PART 13(ba)

 ようやく解放された梨沙は、心配そうに待っていた3人に対し、交渉は無事に終わり、ネット上の商品や画像も今日中には削除されることになったことを伝えて安心させた。
また、途中から意識がほとんど飛んでしまった梨沙は、みどりに電話でどこまで聞かれていたか記憶がなかったが、黒川達によると、梨沙が悲鳴をあげる前に電話は切れたので大丈夫だろうとのことだった。また、みどりも不審な素振りを見せなかったため、梨沙は友達にばれる事態だけは避けられたと少しだけ安堵した。

しかしもちろん、万事解決した訳ではなかった。結局、芳佳の痴漢写真を公開されないために、梨沙は下着の上下を奪われ、それどころか、パンティ1枚だけで絶頂に達するシーンまで録画されてしまったのだ。梨沙が必死に懇願した結果、下着を売却する時に付けるのは、梨沙の下着姿の写真と動画だけで、ブラを脱がされたり、感じさせられたりしているシーンは公開しないとようやく約束してもらえたのだった。
更に梨沙はそれらの過激な写真や動画の削除も懇願したが、それは今後、梨沙が警察に訴えないことを確認してから考える、と拒否されてしまった。


ーーー梨沙の認識と事実はかなり違っていた。

まず、梨沙は何とか乳房と秘部やお尻の写真は撮られないで済んだと思っていた。それは、電マに責められて胸を庇う手を離してしまったことは覚えておらず、また、失神から覚めた時には胸を手で庇い、パンティも穿いていて、黒川達に脅されて見せられた中にもそのような写真はなかったからだった。

しかし実際には、電マを当てられて一気に意識が飛んだ梨沙は右腕を上半身から離し、乳房を露わにしていた。さらに絶頂に達した後は当然、パンティを脱がされてリボンとハイソックスだけの全裸にされてしまっていた。そしてありすとくるみはきゃあきゃあ悦びながら、さんざん梨沙に放恣な格好を取らせ、黒川と店員はその姿をカメラとビデオに収めていった。
ソファーに座ってのM字開脚、床に下ろして四つん這いで脚を大きく広げさせての尻上げポーズ、まんぐり返し、顔を仰け反らせて片手で乳房を掴み、片手を秘裂に潜り込ませるオナニーポーズ、肉棒そっくりのバイブを突き付けられてうっとりと眼を閉じて唇を開いている姿・・・梨沙は自分でもよく見たことのない二つの穴を様々なポーズで鮮明に撮影され、もし見たら卒倒してしまうだろう卑猥な姿を記録されてしまっていた。

そしてその写真と動画は、VIP会員や関係者にこっそり共有されてしまっていた。梨沙のクラスメイトであるゆきなとみどりもそのメンバーであり、2人の携帯には梨沙の絶対に人に見せられない痴態が山のように保存されていた。

(ふふ、この写真見せたら、梨沙ちゃん、どんな顔するかな、見てみたい!)
(ねえねえ、この写真をアイコラってことにして、今すぐクラスのメーリングリストに送っちゃおうか? 男子のみんな、絶対にすごく喜ぶわよ?)
学級会で澄まし顔で議事を進行する美少女クラス委員の横顔を眺めながら、ゆきなとみどりは携帯の画面をこっそり見せ合ってクスクス笑った。


−−−ただ、そのような真実を知らない梨沙は、それからしばらく平穏な学生生活を送ることになった。

ショウブ堂を再訪した日の夜には、裏サイトで「緊急告知」が掲載され、そこには、K大附属の生徒会長から強い抗議を受けたため、K附関連商品の販売を終了する旨と謝罪の言葉が記載されていた。
そして、次の日以降、梨沙は学校中で正義のヒロインのような扱いを受けることになった。パンチラを盗撮され、恥ずかしいアイコラを沢山ばら撒かれ、授業中のスカートの中を全校生徒に中継されてしまっても、なお負けないで闘い続け、ついには汚い大人達に勝利を収めた。保守的な教師達が手をこまねいて何もできなかったのに、新しい生徒会長は、僅か2週間でブルセラショップとの断絶を成し遂げた−−−梨沙はまるで、ジャンヌ・ダルクのような扱いを受けることになった。

ただ、そのためにあまりに大きな犠牲を払っていた梨沙は、到底手放しで喜べる気分ではなかった。何とか乳房や秘部は隠し通せたとは言え、下着姿で淫具に弄ばれ、絶頂に達するシーンを演じさせられ、写真とビデオに記録されてしまったのだ。何かの拍子にそれが公開されてしまわないかと思うと梨沙は生きた心地がしなかった。学校生活の中でも、男子達の視線をさりげなく浴びたり、携帯の画面を見ながらニヤニヤしている光景を見たりした時には、まさか!、と心臓が停まりそうになる梨沙だった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

 ショウブ堂での悪夢から一週間ほど経ったある日。小学校時代の親友、上原美由紀から電話がかかってきた。美由紀の用件は、今度の週末に小学校時代の6年1組の同級生で遊園地に遊びに行こう、というものだった。その話を聞きながら梨沙は、夏休みに久しぶりの同窓会があり、今度一緒に遊ぼうと盛り上がったのを遠い昔のように思い出した。

誰が来るのかを聞くと、まだ何人来れるかは分からないけど、福本くんは来るわよ、と美由紀が悪戯っぽく言った。
福本和哉くん・・・成績優秀で、一緒に学級委員をして、運動神経も抜群の笑顔が眩しい男の子・・・お互いに好意を持っていることは薄々分かっていたが、雰囲気を察した周囲が先に盛り上がり、それ以上の進展はなかったのだった。先日の同窓会では福本は都合が悪くて来れなくて、梨沙は皆から残念だね、とからかわれていた。

「・・・うん、分かった。今度の土曜日ね。私、10時までは学校だから、終わったらすぐに行けば間に合いそうね。皆に会えるの、楽しみにしてるわ。」
少しだけ考えた梨沙だったが、美由紀と福本に会えることを楽しみに、その話をOKした。それに、高校生の友達とは離れて気分転換をしたいとも思っていた梨沙にとって、それは格好の気晴らしだった。

「遊園地で遊んでからプールに入るから、下に水着を来てきてね。時間もったいないから。」
美由紀はそう言ってから、思い出したように付け加えた。
「・・・あ、そう言えば、福本くんって、結局彼女ができたこと無いみたい。中高一貫の男子校に入ったからね、きっと。・・・梨沙ちゃん、うんと可愛い水着で来なくちゃね。(笑)」
な、何言ってるのっ、と抗議する梨沙の言葉は聞かずに、美由紀は電話を切ってしまった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

約束の土曜日になった。少し気が重い日が続いていた梨沙だったが、その日だけは日常から離れて昔の仲間と楽しめると思うと少しうきうきしていた。

そして10時までの特別授業が終わると、ファストフードへ寄って帰ろうと誘う友達の誘いを断り、梨沙は駅へと一人で向かった。今日遊ぶことを約束しているのは、新宿の大型デパートが撤退した後の敷地にできた、プール付きの大規模遊園地だった。それはまだ開業してから1ヶ月足らずであり、最新技術を駆使したアトラクションや仕掛けが大きな話題を呼んでいた。また、開業3ヶ月間は混乱しないよう、完全予約制となっていたので、一体どうやって幹事がチケットを手に入れたのかも聞こうと思っていた。

それに何より、福本に久々に再会できるのが楽しみだった。今日の朝、鏡を見て何度も着替えて悩んだ挙句、花柄入りの白いワンピースの水着を制服の下に着た梨沙は、その姿が福本に見られるかと思うとちょっと頬が火照るのを感じていた。

梨沙は渋谷に着くと、今度は新宿行きの電車に乗り換えようとした。すると、ホームで電車を待っている時に、携帯電話が振動した。
(誰だろう・・・誰か、遅刻するのかな・・・)
携帯を取り出して画面を見た梨沙は、見慣れない番号が表示されているのを見て首を傾げた。私の番号は、美由紀にしか教えて無いんだけど・・・
「はい、もしもし?」

『こんにちは、梨沙ちゃん、元気かい?』
と聞こえてきたのは、聞き覚えのある中年男の声だった。

「・・・! く、黒川、さん・・・ど、どうしてこの番号を!?」
梨沙はさっと蒼ざめて電話口に囁いた。
「や、やめてくださいっ! 電話なんてしないでくださいっ」
晴れやかだった気分だったのに、いきなり忘れたかった現実を突き付けられ、梨沙は心臓が飛び出しそうに緊張した。

『あーごめんごめん、急に電話して。番号はさあ、この前梨沙ちゃんが来た時に、ちょっと携帯を拝見させてもらったんだよね。・・・だけど駄目だよ、梨沙ちゃん。暗証番号を生年月日にするなんて、悪用されちゃうよ?』
電話の向こうの黒川は悪びれもせずに言った。
『あ、ついでに、アドレス帳も全部コピーさせてもらったから、携帯壊れちゃったら俺が復元してあげるよ。・・・ところで、今日はこれから時間あるかな、梨沙ちゃん?』

「そ、そんな!・・・お願い、消してください、そんなデータ!」
梨沙は到着した電車を見送り、人が少ない片隅へと移動しながら囁いた。黒川が、梨沙の痴態をアドレス帳の全ての知人友人にいつでも送れるんだぞ、とやんわり脅しているのは明らかだった。
「お願いです、もう電話して来ないでください! あ、あの件については、こちらから訴えることはしないということで話がついた筈じゃありませんか?」

『うん、確かにそうなんだけどさ・・・昨日、うちの店に警察が来たんだよね・・・まさか、18歳未満のは置いてないだろうなって・・・』
黒川はそこで少し間を置いた。
『まあ何とかその場はごまかせたんだけど・・・梨沙ちゃん、裏切ってないよね?』

「そ、そんな! 私、警察になんか言ってません!」
梨沙はつい大声を出してしまい、近くの人に不審な視線を浴びることになった。
「・・・お願いです、信じてください。」
報復として、下着姿で絶頂に達するシーンの動画を、携帯のアドレス帳の全員に送られる!・・・梨沙は悪夢に全身をカタカタと震わせた。

『うーん、まあ、俺達も梨沙ちゃんを信じたいんだけどね・・・』
黒川は含みのある言い方をした。
『ひょっとしたら、担保が少なかったかな、ってちょっと心配になっちゃってね。・・・それで、これから話し合いの時間を持ちたいんだよね。』

「そんな、信じてください。あんな写真や動画まで撮られて、私が訴えられるわけ、無いじゃないですか・・・」
梨沙は懇願するような口調で電話口に話しかけた。
「それに、こらから久しぶりの小学校時代の同窓会なんです。せめて、後にしてください・・・」

『ふーん、同窓会、ねえ・・・梨沙ちゃん、その頃もモテたんだろうね・・・』
黒川はそう言いながら、少し考え込んでいるようだった。
『よし、分かったよ。それじゃあ、その同窓会に行く前に一つだけ、寄って欲しいところがあるんだけど・・・』

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

新宿に着いた梨沙は、まず美由紀に電話をして、少し集合時間に遅れるので、到着したらまた連絡する旨を伝えた。そして、ちょうどその遊園地に向かう道から一本奥に入った裏通りにある「モリワカ」という店を目指した。
その店に行って、TS-302VとTS-302Aという二つの商品を貰うように、というのが黒川の指示だった。そして、貰うだけで良いのか、という梨沙の質問に対しては、そこの店長に話を通しておくから指示に従うように、と言うだけだった。

(確か、この辺りよね・・・)梨沙は可憐な制服姿のまま、土曜の昼間の新宿の裏通りを歩いていた。そしてそこは、健全な女子高生が歩くには明らかにふさわしくない場所だった。キャバクラ、テレクラ、個室ビデオ、イメクラ、ソープランド・・・どぎつい看板を一つずつ眺めながら歩く美少女は、あっという間に周囲の注目の的になっていた。明らかに水商売と分かる女性達や客引きの男達にじろじろと見られ、梨沙は耳まで真っ赤になるのを感じていた。

(モリワカ、モリワカ・・・あ、これだわ・・・ちょっと、何、この店・・・)粘りつくような視線を感じながら歩いていた梨沙は、ようやく「アダルトショップ 杜若」と書かれた看板を見つけた。そしてそれは、どう見てもいかがわしい店であり、梨沙は足を踏み入れるのを躊躇った。


前章へ 目次へ 次章へ  

カウンター