PART 37b

 二十数人がいる会議室は、誰一人言葉を発することもなく静まり返っていた。時々、衣擦れの音だけが響いていた。

 二分弱で、コの字型のテーブルに囲まれたステージの上の女性は、全ての衣服を脱ぎ去り、左右の手で乳房と股間を隠していた。しかし、尻は後方に座っている男たちに向けて丸出しだった。

 コホン、という有川の咳払いが響いた。手をどけて全部見せろ、という意味なのは明らかだった。先ほど麻衣子が脱衣をためらった時には、『君の裸なんてここにいる皆は見飽きてるんだから恥ずかしがるな』、とも言っていたのだ。

 ここでためらっていても羞恥の時間が長引くだけだ……麻衣子は自分にそう言い聞かせ、両手を身体から離した。露わになった双乳や股間に男たちの視線が突き刺さるのを感じ、全身がかあっと熱くなった。こんなこと、慣れるなんて無理よ……

「ほら、笑顔がないよ、麻衣子ちゃん! 顔真っ赤だし、それじゃあ視聴者に怪しまれるだろ?」
有川は両手を頭の後ろに組んで、テーブルの上に立つ全裸の麻衣子を見上げた。
「もっとリラックスして! カメラを見ながら、最初の挨拶を言ってみろ! 本当に放送してるつもりでな」

 次回の放送では完璧に演技をして、絶対に視聴者に見抜かれないこと……それが、上層部からの絶対命令であり、今はその訓練の場だった。だから、有川の指示はしごくもっともなのだが、訓練の内容が23歳の女性にとってあまりに辛いのも事実だった。

 麻衣子が恥辱を堪えて笑顔を作り、口を開こうとした時、突然目の前の壁面モニターが点灯し、麻衣子の裸身が映し出された。自分の乳房や恥毛がまともに映し出され、麻衣子の笑顔が一瞬、歪んだ。すかさず、有川の咳払いが響いた。

(ひどい、ネット中継のモニターを見せられながらでも動揺するなというのは、分かるけど……)
「6時半になりました。おはようニュースの時間です! ひっ!」
朝のニュースの最初の挨拶を口にした麻衣子は、最後に悲鳴を漏らしてしまった。目の前の大画面モニターが突然2分割になり、右側には今の自分の全裸姿、左側には2ヶ月前の放送時の自分の全身像が映し出されていたのだ。2ヶ月前の自分は、清楚なワンピースに身を包み、とびきりの笑顔で番組終了最初の挨拶をしていた。

 それも有川の指示だった。すなわち、羞恥放送の前の自分と同じ表情、同じ声のトーンで挨拶できるまで、全裸挨拶を続けさせるというものだった。さらに、顔が赤いことや脚が震えていることまで指摘され、麻衣子は全裸での挨拶を十回もしなければならなかった。

「まあ、そんなもんでいいだろう……少しは慣れたか、全裸放送に?」
有川は腕組みをして椅子に仰け反り、テーブルの上に立っている麻衣子を見上げた。そうすると麻衣子の裸の股間がまともに眼に入る。薄い恥毛から秘裂が透けて見えていた。
「今まで何回もやってるんだから、そんなに恥ずかしがるな。ネットで生中継されたって、コラだって言い切ればいいんだから平気だろ?」

「……は、はい……」
裸をネットで生中継されて平気のはずがないじゃない、と言いたかったが、今の麻衣子は有川に逆らうことはできなかった。有川はあくまでも味方であり、麻衣子が公共放送で痴態を晒さないように特訓してくれているのだ……有川の見上げる視線の先にちょうど自分の股間がある。そんなに見ないで……
「あの、この映像は本当に……」

「大丈夫、今回は絶対に流出することはないよ」
有川は腕組みしながら言った。
「それよりも、次、行こうか。今度はそこに座って……おい、あれを持ってこい」

 有川に指示されたスタッフがすかさず、シェービングジェルフォームとカミソリなどの剃毛用のセットを用意し、麻衣子が立っているテーブルの脇に置いた。

「女性用のジェルフォームだから、肌にも優しいそうだ。それから、横向きに剃ると、ある程度根元から剃れて、炎症を起こしにくいらしいぞ。その後のケアも考えてあるから、安心して剃ってくれ」
全裸で立ち尽くす麻衣子を見上げながら、有川は淡々と言った。
「それじゃあそこに座って、実況しながら剃ってくれ。そっちのカメラに身体の正面を向けてな。照明も、ばっちり当てるからな」

「え、そんな……」
あまりの準備の良さに、麻衣子は呆然とした。つまり、この打合わせの前から、自分の秘部の毛を剃ることは決定していて、道具まで用意していたのだ。みんな、私が裸になって、そんな恥ずかしいショーをすることを知っていたということ?……そんな、ひどい……

 照明までしっかりと当てられ、麻衣子はさすがにためらった。しかし結局、有川に叱られ、なだめすかされ、衆人環視での剃毛ショーの開始を宣言せざるを得なかった。正面にはカメラ、両サイドから照明、眼前の壁面モニターには自分の全裸姿の中継映像、周囲には20人以上の男性スタッフ……麻衣子は目の前がぼうっとしてくるのを感じながら、口を開いた。
「……N放送アナウンサーの、本澤麻衣子、です……それでは、始めての剃毛を、ご覧ください……」

 N放送きっての美人アナウンサーは、それから20分間、恥辱に塗れることになった。剃毛するためには、テーブルの上に座って膝を立て、両脚を思い切り開かなければならなかった。それはすなわち、テレビカメラに向けてぱっくりとM字開脚姿を晒すということであり、さらにその映像は、目の前の大画面モニターにくっきりと映し出されていた。

 顔を真っ赤にして、脚をガクガク震わせた麻衣子に対し、有川は容赦なく叱咤を浴びせ、いつものにっこり笑顔でカメラに向けて挨拶をすることを強要した。それくらいできなくて、次回の放送は絶対に大丈夫と幹部に約束できるのか、というのが有川の決まり文句だった。

 局内の会議室で、同僚の男性スタッフに囲まれる中、素っ裸でM字開脚を晒し、引きつった笑顔を浮かべ、自らシェービングジェルフォームを股間に塗り、カミソリで恥毛を剃り落としてく23歳の美女……それは、あまりにも卑猥で、刺激的な光景だった。しかも、照明がしっかりと股間や顔に当てられ、2台のカメラが容赦なくその姿を捉え、目の前の大画面モニターに映し出していた。

 モニター画面は2分割され、左側には、全裸で剃毛をする麻衣子の全身が映り、右側には、秘部の部分のアップが映っていた。特に、その右側の画面は卑猥だった。開ききった股間に白いクリームが塗られ、最初はクリームの間から黒い恥毛が覗いていたが、剃っていくにつれ白い恥丘が現れ、さらに、あまりの羞恥に溢れ出してきた愛液がクリームと混じるようになった。クリトリス周辺を剃るときには、ついそこに触れてしまい、電流が流れたように身体をびくっと震わせ、じゅわっと愛液が溢れ出してくる……麻衣子は眉間に皺を寄せ、眼を堅く瞑り、唇を噛みしめ、顔を仰け反らせ、か細い喘ぎ声を漏らした……有川を含む、スタッフの男たちの誰もが、麻衣子の美しく淫らな姿に釘付けになっていた。

「……はい、こうしてクリームを取りまして……本澤麻衣子、剃毛完了しました!」
有川に指示されたセリフを口にすると、麻衣子はカメラに向かって笑顔を作ったが、どうしてもひくついてしまい、何度もやり直しを命じられた。目の前のモニターには、無毛になった秘部がアップで鮮明に映っていた。そして、その秘裂からは、次から次へと愛液が溢れ出し、糸を引きながらテーブルに垂れていた……

 清楚な女子アナウンサーの全裸M字開脚剃毛ショーをじっくり堪能すると、有川は携帯端末を取り出し、通話を開始した。
「……あ、N件の水野さんですか? 今、本澤アナの剃毛が完了しましたので、動画データをお送りします。……はい、仮想着衣システムへの反映、よろしくお願いします」

「あの、動画データって……」
有川の通話が終わると、麻衣子は恐る恐る尋ねた。絶対に流出させないって言っていたけど……テーブルの上に横座りになった麻衣子は、両腕で胸と股間を庇っていた。

「ああ、もちろん今のストリップから毛を全部剃るまでの全部の動画を、N研のスタッフに送るんだよ。当たり前だろう、君の全身の正確なデータが無いと、完璧な仮想着衣システムが作れないんだから。恥ずかしがるときの表情や、あそこの濡れ方も貴重なデータだからできるだけたくさん欲しいそうだ。幹部の直オーダーなんだから、N研も絶対に失敗ができないんだぞ……まあ、10人位しか見ないだろうから、気にするな」
有川はあっさり言うと、麻衣子の全身を見回した。
「それにしても、身体中がピンクに染まってるな。そんなに恥ずかしいのか?」

「……は、はい、すみません……」
そんなことでは次回の全裸放送で失敗してしまうという意味なのを察し、麻衣子は謝った。しかし、大勢の男性の前で全裸にされ、性器の周りの毛を剃る姿まで見世物のようにさせられて、恥ずかしくないわけが無いではないか……麻衣子はそう言いたいのをぐっとこらえた。ふと周囲を見ると、スタッフの男性達の食い入るような視線が視界に入り、麻衣子は身体を隠す両腕にぎゅっと力を込めた。

「まあいいや。まだまだ、見られることに慣れる必要があるな……」
有川はそう言うと、腕時計にちらりと視線を落とした。
「それじゃあそろそろ、次だな……麻衣子ちゃん、そこで、オナニーショー、してもらおうか?」

「……え?」
麻衣子の表情が固まった。前回の放送のように、番組中に快感に悶えて不用意な動きをしたり、喘ぎ声を漏らすことはしないように……先ほど、そう指示されたのは覚えていたが、それがまさか……

「だから、前回の放送で奴にされたことを、今この場で自分でやってみて、今後はそれくらいで声が上ずったり、とちったりしないようにする訓練ってことだよ。ま、結局それって、ここでオナニーショーをするってことだろ?」
有川がそう言って、麻衣子の顔を見つめた。
「まあ、イかなくてもいいけどな。寸止めだったんだろ? 2台のカメラでしっかり録画してやるから、本番の放送中のつもりで本気でやれよ。もちろん、ニュース原稿を読みながらだぞ」


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