PART 31(bbbb)

 全裸の少女を乗せたバイクが走り出してから、まだ2分と少ししか経っていなかった。柏原が運転するバイクは、時々信号を避けて裏道に入ることにより、見事にアイリスの追っ手達を振り切ったように思われた。まさか梨沙が全裸で逃げてくるとは思わなかったために最初は動揺したが、何とか梨沙を助け出してバイクに乗せ、思い通りの展開となったことに、柏原はヒーローになったような気がしていた。梨沙ちゃん、絶対、俺が守るからね・・・

 バイクはさらに2分ほど走り続けた。梨沙の裸を見た大勢の通行人が、悲鳴をあげたり、指さして笑ったり、いやらしい目でじっと見たりしているのが柏原にも分かったが、とにかく止まらず、一瞬のうちに通り過ぎることで、写真だけは撮らさないことができていると思っていた。後ろを走っている車が問題だったが、バックミラーを見て、二人乗りの場合には先にやり過ごす等、万全の対策を行った。

 ただ、一つだけ予想外のことがあった。梨沙の動きに、徐々に違和感を感じるようになっていたのだ。梨沙の柔らかい胸が不自然に押しつけられ、両足がぎゅうっと外側から締め付けられる・・・気のせいか、女の喘ぎ声らしきものも聞こえたような気がした・・・最初は、バイクに不慣れな梨沙が不自然な動きをしているだけと思っていたが、違和感はさらに大きくなっていった。・・・まさか、梨沙ちゃん、裸をみんなに見られて、感じちゃっている!?・・・背中に押しつけられた乳首が硬く勃っているような気がして、柏原の下半身もぐっと興奮してしまった。

 動揺した柏原は、一つのミスを犯した。裏道に入るべき場所を通過してしまい、大通りから抜けられなくなってしまったのだ。
(え、あ、まずい!)
ヘルメットの下の顔を歪ませ、柏原は必死に打開策を考えた。しかし、何も浮かばなかった。走り続けるバイクに乗りながら、柏原にできるのは、渋谷の駅前の5つの交差点を、いずれも信号に掴まらずに走り抜ける、という奇跡に期待することだけだった。ここを抜けられれば、脇道に折れ、裏道に入ることができる。そうすれば、柏原の家はすぐ近くだ。頼む、神様・・・

 バイクの後ろにのった全裸の女性の姿に、わー、きゃあ、っと若年層の多い渋谷での歓声と悲鳴は一層大きく響いた。そして、その声の大きさにふと我に帰った梨沙は、フルフェイスのヘルメットの色付きのシールド越しに見えた光景に目を見張った。ここは渋谷! こんなに大勢の人たちが、私の裸、見てる・・・このまま行くと、駅前の交差点に出ちゃう・・・
「ちょ、ちょっと、柏原君!」
梨沙は大声を出したが、爆音と渋谷の喧噪と悲鳴に埋もれてしまった。
「待って、いや、だめ・・・あ、あんっ・・・」

 梨沙の制止も空しく、柏原のバイクはそのまま走り続け、一つ目の信号に差し掛かった。幸い、信号は青だったので止まることはなかった。しかし、渋谷の道は幅が狭く、路上駐車の車があって渋滞気味になったことから、裸でバイクの後ろの席に乗っている梨沙の姿は、歩道にいる一般人の視線にさっきまでよりも近い距離で、たっぷりと晒されることになってしまった。

 「・・・あ、あ、ぁぁ・・・」
声を出してはいけないと思いながらも、柏原の背中で押しつぶされる乳房、擦られる乳首、バイクの振動とローターによる秘部への外と内からの刺激に、梨沙は喘ぎ、腰を小さく前後に動かして悶えるのを止めることができなかった。シールド越しではあるが、大勢の歩行者が自分にまともに視線を向け、笑い合っているのが見え、いたたまれない気持ちになった。

 一方、裸の少女がバイクの後ろに乗っているらしい、という噂は渋谷の街で一瞬のうちに広まっていった。新宿の時と異なり、走ってくるバイクを皆が待ち構え、携帯端末のカメラで狙っている者もいた。
 
 「あ、来た来た!」
「うわっ、すっげえ、本当に裸じゃん!」
「何なのあれ? 彼氏の命令?」
「なんか、腰動かして、バイクにアソコ、擦りつけてね?(笑)」
「ねえ、あの彼、高校生だよね? じゃあ彼女も?」
「ヘルメットが邪魔だな。露出したいんなら顔も見せてよ。」
「横パイしか見えなかったな。もったいつけないで全部見せろよ。」
「お、撮れた! 可愛いケツがばっちり!」

 「きゃ、きゃあ・・・い、いや、見ないで・・・あ、あんっ」
スモーク越しに、沢山の携帯端末のレンズが自分に向けられているのを見て、梨沙は悲鳴をあげた。こんな姿、撮らないで・・・梨沙はヘルメットを被った頭を歩道と反対側に向け、思い切り柏原の体にしがみつき、少しでも乳房を隠そうとした。
「あ、あ、あうぅぅ・・・あ、あひぃぃ・・・」
声を出しちゃだめ・・・そう思っても、乳房と股間への刺激はどんどん強くなり、梨沙は小さな声を断続的にあげるようになっていた。
「ね、ねえ、早く、早く、どこかに・・・う、うぅぅ・・・」

 「梨沙ちゃん、大丈夫? もうすぐ、もうすぐだから、頑張って!」
ふと梨沙の声が聞こえた柏原は、顔を横に向けて大声で言った。梨沙が必死に自分にしがみついているのが、ふと愛おしくなった。
「大丈夫、ヘルメットを被っていれば、写真を撮られたって分からないから!」
そう言いながら、柏原は祈るような気持ちだった。神様、あと4つの信号、全部青にしてください・・・だめなら、せめてあと二つ・・・

 柏原の祈りが通じたのか、5つのうちの2つ目の信号も、何とか黄色のうちに通り過ぎることができた。道路の両側の歩道には、もはや歩行者たちが鈴なりになって梨沙の全裸を鑑賞していたが、それはもう諦めるしかなかった。次はいよいよ、駅前のスクランブル交差点だ・・・もし、ここで赤信号に捕まってしまったら・・・柏原はいつしか、手のひらにじっとりと汗を掻いていた。

 それから十秒ほど走ると少しカーブがあり、それを曲がるといよいよ駅前の交差点が見えてきた。信号は青だった。いける、と柏原が加速しようとした瞬間、その信号が黄色に変わった。柏原の前には、まだ3台の車が信号との間を走っていた。普通なら、あと2台は黄色の信号のまま通過して、3台目は止まってしまう・・・頼む、行ってくれ! 柏原は必死に祈った。

 1台、2台、と車が交差点を渡って行き、柏原の前の車が交差点に差し掛かった。その車は少し減速したが、思い直したかのように加速を始めた。行ける、柏原は強引についていって突っ切ろうとバイクを加速させた。
「梨沙ちゃん、しっかり掴まって!」
信号は黄色から赤に変わろうとしていた。

 しかし次の瞬間、予想外の事態が生じた。目の前の車がやはり諦め、急ブレーキをかけたのだ。その車は横断歩道を塞ぐ形で止まってしまった。

 「え、そんなっ、くそっ!」
柏原もとりあえずは急ブレーキをかけざるを得ず、キキーッとタイヤが悲鳴をあげた。きゃあっという梨沙の声も聞こえてきた。

 梨沙の悲鳴に、柏原ははっとした。ここで止まる訳にはいかない。大丈夫、まだ間に合う!
柏原は再びアクセルを開け、目の前の車のわきをすり抜け、横断歩道を渡った。赤信号になっても、数秒間は歩道の信号は赤のままのはずだ。歩道の信号が青になっても、バイクのエンジン音を響かせて勢いを付ければ、1,2秒は稼げる・・・それだけあれば、交差点を抜けられる・・・柏原は一瞬のうちにそう計算し、ブオォン、と大きなエンジン音を響かせた。

 しかし、柏原の計算は少し甘かった。歩道側の信号が青になってから1,2秒どころか、車側の信号が赤になった瞬間に、交差点に進入する歩行者が何人もいたのだ。彼らも無鉄砲に進入したのではなく、柏原の前の車が急停車したのを見てから歩き出したのだった。

 「う、うわっ!」
柏原は大きな声をあげると、慌ててブレーキをかけた。きゃああ、という少女の悲鳴が後ろから聞こえ、背中にぎゅっと柔らかな身体が押しつけられるのを感じた。
「梨沙ちゃん、気を付けて!」

 そして柏原は、梨沙を最悪の状況に置いてしまったことを思い知らされることになった。渋谷の駅前交差点は、いわゆるスクランブル交差点であり、その真ん中で止まってしまった柏原のバイクは、あらゆる方向から歩いてくる歩行者に囲まれることになった。
「梨沙ちゃん、しっかり掴まって! 絶対に離さないでっ!」

 「う、うん・・・え、えっ・・・」
急にバイクが止まり、一瞬何が起きたか分からなかった梨沙だったが、シールド越しに周囲を見て、自分の置かれている状況を悟った。今、私、渋谷のスクランブル交差点の真ん中にいる!・・・何も着ていないのに・・・大勢の人たちが、四方から近付いてくる・・・
「あ、あん、あぁんっ・・・」
柏原のバイクのエンジンがかかっているため、エンジンの振動はシート越しに梨沙の股間を刺激し続けていた。秘裂の奥の異物が急に鋭敏に感じられ、梨沙はくぐもった悲鳴をあげた。だめ、声を出したら、聞こえちゃう! 梨沙は歯を食い縛り、ヘルメットを柏原の背中に押しつけた。さらに乳房をできるだけ見られないように、上半身をできるだけぴったりと柏原の背に密着させた。

 しかしそれは、近付いてくる通行人に卑猥なポーズのサービスをすることになってしまった。バイクの後部座席はそもそも前側にかなり傾斜しているのに、梨沙は上半身をぴったりと柏原の背中に密着させたため、背中が反って、尻を後ろに突き出す形になってしまったのだ。柏原の太ももを挟むために大股開きになり、斜め上に向けて尻を鋭角に突き出した格好・・・お尻の割れ目も露わになり、穴までが見えそうになっていた。
「・・・あ!・・・あっ、あんっ・・・」
ドッドッドッドッ・・・バイクのエンジンはかかりっぱなしだったため、ぐっと力を込めた梨沙の股間はバイクの振動をもろに受けることになった。また、膣の中のローターが共鳴し、梨沙の官能をさらに刺激した。

 無理やり交差点に突っ込んできたバイクに信号待ちの通行人達の視線が集中した。そして、後部座席で全裸の女がバイクの上で尻を突き出し、下半身をくねらせている姿に仰天した。きゃあっ、という女子高生の悲鳴、おおおっという男達のどよめき、が一斉に湧いた。

 「お、おい、あれ何だよ、裸だよな!」
「え、うっそー、本当に裸!?」
「ちょっと、わざわざ交差点のど真ん中に止まるかあ?(笑)」
「露出プレイって奴か?」
「ひょっとして、AVの撮影?」
「でもあれって、高校生じゃね?」
「何か、ケツ突き出して悶えてない?(笑)」
「あー、これが噂の露出バイク! 本当にいたんだ!(笑)」
「そんなに見てほしいんなら、じっくり見てやろうぜ、自慢のケツ!」
交差点の四方で待っていた通行人達が一斉に歩き出し、中心にいるバイクに向かってきた。

 「い、いやっ、柏原くん、助けてっ・・・あ、あぁ、あんっ・・・」
バイクの振動に下から突き上げられ、梨沙は顔を仰け反らせて喘いだ。腰も思わずびくびくっと前後に振ってしまった。すると、身体が動いて乳房が背中に擦られる形になり、乳首から発する鋭い快感に、梨沙はまた腰をくねらせて喘いでしまった。それを見た群衆がわっとまた湧いたような気がした。いや、来ないで・・・

 「ごめん、梨沙ちゃん、しばらく耐えて!」
柏原はバイクのサドルを握りしめながら大声をあげた。
「大丈夫、ヘルメットしてるし、身体は見えないし・・・信号、すぐ青になるから!」
柏原はそう言いながら、ひたすら無事に時が過ぎるのを待つしかなかった。男達が携帯端末をいじり、カメラ撮影をしようとしているのが見えたが、今は何もできなかった。
 
 ほんの数秒もすると、バイクは四方から来た通行人に取り囲まれることになった。
「ちょっと、ほんとにマッパなんだけど(笑)」
「お尻開いて突き出しちゃって、どういうつもり?」
「AVにしても過激過ぎじゃねえの?」
「おーおー、エロいケツしちゃって!」
「ねえ、接写してもいい、お姉さん?」
「ちょっと、通行の邪魔なんだけど?」
「どうせならオッパイも見せてよ、お姉さん?」
「こんなにがばっと足開いちゃって、恥ずかしくないの?」
「ちょっと、よく見えないからどいてくれよ?」
「ねえねえ、お尻、触ってもいい?」
「何か微妙に腰振ってない? 見られて感じてるの?」
「横乳見せて挑発してるの? オッパイ揉ませてよ?」
通行人は口々に勝手なことを言って梨沙をからかった。じっくり見ながら通り過ぎる者、立ち止まって携帯端末で撮影する者、バイクを取り囲み、梨沙に問い詰める者・・・さらに一部の者は、にやにや笑いながら、その美しい裸身に手を伸ばそうとしていた。


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