part 1
菜穂子 PART1
ゴールデンウイークの軽井沢。フォーシーズンテニスサークルは貸別荘を借り、3泊4日の新入生歓迎合宿を行っていた。このサークルは東京の有名私大であるK大のサークルであり、男子は3、4年生、女子は1、2年生を中心に構成されている。この合宿には各学年7〜8人ずつ参加していた。
新入生歓迎合宿であるから、普通であれば可愛い1年生を男子がちやほやするものだが、今回は様子が違っていた。2年生の高井菜穂子が人気を独り占めにしているのである。
菜穂子はアイドル並の顔立ちで、大学のミスコンに出れば優勝間違いなしと言われているほどである。サークルで作っているホームページにも彼女だけ個人的なコーナーが作られており、ホームページで見た彼女を気に入って入会した男子も多い。また、それにも関わらず控えめな性格であり、男子からの誘いは絶えないが入学以来特定の相手を作ったことはない。しかし、愛想は良いので男子は皆、なんとかして自分がつき合いたいと必死なのであった。
さらに、テニスも中学生時代から行っているため上手く、フォームも華麗であり、去年の大学内トーナメントでも同じサークルの者が1,2回戦で負けていく中一人ベスト4まで勝ち進んだ。そのため、1年生の女子にも彼女のファンが多い。
しかし、今回の合宿参加者の中には、そのような菜穂子を快く思わない者たちもいた・・・
1日目の練習が午後から始まり、3時の中休みの後。
「じゃあ、これから模範試合を見せてもらおう。今度女子のリーダーになる高井とサブリーダーになる木田、頼む。」
と、チーフの田宮俊之が言った。木田佳子は去年のトーナメントで3回戦まで進んでおり、サークル内では強い方である。しかし、外見はもう一つなので、彼氏はいない。
「菜穂子ちゃんに勝てる訳ないじゃない。あ〜あ」
と言いながら、佳子がコートに向かい始めたとき、
「私たちもやらせて下さぁい!」
と2人の声が響いた。1年生の中山真理と西村恭子である。ともに元気でそこそこ可愛いタイプなので、他のサークルに入っていれば男子が放っておかなかっただろう。ただ、二人はテニスよりも男子目当てで入ったらしく、入会以来、飲み会には多く参加しているが、練習に参加したことはほとんど無かった。
俊之は少し迷ってから言った。
「いいだろう。では2年と1年で組んでダブルスにしよう。ただし、あくまでも模範試合だから、真剣にやってもらう。そこで、一つ条件がある。」
「条件って何ですかぁ?」
2人の1年生が無邪気に尋ねる。
「ゲームを取られたペアのうち、責任が重かった方に1枚ずつ服を脱いでもらおう。どちらの責任が重かったかは、ギャラリーのみんなに決めてもらう。その代わりゲームを取ったペアは2人とも1枚服を着ることができる。」
俊之がきっぱり言った。
「そんなぁ〜。それじゃあたしたち1年生が脱がされるに決まってるじゃないですかぁ。」
急に怯えた1年生2人が抵抗する。しかし、無責任なギャラリー、特に男子は思いがけない展開に大喜びだ。
「甘えるな! ゲームを取ればいいんだ。それにお互いがんばってシーソーゲームになればほとんど脱がないですむじゃないか。」
チーフらしく威厳をこめて俊之が言うと、さっきまで元気だった1年生も抵抗できなくなった。また、ギャラリーも今さらやめることは許さない雰囲気になっていた。
ペアは菜穂子と真理、佳子と恭子が組むことに決まった。菜穂子は思いがけない展開に驚き、また、下品な提案をした俊之と無責任なギャラリーに内心怒りつつも、(できるだけ佳子さんたちにもゲームを取らせてあげて、恥ずかしい思いをさせないようにしてあげなくちゃ)と考えていた。
そのような配慮が必要であるほど、菜穂子と佳子の実力差は大きかった。1年生の真理と恭子の実力はよく分からないが、所詮はどんぐりの背比べだろうから、もし菜穂子が本気を出せば6−0で勝ってしまいかねず、その場合恭子がギャラリーの期待どおりの姿になってしまうことは明白であった。
しかし、その時。恭子は表面的な怯えの表情と裏腹に、内心ではこれから起こることを想像して笑みを殺すのに必死であった・・・
「6ゲームマッチ、プレイ!」
コートに俊之の声が響き、ゲームが始まった。最初は恭子のサーブだ。
恭子はサーブだけは何とか入れることができる、という程度であった。が、ゲームの方は予想外にもつれた。デュースサイドの真理が必ずレシーブをミスするのだ。アドサイドの菜穂子がリターンエースを連発してなんとか追いつくという展開が続き、ジュースが2回も続いていた。
「先輩、本当にごめんなさい」
と何度も真理が申し訳なさそうに謝るので怒るわけには行かないが、正直、菜穂子も疲れてきていた。(これじゃ、私が気を使わなくてももつれそうね) そう思いつつ打ったレシーブに恭子のラケットがまぐれで当たった。
ひょろっと上がったおあつらえ向きボールを菜穂子がスマッシュしようとしたその時、
「私、打ちます!」
と言って横から真理が割り込んできた。
(何するの!)と菜穂子は内心舌打ちしたが、そのまま真理がスマッシュしてしまった。案の定、ボールは大きくコートを越えていった。
「ゲーム!」
俊之の声がひときわ大きく響く。
「先輩、ごめんなさい。今度こそは役に立てると思ったのに・・・」
と真理が泣きそうになりながら謝る。
そんな真理を見て、菜穂子は(真理ちゃんも悪気があった訳じゃないんだし。何とかこの子があまり脱がされないようにがんばらなくちゃ)を気を取り直していた。
「さて、ギャラリーの皆さん、今のゲームで責任が大きいのは菜穂子ちゃんと真理ちゃんのどちらでしょう」
俊之がギャラリーに尋ねる。
すると、返ってきたのは菜穂子にとってあまりに意外な答えであった。
「菜穂子がもっと真理をリラックスさせてやれば良かった。」
「菜穂子ちゃんが最後のスマッシュを打つべきだったのよ。」
「リターンエースばかりじゃなくて、真理にも決めさせてやればリズムに乗れたかもしれないのに」
ギャラリーの声は男女を問わず、一様に責任は菜穂子にあると言っていた。
そんな、馬鹿な・・・と菜穂子は唖然とする。(ミスをしたのはみんな真理ちゃんじゃない。どうして私が?)
しかし、俊之は非情にも、
「では、菜穂子。約束どおり1枚脱いでもらおう。」
と告げた。
次章へ
目次へ