PART 37(bbbaa)

 「ねえ、これってあれだよね、盗撮用のカメラ!」
「うっそお、信じられない! 女子高生の癖に、他の子のスカートの中撮るなんて!」
「ひっどーい、女同士で盗撮写真なんて! まさか、それを売るつもり?」
「やだっ、私のスカートの中、撮ってたわけ?」
周囲の女子高生達も梨沙との距離を縮め、梨沙の肩や腕を掴んで逃げられないようにした。

 「次の駅で一緒に降りて。駅長室に行ってもらうわ。いいわね?」
右隣の女子高生が梨沙の耳元にささやいた。

 「ちょ、ちょっと待って!」
梨沙は慌て、周囲の女子高生に訴えた。
「違うの、そんなつもりはなかったの。お願い、信じて。」
梨沙は右足を少し引き、自分のスカートの中が黒川に見えるようにしながら訴えた。お、今度は自分のパンティか、と黒川の愉快そうな声がインカムから聞こえた。

 その梨沙の行動は、右足を曲げて、いかにも今すぐ逃げようとしているかのように女子高生達には見えてしまった。
「ちょっと、逃げられると思ってるの、K附の制服がっちり着てるくせに?」
一人の女子高生が呆れたように言った。
「・・・だけど、あなた、どこかで見たような・・・」

 必死にうつむいて顔を隠そうとする梨沙だったが、前に回り込まれて下から見られてはどうすることもできなかった。
「・・・ほんとだ、結構可愛いし、見たことある・・・ねえ、うちの学校に来たことあるでしょ?」
「そうだ、バスケ部の対抗試合の時、選手で出てたじゃん、この子!」
「・・・そっか、あの時の、うちの男子にも大人気だったあの子か・・・」
「・・・てことは、確か、生徒会長じゃなかったっけ?」
「うわあ、まっさか、あのK附の生徒会長さんが、電車で盗撮!?」
走り続ける電車の中で、梨沙を取り囲んだ女子高生達はひそひそ話を続けていた。電車の中は少し余裕ができたため、その話が聞こえるところに他の客はいなかった。

 「す、すみません、さっきのことは謝ります。でも、違うんです、盗撮なんてするつもり、ありません・・・お願いです、許してください。」
梨沙はとにかくそう訴えるしかなかった。また、女子高生達の話の内容から、昨年、N高とのバスケの対抗戦に出場したことを思い出していた。あの時は、N高の男子達に騒がれ、女子達には軽く睨まれたことも。

 「そんなこと言われたって、その靴に付いてるの、カメラなんでしょ? 盗撮が目的じゃなかったら何なのよ。」
女子高生は馬鹿にしたように言った。
「ちゃんと分かるように説明できなかったら、訴えるからね。」

 何て言えばいいの・・・梨沙は困惑した。アイリスに脅されていると言ったら、その理由を追及されるに違いないが、遊園地での恥辱を知られることは絶対に避けたかった。それに、アイリスに口止めされているそのことを話したら、どんな報復をされるか・・・あの時の記録をネットで公開されてしまったら・・・梨沙の脚がカタカタと震えた。
「・・・あの、自分で自分のスカートの中を、撮影していたんです・・・」
ついに梨沙は、苦し紛れの言葉を口にした。

 女子高生達は一瞬、呆気に取られて絶句した。
「・・・は? それじゃああなた、自分で自分の盗撮をしていたっていうこと?」
「何でそんなことするの? 撮影した動画はどうするの? 売るの? インターネットにでもアップするの?」
「優等生お嬢様のレッテル貼られて、ストレス溜まってたとか?」
「だからこんなにミニスカートにしてるの?」

 「そ、そうなんです、・・・優等生扱いされてちょっと窮屈に感じてて・・・こうしてストレス発散してたんです・・・」
梨沙は小さな声でそう答えた。屈辱的だったが、今はN高の女子達に納得してもらうことが最優先だった。

 「へえ、自分で撮影、ねえ・・・」
「まあ、優等生ほど実はストレス溜まってるって聞いたことあるけど・・・」
N高の女子達はそう呟くと、しばらくヒソヒソ話をした。そしてようやく結論が出たようで、その中の一人が梨沙の横から囁いた。
「それじゃあさ、これからあなたの言っていることを確認させてもらうわ。いいわね?」

 「・・・は、はい・・・」
梨沙はそう言うと、小さく頷いた。盗撮したとして突き出されるのを避けるためだったら、何でも言うことを聞くしかなかった。

 「それじゃあ、まず、学生証を見せて。」

 「・・・は、はい・・・」
梨沙は仕方なく鞄を開け、中から学生証が入った定期入れを取り出した。(これで、人違いって言い訳ができなくなってしまう・・・)

 梨沙が取り出した定期入れをさっと奪い、N高の女子達はその学生証を回した。
「あ、そうそう、谷村梨沙! 思い出した。」
「そう言えばバスケの対抗試合の時、男子が梨沙ちゃん、可愛い、とか言って騒いでたよね。」
「あーあ、こんな真面目そうな顔しちゃって、本当は電車の中で自分を盗撮して喜ぶ変態だったんだ(笑)」
「生徒会長の癖に、スカート思い切り短くしちゃってるし・・・学校に行くときは元に戻すのかな、生徒会長さんとしては?」

 さんざんからかった後に、学生証を返しながら、女子は梨沙に次の命令を告げた。
「それじゃあ次は、今録画してるっていう画面を見せてよ。」

 「・・・え? そ、それは・・・」
梨沙は思わず言葉に詰まった。それこそ、動かぬ証拠を自ら提示してしまうことになる。またそこには、自分のスカートの中が中継で映っている・・・しかしその時、後ろから軽く背中を突つかれた。
「分かりました・・・少し待ってください・・・」
梨沙は小声でそう言うと、鞄を開け、携帯端末を取り出した。そして、ロックを解除し、アイリスに入れさせられたアプリを前面に出した。まさに、今の自分のスカートの中が映し出され、太ももと水玉柄のパンティが映っている画面を見て、梨沙は顔を真っ赤にした。そして、両手でしっかりと携帯端末を握り、右隣の女子高生に画面を向けた。
「これが、その画面です・・・」

 「あはは、すっごーい、結構ちゃんと映るんだね。高感度って奴?」
その女子高生は、携帯の画面を見てくすくす笑った。
「・・・で、私のスカートの中もこんな高感度で撮影したわけ?」

 「ねえ、ちょっとよく見えないよ。」
「こっちにも見せなさいよ。」
「ほら、いいから渡しなさいよ!」
すぐにあちこちから手が伸びてきて、梨沙の手を携帯端末から引き剥がした。

 「あ、ちょっと、返して! お願い!」
梨沙は小さく悲鳴をあげ、必死に懇願した。

 「駄目よ。だってこの中には、彩子の下着が映った動画が入ってるんでしょ? 削除しない限り、返すことはできないわ。」
左隣の女子はそう言うと、梨沙の脇腹をつついた。
「ねえ、どうやったら削除できるか、教えなさいよ。」

 『おい、見えにくいぞ。もっと脚を開け! 5秒だけ待ってやる。』
しばらく沈黙していた黒川が、最悪のタイミングでインカムから話しかけてきた。

 (・・・! ど、どうしたらいいの・・・)矛盾した二重の苦境に追い込まれた梨沙は、頭が混乱した。黒川に命令されて自らのスカートの中を中継している今、その撮影をやめることは絶対にできない。しかし、女子高生のスカートの中を撮影した動画を削除するためには、中継をやめなければならない・・・だけど、黒川からは5秒しか与えられていない・・・(く、くぅぅ・・・)

 「きゃあ、何!?」
「うわ、すっごい!」
「ちょっと、何考えてるの、この子?」
「あはは、丸見え!」
突然大股開きになり、盗撮カメラを股間の真下から映るようにした梨沙の姿に、N高の女子高生達は驚き呆れつつ、好奇の視線で梨沙を見つめた。

 「ご、ごめんなさい、ちょっとだけ、こうさせて・・・」
梨沙はもはや、自分が何を言っているかよく分からなくなっていた。しかしとにかく、今はこうするしかないのだ。
「絶対に、動画は後で削除しますから、今だけはお願い、許してください・・・」

 『よし、いいぞ、梨沙。そのままずっと中継しているんだぞ。それにしても、真下から映して、恥ずかしくないのか、お前?』
耳元から上機嫌な黒川の声が聞こえた。

 当然、女子高生達がそんな言葉で納得するはずがなかった。
「はあ? 何言ってるの? ふざけてるわけ、早く私が映ってる動画、削除しなさいよ・・・え、何?」
彩子と呼ばれた女子高生がそう言い掛けた時、後ろの女子高生が彩子の肩を軽く叩いた。そして何か小さくささやき、彩子は頷いた。
「・・・分かったわ。そんなに自分のエッチな格好を録画したいんなら、私の動画を削除するのは後でもいいことにしてあげる。その代わり、条件があるわ。」

 「え、条件って?」
梨沙は彩子の声に何か底意があるのを感じたが、聞かないわけにはいかなかった。お願い、許して・・・

 「その動画にね、あなたも削除したくなるような、恥ずかしい格好を記録してもらうんならいいわ。まずは、・・・そうね、スカートを思い切りまくって下着丸出しにしてくれる?」
彩子がそう言うと、いいねえ、それ、と周囲の女子高生が笑った。


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