PART 34b

 二人の言葉は正しかったが、ネットで生中継されているのに自ら秘部を晒すことはやはりできなかった。だいたい、秘部は隠しているとは言え、他は丸出しの全裸なのだ。ネット中継のディスプレイには白い乳房がはっきり映り、その頂点の乳首まで見られてしまっているのだ。麻衣子は頬が今にも燃えそうに真っ赤になり、全身がほんのりピンクに染まってきていた。うっすらと掻いた汗がライトの光を反射し、艶めかしさを醸し出していた。

 生活情報コーナーが終わると、次は西原瑶子がメインのスポーツコーナーだ。視聴率確保のため、人気者の麻衣子はサブで出ずっぱりだ。麻衣子は内心で恨めしく思ったが、必死に笑顔を浮かべた。

「はい、スポーツコーナーです!」
瑶子が元気よく言うと、隣の麻衣子の方に身体を向けた。
「あれ、本澤さん、少し暑いですか?」
目の前には、全裸で股間だけを隠している麻衣子がいるのだが、瑶子は平静な声で言った。台本には無いが、羞恥に頬を真っ赤にしている麻衣子に視聴者が気づくだろうから、あえてフォローしたのだ。

「ええ、すみません、ちょっと暑いですねえ」
せっかくのフォローだったが、麻衣子は気の利いた返事ができなかった。目の前に置いてあるディスプレイに映っている自分の全裸姿は、非情な現実を突きつけていたが、それに慣れることができなかった。私、全裸を生中継されなから、ニュース番組に出ている……この姿を何万人もの人が見ている……

"何万人じゃないよ、何百万人だよ、麻衣子ちゃん"
意地悪く「声」が指摘した。
"今はさ、マイチチ、が大評判だよ。形が良くって真っ白で可愛いってさ。それから、今はおっぱいがピンクになっててすごくエロいってさ! マイマンも早く見たいって!"

(ふざけないで!)
ネットで自分の裸が批評されていることを知らされ、麻衣子は足がカタカタと震え出すのを止められなかった。しかし、番組は進行中だ。隣では瑤子が高校野球の有望な選手の紹介をしていて、麻衣子に話を振ってきていた。

「そうですね、空振りするときも、思い切ったスイングで、気持ちいいですよねえ!」
麻衣子はにこりと笑顔を浮かべてそう返したが、両手は相変わらず、股間の前に置かれたままだった。6時半からの放送時は、ここで麻衣子は両手でバットを振る仕草をしていて、本当なら今回もそうするはずだった。しかし、ネットの生中継で何百万人もが注視していると思うと、とても自ら秘部を晒すことはできなかった。

『麻衣子ちゃん、それじゃあ不自然だろ! いいじゃないか、ネットで裸が流れても! 仮想脱衣のコラだって言えばいいんだから!』
インカムから、有川の苛立った声が聞こえてきた。
『それから、顔が赤すぎるぞ。裸なんて気にしないで、いつもどおりに!』

 放送映像が有望高校生の取材映像に切り替わった。麻衣子は相変わらず、両手で股間を隠す姿勢で立ち尽くしていた。瑤子がところどころで映像にコメントを加え、麻衣子もそれに相槌を打つような形で放送が続いた。

"あのさ、これじゃあちょっと約束が違うよね?"
「声」が麻衣子の脳内に聞こえた。
"すっぽんぽんで放送するってことは、ここも隠しちゃいけないってことだよね?" 

 その瞬間、ぽんぽんと指で手の甲を叩かれたような感じがして、麻衣子ははっとした表情を浮かべた。そうだ、「声」には微弱だけど、物理的な超能力もあったんだ。手を無理やり引き剥がされたら……

"大丈夫だよ、麻衣子ちゃん。残念ながらそんな能力は僕には無いから"
麻衣子の思考にすぐ「声」が反応した。
"それに、もしできる能力があっても、そんな乱暴なことはしないよ。僕は麻衣子ちゃんと仲良くしたいんだから。ほら、この手を外して、全国の何百万人の男達に見せてあげなよ、麻衣子ちゃんの薄めの毛が生えているとこ"

 ……もちろん、麻衣子は「声」の要請に従うことはできず、軽くお辞儀をしたような格好のまま、番組は続いていった。いつもははつらつとした麻衣子の表情は引きつり、コメントも何度か噛んでしまった。有川の叱る声が聞こえたが、麻衣子はとにかく番組が終わるまでこれ以上の痴態を晒さないことだけを考えていた。「声」が意地悪く、ネットでの自分の乳房を批評しているコメントを無理やり聞かせてくるのも辛かった。


 ようやくスポーツコーナーが終わったが、次は麻衣子がメインの「週末ひとり旅」のコーナーだった。あと15分、裸の姿をネットで全国に生中継されなければいけない……もし手を外したら、秘部までが公開されてしまう……麻衣子は気が遠くなるのを感じながら、何とか笑顔を浮かべた。

「はい、『週末ひとり旅』です! 今回は、軽井沢に、っ……」
麻衣子はセリフを途中まで口にしたところで、一瞬、絶句した。

 何かが左の乳首にそっと触れたのだ。指の腹で、乳首の先端を軽く押さえて、転がすような感覚……ぞくぞくっと淫靡な快感が湧いてきた。

(!!……やめて、お願い!)
「声」の仕業であることは明らかだった。ほんの少しの力しか持っていないが、それでも麻衣子の性感を責めるには十分であることは、以前の経験で思い知らされていた。彼はさらに、性感を10倍に高めることもできるのだ。そんなことをされたら……全裸で絶頂に達する姿をネットで生中継されてしまう……

「軽井沢で、素敵な裏道の商店街を散歩しました。また……」
生放送のニュースなので、絶対に進行を止めることはできない。麻衣子は乳首をコリコリと責められる快感に耐え、必死に言葉を続けた。あと少しで取材映像に切り替わるんだから……顔に出しちゃ駄目……

"やめてほしいなら手でどければ?"
「声」が軽い口調で言った。
"みんな、真っ白でエロいおっぱいもいいけど、早く下も見たいってさ"
その言葉と同時に、別の「指」が首筋をすうっと撫でた。
"ここも感じるでしょ? ていうか、麻衣子ちゃんの身体は性感帯ばっかりだから、じっくり感じさせてあげようか? いやなら手でどけてくれればいいよ"
次の瞬間、首筋を触っていた「指」は一瞬で移動し、お尻の溝を下からすうっと撫で上げた。もう一本の「指」は相変わらず乳首を転がし続けていた。

(ひいいっ!)
 これには麻衣子もたまらず、直立した身体を前後にびくびくっと震わせてしまった。
「……っ……また、馬術大会にも少しお邪魔、して、きま、した……っ……どうぞ、ごら、ご覧、ください……」
もはや麻衣子の頬は今にも燃えそうなほどに真っ赤になっていた。声もうわずり、何度も途切れてしまった。それでも、手は股間を庇ったまま離さず、最後まで話しきったのは、麻衣子のせめてもの意地だった。

 しかし、ネット生中継されていた麻衣子の映像は、本人の想像よりも遥かに淫靡なものになっていた。本物の朝のニュース番組で、美人で清楚な女子アナが全裸になり、澄まし顔で話しているだけでも垂涎ものなのに、恥ずかしくては仕方がないといった表情で、全身をピンクに染めて悶えているのだ。ネットの掲示板では、「声」が麻衣子に伝えられないような過激な言葉で、その痴態を堪能して盛り上がっていた。

 放送画面が取材映像に切り替わると、麻衣子は目の前のスタッフ達を見て一瞬ためらったが、軽く目を閉じて覚悟を決めると、両手を股間から離した。すかさず、男性スタッフ達の突き刺さるような視線が秘部に集中するのを感じたが、右手で左の乳房の上を払い、左手でお尻の後ろを払った。すると、「指」の気配はすっと消えた。

「……こちらが、最近話題の軽井沢の裏通りです。とってもいいお天気でした……」
麻衣子は取材映像を見ながら、コメントを重ねた。ここは麻衣子がメインのコーナーなので、ところどころでコメントを挟まなければならなかった。

 しゃべりながら、ネット生中継でも取材映像が流れていることを確認した麻衣子は少しだけほっとした。あと2分は大丈夫……

 ただ、少しでも手が股間を隠すと、すかさず「指」がお尻や乳房にいたずらをしてくるので、麻衣子は手で振り払い続けなければならなかった。

 それは、有川達スタッフから見ると、あまりに奇妙な光景だった。そして、今までの経験から、麻衣子に何が起きているかを徐々に悟っていた。皆の前に全裸で立たされ、困惑した表情で身体にまとわりつくいたずらの手を払い、乳房も恥毛も視姦されるに任せたまま、しっかりと映像にコメントしなければならない……麻衣子が裸を晒して羞恥に悶える様子は、何度見てもスタッフの男たちを興奮させていた。

『ネット生中継でアソコを見せないから、あいつに触られてるんだな? 逆らわずに見せちゃいな』
インカムから、有川の信じがたい言葉が聞こえた。
『それより、悶えた顔見せてる方が、仮想脱衣システムを疑われるだろ?』

(無理です、そんなの!)
 麻衣子がちらりと有川を見て、視線で訴えた。有川の言うことにも一理はあったが、若い女性にとって、秘部を全国に生中継されるなど想像できなかった。
「あ、こちらのお店、内装がアンティークでとても可愛いですよね。あんみつがとてもおいしかったんですよ……」

 取材映像は半ばを過ぎ、馬術大会を麻衣子が取材する様子が映し出されていた。出場選手達の映像、麻衣子の大学の後輩たちとの交流などの後、麻衣子が急遽、大会の最初に模範演技を行うことになり、赤い乗馬服でさっそうと障害を飛び越える様子が放送された。ところどころで栗山が感嘆した声を上げ、麻衣子の乗馬姿を褒めた。麻衣子は照れながら、久しぶりの乗馬がとても気持ちよかったことを話した……

 それは、内容的には土曜の朝にふさわしい、爽やかな女子アナの取材映像だった。しかしスタジオでは、凛々しい乗馬姿がスクリーンにアップで映し出されている隣で、その本人が全裸で立ち、平静を装ってコメントをしているという、極めて非日常的な光景が展開されていた。しかも、「指」によるいたずらは間断なく続き、麻衣子は乳房やお尻、秘部を手で払い続けなければならなかった。
「指」は目に見えないため、次にどこを触られるか見当がつかず、それはまるで、目隠しで全身をいたずらされているような感覚を麻衣子にもたらした。いきなり尻の穴に指を当てられ少し埋め込まれたり、乳首の周囲を円を描くように指が撫でたり、クリトリスを突かれたり……麻衣子はその度に目を見開き、唇を半開きにして悶え、必死に手で振り払った……お願い、もうやめて、と内心で「声」に必死に呼びかけたが、いたずらが止むことはなかった。

 途中までは平静を保てていた麻衣子のコメントも、途中からは引っかかったり、少し絶句したり、言い間違いをするようになっていた。少し、喘ぎ声のような溜息を加わってしまった。乳首、尻、秘部、首筋、おへそ、耳、背中、脇腹、太もも……あらゆる部分をさわさわと刺激されては、麻衣子が感じてしまうのも無理はなかった。

 それでも致命的な失敗をすることはなく、ようやく2分間の取材映像が終わろうとしていた。しかしそれは、放送映像がスタジオに切り替わるということでもあった。

「……はい、以上、軽井沢のレポートになります」
(お願い、もう辞めて!)
乳首を執拗に触っていた「指」を払いながら、麻衣子は必死に呼びかけていた。もう、カメラが切り替わってしまう。
(お願い、何でもするから、スタジオが映っている時に、こんな風にいじめるのは、やめてください……)

"何でもしてくれるの? それじゃあ、手を上げて、アソコをネットで全国公開してくれる?"
「声」が脳内に聞こえた。2つの「指」がぴんと左右の乳首同時に弾いた。


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