで、私達が2人で会うのはやめよう、ということだった。その理由として、芳佳は衝撃の告白をした。

 それは、梨沙を誰が脅迫しているか、さり気なくクラスメイト達に探ったり、ショウブ堂を偵察していたところ、芳佳が電車の中で痴漢に遭い、スカートをめくられた姿で窓際に押しつけられ、その姿を駅の反対側のホームから撮影されてしまった、というものだった。そしてその写真は芳佳の携帯端末に送付されてきて、これ以上、かぎまわったら次はこんなものじゃすまない、と書いてあったとのことだった。

 「大丈夫よ、梨沙ちゃん。私だって下着を見られたくらい、どうってこと無いわ。もしばら撒かれたって、合成じゃないの、って笑ってればいいんだし。」
衝撃に絶句する梨沙を気遣い、芳佳は明るく笑った。
「もちろん、こんな卑劣なことをする連中は絶対に許せないわ。・・・でもね、お互いに監視されていると思って、私達が繋がっていることがばれないようにした方がいいと思うの。もちろん、学校でもね。」


 そして2人は、今後の対応を検討した。おそらくあれから、内通者がショウブ堂と連絡を取って、梨沙がショウブ堂に行ったフリをしたことを知ったはず。そしたら彼らは、内通者がいることがばれたと考えるだろう。・・・危機感を感じた彼らは、もっと思い切った手で梨沙を脅してくる・・・

 「だからね、梨沙ちゃん、本当に言いにくいんだけど・・・今までのことは諦めるしかないと思うの。」
既にそこまで考えていた芳佳は、しばらく躊躇ってから思い切って言った。
「ごめんね。だけど、今までの写真をばら撒くって脅されるのに屈したら、絶対に負けちゃうと思うの。それが嫌だからって命令に従ったりしたら、今度はもっと恥ずかしい格好をさせられて、それを写真に撮られて・・・」

 「・・・・・・」
梨沙はすぐに返答できず、しばらく黙り込んだ。確かに芳佳の言うとおりだ。しかしそれは、ショーツがほとんど透けて、黒い繊毛や溝がぼんやりと見えてしまっている写真が公開されることまで覚悟しなければならない、ということだった。16歳の女子高生にとって、それはあまりにも恥ずかしく、辛いことだった。でも・・・
「・・・そうよね、コラってことにすれば大丈夫よ。だって私、すっごいコラ、もう沢山作られちゃってるみだいだし。」
梨沙は覚悟を決めると明るくそう言った。しかし、その口の中はからからに乾いていた・・・大丈夫、「あの写真」だって、顔と一緒に映っている訳じゃないんだし・・・

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 次の登校日、梨沙は早速ショウブ堂から恥辱の洗礼を受けることになった。いつもの時間に登校した梨沙は、校舎に入ったところで、掲示板に人だかりができているのに気が付いた。そして、梨沙に気付いた生徒達は、その顔を好奇に満ちた嫌らしい顔で見つめ、一部の男子は露骨にニヤニヤしていた。

 「・・・え、な、何?・・・」
梨沙は引きつった笑顔を浮かべながら人垣をかき分け、掲示板を見た。
「え、な、何、これ!? 誰がこんなの貼ったの?」
梨沙は顔を真っ赤に染め、その写真を引き剥がした。

 それは、2枚の写真を左右に並べたものだった。左側の写真は、梨沙のプールの授業を盗撮したもので、ワンピースの水着の全身像だった。股間の部分が丸く囲まれて矢印が付けられ、その先に股間の拡大写真が載っていた。そして、その根元の2つの小さなホクロが赤い丸で囲まれていた。
 右側の写真は、スカートの中の盗撮写真で、白く小さなパンティが股間に食い込んでいる様子を真下から映したものだった。そしてそこでも、2つのホクロが赤い丸で囲まれていた。さらに、その小さなパンティからは尻肉が半分ほどはみ出てしまっていて、強い光を浴びて透け、黒い繊毛の生え方や、秘裂と思われる黒い溝までがうっすらと見えてしまっていた。

 さらに、水着の梨沙がしゃべっているように吹き出しが付けられ、そこにはこう書かれていた。
『生徒会長の谷村梨沙です。今ではこんなエッチなパンティはくようになりました。私のお尻、可愛いでしょ? スケスケのお●んこも、よく見てくださいね。裏ファンクラブへの入会、お待ちしています。URLはこちら・・・・』


 「ひどいわねえ、誰がこんなコラ、作ったのかしら。」
「それにしても、よく出来てるわねえ。ホクロも完璧に合ってるけど、脚の太さとか肉付きとかもばっちりだもんね。」
「でも大丈夫よ、谷村さん、誰も本物だなんて思ってないから。」
梨沙に気付いた牧原麗奈、早川玲香、宮田ゆきなの3人が笑顔で励ました。しかしそれは、どこか梨沙の窮状を面白がっているようにも見えた。
「あ、だけどこの写真、ここだけじゃなくって、全クラスの教室の掲示板にも貼ってあるみたいよ。」
「でもひどいわね、この水着写真だけでも私だったら死ぬほど恥ずかしいのに、あんなところアップにするなんて、本当にひどいよね。」
「それにあっちの写真、梨沙ちゃんがあんなどスケベなショーツ、穿く筈ないもんね。あれじゃお尻、丸見えだし。」
慌てて駆け出す梨沙の背中を、3人の女子の声が追ってきた。


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