PART 11
合宿最終日前日の夜。夕食後、ちょっとした打ち上げの席で皆が盛り上がっていた。未成年なのでアルコールは無いが、ジュースやお菓子を並べてわいわいと食べていた。
その会も終盤になった頃。二人の一年生女子、緑川麻実と川野美里が浩の向かいの席に移動してきた。
「あの、滝沢先輩、ちょっといいですか?」
「お話があるんですけど……」
二人ともやや声を落としていた。
浩はぎょっとした。なかなか可愛い後輩女子が二人で目の前に座り、意味ありげな目で自分を見つめているのだ。
「ん、どうしたの?」
(ひょっとして、告白されるのかな? でも何で二人で?)
できるだけ平静を装ったが、少し声が上ずってしまい、その試みはあまり成功していなかった。
「実は、私たちも……先輩と同じ力があるんです」
麻実の視線は探るような感じだった。
「え、同じ力って?」
浩は心臓が停まりそうなほどにぎょっとしたが、必死にとぼけようとした。まさか、時間停止の力でエッチな悪戯をしたことが知られていたら……いや、分かるはずないだろ、落ち着け……
「やだ、先輩、挙動不審!」
「きょろきょろしちゃって、分かりやすーい!」
二人の女子はけらけら笑った。
「大丈夫ですよ、先輩を責めたりしませんから」
「実は私たちもできるんですよ、時間停止」
今度こそ、心臓が停まりそうになった。動悸が激しくなり、喉がからからになる。
「え、時間停止って何のこと? 映画か何かの話?」
浩はとりあえず、テーブルの上のコップを手に取り、ジュースを飲んだ。
次の瞬間、目の前にぼうっと青い霞がかかった。
「えっ!?」
浩ははっとして周囲を見回した。皆の動きが停まっている……ということは……
「これで分かりましたか?」
美里が自分の目の前のコップをとり、持ち上げた。そして手を離すと、コップは宙に浮いたまま止まった。
「私は先輩と違って、30センチくらい動かせますけどね」
美里の隣では、麻実が頷きながら悪戯っぽい顔で笑っていた。
「え、何、これ……」
そう言いかけて、浩は観念した。全部、ばれてるんだ……
「ごめん、分かったよ……今までのこと、黙っててくれないかな?」
彩のスカートを捲ったり、ブラのホックを外して胸を露出させたり……もし言いふらされたら俺は破滅だ……浩は必死に愛想笑いを浮かべた。
「ふふ、大丈夫ですよお」
麻実が笑って言った。
「あのくらい、可愛いイタズラじゃないですかあ」
「そうそう、健全な男子って感じでしたよ。だいたい、私たちは時間停止できるなんて言ったら、変人扱いされるか、気味悪がられるかで、信じてもらえるわけないんですから」
美里が頷いて続けた。
「警戒しないでください、私たちは仲間なんですから。なんなら、先輩のお手伝いしてもいいですよ?」
「……よく分からないけどとりあえず、話を聞こうか」
あまりに意外な展開に戸惑っていたが、とりあえず自分が責められることはなさそうだと分かり、浩はほっとした。
それから30分後。すっかり意気投合した3人は、にやりと笑いながら頷き合った。
(よし、明日はおもしろくなりそうだぞ……)
――――☆☆☆――――☆☆☆――――☆☆☆――――
合宿の五日目、最終日。天気は晴れで気温もやや涼しいくらい、テニスをするには絶好の環境だった。
「今日は最後の仕上げだから、みんな、気を抜かないで頑張ろうね!」
彩がいつもの笑顔で皆に声を掛けた。今日のウェアはピンクと白のオーソドックスなものだった。はーい、と若干気のなさそうな女子達の声が続いた。
練習が始まって30分ほど経ったところで、浩は彩に声をかけた。
「若杉さあ、ちょっと提案があるんだけど」
後輩に気合を入れながらラリーをしていた彩が中断し、不審げな顔を向けた。
「え、何?」
「この前の勝負の続きをしないか?」
「続きって、滝沢くんがギブアップしたでしょ」
「いや、武田が中断させただけだよ」
「でも、最後の1枚脱ぐことになっちゃうでしょ」
「大丈夫、今日はパンツ2枚はいてるから。女子はアンスコはいてるんだからそれで平等だろ?」
周囲の部員たちが興味深そうに滝沢と彩の顔を交互に見つめていた。
彩は小さく溜息をついた。せっかく最終日は気合を入れて終わろうと思ったのに……でも、逃げるわけにもいかない。
「……あと1枚分、1ゲーム取れば終わりよね?」
「いや、ゲームは最初から、つまり0−0からにしてほしい。ゲームカウント2ー4からじゃ4ゲーム取っても裸にできないし。俺の服装はパンイチからでいいから」
おおっと男子たちから声が漏れた。滝沢の奴、自信がありそうだけど、ひょっとしたらまた若杉を脱がしてくれるのか……
「はあ? 1ゲームも落とさないで、私から5ゲーム連取するつもり?」
彩の口元が嘲りを含んで歪んだ。周囲の男子部員たちの淫靡な視線も鬱陶しい。
「あと、女子もギブアップなしで。裸になった後は罰ゲーム。6ゲーム先取で終わらないで、裸にされた方が少なくとも1ゲーム取るまで続くってことで」
浩は彩の嘲りに気付かないように淡々と言った。
その態度が彩をカチンとさせた。あと、たった1ゲームで負ける癖に……
「なんでもいいけど、ルールは絶対に変更しないわよ……みんなも証人になって」
オッケー、はーい、と男女の部員が口々に言う声がコートに響いた。1年生の二人の後輩、麻実と美里が目を見合わせて小さく笑った。
――――☆☆☆――――☆☆☆――――☆☆☆――――
滝沢と彩の脱衣テニス勝負の第二幕が始まった。ただし、浩は最初からパンツ1枚の姿で、それはあまりにも無謀な戦いのように思われた。
第一ゲーム。浩はパンツ一枚の姿でサーブ。ギャラリーは固唾を呑んで浩を見つめた。あれだけ自信たっぷりに勝負を挑んだのだから、もしかして何か秘策でもあるのか……
しかし、浩のサーブはあまり力のないものだった。ラケットの真ん中には当たったが、パコーンと軽い音を立てて彩の方へと飛んでいく。
(まずこのポイントは練習だな)
浩が視線をチラリと麻実と美里に送ると、二人は小さく頷いた。
彩がえいっという掛け声と共に鋭いレシーブを放った瞬間、時が停まった。二人の女子はもともと彩側のコートの周りに座っていたので、すたすた歩いて彩のところまで行くと、麻美がスコートの前を大きく捲った。
「最初はアンスコ見せてくださいね」
「やっぱり可愛い白!」
美里と一緒に先輩のアンスコ露出姿を確認すると、さっきまで座っていた位置に戻った。浩に合図をして、時間停止解除をする。
ラケットを振り切り、レシーブエースになるのを確認……そこで彩は悲鳴をあげた。
「きゃっ!」
急に捲れた?……慌ててスコートを押さえたがギャラリーにはしっかりと見られた後だった。
「またスコート捲れてる!」
「アンスコは白w」
「今さらアンスコで恥ずかしがるなよ(笑)」
「先輩かっこいい」
「練習では厳しすぎるけど恥ずかしがるの可愛いですね」
「わざと捲れるようにしてない?」
男子のからかいの声が響き、女子たちのクスクス笑いが聞こえた。彩は頬を朱に染めながら耐えるしかなかった。
(ふふ、3人で時間停止すれば簡単ね)
麻美が浩に視線を送った。
(ていうか、お前ら能力の方が高すぎだろ……)
浩は呆然としていた。彼女たちの話に寄ると、麻美と美里の能力の制限は緩く、移動も50センチ可能だし、同じところを何度も触れるというのだ。これなら、浩の実力でも彩に負けるはずがない……3人で作った、これからのシナリオを思い出し、浩は期待に胸を高鳴らせた。
彩15ー浩0からの2ポイント目。
浩は再び、緩めのサーブを放った。コースも彩のフォア側で打ちやすい位置だ。すかさず彩が強いレシーブを返してきて、浩の反応が遅れた。
(きついけど、何とか返して、と)
浩はラケットの面だけ合わせてボールに当て、ふらふらとしたボールを彩のコートに返した。それは、ボールが高く弾むようにするため、わざとでもあった。
思い通りに彩のコートで高く弾んだボールに合わせ、彩が小刻みに足を動かしてラケットを構えた。
「はいっ」
高い打点から打ち込むと、今度はスコートの後ろがふわっと捲れ、純白のアンスコが見えた。日焼けした健康的な太ももが露わになるのもギャラリーの目を愉しませた。
「滝沢全然駄目だな」
「あと2点ポイントで素っ裸かあ」
「男の裸見てもなー」
「若杉のアンスコはいいけどな」
諦め気味の男子達の声がコートのあちこちから聞こえた。
彩30ー浩0からの3ポイント目。
(本当に大丈夫だろうな……)
ふと、浩の胸中に疑念がよぎった。昨日の約束どおりなら負けるはずはないが、実は彩の味方で、ここから裏切って放置されたら……自分はこのパンツを脱いで、全裸でプレーしなければならない。しかもさっき付けたしたルールによって、全裸でもゲームを続行し、彩から1ゲーム取るまで終わらないのだ……
ぞくっとしながら麻美と美里をちらりと見ると、二人は屈託ない笑顔を返してきた。
(信じてるからな……)
浩は同じようなサーブを放ち、再び厳しいレシーブを浴び、打ちごろのボールを返した。
「いただきっ!」
彩が鋭い目でボールを見つめ、ラケットを高く上げて振り、ラケット面の真ん中でボールを捉えた。ボールは弾かれたように飛び、浩側のコートの奥に突き刺さった。
「うわ、すごいショット」
「さすが若杉先輩!」
「やっぱり滝沢さんなんか相手にならないですね!」
女子達から歓声があがった。スパルタ指導で快く思っていない者が多いが、いやらしい男子をやっつけてくれるのは気持ちが良かった。
「だめだこりゃ」
「彩ちゃん容赦ない(笑)」
「滝沢の裸でも見るかー」
男子達はすっかり諦めムードで、彩の揺れるスコートや胸をちらちら眺めていた。もしかしたら、あの服の下を見られるかと期待したのが馬鹿だった……
「ラブ・フォーティ」
武田の淡々とした声がコートに響くと、ギャラリーの諦めムードがいっそう深まった。
その時、コートに澄んだ声が響いた。
「ちょっとタイムにしてもらっていいですか?」
それは、彩の声だった。
皆が注目する中、彩はネットまで歩いてきて、向かいのコートの浩を見つめた。
「どう、まだ続ける? あと1ポイントで本当に裸になっちゃうよ」
その目は嘲りと軽蔑を含んでいた。
「その恰好のまま、土下座をして女子に謝るんなら許してあげてもいいけど」
先輩、許しちゃうんだー、やさしい、と後輩の女子達から声が漏れた。
「当たり前だろ。そういうルールだからな」
浩は彩の目を挑戦的に見つめ返した。ここまではシナリオどおり……
浩の思惑を知らない彩は、若干不思議そうな表情を浮かべた。
「ルール変更は絶対しない約束だけど……今、みんなに心から謝罪するなら中止にしてもいいわよ」
あと1ポイントで全裸になってしまうのに、なぜそんなに余裕なのか……自分を馬鹿にしているのか……
「謝罪って、何をだよ?」
「女子のテニス姿をエッチな目で見て撮影したこと」
「断る。そんなつもりはないからね」
「……分かったわ。それなら容赦しないから。あと1ポイントで本当に裸になってもらうからね」
「あと1ポイント取られたらな」
だいたい想定どおりの言葉を引き出せたな……浩は二人の女子にちらりと視線を向けた。
「もう、絶対に許せなーい!」
「謝罪する気が全然ないんですね、滝沢さん!」
麻実と美里が声を上げた。
「こうなったら、裸になるまで、きっちりしてもらいましょうよ!」
「そうそう、裸になってもゲームを取られたら、1ゲームごとに裸でコート1周とか、土下座とかの罰ゲームも全部ね!」
そうよねえ、と周囲の女子達も同意した。
女子達の声が収まるのを待って、彩が浩を小さく睨みつけた。
「みんなもこう言ってるけど、本当にいいのね? 絶対に、決めたとおりにしてもらうからね。裸になっても1ゲーム取るまで続けるし、罰ゲームもしてもらうよ?」
(これだけ言えばさすがに謝るわよね。もうみんな、絶対許してくれないもんね)
彩は勝ち誇った目で浩の言葉を待った。
しかし、浩の目は挑戦的なままだった。
「言っておくけど、それはそっちも同じだからな。罰ゲームは相手の命令をなんでも言う通りにすること。女子だからって許してもらえると思うなよ」
うわ、まだ勝つつもりなんだー、と麻実が言って笑う声が響き、他の女子も続いた。
彩ももはや苦笑を浮かべるしかなかった。
「あはは、まだ勝つつもり? いいわよ、もし私がこれからゲームに負けて裸になったら、あなたの言うとおりなんでもするわよ」
今のポイントは40−0。あと1ポイントで終わりなので彩は余裕の表情だった。
「よし、滝沢頑張れ!」
「奇跡の逆転勝利、期待してるぞ!」
「若杉の罰ゲーム、どうしようか?」
「全裸でコート一周の後は……あれかな(笑)」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ」
「ばーか、絶対無理でしょ」
「どうせ滝沢さんが負けるのに、馬鹿みたい」
「滝沢さんの罰ゲーム、見たくないなあ(笑)」
「ま、しごかれるよりはこれで盛り上がってた方がいいか」
ギャラリーは思い思いのことを口にしながら、彩と浩のやりとりを眺めていた。
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