PART 43(bbbb)

 「えー、私が緊急生徒総会を開いたのは、先ほどの脅迫メールに屈して、彼らの卑劣な命令に従ったからではありません。」
梨沙は会場の空気を読み、皆が抱いているだろう疑問に答えた。そう言ってから少し間を空けると、皆が自分の次の言葉を待って、静かになるのが分かった。
「この生徒総会を開いたのは、私から皆さんに、全ての事実を伝えたいと思ったからです・・・」
そう言うと、梨沙はまた皆を見回した。そして、まずは一番知りたいであろうことに答えるしかにと判断した。
「・・・先ほど、授業中に、黒木、という名前で送られてきたメールに添付されていた、画像と動画は、全て、私のものです・・・最初は動揺して、私の写真ではないと否定してしまいました。ごめんなさい・・・」

 目の前の数百人の生徒達が、衝撃を受けて自分を見つめているのが分かった。ついに、美少女生徒会長が自ら、遊園地で走りながら素っ裸になったことを認めたのだ。しかも、裸でバイクに乗り、学校に入ってきたことまで・・・それは、似ているから絶対に間違いない、というのともまた次元が違う衝撃だった。

 「・・・でも、これには理由があるんです。これからそれを話すので、お願いです、聞いてもらえませんか・・・私、軽率だったけど・・・まさか、こんなことになるなんて・・・」
徐々に梨沙の口調が乱れ始め、たどたどしくなった。それは、梨沙の演説を聞く生徒達にとって初めてのことだった。
「・・・だけど、私なりに、学校を良くしたいと思ってしたことなんです・・・ごめんなさい、学校の評判を落とすようなことをしてしまって・・・」
いつもは理路整然と話す梨沙だったが、今は支離滅裂になってしまっていた。

 その時、前のブロックの一角から大きな声があがった。
「梨沙ちゃん、落ち着いてっ。大丈夫、俺たち、梨沙ちゃんの味方だよ!」
それは、3年生でバスケ部の先輩の高原だった。高原はバスケ部の1年上の男子の中でリーダー的存在で、梨沙には入部の時から目をかけてくれていた。
「ごめん、正直言って、俺、梨沙ちゃんのさっきの写真見て、つい興奮して、期待しちゃったけど・・・そんなわけないよな、あんなに真面目で、いつもみんなのために一生懸命で、奥手な梨沙ちゃんが、好きであんなこと、するわけないもんな。な、みんなもそう思うだろ?」
長身の高原は後ろを振り返り、生徒達に向かって言った。その心からの言葉には力があり、皆、小さく頷き返した。
「・・・な? みんな、梨沙ちゃんのこと、信じてるから、ゆっくり教えてくれよ、何があったのか・・・俺たち絶対、梨沙ちゃんの味方だからさ。」

 「そんなの当たり前だろ、かっこつけるなよ、高原!」
3年生の席からもう一人の男の声が飛んだ。やはりバスケ部の柳田の声だった。
「けどお前、一回振られてるだろ、梨沙ちゃんに? こんなので点数稼いだつもりになるなよ!」

 う、うるせえっ、とうろたえる高原の声が響き、体育館は笑いに包まれた。バスケ部3年生の言葉と掛け合いで、生徒達の雰囲気はすっかり変わっていた。総会が始まる前の、冷たい雰囲気と淫靡な期待の空気はすっかり消え去っていた。

 「ありがとうございます、高原さん・・・」
そう言って軽く頭を下げた梨沙は、すっかり落ち着きを取り戻していた。そして、もう一回生徒達を見回すと、あちこちで知り合いと目が合い、笑みと共に頷いてくれるのが見えた。ありがとう、みんな・・・
「それでは、今までの経緯を、全て、正直にお話したいと思います・・・」
梨沙の口調は、すっかりいつもの余裕を取り戻していた。

 それからしばらく、体育館の中には、一人の少女の声だけが響き続けた。その衝撃的な内容に、皆は驚き、それでも負けなかった梨沙に敬意を示すようになっていた。

 梨沙の話の内容は以下のようなものだった。
・ブルセラショップの背後にいるのは誰かを探るために、ある男子(A)に依頼して、自分の下着姿を撮影してもらい、それをネタに、相手側だろう男子(B)に接近してもらった。
・するとBは、バスケ部の練習に乗り込んできて、Aのネタを自分も持っていることを仄めかし、恥ずかしい格好でバスケをするように命令し、さらに練習後は、インタビューと称して、少しずつウエアを脱がされ、最後は上下とも下着だけでバスケをさせられ、撮影された。
・ある日Bは、ある写真家の撮影会があるから参加しないか、と言ってきた。その写真家が分かれば、その背後も分かるのではないかと思い、参加することに了解した。
・撮影会の会場は新宿の遊園地であり、またそれは撮影会ではなく、AVメーカーのジュニアアイドルが出演するイベントだった。今さら抜けることもできず、さらに背後関係を知るために、ずるずるとそのイベントに参加してしまった。
・しかし、そのイベントは想像よりも遙かに過激で、自分は、自己紹介と称して、下着姿でバスケをさせられ、下着姿で雲梯をさせられて水をかけられ、黒いフィルムに囲まれた中で生着替えをさせられ、ワンピースの水着姿にさせられ、更に次のゲームでその水着が破れてしまったため、プールの中で布地が少ない黒い紐ビキニに着替えさせられた。
・このままでは更に恥ずかしい格好にさせられると思ったため、思い切ってイベント会場から脱走し、皆に追われた。
・そして、ビキニに何か塗られていて、このままでは身体がおかしくなってしまうとなったので、仕方なく、ビキニの上と下を、逃げながら脱いだ。
・園内全体がグルだと分かったので、思い切って、裸のまま、両手で胸と下半身を隠しながら園の外に出た。そこに柏原くんがいて、自分をバイクの後ろに乗せて、逃げてくれた。
・バイクはアイリスに追われながら逃げ、彼らが入って来れないだろう、学校の中に逃げ込んだ。
・その時は動揺していて、恥ずかしくて、とても学校のみんなに、裸なのが自分だと言う勇気がなかった。
・柏原くんは、自分を庇って、タオルで身体を隠して、保健室に連れて行ってくれた。
・保健室の中では、自分をベッドに寝かせてくれて、柏原くんはカーテンの向こうで、自分が落ち着くのをじっと待ってくれていた。

 ・・・後でよく考えれば、軽率だったり、無謀だったりするところが沢山あるので、みんなにも、柏原君にも、本当にごめんなさい、そう言って梨沙は深々と頭を下げた。
 −−−梨沙の話は、実は全てが正直な事実ではなかった。特に、プールの中で秘部の中にローターを入れられたこと、保健室の中で柏原に見られた痴態の数々は、とても全校生徒を前に話せることではなかった−−−

 10分以上に渡った梨沙の告白が終わると、体育館はしばらく静寂に包まれた。しばらくすると、あちこちからぽつぽつと拍手が聞こえ、それはあっという間に体育館の全員へと広がっていった。
「ごめんね、梨沙ちゃん、誤解しちゃって」
「変な想像して、ごめんね」
「学校の皆のために頑張ってくれたのに、私、陰口言っちゃって、ごめんなさい」
「こっちこそごめん、許してくれる?」
「何があっても、絶対に梨沙ちゃんは俺たちで守るからね!」
「やっぱり生徒会長は、梨沙ちゃんしかいないね!」
「頑張り過ぎて無茶しちゃうところも好きだよ。でも今度からは気を付けてね!」
「男子には、梨沙ちゃんの写真、全部捨てさせるよ!」
「一人で抱え込まないで、私たちも頼ってよ!」
「それじゃあさ、柏原の処分、大目に見てくれるように、みんなで教員室に行こうぜ!」
最後の言葉が響いた後、そうだ、教員室に行こう!、と皆が盛り上がった。


 しかしその時、突然、ステージの横の大スクリーンが点灯した。何が起きたのかと、生徒達の視線が一斉に集中した。そして、あっ、と皆が声をあげた。

 スクリーンには、梨沙がブラとパンティの下着姿で、首に学校の緑のリボンを付けただけの姿で、プールの上で雲梯をする姿が映っていた。それは動画であり、梨沙は身体を前後に振り、両手を片方ずつ前に出して進んでいた。そして、プールの中には大勢の男がいて、梨沙が無防備な下着姿の身体を振っている姿をにやにやと眺めていた。それだけではなかった。画面の中の梨沙には、あちこちから水流がぶつけられ、梨沙は明らかに喘いでいた。
『・・・あ、あっ、あんっ・・・い、いや、いやあぁっ!・・・だ、だめっ!!』
いきなり、体育館の中に切迫した少女の声が響いた。しかし、両手は雲梯を掴んでいるため、無防備に責められ続け、スクリーンの中の梨沙は身体をくねらせ、悲鳴をあげ続けた。

 画面の上端には、ピンクの手書き風文字が表示された。
<乳首と、アソコの割れ目と、お尻の穴と、クリトリス・・・性感5点責めされて、梨沙、イっちゃいそうに気持ちよくなっちゃいました>

 梨沙と生徒達が呆気にとられていると、スクリーンの動画が一時停止となった。そいて今度は、野太い男の声が聞こえてきた。
『おい、梨沙ちゃん、随分きれいにまとめて話してたけど、全て正直にって言うんなら、これくらいちゃんと話さなくちゃいけないんじゃないか? で、性感5点責めされて、どこが一番感じたんだ? やっぱり、クリトリスか?(笑)」

 「おい黒木! お前、いい加減にしろ!」
会場から最初に響いたのは、高原の声だった。
「そうだ、そんなこと、わざわざ言わなくてもいいに決まってるだろ!」
「梨沙ちゃん、大丈夫、気にしないで!」
「おい誰か、スクリーンの電源切れよ!」
すっかり梨沙の味方になっている生徒達は、梨沙の刺激的な姿を見ても、ほとんど動じなかった。

 一方、恥ずかしいところを水責めにされて悶えている姿を公開されてしまい、しばらく羞恥に呆然とした梨沙だったが、みんなの応援の声を聞きながら、心を決めていた。
「いいわ、好きなだけ流しなさいよ! スクリーンの電源、切らないでください!」
梨沙は毅然とした声でそう言うと、そこに黒川がいるかのように、スクリーンの画面を見つめた。ここで逃げたら、他のところでばら巻かれるだけ。起きてしまったことは、全て認めるのよ・・・梨沙は、芳佳のアドバイスを思いだし、自分に言い聞かせた。
「あなた、黒川さんでしょ! そんな卑怯な脅迫に、私、絶対に負けません! ネットにでもどこにでも、ばらまいたらいいわ。でもそしたら私、あなたを訴えます!」

 『ほう・・・全世界の男に見られてもいいのか、この姿が・・・』
黒川の声に、一瞬戸惑いが含まれているように感じられた。
『威勢がいいな。さすがK附の生徒会長さんだ・・・それじゃあ、お言葉に甘えて、お前がどんなに恥ずかしいことをしたか、じっくりと全校生徒に見てもらうからな。・・・ギブアップの時は謝れば、ネットにばらまくのは許してやるぞ。まあ、お詫びの印として、ストリップショーとオナニーショー、そこでやってもらうけどな(笑)』

 黒川の言葉が終わると、スクリーンの動画が動き始めた。

 「あ、いやっ」
梨沙は小さく悲鳴をあげた。

 今は、水鉄砲攻撃が一度やんだシーンが映しだされていた。梨沙の身体はすっかり濡れ、ブラがぴったりと乳房に貼り付き、乳首がくっきりと浮き出ていた。下の方は、パンティが下半身にぴったりと貼り付き、お尻の溝に食い込んでいた。
 すぐにシーンが変わり、今度はプールに落ちてしまうシーン、下着で泳ぐ姿を水中で撮影したシーンがテンポよく映され、プールから上がる時にすっかり濡れた下着が透けて、ピンクの乳首と淡い恥毛がうっすらと見えてしまったシーンでは、徐々にスローモーションになり、一番よく見える瞬間でストップした。
<梨沙の乳首、可愛いピンクです。アソコの毛は、まだ薄いんです>と意地悪なテロップが表示された。
 
 『どうだ、梨沙ちゃん、これが公開されてもいいのかな?』
黒川の口調には余裕が戻っていた。

 「・・・も、もちろん・・・少し、透けてるだけ、ですから・・・」
梨沙は強がったが、目が泳いでしまっていた。
(お願い、早く動かして・・・みんな、見ないで・・・いやあっ)
梨沙は必死に祈ったが、目の前の生徒達のほとんどは、食い入るようにそのスクリーンに見入っていた。



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