PART 3

 旅館が伊豆で一番と自慢する大露天風呂は、確かに大きくて、海が一望できる素晴らしい景色も堪能できた。そして、運良く他の女性客もおらず、三人はじっくりとその風情を堪能することができた。

 「あ、そろそろ時間ですよ。S物産との宴会に遅刻したりしたら、めちゃくちゃ叱られちゃう!」
綾子がそう言うと、三人は慌てて風呂を出た。

 しかし、そこでまたトラブルが発生した。

 「あれ、どうして?」
知佳は自分の着替えが入っている筈のカゴを見て声を上げた。
「私の服、どこにいっちゃったの・・・」
カゴの中には、なぜか下着だけが残っていた。

 しかし、三人で必死に探しても、知佳の服は出てこなかった。誰かが持ち去ったとしか思えなかった。

 バスタオルを巻きながら困惑する知佳に、恭子が浴衣を手渡した。
「麻倉先輩、取りあえずこれを着て、一旦部屋に戻ってください。そこで服を着て、宴会に出ないと。・・・私たちはもう少し探してみますから。それから先に会場に行って、事情を鈴原課長に話しておきますね。」
風呂から宴会場に直行するつもりだったので、二人ともかっちりとした服を着ていた。宴会に浴衣を着なくても良い約束は有効であることを鈴原課長に再度確認していたのだ。

 「わ、分かったわ、よろしくね・・・」
別館まで行って着替えて戻ってくるのを考えると、時間はもうぎりぎりだった。そんなことで後輩にフォローされるのは情けない・・・知佳は慌ててその浴衣を身にまとった。綾子と恭子が意味ありげな視線を交わしていることにはもちろん気付かない。

 そして、ようやくその浴衣を着た知佳は悲鳴をあげた。
「ちょっ、ちょっとこの浴衣、子供用じゃないの?」
その丈は太ももの半ばまでしか隠しておらず、湯に浸かってほんのりピンクになった脚の大半が露出していた。胸も強く引っ張って何とか乳房が隠れる状況だ。それはあまりにも破廉恥な格好だった。

 「確かに子供用ですけど、サイズはLなんですよ。まあ、先輩より15センチ低い子供用ですけど。・・・オッパイはしょうがないですよね、子供用なんだから。」
恭子は悪びれもせずにそう言ってから、知佳の格好を眺めた。
「確かに、ちょっとお色気があり過ぎかもですね(笑)」

 「も、もういいわ。ありがとう。」
何を言っても無駄と分かった知佳は、表面だけの感謝の言葉を言った。とにかく、早く部屋に戻るのよ・・・
「それじゃあ、後のこと、よろしくね。」

 知佳は風呂場から出ると、周囲に誰もいないのを確認しながら素早く歩いた。別館に行くためには、二階の渡り廊下を通らなければならないが、宴会場も二階だった。
(誰にも見つかりませんように・・・)
知佳は、急ぎ足で宴会場の前を通過しようとした。

 しかしその時、宴会場の扉が開いた。
「あ、知佳ちゃん見つけた。・・・綾子ちゃんと恭子ちゃんは?」
それは、営業部の同期の内山だった。早口でそう言いながら、知佳の方に寄ってきた。

 「あ、あの、二人は今お風呂場で、あの、私の服が見つからなくって・・・」
内山の剣幕に押され、知佳はどもりながら言った。
「あ、あの、私はちょっと部屋に戻って着替えないと・・・」

 「何言ってんの、知佳ちゃん!」
内山が焦ったそうに知佳の話を遮った。
「もうS物産の皆さんお揃いで、君たち3人だけいないんだよ! まずいよ、鈴原課長、カンカンだぞ。」
そう言って、知佳の腕を掴む。

 「え、だ、だけど、まだ5分前でしょ?・・・わ、私、着替えなくちゃ・・・お願い、離して・・・」
知佳はそう言ったが、男性社員の力には叶わず、引きずられるように宴会場に引き入れられた。


 「お待たせしました! 我が社一の美人社員で今回の企画の立案者の麻倉知佳さんですっ!」
内山はそう言いながら、知佳を部屋の中央に引き入れた。
「それでは麻倉さん、一言、お願いします!」

 広い部屋には、真ん中を大きく開けて囲むように料理と座布団が並べられていた。知佳は、その部屋の真ん中に立たされ、360度周囲から、浴衣を着て胡座を組んだ
男性に囲まれることになった。浴衣ちゃーん、ミニスカ浴衣、可愛いよ、とすかさずヤジが飛び、一気に場が盛り上がった。

 「え、あ、あの、M商事商品企画部の麻倉知佳です。・・・この度は、皆様のご協力のお陰で大ヒット商品を出すことができました・・・」
知佳は必死に無難な挨拶をしたが、ほとんどの男はその言葉を聞いていないのが分かった。子供サイズの浴衣で脚の大半を露わにした自分の身体に嫌らしい視線が注がれるのを感じ、知佳は恥辱に震えた。浴衣の裾を掴む手に力が入る。

 「大丈夫だよ、知佳ちゃん。その下の純白のパンティーと可愛いお尻、みんな嫌ってほど見てるんだから。」
そう言って、意地悪く知佳のパンチラゴルフが映った携帯端末を振りかざした。会場が爆笑に包まれる。

 知佳が何とか挨拶を終えたとき、やっと綾子と恭子が現れた。
「すみませーん、遅れちゃって。・・・あれ、麻倉先輩、なんでそんな浴衣で宴会に出てるんですかあ?」
「先輩、それじゃあショーツが見えちゃいますよお。」
ガードの固いパンツスーツ姿の二人が呆れたように言うと、会場は再び笑いに包まれた。あーあ、後輩に裏切られちゃって、知佳ちゃん、一人でお色気係だね、どうせなら浴衣も脱いじゃえば?、とヤジがどんどん過激になっていった。いつも知的な表情で鋭いプレゼンをしていた美人社員が痴態を晒し、恥辱に満ちた表情を見せるのが愉快で仕方なかった。

 そしていよいよ宴会が始まった。社長賞に相応しい豪華な料理と旨い酒に皆は舌鼓を打ち、大いに盛り上がった。

 そして、それ以上に皆を喜ばせたのは、知的で清楚な美人社員のお酌だった。長方形に並べられた席の中央に配された三人の女子社員は、四方に眼を配って皆のお猪口の酒が絶えないようにしなければならなかった。そして、立ち上がって客人を見下ろすことを禁じられたため、正座のままあちこちを移動しなければならなかった。少しでもバランスを崩すと、脚が崩れてパンチラを晒すことになり、その度に大きな歓声とシャッター音が響いた。

 そして、酒が進むに連れて男性達の欲望は更に露骨になり、皆が酌を知佳だけに要求し始めた。綾子と恭子は、知佳に徳利を渡す係と、次に誰に注ぐかを指示する係になっていた。
 男性社員達と二人の女子社員は連携して悪戯を始めていた。間を置かずに、わざと反対の移動距離が長い人に酌をさせ、知佳の浴衣を乱れさせたのだ。知佳が気にして直そうとしても、すぐにその両手に徳利を持たせ、正座で遠くの席への移動を強要する。気が付くと、もともと小さい子供用浴衣の前が大きく割れ、パンティの前が露出していた。そして、ピンクのブラも半分以上露出していた。
 なぜか前から連続するフラッシュに、ようやく自分の晒す痴態気付いた知佳は悲鳴を上げた。知佳はもはや、前から見るとほとんど下着だけの姿に帯を巻きつけただけの半裸だった。
 
 「い、いやあっ!」
あまりのことに知佳は徳利を落とし、必死に浴衣を抑えた。
「ひ、ひどい! も、もう嫌ですっ!」
もはや接待中ということも忘れ、髪を振り乱して知佳は叫んだ。

 「だからあ、今更隠しても遅いよ、ピンクのブラとパンティーの知佳ちゃん(笑)」
「ちなみに後ろからもピンクのパンティーとお尻がチラチラ見えてたよ。ぷりぷりのお尻を男の前で振り立てるなんて、実はスケベだね、知佳ちゃん!」
「いやあ、麻倉さんがこんなに身体を張って営業するなんて、見直しましたよ。その浴衣、普通の女は男の前で着れませんよ(笑)」
「ほんと、うちの営業部に来ませんか、麻倉さん? 裸踊りができる女の営業がいるって、紹介しましょうか(笑)」
S物産の男性社員にまで笑いものにされ、知佳の肩が小さく震えた。

 「まあまあ、そんなにいじめないでやってください。・・・こう見えても、麻倉先輩、男性に免疫が無いんですから。」
フォローする振りをしながら、綾子が知佳の秘密を暴露した。
「今まで付き合ったのは、大学生の時に一人だけで、キスまでしかいってないんですって。」
おおっというどよめきと、やめてえっ、という小さな悲鳴が響いた。


 「さて、それではそろそろ、ゴルフの表彰式に移りたいと思います。」
内山が頃合いを見計らって言った。さり気なく綾子と恭子に視線を送ると、二人とも小さく笑いながら頷いた。
 (ふふっ、ピンクコンパニオンを断らせた麻倉先輩が悪いんですよ。責任取って、自分でやってくださいね。)それは、知佳にとって更なる恥辱ショーの始まりでもあった。


次章へ 目次へ 前章へ


カウンター