PART 2
「おっと、そう来なくっちゃ」
嬉しさを隠しきれない声を出しながら、良幸がカメラを取り出した。
それを見た聡美の表情がさっと強張る。
「ちょっと、写真は駄目っ!」
「なに言ってんだよ、聡美ちゃん、さっき写真部の協力するって言ったろ? 早くしてくれよ、昼休みあと15分しかないよ」
「そうよ、今すぐやんなかったら、分かってるでしょうね」
和彦と美智代が口々に非難した。
「わ、分かったわよ」
聡美は震えながら頷いた。
(ここはやるしかないのよ……恥ずかしい顔を見せたら負けだわ。何てこと無いって顔するといじめる方もつまらなくなるんだから……)
しかし、体が細かく震えているのは隠しようも無く、死ぬほどの羞恥を感じていることは明らかだった。むしろ羞恥を隠そうとしている聡美の気丈さが、たまらなく4人の嗜虐心を高めていた。
(今はせいぜい気取っているんだな。そのうち恥も外聞もなく許しを請うことになるんだから)
4人の中でリーダー格の和彦は内心で決意を固めていた。
「さ、早く!」
びくっ、と反応した聡美は、ゆっくりとスカートに手をかけた。
(ああ、こんなの……)
聡美は眼をつぶりながら徐々にスカートを上げていった。最初は膝小僧のやや上であった裾は、太股の中間あたりまで上がってきていた。生白くてちょうどよい肉付きの太股に、良幸がすかさずフラッシュを浴びせた。
「きゃっ」
「聡美ちゃん!」
思わず足を隠そうとした聡美だが、すかさず美智代に叱責され、仕方なく作業を再開した。もはや太股の大半が露出し、これ以上持ち上げるとパンティが見えてしまう……一瞬、聡美の手が止まる。眼を上げなくても、全員がどこを注視しているか分かった。俯いた聡美の顔はこれ以上ないほど真っ赤になっていた。キスの経験も無く、プライドの高い聡美には耐えがたい恥辱だった。
(恥ずかしがったら男子を喜ばせるだけ。平然とするのよ)
聡美は自分に言い聞かせながら、思い切って裾を腰の上まで捲り上げた。しかし、内心とは裏腹に固く眼をつぶって羞恥に耐える表情を晒してしまった。
「おー、クラス委員の聡美ちゃんがパンティ丸出し!」
良幸が喜びながら写真を撮りまくる。
「おい、聡美、ちゃんと眼を開けろよ!」
「もっとスカート上げなさいよ!」
和彦と美智代から同時に叱責が飛んだ。
その結果、聡美の取らされた格好はかなり恥ずかしいものとなった。自分の手でスカートの裾を肩近くまで上げさせられたため、臍の上までが露出し、下半身はパンティ一枚、という格好だ。しかも、くりっとした眼をぱっちり開かされている。クラスメイトの前で、しかも学校内でこんな格好をしているなんて……さすがの聡美もがっくりきていた。
(とにかく早く終わって……悪夢なら早く覚めて!)
「こ、これでいいでしょ。早くして!」
必死に懇願する聡美をよそに、4人は聡美の体、特に下半身をじっくり観察した。
「写真で見るより生の方がいいな、やっぱり」
和彦が感に堪えないように呟く。
「ほんと、きれいな体ね〜、聡美ちゃん、羨ましい。でも、めちゃくちゃにしたくなっちゃう」
美智代はやはり嫉妬が先に立つようだ。
「今度はお尻のどアップね、……はい、次は太もも!」
張り切っているのは良幸だ。飽くことなく連写を続けていた。
「ふ〜ん、羨ましいな〜」
ぼーっとしたタイプの由美は純粋に聡美の下半身の美しさに感心していた。
聡美は約5分もの間、その格好を取らされていた。聡美の我慢が限界に達しそうになったころ、遠くから、
「キーン、コーン、カーン、コーン」
とチャイムが聞こえてきた。昼休みの終わりだ。5人とも一瞬硬直する。
「げ、やばい、戻ろうぜ」
和彦が焦る。
「待って、その前にあれだけ」
美智代はそう言いながら聡美のスカートに手を伸ばした。
――――☆☆☆――――☆☆☆――――☆☆☆――――
和彦たち5人が教室に駆け込んできたのは1時3分だった。いつもは時間に厳格な現国の佐伯はなぜか今日は5分遅れで教室に入ってきたため、遅刻は免れることができた。
しかし、5人はクラスメイトの注目をたっぷり浴びることとなった。あまりに不自然な組合わせに皆が疑問に思うのも無理はなかった。和彦が聡美に振られたのは周知の事実だったし、美智代と聡美にはなおさら接点がなかった。
そして、何より視線を集めたのは聡美のスカート丈だった。午前中は確かに普通の丈――膝上5センチ――だったのに、今は少なくとも膝上20センチ以上になっていた。学校机には、いわゆる『視線ガード』がないので、露骨に聡美の太股が周囲のクラスメイトに見えてしまう。皆、聡美の表情を伺うが、聡美はいつになく俯くばかりだ。それでも、よく見ると顔を真っ赤にしているのが分かった。聡美は真ん中やや前、という自分の座席を恨んでいた。佐伯先生が教壇でしゃべりっぱなしのタイプで聡美の脚が死角となっていることが唯一の救いであった。
あちこちでひそひそ話が始まった。
「おい、聡美ちゃんの足、丸見えじゃん。あの太股、たまんねーな」
「ほんと、ほんと、白くてエッチな感じだな。だけど、なんであんなエロい格好してんだ?」
「美智代が何かしたのかな〜。あいつもたまにはいいことするな」
「けど、あんな体ずっと見せられたら勉強にならないよ」
「じゃあ、スカート戻して、っていうのか?」
「そんなことより、聡美ちゃんの胸も見てえな〜」
「ああ、聡美ちゃんのおっぱい、結構大きいよな」
男子達はつい興奮した声を上げてしまう。
男子の中で唯一聡美と友達らしい付き合いをしている祐介は露骨な会話には加わらなかったが、憧れの聡美の思いがけない痴態には、可哀想に思いつつもつい盗み見てしまうのだった。
一方、女子達は軽蔑の視線を向けてひそひそ話をしていた。
「ちょっと〜、何よ〜、あれ。露出狂みたい」
「優等生さんが、急に色気づいたのかな?」
「あんなんで男子の気を引こうとしているのかしら? いっそのこと裸になっちゃえば?」
と、冷たい反応だ。唯一、薫だけが心配そうな顔で聡美の様子をうかがっていた。
聡美は耳に入ってくるひそひそ話を必死に心の中で払いのけながら、時間が過ぎるのを待つしかなかった。さっき、引き上げる間際にスカートを折り込まれてしまったのだ。美智代たちの命令で、勝手に下ろすことは許されていなかった。また、明日は自分でこの長さに丈詰めすることも命令されていた。
(ひどい、こんなの……だからって毎日こんな超ミニで学校に通うなんて、絶対無理)
混乱した頭で必死に考えるが打開策が浮かばなかった。もし逆らえば、あの3枚の写真だけでなく、今日の恥ずかしい写真、自らスカートを上げてパンティ一枚の下半身を丸出しにしている写真も公開されてしまうのだ。
聡美の斜め前に座っている和彦は、そんな聡美の困惑と羞恥の様子と旨そうな太股をじっくり堪能しながら次の策を考えていた。
(きっと聡美は、いつまでも屈辱を味わわされるより先生にタレ込む方を選ぶ筈だ。うーん、じゃあどうするか……よし、とりあえず田崎を使おう。それから美智代に「資金源」ちゃんを押さえておくようにもう一回言っとくか)
いつもは聡美と議論すると負けてしまう和彦だったが、今回は聡美に勝ってる、と思うと気持ちが良かった。それは実力によるものではなく、盗撮写真という切り札とがあるためではあったが。