PART 7 

 下半身はパンティだけの姿で屋外に出た理絵は、腰を屈め、片手ずつでジャケットの前後を押さえて歩いていた。クラスの仲間達は先に行ってしまったので、庇ってくれる人間もいない。(いやだ、見られちゃう!)理絵のクラスだけ離れの教室だったため、他のクラスの連中の姿は見えないが、心許なさに理絵はあたりをきょろきょろ見回した。

 そんな理絵の様子を面白そうに見ていた洋子が、
「あら、みんな先に行っちゃったのね。じゃあ、私たちが講堂まで送ってあげるわよ。」
と、いらぬお節介を申し出た。もちろん、理絵が恥辱に喘ぐ様子をもっと見たいからであるに違いなかった。また、理絵が逃げ出さないようにとの監視の意味もあった。

 大友と三宅もわざとらしく迷惑そうな表情を浮かべながら着いてくる。片手を洋子に引っ張られている理絵は、後ろを隠すことができないため、後ろからついて歩くと、パンティにくるまれた尻がプリプリ揺れる様子が丸見えだ。二人とも、頭の中では先週見た理絵のブラを思い出して、今の理絵の姿と合成していた。

 しばらく歩くと、講堂前の大通りが見えてきた。他のクラスの連中の姿が視界に入り、理絵は思わず足を止めた。
「い、嫌です! お願い、もう許して下さい。」
理絵は左手を掴んでいる洋子に哀願した。やはり、こんな格好をみんなに見られるのは耐えられなかった。

 「だ〜め。早くしないと、終業式、始まっちゃうわよ。」
そう言ったのは洋子ではなく、真奈美だった。よいしょ、と言いながら股間を庇っている理絵の右手を思い切り引っ張った。

 「ひ、ひぃ、や、やめて」
両腕を捕まれた理絵は必死に頑張っても、引きずられるように歩き出さざるを得なかった。しかも、これではパンティの露出を庇うことは全くできない。濃紺のジャケットの下から前後とも半分ほどパンティを露出させている様子はあまりにも非日常的でエロチックだった。

 大通りに近づくと、理絵の異様な格好に他のクラスの者が気づき出した。
「お、おい、あれ、見ろよ!」
「おお、加藤理絵だ。パンティ丸見えじゃんか。」
「たまんねぇ太股してるなぁ」
途端に大勢の男達が理絵に注目した。(ひ、ひぃ、見ないでぇ。お願い)理絵は思わず眼をつぶった。

 しかし、洋子と真奈美は容赦無く歩を進める。ついに大通りに出た理絵はその場の皆の視線に晒されることになった。
「みなさぁん、これは、レポート発表のペナルティなんですぅ。お見苦しいでしょうが、許して上げて下さいねぇ。」
洋子がそう言って男達にウインクを送った。事情を理解した男達が薄笑いで答える。そして、その視線は今度はさらに遠慮無く理絵の下半身に注がれた。

 「は、離して! 自分で歩いて行きますから・・・」
理絵はそう言わざるを得なかった。こんな風に引きずられながらパンティ姿を見せ物にされる位なら、自分で歩いた方がましだった。講堂まであと50メートル。もっと多くの研修生にこの姿を晒すのは耐え難い屈辱だったが、極力普通を装って歩く方がましだった。

 5分後、多くの好奇と軽蔑の視線に晒された理絵は、ようやく席に着くことができた。クラス単位で座っているのがせめてもの救いだ。まだスカートを返してもらっていない理絵は、しっかりと下半身を閉じ、両手で隠しながら唇を噛んでいた。

 理絵達の座席は講堂の一番後ろ、というのもせめてもの幸運だった。入場するときには散々痴態を見られてしまったが、理絵より早く入場していた連中にはまだ見られていない。たぶん、この場の3割位にしか見られていない筈だ・・・理絵はそう思って自分を慰めた。

 理絵にとって恥ずかしいのは、あちこちで、無理矢理体をひねって理絵を見つめる者が目に付くことだった。きっと、さっきの理絵の姿を見たか、見た連中から話を聞いたのだろう。じろじろ理絵の様子を窺う視線を浴び、理絵の羞恥はさらに高まっていった。

 終業式自体は淡々と進行していた。あと残されているのは、成績優秀者の表彰と、人事部長の挨拶だけの筈だ。研修前に松本に聞いた話では、成績優秀者の名前が壇上で呼ばれ、呼ばれた研修生はその場で席を立って一礼するのだという・・・・そこまで考えて、理絵は固まった。

 席を立つ!皆が座っている中で席を立ったらこの格好がみんなに見られてしまう!・・・理絵は焦った。(どうしよう、私、成績優秀者だったら、どうしよう!)優秀者は事前には発表されないので、理絵には予想がつかなかった。昨日までは、(ひょっとして、私、選ばれるかも)と期待していたのが遠い昔のようだ。理絵は今、全く逆のことを祈っていた。

 「えー、それでは、成績優秀者を発表します。人数は10名です。呼ばれた者は返事をして、壇上に上がり、人事部長から表彰状を受け取るように。」
進行役の伊東が、淡々と述べた。しかし、その内容は理絵に衝撃を与えた。壇上に上がる!・・・席を立つだけなら数秒の恥辱で済むが、壇上に上がったら、そうはいかない。理絵は自分が呼ばれないことだけを必死に祈った。

 そんな理絵の思惑とは関係無く、伊東は成績優秀者の発表を始めた。一位、二位、三位、・・・理絵の名前は呼ばれなかった。いずれも留学帰りのT大卒ばかりだ。年次も理絵よりは数年上の筈だ。(そうよね。みんな、すごいもの。私なんか呼ばれる筈無いわ)信じれば事実となるかのように、理絵はそう思いこもうとした。

 「・・・七位、本社企画部国際調査担当、稲垣弘、八位、本社研究開発部マルチメディア推進担当、花岡幹雄、九位、本社国際部北米担当、鬼塚太郎」
そこまで言って、伊東は一旦言葉を切った。途端にどっと笑いが起きる。鬼塚が上半身裸でネクタイを頭に巻いていたからだ。鬼塚は、
「すんませ〜ん、プレゼンはぼろぼろでしたぁ!」
と言って両手でVサインを掲げ、さらに拍手をもらっていた。そのまま駆け足で壇上に上がり、人事部長に一礼した。
「はっはっは。まあ、頑張りたまえ。」
人事部長も笑いながら鬼塚に表彰状を渡し、握手をした。

 「えー、それでは、最後、第十位は・・・」
軽く咳払いをしてから、伊東が告げた。
「本社営業第三部第一課、加藤理絵」
口元がやや笑っているように、理絵には見えた。

 研修生の視線が一斉に理絵に集中した。一部の者の眼は淫靡な期待に満ちており、他の者の眼は純粋に羨望と憧憬の眼差しだった。しかし、自分が立ち上がったら、その視線は皆、好奇と軽蔑の視線に変わるに違いない・・・そう分かっていても、理絵に逃げ場は無かった。
「はい」
小さな声で答えてから、理絵はゆっくりと立ち上がった。

 その瞬間、今度は会場中がしんと静まり返った。理絵は下半身にパンティ以外身に付けていない!・・・衝撃と願ってもない光景を見られた嬉しさで、皆言葉を失っていた。息を殺したまま、理絵の下半身に視線を集中させる。

 理絵は、処刑場に連れて行かれるかのように壇上に向かって歩き出した。その様子は、とても研修中の努力を表彰される成績優秀者とは思えなかった。片手ずつでジャケットの前後を押さえて、何とかパンティの大部分を隠す事はできたが、すらりとした脚だけはどうすることもできない。

 席が一番後ろ、というのも今となっては不運だった。それだけ、皆の視線に晒される時間が長くなるだけなのだ。理絵は真ん中の通路を小走りに駆けていった。

 その時、後ろから
「理絵ちゃん、いい格好だねぇ」
と、知ってる声が呼びかけた。

 思わず振り返ると、同期でT大卒の清水康夫だ。事あるごとに理絵に言い寄ってきたが、連れなくし続けていた相手に晒す痴態に、理絵は耳まで真っ赤になった。(自分が呼ばれなくて悔しいくせに、そんな言い方するなんて・・・ひどい!)黙って体の向きを戻し、壇上に向かって歩き出した。

 理絵は壇上に上がり、人事部長の前に立った。人事部長は研修生と正対しているため、理絵は後ろ姿を研修生達に晒すことになる。理絵は後ろの裾を押さえている左手に力をこめた。

 「はっはっは、君もプレゼン失敗したのかい? とにかく、おめでとう。」
人事部長は平静を装って笑いながら、表彰状を両手で差し出した。しかし、その眼はやはり嫌らしく、理絵の太股と股間をなめ回すように見ていた。

 「ありがとうございます。」
理絵はそう言いながら、両手を前に差し出した。もちろん、軽く礼をしながらだ。それはつまり、露出したパンティだけの尻を研修生の皆に向かって突き出すことになるが、どうしようもない。先ほどまでうるさいほどに盛り上がっていた講堂が静かになっているのが、さらに理絵の羞恥を煽った。(ああ、みんな、見ている。・・・私のこの格好を見ているのね・・・信じられない、早く、早く終わって!)表彰状を受け取るまでの数秒間が、理絵には数時間にも感じられた。

 表彰状を受け取った理絵は、更なる恥辱に耐えなければならないことに気付かされた。表彰状は両手で胸に抱えていなければ失礼なので、今度は下半身を庇うことなく通路を歩いて最後尾まで戻らなければならないのだ。今度はパンティ姿を正面から晒さなければならない、・・・さっきの清水にも。

 しかし、理絵にはどうすることもできない。観念した理絵は、壇上で表彰状を抱えて皆の方を向き帰った。途端に、自分の痴態に容赦無い視線を浴びせる研修生達の姿が眼に入った。壇上からだと全員の様子が良く見渡せる。逆に言えば、今の理絵の痴態は全員から嫌と言うほど良く見える、ということだ。上は濃紺のスーツをきっちり着込みながら、下半身はパンティ一枚、という羞恥の姿を。

 (や、やだ、みんなに見られている!)慌てた理絵は急いで壇上から駆け下りた。小走りに研修生の間をすり抜けるように歩いていく。途中、
「白なんて、可愛いパンティ穿いてるじゃねぇか、加藤ちゃん」
という清水の声が耳に入ったが、今度は振り返らずに歩き続けた。(どうして、どうしてこんな目に・・・私が・・・)半分涙目になりながら、理絵は必死に羞恥に耐えていた。

 それから10分後。理絵にとって悪夢のような合宿研修がようやく終わった。伊東にやっと返してもらったズボンを穿きながら、理絵は、(とにかく、このことは今日限りなんだから、忘れるのよ)と自分に言い聞かせていた。

 伊東が最後に言った、
「この研修にはやや変わった慣習がありますので、皆は職場に帰っても今日のことを面白おかしく話すことは決してしないように。もし社外に漏れでもした場合には、原因を徹底究明して、厳しい処分を行う事になりますので、気を付けるように。」
という言葉にすがるような気持ちだった。

 しかし、理絵は重大な誤解をしていた。それは、今日の出来事は、決して偶然の産物ではなく、周到に用意された計画の始まりに過ぎない、ということだった。

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