PART 42(ba)

 それは、梨沙以外の全員にとっては予想外の事態だった。最初は何かの余興かと思った観客達だったが、黒川や真樹達の慌てぶりを見て、それが本物の警察であることを悟った。しかし、梨沙に肉棒を咥え込まれ、まだ出し続けていた黒川を始め、アイリスグループの皆は何の抵抗もできなかった。

 そして、梨沙の痴態を一心不乱に見つめていた観客達も、出口を完全に封鎖されては為すすべが無かった。


 ・・・梨沙が次に目を覚ましたのは、警察署の中のベッドの上だった。徐々に理性を取り戻し、何が起きたかをぼんやりと思い出して、パニックになりかけた梨沙に、専門の女性警官は優しく接し、何も心配することはないと諭した。

 アイリスグループは以前から少女に違法な行為をさせている疑いで監視対象になっていたこと、そのため、グループの幹部や活動場所、データを保管しているサーバー、オンラインを含む全ての顧客リスト、更には警察内のアイリスへの協力者・・・用意周到に準備し、その全てを同時に抑えたから、梨沙の痴態のデータが漏れる心配は無いこと・・・ともすれば感情が乱れる梨沙に、女性警官は粘り強くこんこんと話をした。同窓生達も皆、本当に反省していたわよ、と付け加えた。

 ようやく女性警官の話を受け入れ、落ち着きを取り戻した梨沙は、三つのことが気になっていた。
 一つは、そんなに周到に準備をしていたなら、なぜあの時まで逮捕をしなかったのか、ということだった。もっと早く捕まえてくれていれば、自分は皆の前を裸に縄で縛られた姿で引き回されたり、見られながら恥毛を剃られたり、オナニーをさせられたり、軽蔑している男の肉棒に奉仕させられたりしなくても、良かったのに・・・

 控え目な言葉でそう言うと、女性警官は申し訳無さそうに瞳を伏せながら説明した。全員を同時に捕まえるためには、一カ所に閉じ込めることが必要だった。そして、皆が我を忘れて夢中になり、完全が隙ができるのを待っていた・・・ごめんなさい、と言いながら女性警官は辛そうな表情を見せた。

 梨沙の気がかりの二つ目は、芳佳のことだった。女性警官は芳佳の名前を出すと、すぐに梨沙の言いたいことを察し、芳佳が撮られてしまった写真や動画も漏れることはないと保証した。さらに、芳佳が電車の中でされたのは下着の露出までで、それより過激なのはコラージュであることまで教えてくれた。
(あ! あの時、芳佳ちゃん、ひょっとして、そのことを私に言おうとして電話を?)梨沙はそう思ったが、今更後悔しても仕方のないことだった。

 そしてもう一つは、今回のことが公になるのか、ということだった。世間には公表しないとしても、学校には、親には・・・?

 すると女性警官は、梨沙が望むのなら、完全に秘密にしておくこともできると言った。そして、健気な少女に気を許した女性警官は口を滑らせ、それはあの子も心配していたのよ、と言ってしまった。

 「え、あの子って誰、ですか?・・・」
慌てて口を噤んだ女性警官を見ながら、梨沙はその瞬間、全てを理解した。そんなに私のことを心配してくれる友達なんてごく僅かだ。さっき、芳佳の写真のことを聞いたら、この人はすぐに察して即答してくれた。それに、芳佳の父は大企業の広報部長でかなりの力を持っていると聞いたことがある。・・・きっと芳佳は、私のことを心配して、父に相談してくれたのだろう。だから、及び腰だった警察も、どこからかの圧力で動いたのだろう。そして、芳佳が電車で恥ずかしい写真を撮られたのはその動きを察知したアイリスからの反撃・・・芳佳ちゃん、私のために危険な目に遭ってまで・・・本当に、ありがとう。

 そして実はもう一つ、梨沙が気になっても聞けなかったことがあった。それは、あのショーの最後の方で、自分がどうなっていたのか、ということだった。途中までは必死に抵抗して、だけど脅されて仕方なく命令に従っていた。だけど、黒川への奉仕の時、自分はどれだけ抵抗したのか、最後はどうなったのか、まさか本当に、口の中に出されてしまったのか・・・梨沙はどうしても思い出せなかったが、怖くて女性警官に聞くこともできなかった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

 週明けの月曜日。梨沙は恐る恐るだったが、極力平静を装って登校した。あれから家に帰って確認したら、ショウブ堂のサイトや学校の裏サイトは確かになくなっていた。アイリス映像のサイトは特に変わったことが無いようだったが、一般のニュースサイトでは、あのアイリスの元AV女優の社長が逮捕された、というニュースが小さな扱いで配信されていた。そして、梨沙の画像が漏れたり、自分をからかうようなメールも電話もなかった。半信半疑だった女性警官の言葉を少しだけ、信じられるような気がしていた。

 しかし、学校の生徒達の梨沙への反応は、彼女の心配が全くの杞憂であることを示していた。なぜか、ショウブ堂のサイトなどがなくなったのは、梨沙と生徒会役員達が直談判をしたおかげということになっていて、梨沙はまるで英雄のような目で皆から見られることになっていた。違うの、そんなことないの、と笑って否定しながら、内心では黒川の顔が浮かんできて恥辱に震える梨沙だった。
 また、密かに梨沙が気にしていたみどりも、何事も無かったように接してくれていた。ショウブ堂に乗り込んだ時、逆に裸にされてイカされてしまった時の声を電話で聞かれてしまっていたが、そのことをみどりが指摘することもなかった。やっぱり、気付かれていなかったみたい、と梨沙は内心で安堵していた。

 こうして、少なくとも表面的には、梨沙に平穏な日常生活が訪れ、ほんの少しずつではあるが、梨沙の心の傷も癒えてきていた。最初のうちは無理に作ってぎこちなかった笑顔も、1ヶ月後には自然に浮かぶようになっていた。(大丈夫、私、汚された訳じゃいないんだから・・・)

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

 そして秋も深まったある日の夜。梨沙の携帯が鳴り、メールの着信を告げた。
(誰かな、芳佳ちゃんかな・・・)机に向かって英語の勉強をしていた梨沙は手を止めて、携帯のメール画面を見た。

『谷村梨沙様
 アダルトショップ杜若です。いつもお世話になっております。
 早速ですが、先日お客様に貸し出させていただきました、ビキニの水着をご返却いただいておりません。期限を1ヶ月以上経過していることから、早急なご返却をお願いいたします。
 もし明日中にご返却いただけない場合、谷村様の情報を他のお客様に紹介し、サービス料を当方に先にいただく形で回収させていただきます。その場合、お客様へのサービスは、後日谷村様から責任を持って行ってください。
 以上ですが、水着の返却の期限は明朝5時半までとさせていただきます。現在、店舗は一時休業となっていますので、その隣の臨時店舗『モリワカ』にお越しください。何か異議等がおありの場合もそれまでにお申し出ください。
 なお、本件について、他者に転送・相談することは禁止します。違反があった場合、谷村様の携帯電話に登録の全てのメールアドレスに、この名刺の画像が自動的に送付されます。』

 そのメールには、2枚の画像が添付されていた。一枚は、梨沙の学生証の写真、もう一枚は、学生証と同じサイズで、梨沙の全裸亀甲縛りの写真が背景となり、その上に文字が記されていた。
『谷村梨沙 B80 W58 H83
 性感帯:クリトリス、膣の奥、アナル
 可能プレイ : ストリップ、公開露出、緊縛、オナニーショー、フェラチオショー』
さらにその下に梨沙の筆跡のサインとハートマークが記され、一本の陰毛が添付されていた。

 それは即ち、この前ショップで作られた「名刺」のバージョンアップ版だった。ひ、ひどい、こんなものがばら撒かれたら・・・梨沙は破滅の予感に身震いした。

 しばらく思案した後、まずはメールに返信しようとしたが、宛先不明で返ってきてしまった。警察や芳佳に相談しようかとも思ったが、メールで明確に禁止されているため、報復が怖くてそれもできなかった。水着を返せと言われても、遊園地でなくしてしまったのはモリワカの人も知っている筈だった。それなのに、こんなメールを送ってくるなんて・・・誰なの? 青木さん?・・・だけど、みんな警察に捕まった筈・・・梨沙は悶々としながら朝を迎えるしかなかった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------

 翌日の早朝。梨沙は重い足取りで新宿駅からの道を歩いていた。そして、杜若の近くまで来たとき、隣の店の店頭に、『モリワカ』と書かれた厚紙が貼り付けられているのに気付いた。中には怪しげな商品が積まれているのが見え、梨沙は一瞬躊躇した。

 しかし、不安に思いながらも、梨沙はその店の中に入るしかなかった。
「あの、すみません・・・」
梨沙は人気の無い店内に向かって声をかけた。周囲に見える卑猥な商品に今すぐ逃げ出したい気分だったが、できるはずもなかった。

 「はーい。」
店の奥から聞こえて来たのは、意外にも若い女性の声だった。
「どちら様ですか・・・あ、梨沙ちゃん! ちょっと、梨沙ちゃんが来たわよ!」
二十代半ばのその女性は、梨沙に親しげな笑顔を見せた後、店内に向かって声をかけた。

 「・・・! あ、あなたは・・・」
梨沙はその顔を見て、ようやく誰であるかを思い出した。杜若の店長と仲が良かったミサトさん・・・それじゃあ、もう一人は・・・

 「・・・お待たせ、あ、梨沙ちゃん、久しぶりね。」
もう一人のユウカも梨沙を見るとにっこり笑った。

 「・・・お、おはようございます・・・」
2人の若い女性に見つめられ、梨沙はぎこちなく挨拶した。いくら親しげでも、この2人には先日のここでの痴態を全て見られてしまっているのだ。白昼の路上で下着姿でストリップの客引きをさせられたり、全裸で縛られて恥ずかしい部分を露わにしたり・・・梨沙の頬は見る見る真っ赤に染まっていった。
「あ、あの、昨日、私のところにメールが届いて・・・あの、水着を返却するようにという内容なんですけど・・・」
梨沙が恐る恐る言うと、目の前の2人は事情を知っているようにうんうんと頷いた。

 「うん、知ってるわよ。それで梨沙ちゃん、水着を返しに来たんでしょ、こっちの臨時店舗に?」
ミサトはそう言って、また笑顔を見せた。そして、脇の机に置いてある名刺の束を指差して続けた。
「良かった、返しに来てくれて。もし返してくれなかったら、あれをその辺でばらまくところだったのよ。」

 「あ、そ、それ、い、いやあっ!」
梨沙は顔を真っ赤にして、自分の全裸緊縛姿が映っている名刺を手で覆った。

 「あれ、顔を真っ赤にしちゃって、恥ずかしいんだ? 可愛い、梨沙ちゃん!」
ユウカはそう言って軽く手を出した。
「大丈夫よ、ちゃんと水着を返してくれれば。」

 「あ、あの、それが・・・」
梨沙は思わず口ごもった。この2人は、いったいどういう役割なのか、青木はどうしているのか・・・
「ご、ごめんなさい、実はその、紛失してしまいまして・・・弁償、させていただけませんか?」

 「え、無くしたの? お店から借りた水着を?」
ミサトは呆れた声で言ってから、梨沙を見つめた。
「それで梨沙ちゃん、無くしたことを連絡もしないで、1ヶ月も放っておいたわけ?」

 「す、すみません!」
無くした理由を説明できない梨沙は、ただ頭を下げるしかなかった。2人が事情を知らないのであれば、自分から恥辱の露出ショーの話は絶対にしたくなかった。

「あ、あの、青木さんは・・・?」

 すると、二人の顔が少し曇った。
「うん、青木さんはちょっと今、ここにはいないんだけど・・・」
ミサトは言葉を濁しながら言った。
「ただ、水着の件は青木さんからの指示よ。そろそろ返してもらえってね。」

 「そ、そうですか・・・でも、すみません、本当に紛失してしまったんです。おいくらで弁償すればよろしいでしょうか。」
青木なら水着を梨沙が持っているはずが無いことは知っている筈・・・梨沙はそう思ったがそれ以上言って気分を害したらまずいと考え、話を戻した。1万円か、それとも2万円か・・・吹っかけられることを覚悟していた梨沙は3万円を用意していた。

 「ちょっと、何言ってるの、梨沙ちゃん? 何その態度、金は払うから文句無いだろとでも言いたい訳?」
ユウカが横から口を挟んだ。梨沙が慌ててごめんなさい、と言うのを無視して続けた。
「あれは特注品でお金で買えるものじゃないのよ・・・まあいいわ。こっちなりの方法できっちり落とし前をつけてもらうから、ちょっと来なさい。」
ユウカはそう言うと梨沙の制服の袖をつかみ、店の裏側へと引っ張っていった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆---------------------


前章へ 目次へ 次章へ  

アクセスカウンター