PART 76

 ようやく一番奥のSupershotの担当に辿り着いた有希は、課長の須藤のデスクの前に立った。
「須藤課長、第1編集担当の二階堂です。宮本部長の指示でまいりました。」
有希は羞恥を堪え、極力事務的な口調で言った。他の担当者の視線が背後から突き刺さっているのが分かった。

 「ほう、今日は礼儀正しいんだな、新入社員?」
須藤はまた、パソコン画面から目を離さずに生返事をした。
「しっかし、君、縄で縛られるとそんなに気持ちいいの? 普通、ちょっと縛られただけじゃ、こんな風に腰振ったりしないぞ?」
背後から、他の社員達がぷっと吹き出すのが聞こえた。

 「ちょ、ちょっと、見ないでください!」 
有希は顔を真っ赤にして抗議した。
「勤務時間中に不謹慎です、そんなの見るなんて。」

 「おいおい、また勘違いかよ、有希ちゃん」
須藤は顔を上げ、有希の顔を見つめた。
「これも仕事だよ。と言うか、君の不始末の尻拭いをさせられてるんだぞ。」

 「え、不始末って・・・」
有希の表情に怯えが浮かんだ。アイリスと交わした約束がふと脳裏に蘇った。え、まさか、これって・・・

 「やっと思い出したって顔だな。君、アイリスとのこと、いろいろ会社に秘密にしてるんじゃないのか?」
人の表情を読みとることに長けている須藤は、有希の僅かな動揺を見逃さなかった。
「おかげでこっちはとんだ迷惑だよ。社長にまで許可もらって厳重抗議したのに、君とは合意しているってアイリスに言われたんだぞ。一体どういうことなんだ?」

 「い、いえ、それは、その・・・」
口に出すのですら死ぬほど恥ずかしい動画の独占販売権を買い戻すために、アイリスに協力しなければならない・・・有希はその覚書の内容を思い出した。しかもその書面には、秘裂に咥えた筆ペンでサインをさせられ、さらには秘部で押印させられているのだ・・・
(あ、ああ、そんな・・・どうしたらいいの・・・)

 戸惑って立ち尽くしている有希の肩が、こんこん、と硬いもので叩かれた。
「ほら、有希ちゃん、電話だよ。何だか分からないけど、きっちり落とし前付けてくれよな。」

 「え、は、はい・・・はい、二階堂です・・・」
心が落ち着かないまま、有希は渡された電話に出た。(い、いや、助けて・・・)

 『こんにちは、葉川です。お元気かしら。』
電話の向こうの声は、忘れもしない、アイリス映像の社長、葉川真樹だった。
『早速だけど、有希ちゃん、S書房様からすっごい抗議をいただいたんだけど、どういうことかしら?』

 「え、いえ、それは、その・・・」
周囲の視線が気になる有希は、素直に謝ることができなかった。しかし、電話の向こうの沈黙が恐ろしく感じられ、有希は小声で言った。
「・・・す、すみません、でした・・・」

 『え? ちょっとよく聞こえないんだけど?』
電話の向こうの真樹は少し戸惑ったように言った。
『ああ、周りに社員さんがいるから謝りにくいのね。まあ、いろいろ知られたくないことがあるもんね。』
真樹はそう言うと、くすっと笑ってから続けた。
『だけど有希ちゃん、約束を破っちゃ駄目よ。上司の方にもちゃんと報告しなくっちゃ。有希、F町のお祭りで素っ裸になったり、アソコに募金入れてもらった動画を取り返すために、アイリスに恥ずかしい動画を作ってもらって、お金を稼がなくちゃいけないんですって・・・何なら、上司の方に証拠の動画、お送りしてもいいのよ?(笑)』

 「お、お願いです、そんなこと、しないでください・・・」
好奇の視線を感じながら、有希は電話口に必死に囁きかけた。
「ネットでの販売も許してください・・・他のことなら、しますから・・・」

 『・・・うーん、まあ、仕方ないわねえ・・・有希ちゃんがそこまで言うなら何とかしてあげたいけど、やっぱり、きちんとお詫びはしてもらわないと困るしねえ・・・』
真樹はしばらくもったいを付けるように沈黙したあと、言葉を続けた。
『あ、そうだ、それじゃあ、こうしてもらおうかな・・・』

 しばらくすると電話はようやく切れたが、有希はしばらく電話を持ったまま立ち尽くしていた。
(そ、そんな・・・いやよ、そんなこと、できない・・・)

 「おい、どうした、有希ちゃん。」
須藤が有希の手から電話を取り上げた。
「話はついたのか? それなら俺達は仕事に戻るぞ。」

 「ま、待ってください!」
有希は慌てて言った。
「お、お願いがあります・・・すみません、須藤課長、ご協力を、お願いします・・・Supershotのご担当の皆様も、よろしくお願いします・・・」
(いやよ、こんな雑誌を作っている男達の前で・・・)有希は唇を噛みながら屈辱を堪えていた。

 それじゃあ、アポのある奴以外はちょっと残って、有希ちゃんに付き合ってくれよ・・・須藤がそう指示して、有希の屈辱のステージの舞台が整った。
「・・・Supershotの担当者の皆様、私、二階堂、有希は、・・・実は、私からお願いして、緊縛していただき、・・・公開されることも、了解していました・・・皆様にはご心配をおかけしてしまい、また、抗議をしていただいたのに、私の不始末のために、大変なご迷惑をおかけしてしまい、大変、申し訳、ありませんでした。お、お詫びとして・・・」
有希はそこで、辛くなって思わず言葉を止めた。ふと前を見ると、男子社員達の好奇に満ちた視線が突き刺さるのを感じた。(い、言いたくない、でも・・・)
「お詫びとして・・・また、私が、緊縛好きなことの証明として・・・自、自縛ショーを、させていただきます。・・・須藤課長、私のお詫びを、録画していただけますでしょうか・・・そして、アイリス映像に、送ってください。よろしくお願いします・・・」
呆気に取られる男性社員達の様子に、有希はますます恥辱を深めた。

 「何だ、まだ時間がかかるのか・・・まあ、仕方ねえな。アイリスとことを構えるのはまずいから、そのお詫びってやつ、しっかりやってくれよ。」
須藤は呆れたようにそう言うと、若手社員に視線を向けた。
「おい、佐藤、奥の会議室、午前中は空いてたよな? 有希ちゃん、みんな忙しいんだから、パパッとやってくれよ。」


 そしてその2分後。会議室に移動したSupershot担当社員達を眼前にして、有希は少し躊躇った後、ついに口を開いた。
「そ、それでは、私、二階堂、有希・・・アイリス映像様との約束を会社に伝えず、アイリス映像様にも、S書房の皆様にも、大変なご迷惑を、おかけして、しまいました・・・ご迷惑をかけてしまいましたお詫びとして・・・自分で、ま、股縄、縛り、ショーを演じさせていただきます。」
会議室の奥に立った有希は、長い楕円形のテーブルの周囲に配置された椅子に座っている男性社員達に向けて挨拶をして、腰を折って頭を下げた。ぱちぱちぱち、と拍手が起こるのが屈辱的だった。また、2人の若手社員が、それぞれカメラを持ち、有希の姿を動画に記録していた。

 (・・・こ、こんなのって、ひ、ひどい・・・)
有希はギャラリーと化して見つめる社員達を見て、屈辱に震えた。しかし、言われたとおりに詫びを入れないと、死ぬほど恥ずかしい動画の数々を公開されてしまうのだと思うと、拒否することはできない・・・有希は何度も自分に言い聞かせた理屈をもう一度思い出し、命じられた台詞を口にした。
「そ、それでは、まず、縄をご用意いただけないでしょうか。・・・須藤課長宛に、アイリスから送られてきていると思います・・・それから、備品棚から、巻き尺を持ってきていただけないでしょうか・・・」
えー、いきなり先輩を使うのかよ、と笑われながら、有希は唇を噛んで恥辱を堪えた。

 ほどなく、先輩社員が縄と巻き尺を持ってきてくれた。
「有希ちゃん、これでいいの。・・・で、巻き尺なんてどうするの? スリーサイズなら計ってやろうか?」
その軽口に、他の社員達が軽く笑った。

 有希は頬をぱっとピンクに染めながら、小さく首を振った。
「ち、違います・・・あの、それではまず、巻き尺を貸していただけますか・・・」
もっと恥ずかしいものを計らなくてはならないと思うと、有希は顔から火が出そうだった。


 午前中の明るい会議室の中、8人の男性社員が見つめる前で、部屋の奥、窓際に立っているスーツ姿の美人女性社員は、巻き尺を左手に持ち、右手で少し引き出すと、少し腰を屈め、タイトスカートの下へその両手を入れた。そして少し躊躇ってから、その手を少しずつ上げていく。タイトスカートがめくれていないか確認しながら、慎重に・・・
 ようやく股間に手がついた辺りで、有希はその動きを止め、しばらく手をもぞもぞ動かした。そして今度は両手をスカートの中から出し、巻き尺の数値を確認した。それから有希はもう一度同じ動きを繰り返し、再度数値を確認した。

 次に、縄を渡してもらった有希は、巻き尺でそれぞれの間の距離を計りながら、3つの結び目を作った。縄に結び目を作るだけだったが、有希が顔を真っ赤にしてその作業をするのは、男性社員達にとってかなり楽しい余興だった。

『ちょっと、有希ちゃん、何よ、その素っ気ない顔は。』
突然、会議室に女性の声が響いた。それは、一人の若手社員が持っている携帯端末から聞こえていた。
『お詫びのショーなんだから、もっと愛想良くしなさいよ。その結び目は何のためか、ちゃんと皆さんに説明するのよ。笑顔でね。』

 「・・・は、葉川さん!?」
有希は思わず声をあげ、そして状況を理解した。それは携帯端末のカメラで、テレビ電話モードになっていたのだ。つまりこの光景は、アイリスに生中継されている・・・

 『ほら、皆さんお忙しいんだから、早くしなさい。・・・まあ、あなたがいやなら別にやらなくてもいいんだけと。』

 「す、すみません、やります、やりますから・・・」
有希はその携帯端末に向かって懇願すると、仕方なく指示に従った。
「えー、この縄の結び目は・・・」

 しかしそれから、有希は何度も真樹から駄目を出され、最後にはこのように話したのだった。
「こちらの縄により、有希の股をこれから縛るのですが、この縄の結び目は、私の、ク、クリトリスと、・・・ち、膣の入り口と、・・・お尻の、穴、に当たるように作っています。ちなみに、有希の、クリトリスと膣の距離は、2センチ4ミリ、・・・膣と、肛門の距離は、3センチ5ミリ、となります。今度、私を縛る場合のためにメモをお願いします。」
はーい、忘れないようにメモしまーす、2センチ4ミリと3センチ5ミリ!、と社員達に半笑いで合唱され、有希は屈辱に唇を噛んだ。


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