PART 41

「は? ちょっと、何を言ってるのよ……」
 思い掛けぬ美智代の言葉に、聡美はたじろいだ。
「淫乱かどうかをチェックするために裸になれ、なんてメチャクチャじゃない。そんなこと、淫乱でも何でもない普通の女の子ができるわけないでしょう?」
(そうよ、そんなのおかしいわよ!)
 聡美は話しながら、自分の正当性を確信した。

「あのさあ、ちょっとそれは図々しいんじゃねぇの?」
 和彦が口を挟んだ。
「確かに、『淫乱でも何でもない普通の女の子』ならそうだろうけどさあ、聡美ちゃん、今までの自分の行い、よおく振り返ってみた方がいいんじゃない?」
 そこで言葉を止めて聡美の顔を覗き込む。
「あのな、『普通の女の子』がさ、教卓の上でアソコおっぴろげてローター触りながらイッちゃうと思う?」

 途端に、聡美の頬が火を噴きそうなほどに真っ赤になり、教室中が爆笑に包まれた。女子の辛辣な声も一緒に響く。
「そんなの聡美だけに決まってるじゃない、いくら強制されたって、普通の女の子なら死んでもできないわよ、そんなこと」
「それどこか、下着だって見せないわよねぇ、普通」
「そうそう、何だかんだ言ってるけど、聡美、結構喜んでやってたのよ」
 同性による嘲りに、聡美の顔が小さく歪んだ。

「さて、みんなの意見が出揃ったみたいだけど、どうしましょう、議長?」
 美智代は穏やかな笑顔を絶やさずに、議長の薫に向かって言った。
「聡美ちゃんの意見を採用して、チェックはしないことにする? それとも、みんなの意見を採用して、淫乱チェックをして、OKだったら宣誓は無しってことにする?」

 聡美を含む皆の視線が薫に集中する。しかし、薫の答えはあっけないほどあっさりとしていた。
「それでは、チェックを行った上で、もし白石さんの性格に風紀上の問題があることが分かった場合には、先程の宣誓を実行してもらうことにします」
 薫は、落ち着いた口調で、聡美を羞恥地獄へと陥れる算段に手を貸していた。

「ちょ、ちょっと、薫ちゃん……」
 聡美は、かつての親友の裏切りに呆然と呟くしか無い。相手が美智代たちなら強く拒否もできるが、薫が相手だと、どうして良いか分からなかった。

 しかし、薫は聡美の言葉など耳に入らないかのように、淡々と続けた。
「確かに、白石さんの今までの行動を考えると、夏休みのみならず、私生活の乱れによる非行化を心配するのも無理はありません。そしてそれは、ひいてはS高校の名誉を汚すことにもなりかねません」
 そこまで言うと、薫は壇上の聡美を一瞥した。その視線はあくまでも冷たかった。
「また、今までの非常識な行動の数々を考えると、白石さんが淫乱性の恐れが強いと考えるのが自然です。従って、もし白石さんがそれを否定するなら、美智代さんの提案どおりのチェックを受け、淫乱でないことを証明しなければなりません」

「いいぞー、薫ちゃん、清純派のお嬢様としては許せないよな、あんな淫乱!」
「それにしても、薫ちゃんがしゃべると、理路整然としてて説得力あるよなー」
「ほーんと。さあさあ、もとクラス委員の聡美ちゃんの淫乱チェック、始めようぜ」
「おいおい、まだ聡美ちゃんはクラス委員だろ。ま、それはどうでもいけど、チェックしてやるから、早く素っ裸になれよ、聡美ちゃん。ほら、脱ーげ」
 その言葉をきっかけに、男子生徒の間から、「脱げ」コールが始まった。1ケ月ぶりに見ることができる聡美のヌードを目前にして、皆の目付きが変わってきた。

 大きく手をぱんぱん、と叩く音が響き、澄んだ声が続いた。
「皆さん、これは白石さんの性格的問題を解決するために必要に迫られて行うものです。下品な気持ちで見る人は、速やかに教室から出て行って下さい」

 そんなことを言ったら、教室に残るのは聡美と薫だけになるに決まってるじゃん……皆がそう思ったが、口に出す者はいなかった。みすみす美少女優等生の恥辱ショーを見逃すことになってしまうからだ。

 同じことを美智代が言ったなら白々しい建前と笑い飛ばせるが、真面目を絵に描いたような薫が言うと、ひょっとしたら本気かもしれない、という雰囲気があった。それに、真面目な顔を装ってさえいれば、正々堂々と聡美の恥辱姿を堪能できるのだ。

(あいつ……ここまで計算していたのか)
 和彦は内心、舌を巻きながら美智代を見た。視線に気付いた美智代が、にこりと笑顔を返す。
(ちっ、大したもんだ。ま、この件については完全に負けを認めるよ……美智代さまの御意のままにどうぞ)

 教室が静まるのを確認すると、薫は美智代に尋ねた。
「チェックの方法ですが、どうしたら淫乱か正常かの判定ができろと思いますか、野中さん?」

「はい。白石さんがみんなの前で裸になって恥ずかしい格好をして、この時間が終わるまでに、性的な反応が見られなかったら、正常と判定していいと思います。性的反応の有無については、このタンポンを身に付けてもらって、重さが1グラム以上増加していたら反応ありとみなす、ということでいかがでしょうか?」
 美智代は、用意していたタンポンを見せて言った。さらに、机の脇から何やら電子器具を取り出す。

「それから、計測はこの機械で行いますが、これは、重さを0.1グラム単位まで正確に計測できます。……えーと、これは、えー、7.2グラムです。つまり、これが8.2グラム以上になったら、白石さんは淫乱性、ということでいかがでしょう?」

「い、いやよ、そんなの!」
 それまで不安な表情で成り行きを見ていた聡美が、耐え切れなくなって声を上げた。
「勝手なことを言わないでよ! そんなの、冗談じゃないわ。私はそんなチェックは認めませんっ!」
 聡美にしてみればそれも当然だった。クラスみんなで議論した結果とは言え、淫乱で無いことを証明するために、クラス全員が見守る中で素っ裸になって恥を掻け、というのだ。しかも、その後、秘部にタンポンを挿入して濡れ具合を測定するという。
(そんなの絶対、おかしいわよ! 薫ちゃんまで……)

「あらあら、これは困ったわねぇ」
 ちっとも困っていない口調で美智代が言った。
「学級会でどうしてもまとまらない問題が発生した場合、どうするんだっけ、薫さん?」

「えー、その場合は、生徒会に裁定の申し立てを行うことになります」

「そうなんだ。それで、生徒会でも結論が出なかった場合は?」

「その場合、緊急生徒総会が開催され、S高全生徒の多数決によることとなります。その結果にどうしても不満のある人は、担任教師を通じて、教員及び生徒会との話し合いを行うことになります」

「ふーん、そうなんだぁ。本当に、うちの校則って、生徒の自主性を尊重してるんだねえ」
 美智代はさも感心したような声でそう言ったが、本当にその校則を知らなかったかは甚だ怪しかった。
「じゃあ聡美ちゃんはさあ、この件をまずは、1生徒として、学級会の結論を不服として、生徒会に裁定申し立てをするって事になる訳ね? けど、そうしたら、どうして2年1組として聡美ちゃんが淫乱だと推定したか、ちゃんと根拠も示さないと、生徒会も裁定できないわよねえ? ということは、今までの聡美ちゃんの恥ずかしい行動の記録写真、プールでの誓いの言葉の録音テープをさ、今度は2年1組のクラス委員として提出して、写真・動画を生徒会役員全員に回覧してもらう、のよねぇ。へえ、あんな恥ずかしい格好、他のクラスの人たちに見られてもいいんだ」

 美智代は一気にそこまで言うと一旦言葉を切り、舌をちょろっと出して唇をなめた。
「だけどさあ、その生徒会でもやっぱり聡美ちゃんは淫乱、て結論になったら、聡美ちゃんはとーぜん不服として受け入れないのよねぇ? そしたら次は緊急生徒総会、かぁ。全校生徒招集して、あそこ丸出しでイッちゃった写真を見せながら、『私は淫乱じゃありません!』って訴えるのかぁ……みんながあなたの言葉、信じてくれるといいわねぇ、聡美ちゃん。まあ、私だったら、あのテープと下半身丸出しで授業受けてる写真を見られたとしたら、それでもみんなが信じてくれるなんて自信は持てないけどね」

「……」
 再び全員の視線を浴びた聡美は、何も反論できず、唇を噛み締めた。確かに理屈では、全く美智代の言うとおりだった。
 さすがに全校生徒に対して、放送コードに引っ掛かるような情報を提供することは無いだろうが、その判定をする客観的な第三者(おそらくは生徒会メンバーの各クラスのクラス委員・副クラス委員)には、聡美の恥辱の記録を逐一提供しなければならない。

(そ、そんなの、絶対無理! でも、どうしたら……)
 もはや、どうあがいても恥を掻かずに済ませる方法が無いことにを認めることができず、聡美は必死に思考を巡らせた。
(何か、何か方法がある筈、あきらめちゃだめ……)

「それはちょっと違うと思います」
 沈黙する聡美に代わるように、薫が言葉を発した。
(薫ちゃん……?)
 思わぬ助け舟に、聡美は顔を上げて薫を見つめた。
「白石さんはそこまで覚悟ができている訳では無いと思います」

(……? 薫ちゃん?)
 予想と異なる言葉が続き、聡美は困惑した。
(え、まさか、違うわよね……?)

「きっと、白石さんはやっぱり淫乱症で、チェックをされて、クラスメイトのみんなに、動かぬ証拠を握られるのが嫌なんだと思います。それで、生徒会に不服申し立てをするなんて言ってるんでしょう? そう言い張れば、2年1組の恥を晒すことを恐れたみんなが、証拠も無しに白石さんは淫乱症ではないことにしてくれる……そんな計算をしているんだと思います」

「か、薫まで、……ひ、ひどい、何を言ってるの!?」
 聡美は今度こそ友人の裏切りをはっきりと悟り、猛然と抗議した。
「私は淫乱じゃありません。見られて感じたりは絶対、しません! これ以上侮辱するならあなたを訴えます」
 最後のくだりに教室中が、おおーっ、と大きく湧いた。聡美と薫という誰もが認める大親友の仲が、はっきりと決裂した瞬間だった。

「そうですか。それでは、チェックを受けても何も問題無いですよね」
 薫は、周囲の騒ぎなど気に掛けないかのように、涼しい声で話した。
「それに、本当に淫乱で無いなら、ここでチェックを受けない方が不思議とは思いませんか、このクラスのみんなには既に裸を見られているんですから? それなのに、あえて不服申し立てをして、他の生徒にも恥ずかしい写真を見てもらおう、といのは、淫乱症の疑いを更に強くすることになりませんか?」

(ありゃりゃ、思った以上の効果、と言うか、すごい人材を味方にしちゃったみたいね)
 美智代は、薫の予想を遥かに超える働きぶりに感嘆していた。
(それにしても、女の恨み、ってのは怖いものねぇ……ま、ここはしばらく薫ちゃんに任せておこうっと)

「そ、それは……」
 聡美はまたも言葉に詰まった。先程とは違い、今度は親友の裏切りにではなく、薫が思った以上の論客であることが分かったからだ。
「と、とにかく、私は淫乱症じゃありません……」
 聡美は論理の応酬を放棄する答えしか口にできなかった。

「はい、それでは、白石さんが淫乱症かどうか、チェックを開始します」
 聡美の反論が無いことを確認した薫は、かつての大親友の恥辱ショー開催を宣言した。

次章へ 目次へ 前章へ

MonkeyBanana2.Com Free Counter

アクセスカウンター