PART 6

 「はい、どうぞ」
(お願い、許して)祈るような気持ちで理絵は真奈美を指名した。

 「あの、ブラジルの地図を出して欲しいんですけど、」
そう言って、真奈美は一旦言葉を切った。理絵は仕方なく左手をジャケットの裾から話して、OHPを入れ替える。ブラジルの地図がスクリーンに映し出されたのを見た真奈美は続けた。
「先ほどお話があったミリンガという都市はどこでしょうか?」

 何だ、そんなことか、と理絵は安心した。
「はい、こちらの地図の左上になります。」
それでいいんですよね、という目で真奈美の同意を求める。

 しかし、真奈美はそれでは許さなかった。
「ちょっと分かりにくいので、申し訳ないのですが、指で指して頂けませんか? あ、ブラジルの全体図は出したままでお願いします。」
澄ました声でそう言った。OHPの角度を変えて、ミリンガの位置を低くするという対策も封じた。

 「え・・・えーと、あちらです」
指し棒が無いので、理絵はスクリーンの左上を指で指した。方向はこれで分かる筈だ。

 「ごめんなさい、はっきりと指で押さえてもらえます?」
真奈美はたたみかけるように言った。

 「加藤君、ぐずぐずしてると時間になるぞ、中途半端で終わったりしたら、君の業務遂行能力には重大な疑問を持たざるを得ないな。時間すら守れないようでは、係長失格どころでは済まないぞ。」
伊東が理絵の機先を制するように言った。

 「は、はい・・・」
理絵は右手でジャケットの裾を必死に庇いながら、背伸びをした。左手を伸ばして、何とかミリンガを押さえることができた。
「これでよろしいですか?」

 そういう理絵は、さっきよりも恥ずかしい格好を強いられていた。体の正面を研修生達に向け、思い切り背伸びをし、左手は高く上げている。そして、右手は必死にジャケットを押さえているが、背伸びをしているので、その裾の位置はさっきよりも5センチ程上がっていた。もはや、パンティの一番下、つまり股間の部分がちらちら見えてしまっていた。

 パンティが見えていることは理絵には分からない。しかし、太股に感じる空気の流れと、男達の熱っぽい視線が、自分の取らされている恥ずかしい格好を嫌と言うほど思い知らせていた。(真奈美さん、早く答えて!)理絵は、訴えるように真奈美を見た。

 「あの、ミリンガを指したまま、ベメルも指して下さい。」
真奈美は意地悪な笑いを理絵に返した。ベメルは左下の街だ。

 「え、そ、そんな・・・」
ひどい!と思った理絵は絶句した。このまま右手を離したら、ジャケットの裾が跳ね上がるのは間違いない。それでは、パンティが丸見えだ。(そ、そんなの、あんまりよ・・・)さすがの理絵も泣きたくなった。

 「ゴホッ、ゴホホッ!」
わざとらしい咳払いが響いた。伊東だ。明らかにいらいらした表情で理絵を促していた。(教官として、こんなこと許していいんですか!)理絵はそう言いたかったが、今の生殺与奪を握られていることを思うと、それも許されない。

 (大友係長・・・)僅かな救いの可能性を求めて大友を見たが、やれ、と言った視線で見返すだけだ。内心は理絵のパンティが見られると思って喜んでいるに違いなかった。もっともそれは大友だけではなく、この場にいる全員が理絵の恥辱を喜んで見ていることも雰囲気から察せられた。

 理絵はうなだれ、ゆっくりと右手をジャケットから離した。途端に裾が跳ね上がり、白いパンティの大部分が露出した。理絵は舌を噛んで羞恥に耐え、右手でベメルを指指した。
「これでよろしいですか?」
必死でにっこりした笑いを浮かべたが、その脚はカタカタと小さく震えていた。

 しかし、それも無理も無かった。今まで、ちやほやされて育ってきた、挫折を味わったことの無いお嬢様が、若い女性としてこの上ない屈辱を味わわされているのだ。会社の研修中にパンティだけの下半身を晒したまま、隠すことも許されない・・・両脚をぴっちりと合わせているのがいじらしかった。(お願い、もう許して・・・)あまりの羞恥に理絵は目の前がぼうっとしてきた。

 「ありがとうございます。ベメルは分かったので、最後にマルメをお願いします。あ、ミリンガとの位置関係も確認したいので、ミリンガはそのままで。」
(どう、恥ずかしい? エリートさんも大変ねぇ)真奈美はまたもやにっこりと笑った。

 それはまるで、『ツイスター』だった。マルメは右端の上なので、右手をそこに届かせるためには、今かっちりと閉じている脚を大きく開かざるを得ない。パンティを穿いているとは言え、大股開きの姿を男達の前で晒せ、というのは清純な理絵にとってあまりにも残酷な命令だった。しかも今日は夜の酒場ではない、れっきとした勤務中なのだ。

 「はい・・・」
抵抗を許されない理絵は、右手をベメルから離し、研修生達に背を向け、脚を少しずつ開いていった。そこで、右手を伸ばしたが、マルメにはあと20センチほど届かない。やむなく理絵は、さらに脚を拡げた。背伸びをしているので、これ以上開けない、というぎりぎりのところでやっと右手がマルメに届いた。
「これで、よろしいですね?」

 理絵の格好は、スクリーンに貼り付いた大きなカエルのようだった。今度は背を見せているので、パンティに包まれた尻が丸見えだ。大股開きしたおかげで、パンティはすっかり露出している。引き締まったウエストから急激に膨らんでいく曲線があまりにも嫌らしかった。理絵は後ろを向いているので、男達はそのちょうど良く熟した色気たっぷりの尻をじっくり観察することができた。中でも、入社当時から理絵に一目惚れしていた小山は夢見心地だった。

 伊東が真奈美に眼で合図をすると、真奈美が仕上げに入った。
「では、そのままミリンガとベメルの民族構成の相違点と類似点を説明して下さい。」
周りの男達にいたずらっぽい視線を振りまきながらそう言った。男達も理絵のパンティ丸出しショーを演出してくれた真奈美に笑顔を返した。

 「え、えーと、まず類似点ですが、・・・」
とにかくこれが最後だ。理絵は少し早口に説明を始めた。

 男達と洋子、真奈美は、恥ずかしい格好を強制されたまま、もっともらしく説明をする理絵の恥辱をじっくりと堪能した。そして、話の半分ほどが終わったところで、伊東が割り込んで言った。
「おいおい、加藤君、それじゃ、良く聞こえないよ。大体、お客さんに尻を向けて説明するなんて、君、どういう神経してんの。それでも本社営業部の係長になるつもり?」

 それなら初めから言ってくれればいいじゃない・・・理絵はそう思いながらも、
「はい、申し訳ございません。」
と言って正面を向いた。さりげなく前を隠すことを忘れない。(あと少しよ、頑張るのよ、理絵)と自分を励ます。

 しかし、その30秒後、理絵は想像以上の羞恥に息を呑んでいた。今度は大股開きのパンティ姿を正面から晒さなければならなくなった。しかも両手は後ろに大きく開いて・・・まるで磔だった。そして、まともに理絵のパンティを見つめる男達の視線が何より辛かった。職場でも同期の間でも常に一目置かれていた自分が、低俗な性欲の対象になり下がっている・・・男に負けたくないと思って頑張ってきたのに・・・理絵のプライドはずたずたになっていた。

 「で、では次に相違点を説明します。」
とにかく、理絵ができることは一刻も早く説明を終わらせることだけだった。

 しかし、それすらも伊東は許さなかった。
「おいおい、聞いてなかったのか? 良く聞こえないって言ったろ。最初から説明してくれよ。それから、プレゼンするのにスマイル忘れるようじゃなぁ」

 「は、はい、すみません。では、最初からご説明させて頂きます。」
理絵は羞恥に耐えながら、必死に笑顔を作った。男達の視線は、その美貌と剥き出しのパンティを行き来して恥辱ショーの続きを堪能することができた。

 説明をようやく終えたった理絵は、慌てて両手で股間を隠した。
「伊東さん、ズボンを返して下さい。」
一刻も早くこの羞恥地獄から逃れたかった。

 だが、、伊東の言葉は冷たかった。
「何を言ってるんだ。ペナルティのルールを知らないのか? ペナルティを受けた者は、終業式までそのままだ。いいか、他の者も、その格好のままでいるように。そのまま宴会ができる格好でお偉方の話を聞いていいのは今日だけだぞ。」
最後の一言はネクタイを頭に巻いた男性に向けて発せられた。教室中が笑いに包まれる。

 しかし、理絵にとっては笑い事ではない。確かに係長研修にはそのような慣例があると聞いたことはあったが、まさかパンティを晒したまま終業式に出るなんて、出来るわけが無いと思った。しかも、終業式は講堂で全員で行うのだ。このクラスのメンバーだけでは無く、研修参加者全員に見られてしまう。それに、講堂までは、たっぷり3分以上屋外を歩いていかなければならない・・・理絵は目の前がクラクラしてきた。

 「さあ、加藤君の発表が伸びたおかげで、もう時間だ。みんな、講堂に行くぞ。」
容赦なく伊東が急かした。男達が荷物を整理して立ち上がる。

 「ほら、早く行きなさいよぉ。」
洋子が理絵の荷物をまとめて手渡しながら言った。

 「けど、理絵ちゃん、オッパイも大きい上に、お尻もふっくらしてて、羨ましいわぁ」
理絵を羞恥地獄に落とした張本人の真奈美が笑いながら言った。
「男の人たちも大喜びだったわよ。まさか、研修中にパンティ丸出しにしてくれるなんてねぇ。さっすが、偉くなる人はサービスもいいわねぇ。」
そう言って理絵のお尻をなで回し、理絵に悲鳴をあげさせた。

 「じゃあ、我々は帰るから、終業式も気を抜くなよ。」
コメントだけは係長らしいことを大友が言った。しかし、その眼は理絵の太股をちらちら見ていた。

 「さ、早く!」
洋子に手を引っ張られた理絵はよろめくようになりながら歩き出した。教室から出ると、すぐそこは校舎の出口だ。

 理絵にはそれが、終わりの無い羞恥地獄の始まりのように見えた。そして、その予感は全くその通りであった。


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