PART 39(bbbb)

 梨沙もやはり、その日はなかなか寝付けなかった。今日は、あまりにもいろいろなことがあって、とてもすんなり受け入れられるものではなかった。

 アイリスの罠に嵌って遊園地に連れて行かれ、恥ずかしいイベントに出演させられ・・・裸で、大勢の人の前で走ることになり、オートバイに乗り、学校へ行って・・・

 梨沙の回想は毎回そこで止まった。保健室の中でのことは、あまりに恥ずかし過ぎて、消えてなくなりたい気持ちになるのだった。
 柏原君に、全部、見られてしまった・・・想像したこともない恥ずかしいポーズで、一番見られたくないところを奥まで見られて、触られて・・・絶頂に達するところ、何回も見られて・・・それらの記憶が、断片的にフラッシュバックする度に、梨沙は悲鳴をあげそうになった。

 柏原君、忘れてくれないかな、今日のこと・・・梨沙は、真っ暗な天井を眺めながら、何度も考えた。
「・・・いやっ!」
急に、自分にキスしようとしていた柏原の顔が鮮明に浮かび、梨沙は小さな悲鳴をあげた。柏原くん、私の胸を揉みながら、唇を近付けていた・・・やっぱり、ドスケベの変態だわ・・・

 それに・・・柏原の命令でさせられた様々なポーズは、本当に、中のものを取るためだったのだろうか・・・それよりも、私に恥ずかしい格好をさせたかったんじゃないのか・・・

 でも、柏原くんが助けてくれたのは間違いない。アイリス相手にあんな立ち回りをするなんて、普通は怖くて出来ないのに、私のために、本当に必死になってくれた・・・二宮先生が言うとおり、目の前に裸の女の子がいたら、男の子って変な気持ちになっちゃうみたいだから、あまり責めても可哀想かも・・・思いっきりひっぱたいて、悪かったかな・・・

 「・・・あ、ああっ・・・いやぁ」
今度はM字開脚させられ、上から見下ろす柏原の顔がフラッシュバックし、梨沙は小さく呻いた。女の子が絶対に見られたくない二つの部分を思いっきり広げて上からまじまじと覗き込むなんて・・・やっぱりひどい、女の子をあんな格好にするなんて、最低よ・・・

 ・・・梨沙の思考は堂々巡りを続け、いつまでたっても寝付けなかった。

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 その日。芳佳は梨沙に何度も電話したが、結局話をすることはできなかった。

 今日のことを慰めたかったし、何が遊園地の中であったかも聞きたかった。また、それでも方針は変えないで、あったことは全て認める覚悟で対峙できないか、再度確認したかった。さらに、自分が下着姿を撮られてしまい、脅迫に使われるかもしれないこと、その脅迫には屈しないでほしいこと、を伝えたかった。

 しかし、梨沙は何度電話しても出てくれず、ついには電源を切られてしまった。仕方なく伝えたいことをメールで送ったが、返事はなかった。

 梨沙がなぜ電話に出たくないかは想像できた。今日、渋谷を裸の女を乗せた2人乗りのバイクが走っていたこと、そのバイクが学校の中に入ってきて、柏原が乗っていたこと・・・何人もの生徒から連絡が入り、既に学校では知らない者がいない噂になっていることは明らかだった。

 そして、柏原が一緒に裸の女の子と保健室に入ったらしいこと、柏原が帰ったのはそれから何十分も後だったらしいこと・・・いやらしい想像と共に、その女の子が誰か、「犯人探し」が始まっていた。

 また、ネットでは、バイクに乗っている裸の女の写真があちこちに出回っては削除されるいたちごっこが続いていた。もはや、梨沙の丸出しで突き出した尻の画像は、数万人に保管されているに違いなかった。

 自分にもこんなに探りの連絡が来ているのだから、本命の梨沙ちゃんにはどれだけ好奇が集まり、連絡が行っているか・・・梨沙ちゃんはついに耐えきれなくなって、携帯端末の電源を切ってしまったのだろう・・・

 梨沙ちゃん、辛いよね・・・でも、明日にはメールを見てね、お願い・・・芳佳は祈るような思いで眠りについた。

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 日曜日の昼下がり。芳佳の父、道雄の携帯端末が振動して着信を告げた。

 それは、黒川からの電話だった。なぜ番号を知っているのか、という質問には答えず、今から一枚の写真を送るから見てほしいとだけ告げて電話を切った。1分後に、今度は芳佳が電車の中でパンティを露出している写真が送られてきたのを見て、道雄は内心で唸った。芳佳に言われて覚悟はしていたが、本当に来たか・・・スカートを思い切りまくり上げられ、パンティが丸ごと露出し、太ももの付け根まで露わになり、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている芳佳の写真は、父から見ても扇情的だった。それは、会社で芳佳に見せられた写真よりも過激だった。こんな写真がばらまかれたら、娘は外を歩けなくなってしまう・・・

 また1分後、再び黒川から電話がかかってきた。道雄が平静を装いながら話を聞くと、黒川の要求は要するに、梨沙から手を引くのは良いが、遊園地の件で責任を問うのはやめろ、ということだった。きっと、彼が真樹に責任を追求されているのだろう、と想像がついた。

 道雄は内心の動揺を悟られないように、黒川の要求をあっさりと拒否した。この手の連中は、一度弱みを見せるとどこまでもつけ込んでくる、と道雄は経験上知っていた。その要求を呑むことは、芳佳の下着画像に効果があることを認めることになり、次のさらに無茶な命令に繋がるに違いなかった。下手すれば、芳佳のもっと恥ずかしい姿を撮ろうと無茶をするかもしれない・・・

 道雄の毅然とした態度は、黒川は予想外だったようで、本当にいいのか、と何度も聞き返してきた。また、もっと過激な写真も持っていると仄めかしたが、道雄は娘から全て聞いている、下着姿までの筈だ、とあっさり拒否した。

 それにしても、綺麗なお嬢さんですね、混んでいる電車や夜道には気を付けた方がいいですよ、という捨て台詞を最後に、黒川の電話は切れた。

 道雄はふうっ、と大きな息をつくと、芳佳の部屋に足を運び、扉をノックした。そして、頼むから明日だけは学校を休んでくれ、とお願いした。芳佳は、それではアイリスに負けたようだと拒みかけたが、明日一日で3社がそれぞれ社内で意思決定をすることになっているから、明日だけ我慢してくれ、と道雄は執拗に懇願した。その結果、最後には芳佳が折れ、そこまでしてくれるなら、明日だけはお父さんの言うとおり、家から出ないようにする、と了解した。

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 予想外の展開に、黒川は方針転換を迫られた。黒川は木島を呼び、事務所で作戦を練った。

 数時間の議論の末、整理した論点と作戦は以下のようなものだった。
・今回のキーマンは須藤道雄であり、彼からなんとしても妥協を引き出さなければならない。
・しかし、芳佳の下着姿を公開すると脅しても全く動じなかった。
・それならば、梨沙の恥ずかしい姿の写真・動画で芳佳を脅迫し、芳佳のヌードを撮ればいいのではないか。
 −芳佳の全裸姿のデータをもとにあらためて芳佳の父を脅迫すればさすがに拒否できないはずだ
・梨沙の恥ずかしい姿を撮るためにはどうするか
  1.梨沙のプールでの痴態を見せつけ、公開されたくなければ裸の写真を撮らせろと脅迫する
  2.それでも動じなかったら、芳佳の痴態をばらまくと脅迫すればよいのではないか。
    −明日なら、道雄は芳佳は登校させない筈だ
・芳佳に連絡を取れない状況で、梨沙を脅迫するにはどうすればよいか
 −緊急生徒総会を開かせ、その場で決断を迫ればいいのではないか
・学園側の実行部隊は誰を使うか。
 −岩本達写真部のみ使う。みどりとゆきなは、土曜日に柏原と芳佳を見失う失態を演じていて、信用できない。

 方針を決めた後は、細かな段取りやリスク回避の方法を検討し、全てが決まった時には夜にさしかかっていた。
「それじゃあ、岩本には俺から連絡しますから」
木島はそう言うと、事務所の扉を開けた。
「明日は楽しくなりそうですね。谷村梨沙と須藤芳佳のヌード、どっちがエロいかな? あ、オナニーショーをそれぞれやらせて、どっちがエロいか、全校生徒に投票させましょうか?(笑)」

 「おいおい、目的を間違えるな。須藤を脅迫する写真と動画が撮れりゃいいんだから、全校生徒にオナニーショー見せなくてもいいだろ。」
黒川は苦笑した。
「でも、確かにどっちがエロいか、興味があるな。この事務所に2人を呼んでストリップオナニーさせて、みんなで鑑賞して決めようか?(笑)」

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 週明けの月曜日。梨沙は少しうつむきがちになり、学校の門を入った。

(あ、梨沙ちゃんだ)
(へえ、登校してきたんだ、勇気あるねえ(笑))
(あーあ、俺、梨沙ちゃんのお尻が透視できるようになっちゃった(笑))
(俺なんか、あの時校庭にいたんだぜ。すっごくエロかったなあ、ぷりぷりで真っ白の生ケツ!)
(やっだあ、やっぱりあれ、梨沙ちゃん本人のなのかな?)
(ほら、検証画像。ヘルメットの下から見える髪、梨沙ちゃんの髪型と完全に一致するだろ?)
(あ、ほんとだ! それじゃあ本当に、素っ裸でバイクの後ろに乗って、新宿とか渋谷とか、あちこち走ったの?(笑))
(ほら、レア画像! 渋谷の交差点では、みんなに揉まれたらしいぞ(笑))
(きゃあ、すっごい! ねえ、梨沙ちゃん、顔仰け反らせて、感じてるのかな?)
(すっげえ、ケツの接写まである! 噂には聞いてたけど、ケツの穴まで見えそうだな、これ!)
(ああ、俺の週末、梨沙ちゃんのケツ画像収集で終わっちゃったよ(笑))
(頼む、お前のコレクション、コピーさせてくれよ。昼飯おごるからさ!)
(よし、トンカツ定食な! ほら、こっちは横パイがばっちり映ってるぜ!(笑))
(それにしても、よく平気で登校できたわね。私だったら、恥ずかしくて絶対に来れない(笑))
(ほーんと、何が、性の商品化反対、よ。あっきれた)
(そんなに見てほしいんなら、裸で登校すればもいいのにね(笑))
(ちょっと、声が大きいよ。聞こえちゃう!(笑))
皆、梨沙の姿を見ると、意味ありげな顔付きになり、友達同士で聞こえよがしにひそひそ話を始めるのだった。

 (ああ、やっぱりみんな、見ているんだ、私の写真・・・ヘルメット被ってたけど、私だって分かっているんだ・・・)
覚悟していたこととは言え、皆のいやらしい視線と笑い声、女子達の蔑みの声、クスクス笑いを聞き、梨沙はいたたまれない気持ちになった。みんな、私のお尻の写真、携帯端末に保存している・・・携帯端末の電源を切っていた梨沙は、ここまで事態が進展しているとは知らなかった。

 教室に入ると、にぎやかだったクラスメイトが突然黙り、奇妙な沈黙に包まれた。
「お、おはよう・・・」
梨沙は小さな声でそう言って教室に入ったが、いつものように明るい返事が返ってくることはなかった。

 (芳佳ちゃん・・・)
梨沙は救いを求めるように見回したが、まだ登校していないようだった。梨沙はうつむき加減になりながら歩き、自分の席に座った。



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