PART 2

 そして、知佳の疑問は程なく解消された。そのバスはしばらく走ってから、S物産本社に入って行ったのだ。

 つまり、社内のイベントであるはずの社長賞の副賞の旅行が、S物産への接待旅行に変わっていたのだった。知佳がそのことに気付いた時はすでに遅く、S物産の社員に囲まれてしまっていた。

 バスはようやく高速のインターに乗り、伊豆への道を走り出した。しかし知佳の隣にはS物産の課長の薮川が座っていたため、知佳は愛想笑いを作りながら何かと気を使わなければならなかった。(男性社員へのサービスはしなくていい筈だったのに・・・接待させるなんてひどい)知佳が軽く睨むと、営業課長の鈴原は慌てて眼を逸らした。

 「いやあ、急に参加させていただくことになって、ごめんね、麻倉さん?」
知佳の思いには気付かず、元ミスK大の美人女子社員を横に座らせた薮川はすっかりご満悦だった。
「本当はこの旅行、社長賞の副賞なんでしょ? 君の企画、本当に素晴らしかったもんね。・・・今日は僕たちが乱入しちゃって、迷惑してるんじゃない?」

 「いえ、とんでもありません。S物産様が販路を提供して頂いたお陰ですから、大歓迎です。」
知佳は上品な笑みのままで言った。もちろん、鈴原への憤りは収まっていない。

 他の二人の女子社員がどうしてるか気になって振り返ったところ、二人はS物産の独身社員達と楽しくやっていた。(そう言えば、S物産の独身社員を狙ってるって言ってたわね、あの子達。まったく、どうして私だけ・・・)知佳は小さな溜息をついた。

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 そうして総勢20人を乗せたバスは、昼前に伊豆のゴルフ場に到着した。

 これも、知佳にとっては話が違っていた。初日は基本的には旅館に直行で、夕食までは自由に過ごして良いはずだった。それは営業部の新入社員の森下綾子と相内恭子にとっても同じだった。
「鈴原課長、ゴルフは自由参加でしたよね。私たち、何も準備してないからできませんよ。・・・先に旅館に行っててもいいですか?」

 「何言ってるんだ、そんなこと、お客様がいるのに許される訳無いだろう!」
バスの陰で3人は厳しく叱責された。
「・・・まあ、急な話で伝えていなかったのは悪かった。だけど、今朝手配をさせて、3人分のゴルフウェアとクラブを用意してもらってるから大丈夫。それに、時間も無いから、ハーフラウンドだけにするからさ。」
鈴原はそこまで言ってから声を落とし、両手を顔の前で合わせた。
「ほんと、悪いと思ってる、ごめんな。だけど、S物産さんへの接待は上からの命令なんだ。これからの販売拡大のために、S物産との関係維持が重要なことは、君らもよく分かってるだろ?」

 そこまで言われては仕方がなかった。鈴原課長も本当はのんびり旅行を楽しみたかったのに、仕事になってしまった接待を何とか無難にこなそうとしているに違いなかった。3人の女子社員は目を合わせて頷きあい、ゴルフの支度を始めることにした。

 (ゴルフかあ・・・難しいわね・・・)知佳は一人で少し悩んでいた。実は知佳は、父親の仕事の関係で英仏にいる時、小学校の頃からゴルフを家族で楽しんでいたのだった。高校入学時に日本に帰るまで、何度もコースに出た知佳は、普通のコースなら90打以下で回る程の実力があった。でも、藪川課長に勝ってしまったら問題だろうし、かといってわざと下手なふりをしているのが分かってもまずいし・・・

 しかし知佳の心が決まる間もなく、クラブハウスでトラブルが発生した。手違いがあり、女性用のゴルフウェアが2着しか用意されていなかったのだ。そして、ゴルフ場側が何とか追加で用意したのは、併設しているテニスコート用のテニスウェアだった。
「・・・仕方無いですね。誰がテニスウェアを着るか、アミダで決めません?」
恭子が携帯端末を操作し、アミダくじのソフトを起動した。

 そして、運悪くくじに外れたのは知佳だった。先輩、ごめんなさい、と二人の新入社員に申し訳なさそうな顔をされては、平気な顔で大丈夫よ、と言うしかない知佳だった。

 しかし、知佳はそのテニスウェアを着て愕然とすることになった。まず、ウェアは涼しくするためか生地が薄く、知佳の上半身に吸い付くように貼り付き、優美な乳房の膨らみを露わにしていた。また、うっすらと透けて、ブラのレースが見えてしまっていた。
 さらに、スコートは裾が短く、大胆に太ももを露出させていた。さらにその素材は軽く、少しの風でもひらひらと舞い上がりそうだった。そして最悪なことに、アンダースコートは用意されていなかった。
「こ、こんな格好でゴルフなんて、無理よ・・・」
いつも清楚で控え目な知佳は、自分の格好の大胆さに言葉を失っていた。それは、女子高生が着るなら健康的と言えるが、23歳の女性が着るとエロチックですらあった。

 しかし、隣で着替えていた二人の女子社員は知佳の悩みには気づかないように言った。
「えー、可愛いじゃないですかあ、すっごく!」
「いいじゃないですか、少しくらいサービスしたって。S物産の社員をゲットするチャンスなんだから。さ、早く行きましょ。」
そう言うと、二人はそれぞれ知佳の腕を掴んだ。


 そして、現れた知佳の姿を見て、男達は大喜びだった。いつもはパンツスーツ姿の知佳が、太ももをほとんど露わにする超ミニスカート姿なのだ。そして、ウェアは上半身のラインに沿っているため、美しい乳房の形が丸わかりだ。知佳が恥ずかしさに頬を真っ赤に染めているのがまた好もしく見えた。
「い、いやです・・・そ、そんなに見ないでください・・・」
知佳は身体中が熱くなるのを感じながら言った。これでスイングをしたら・・・スコートのすそをぎゅっと握り締める。
 
 そして運の悪いことに、知佳は最初のパーティーにされていた。一緒に回るのは、鈴原課長とS物産の薮川課長、水原係長の3人だった。もちろんそれは、一番の美人社員をゲストのトップにあてがっているのだ。3人の視線が知佳の胸と下半身にさりげなく注がれるのを感じ、知佳は気が遠くなるのを感じた。
(い、いや、そんなに見ないで・・・スコートがもし捲れたりしたら・・・)

 しかし、知佳の心配はあっさりと現実化することになった。ティーショットを打とうとして振りかぶった時に、さっと風が吹いて知佳のスコートをふわりと捲り上げたのだ。一瞬ではあるが、知佳の純白のパンティーに包まれた尻が露わになった。
「きゃあ、いやあっ」
知佳は思わずしゃがみ込んで尻を隠した。

 「おお、知佳ちゃん大胆! アンスコなしだったの!?」
「純白のパンティ、可愛いね! その透けブラとお揃いだね(笑)」
「いやだ先輩、アンスコ無いなら言えばいいのにいっ(笑)」
「まあいいじゃないですか、さ、早く打ってくださいよ、麻倉先輩!」
その瞬間、ギャラリーは一気に遠慮をなくし、憧れの美人社員をを露骨に嫌らしい目で見るようになった。しゃがみ込んでずり上がったスコートから覗く太ももを狙って、パシャパシャと、携帯端末のシャッター音が連続して響く。

 「どうした麻倉、こんなことで音を上げてたら、接待なんか勤まらないぞ。」
耳元で鈴原が囁き、知佳の肩を叩いた。
「少しでもゴルフに手を抜いたら、会社に居場所は無いと思え。転職しようとしても、先方から問い合わせが来たら、協調性皆無でクビにしたって伝えるからな。」

 結局、知佳は超ミニのテニスウェア姿でゴルフのハーフラウンドを回り、嫌というほどパンチラを晒して男たちの眼を愉しませることになった。海沿いのそのコースは下から吹き上げる風が多く、男たちに格好のシャッターチャンスを何度も提供した。こんな状況ではゴルフに集中できるはずもなかったが、それでも成績は中の上といったところだった。こんなゴルフ場から旅館に向かうバスの中では、さっそく缶ビールが空けられ、皆が自分で撮った知佳のパンチラ写真を見せ合い、どれが最も嫌らしいか批評し合った。自分の痴態を酒の肴にされ、知佳は怒りと恥ずかしさに顔を朱に染めていた。

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 しばらく走ったバスはようやく旅館「美月」に着いた。女将と仲居が整列し、恭しく一行を迎える。
「皆様、遠いところをよくいらっしゃいました。どうぞ、ゆっくりしていらしてください。」
上品そうなその若女将は、皆を見回しながら優雅にお辞儀をした。

 きれいな人・・・知佳がその女将に見とれていると、女将はその視線に気づいてにっこりと笑顔を返した。
「あら、とても美人な方もご一緒ですのね・・・お客様も、M商事様の社員の方?」
ほんの一瞬、警戒したような表情が浮かんだようにも見えた。

 「はい。とっても素敵な旅館ですね、今日はどうぞよろしくお願い致します。」
知佳は笑顔で挨拶を返した。(確かに、静かな雰囲気で素敵な旅館ね。どうせ来たんだから、楽しまなくっちゃ。)

 気が付くと、女将が鈴原のところに近づいているのが見えた。小声で囁きかける。
「鈴原さん、今日はコンパニオン、よろしいんですか?」
鈴原が小さく首を振る。
「あ、ああ、今日はいいんですよ。ごめんね、女将さん。」
女将が可愛く頬を膨らませる。
「あらあ、残念だわあ。・・・今日は社長賞のお祝いの旅行でしょう? ぱあっとやらなくていいんですか?」
 鈴原が苦笑しながら首を振った。
風向きの関係で、知佳にもその内容が聞こえた。(きっといやらしいコンパニオンの話だわ・・・いっつもここでの宴会には呼んでいたってことよね・・・)知佳は一見さわやかに見える鈴原と、営業部の社員達を軽蔑した。

 しかしその時、女将が何気なく見回し、知佳に視線を向けた。
「あら、今日はとっても美人の方がいらっしゃるのね、この方も社員?」
女将は笑顔のまま鈴原に言ったが、その口調は明らかに疑っていた。
「コンパニオンの連れ込みは禁止ですよ。」
冗談めかした口調で続けた。仲居達の視線も一斉に知佳に集中する。

 「嫌だなあ、女将さん、そんなことしませんよ、絶対。」
鈴原は顔の前で手を振って否定した。
「彼女ね、正真正銘のM商事の正社員ですよ。それどころか、商品企画部のエースなんだよ。」

 「へーえ、こんな美人の方が、ねえ・・・すごいわねえ・・・」
女将の顔にほんの一瞬、嫉妬の表情が浮かんだように見えた。しかし、次の瞬間には満面の笑みに変わる。
「あら、ごめんなさいね。あんまり美人の方だから、私、勘違いしちゃって・・・どうぞごゆっくりしていらしてくださいね。」
女将は知佳に向かって深く頭を下げた。


 時計は5時を回っていた。知佳達3人の女子社員は、男性社員達からの誘いの声を軽くあしらいながら、別館の女子社員用の部屋に駆け込んだ。
「ほんと、ひどいですよね、みんな。」
「あんなに鼻の下伸ばしちゃって、ほんと営業部の男って最低っ!」
綾子と恭子が憤っていた。
「いっそ、このまま帰っちゃいましょうか、麻倉さん?」
「そうですよ、女将さんと仲居さんもなんか感じ悪かったし。」

 「ちょっと待って。二人の気持ちは嬉しいけど、そんなことはできないわ・・・」
知佳は慌てて言った。S物産との関係で言えば、ウェアをきちんと準備できていなかったのは飽くまでもM商事の問題なのだ。
「さっきの写真は旅行が終わったら削除させるって鈴原課長も薮川課長も言ってたし・・・私は大丈夫よ。」
そう言いながらも、知佳はわざと見せられた自分の痴態写真を思い出して頬を真っ赤にしていた。パンティに包まれたお尻を捉えたショットや正面から股間の三角地帯を狙ったショット・・・どうしてすぐに削除させないのか・・・知佳は二人の課長を恨んでいた。まあ、ノリでやってることだから、旅行の間だけは我慢してくれ−−−それが、鈴原の説明だった。

 しかし、二人の女子社員は知佳のそんな思いには気付かず笑顔になった。
「へえ、麻倉さんて強いんですねえ。私、ますます尊敬しちゃいます。」
「それじゃあ、まだ宴会まで時間がありますから、お風呂に行きませんか? 今なら、大露天風呂が女性専用みたいですよ!」
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