PART 15(bb)

 あまりに意外な岩本の言葉に、一瞬、体育館が静まった。するともう一人の男子が岩本の後ろから顔を出した。
「おう、お待たせ・・・あれ、梨沙ちゃん、どうしちゃったの、その格好!?」
軽薄な声のその男は、同じく写真部で2年2組の村岡だった。露骨ににやけた視線を梨沙の胸と下半身に向けた。
「水泳部の水着とテニス部のパンチラも良かったけど・・・バスケもなかなかいいな(笑) 岩本、まだ取材あるんだよな?」

 「む、村岡くんっ!」
もう一人の軽蔑している男子にまで下着の透けた白の練習着をいやらしい目で見られ、梨沙は慌てて両手で胸と股間を庇った。この前の演説の時に、不自然なくらい近くから撮影していた村岡の姿を思い出した。そう言えば、あの時もこんなにやけ顔していた・・・あの盗撮写真、撮ったのは村岡くんだ・・・

 「は? 何が単独インタビューよ、ふざけないで!」
ようやく事態を把握した智美が厳しい口調で言った。
「大体どうして谷村さんだけなの? やるなら女子部長の私も一緒じゃなきゃおかしいじゃない?」

 「いや、こっちにもちゃんと取材の考え方があるんだよね。」
岩本が智美の剣幕にも動じず冷静に答えた。
「そりゃ、部長として皆をまとめてるのは沖田さんだけど、試合でのエースは梨沙ちゃんだろ。それに、他の部員がいると気を使って本心が言えないかもしれないし。・・・それから、何と言っても一番可愛いし(笑)」

 ちょっと、何言ってるの・・・と言い掛けた梨沙を制し、智美が続けて言った。
「ふざけないで! あなたが何て言おうと私が許さないわ。早くここから出て行って! 先生に言うわよ、写真部が女子のいやらしい写真ばかり撮ってるって。」

 「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃん、怖いなあ。」
その言葉と裏腹に、岩本はちっとも怖がっていなかった。視線を智美から外し、梨沙の顔を見た。
「・・・だけど、梨沙ちゃん本人がOKって言ったらいいだろ? ね、梨沙ちゃん、どうかな、少しだけでいいからさ。」
岩本は梨沙だけに分かるように小さくウインクした。
「きっと、男子のみんなも喜ぶと思うんだよな・・・坂本とか、木戸とか、新井とか。」

 (・・・い、岩本くん!・・・)梨沙はその真意を悟り、愕然とした。これも、テストってこと? 新井くんの名前をわざと出して、私のこと、試している・・・
「・・・わ、分かったわ、いいわよ、単独インタビュー。少しだけなら・・・」
梨沙は左腕で透けているブラを、右手で下半身を隠したまま答えた。ひどい、まだ私に恥ずかしい思いをさせるつもりなの・・・

 「え、梨沙ちゃん!? ・・・どうして、こんな奴の言うことなんか・・・」
智美は梨沙の予想外の言葉に驚いて顔を見つめた。しかし梨沙が意味ありげに頷くのを見ると、仕方なさそうに小さく頷き返した。
「・・・だけど、男子達の中に一人だけなんて、認められないわ。だって・・・」

 智美が言い終わらないうちに、二つの足音が聞こえてきた。
「それなら大丈夫、私達が立ち会うから。」
「あれ、ちょっと梨沙ちゃん、どうしたの、その格好? 駄目よ、そのままでももててるのに男の子を誘惑したら(笑)」
それは、梨沙のクラスメイトの、宮田ゆきなと岩倉みどりだった。


 その数分後。締め切られて鍵をかけられた体育館の中には、8人の男女だけが残っていた。すなわち、写真部の一年の三人と岩本と村岡、そしてゆきなとみどり、梨沙だった。
 岩本が取材場所として体育館にこだわり、また、学校から許可されている体育館の使用時間が残り少なかったことから、他の女子を呼ぶことができなかったため、このような形となったのだった。

 そして梨沙は、その全てが偶然ではなく仕組まれたものと分かっていたが、どうすることもできなかった。やっぱり、ゆきなちゃんとみどりちゃんもショウブ堂と繋がってたのね・・・

 「やだ、どうしたの、梨沙ちゃん、ちょっと顔が怖いよ。」
梨沙の心情を無視して、みどりがにっこりと笑いかけた。
「ほら、カメラに向けて笑って。すごいじゃん、単独インタビューで特集されるなんて。」
(ふふ、一生懸命隠しても、透けちゃってるわよ、可愛いお尻の形も丸わかりね!(笑))

 そしていよいよ、「単独インタビュー」が始まった。普段の練習の雰囲気のままで撮りたい、という岩本の希望により、梨沙はバスケコートの中央に立った形でインタビューを受けることになった。

 「それじゃあ時間もないから早速始めるよ。よろしくね、梨沙ちゃん。」
岩本がそう言うと、3人の一年生の男子が、よろしくお願いしまーす、と言って頭を下げた。

 インタビューは、コートの真ん中に立っている梨沙に対して岩本が質問し、村岡はその姿を主に正面から録画、他の3人は周囲を動き回って写真撮影する、という形で行われることになった。それは一見、アイドルタレントの撮影会のようだった。

 「それじゃあまず、今回の秋季大会への意気込みを聞かせてください。」
岩本がもっともらしい質問を始めた。

 「はい、昨年はベスト16でしたが、今年は特にオフェンスを強化したので、少なくとも昨年以上の成績を目指したいと思っています。」
梨沙はさりげなく両手で身体を庇いながら答えた。村岡の顔がカメラのモニターを見ながらにやついているのが気になった。

 それからはしばらく、普通の質問が続いた。ライバル校に対する印象、チームの強みと弱み、練習で工夫していること、下級生に対する指導方法・・・普段から考えていたことを梨沙は熱っぽく語り、岩本も頷きながらそれを聞いていた。その間、村岡と3人の一年生はあちこちから梨沙の肢体をカメラに収めていた。しかし、梨沙が落ち着くにつれて徐々にウェアが乾いてきたため、下着はうっすらと透ける程度になっていた。

 「・・・うん、それじゃあちょっと堅い質問が続いたんで、ちょっと砕けた話を聞きたいなと・・・」
岩本はわざとらしい笑顔で言った。
「そうだな、谷村さんの気晴らしの方法は何かな。」

 「え、そうですね・・・友達とお茶しながら話をしたり・・・あと、好きな作家の本をゆっくり読むこととか、ですね。」
突然質問が変わり、梨沙は戸惑いながら答えた。

 「へえ、さすがは学年一の秀才ですね。気晴らしに本を読むなんてすごいなあ。」
岩本は感心したように言ったが、やはりわざとらしさが残っていた。
「ところで、好きな色は何ですか?」

 「え、色、ですか・・・?」
何でいきなりそんなことを聞くのか、それがバスケの取材とどんな関係があるのか、梨沙は問い質したかったが、今、岩本の気分を損ねるのは避けたかった。
「そうですね・・・白、ですね。」
(何でそんなににやにやしてるのよ・・・)梨沙は正面の村岡を見てむっとしていた。

 「へえ、白ですか・・・清楚な谷村さんにぴったりですね・・・」
岩本は頷きながらそう言って、ふと梨沙の顔から視線を外した。
「だけど今日は、少し気分転換ですか? 水色もなかなか似合ってますよ?」
岩本は梨沙の胸元を見つめ、にやけた顔を見せた。

 その瞬間、周囲の空気がさっと変わったのを感じた。
「・・・! な、何言っているんですか! ふざけないでっ!」
梨沙はたまらず、腕と手で下着を隠しながら声を上げた。

 「あーごめんごめん、そんなに怒らないでよ。」
岩本が軽く頭を下げた。しかし顔のにやつきはそのままだ。
「だけど、梨沙ちゃんのパンティって結構バラエティに富んでいるからさ、何色が好きなのかなって思ったんだよ。白もあったけど、水玉とか、赤のレース入りとか、ピンクとか・・・でも水色もすごくいいね、可愛いレース付きだし!(笑)」

 「な、な、何を・・・」
今までに盗撮されたり、罠に嵌められたりして撮影された下着の色を指摘され、梨沙の身体が震えた。も、もう、許せない・・・

 「もう、いい加減にしなよ、岩本くん。」
今まで黙って様子を見ていたゆきなが口を開いた。
「梨沙ちゃんもちょっと落ち着いて。だって、ほとんどコラとかなんでしょ?」

 「そうよ、柔らかい話題で気を楽にさせようとしたのかもしれないけど、梨沙ちゃんが相手なんだから、ちょっと考えなくちゃ。」
みどりがゆきなに加勢するように続いた。
「もっとバスケに関係あること質問しなよ。」

 「分かった、分かったよ。ごめん、梨沙ちゃん、機嫌直してよ、謝るからさ。」
岩本はそう言うと、わざとらしく頭を下げた。新井のネタを使った脅しがどこまで効果があるのかを岩本が試し、行きすぎたと思ったら2人の女子がフォローする・・・そんな役割分担が自然と生まれていた。
「それじゃあ谷村さん、今度は自分の得意なところ、教えてくれる? やっぱりシュートかな、フリースローの成功率はどのくらい?」

 「え、うん、・・・大体、80パーセント位、かしら・・・」
唐突にバスケの話に戻り、梨沙は振り上げた拳の行き場がなくなったような気がして困惑した。
「ただ、競った場面になると緊張して失敗しちゃうことがあるから、もう少し頑張らないと・・・」

 「さすが梨沙ちゃん、まじめねえ。80パーセントって、多分トップクラスでしょ、偉いなあ。」
岩本は梨沙のご機嫌を取ろうとしてか、わざとらしく褒めあげた。
「それじゃあ、あれはどう? ゴール下までドリブルしてきて、こうやってシュートする奴?」
岩本はそう言いながら、手を下から上へと上げた。

 「ああ、ドリブルからのレイアップシュートね。それはシュートの基本よ。そっちの方がフリースローより成功率は高いと思うわ。」
梨沙は岩本の目を見て答えた。こういう質問なら答える価値があると思った。
「ただ、実際の試合では相手もいるから、簡単にはいかないけどね。」

 「ふーん、なるほどねえ。」
岩本はそう言いながら、さりげなく女子2人の方を見た。そして、2人が小さく頷くのを見ると、梨沙に顔を向けた。
「それじゃあさ、フリースローとその、レイアップシュートっていうの、実演してくれないかな?」

 「・・・わ、分かったわ。」
一瞬躊躇った後に、梨沙は仕方なくそう答えた。確かに、コートの中でインタビューを受けているのに、シュートの実演を頼まれて断るのは不自然だった。しかしもちろん、写真部の男達の狙いが、下着が透けていて、胸と尻の膨らみが露わな状態でバスケをする梨沙をじっくり撮影してやろう、ということであることは明らかだった。試合形式の練習の時にも散々撮影したくせに、今後は一人でさせて、じっくり撮ろうと言うのね・・・

「それじゃ、やってみるわ。」
ぱっとシュートを決めて、とにかく早く終わらそう・・・今の梨沙にできることはそれだけだった。

 そして梨沙は嫌らしい男子の視線とカメラのレンズを意識させられながらも、見事にフリースローを決め、そのボールをすぐに取って後ろに下がると、今度は軽くドリブルで進み、ゴール下でジャンプをして、見事にレイアップシュートを決めた。
「はい、こんな感じです。今回はたまたま両方ともうまく行きました・・・」
腕を伸ばしてジャンプした瞬間の胸に露骨にカメラを向けていた村岡を小さく睨んだ。

 すると、ぱちぱちぱち、と7人の男女から拍手が湧いた。
「うわあ、すっごいね、どっちも一発で決めるなんて。」
岩本が感嘆の声を上げたが、同時に違うことを考えているように天井を見上げた。
「・・・だけどさ、もっとプレッシャーがかかる場面では失敗しやすいんだよね。そっちも試してみたいなあ・・・あ、そうだ」
岩本は視線を戻し、梨沙の顔を見つめた。
「それじゃあさ、2本のシュートを連続して決められなかったら一枚脱ぐってペナルティ付きでやるのはどう? かなりプレッシャーかかるでしょ?」


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