PART 40(bbbb)

 1時間目の授業が始まったが、結局芳佳は姿を現さなかった。教師によると、今日は風邪で休みとのことだった。
教師もどこかそわそわして、梨沙をちらちらと見ているようだったが、声をかけることはなかった。

 そして、休み時間になると、席に座っている梨沙の隣に二人の女子が立った。
「ねえ、梨沙ちゃん、知ってる、土曜のこと?」
それは、クラスメイトの牧原麗奈と早川玲香だった。二人とも、梨沙と仲の良い方ではなかった。

 「え、土曜のことって?・・・」
梨沙は平静を装おうとしたが、若干声がうわずってしまった。クラス全員の視線が一斉に集中するのが分かった。

 「あ、梨沙ちゃん、知らないんだ? すっごい騒ぎだったんだから、生徒会長としては知っておかないと・・・」
そう言いながら、麗奈は携帯端末の画像を差し出した。
「ほら、見て」

 「え?・・・きゃっ・・・」
ちらりとその画面を見た梨沙は、小さく悲鳴をあげて目を逸らした。そこには、オートバイに乗っている梨沙を斜め上から撮った写真が表示されていた。
 梨沙の全裸の背中が弓なりに反り、お尻が鋭角のカーブを描いて突き出されていた。そして、大股開きになっているため、お尻もぱっくり開き、中央の溝が見えかかっていた。その画像は画面一杯に表示されていた。

 「ね、すごいでしょ、驚くわよね? まさか、真っ昼間の渋谷を、こんな格好でバイクに乗って走る女の子なんて、考えられないもんねえ・・・」
麗奈はうつむく梨沙の隣にしゃがみ、顔を下から見上げた。
「それでね、前に乗っている男の子、柏原君なんだよ、すごいでしょ。」

 梨沙が何と返事するのか・・・教室の中で会話をしているのは梨沙と麗奈達だけになっていた。

「・・・え、そ、そうなんだ・・・何、考えてるんだろ・・・」
柏原、という名前を出され、梨沙は心臓がきゅっと縮まったような気がした。

 「ねえ、柏原くんってさ、梨沙ちゃんに告白したことあったよね?」
玲香が少しはしゃいだ口調で口を挟んだ。
「それでさ、梨沙ちゃんが振ったとき、柏原くん、待ってるって言ったんだよね?・・・なんか、派手に浮気されちゃったけど、どんな気持ち?」
デリケートな秘密をあけすけにしゃべられ、教室中のクラスメイトが聞き耳を立てているのが分かった。

 「・・・え、べ、別に・・・だって、付き合っているわけじゃないし・・・」
梨沙は言葉を選ぼうとしたが、うまくいかなかった。とにかく今は、裸でバイクの後ろに乗っていたのが自分ではないと思ってもらうことが優先だった。
「何とも、思ってないし、勝手にすればいいんじゃない?」

 「えー、いいのお、梨沙ちゃん?」
玲香はわざとらしく驚いた風を装って言った。
「何かね、その女の子と学校に入ってきて、保健室に二人っきりで何十分もいたみたいよ。」
きゃあ、エッチ、柏原くん、と周囲の女子が小声で囁きあった。

 「ところでさ、ちょっと変な噂があってね、梨沙ちゃんに教えてあげた方がいいと思ったんだけど・・・」
黙り込んでしまった梨沙に、麗奈が急にもったいぶった口調になって言った。
「その、裸の女の子がね、実は、梨沙ちゃんじゃないか、って噂なんだけど・・・嘘だよね?」

 クラス中の視線が梨沙に集中し、息を呑んで梨沙の返事を待った。

 「・・・え、何言ってるのよ! そんなわけ、あるわけないじゃない!」
いきなり核心に迫る質問をされ、梨沙は動揺を抑えられなかった。皆が意地悪な興味で自分を見ているのが分かった。
「も、もう、いい加減にして! ほら、次の授業が始まるよ!」

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 何とか窮地を脱した梨沙だったが、2時間目が始まってしばらくした頃、更なる羞恥責めに遭うことになった。

 全員の携帯端末が一斉にメールの着信を告げたのだ。自由な校風で知られるK学園では、携帯端末の扱いも各人に委ねられていた。すなわち、授業の支障にならなければ、こっそりメールを見るくらいは許されていた。

 「・・・うわ・・・す、すみません・・・」
最初にそのメールを見た男子は思わず声を上げ、教師にじろりと睨まれて慌てて謝った。その姿を見て、他の生徒達も携帯端末のメールを確認した。皆、驚愕に目を丸くして、次に梨沙に意味ありげな視線を送った。

 (・・・い、いやっ・・・)
梨沙は心臓が停まりそうに感じながら、自分の携帯端末を取り出した。電源を切っていたことを思いだし、電源を入れてしばらく起動を待った。そして、震える指で操作し、新着メールを確認した。

『谷村梨沙へ(CC:K大学附属高校2年1組の皆様)
 アイリスグループの黒木です。貴女が金曜日、ジュニアアイドルイベントに無理やり出演し、途中で会場を抜け出し、周囲の制止を振り切って全裸になった挙げ句、遊園地の外に逃亡し、オートバイに乗って公道を走ったため、当グループは多大な損害を被りました。
 あたかも、当グループ所属の女優が公然猥褻物陳列を行ったように誤解されたことは、当グループの企業イメージの著しい低下、他のアイドルが貴女と同一視されることによる精神的苦痛、イベント中止になったことによる入場料払い戻し、会員からの信用失墜等々、をもたらしています。
 ついては、以下のとおり、公式の謝罪及び賠償を要求します。
1.10分以内に、スカートとパンティを脱ぎ、下半身裸で授業を受けること。その姿を自分で撮影し、本メールに返信すること。
2.休み時間になったら、教壇に立ってクラスメイトの前で全裸になり、教卓の上でオナニーすること。その動画を撮影してもらい、動画を返信すること。
3.上記1及び2のデータの販売権を当グループに無償で与えること。
4,前項までで賠償額に達しない場合、当グループの命令の追加に無条件に従うこと。
 10分以内に上記1を実行しない場合、直ちに添付の画像及び更に恥ずかしい画像を公開することとします。』

 そのメールには3枚の画像が添付されていた。
1枚目は、梨沙がプールのあるイベント会場らしきところで、ブラとパンティだけの姿になり、バスケットボールを放っている画像。
2枚目は、黒い紐ビキニ姿になり、丸太に跨がって跳ね上がっている正面からの画像。
3枚目は、梨沙の後からの画像を2枚、左右に並べた合成だった。左側は、走りながら脱いだブラを投げる瞬間、右側は、やはり走りながら、水着のボトムの紐をほどき、尻がほぼ丸出しになっている画像。
・・・いずれの写真でも、周囲にたくさんのギャラリーが顔にモザイクを施されて映っていた。

 その写真を合わせて見れば、梨沙が下着姿から黒い紐ビキニになり、さらに大勢の人の中を走りながら、自ら水着を全て脱いで全裸になったことは明白だった。そして、そのぷりぷりの尻の画像を、バイクに乗った女の画像と並べれば・・・教室のあちこちで、隣同士の二人で端末を並べてじっくり見比べる姿が見られた。あはは、やっぱり同じケツだ・・・(笑)

 「おい、お前ら、静かにしろ! 携帯端末、取り上げるぞ!」
教師の叱る声が教室に響き、一旦、皆はおとなしくなった。

 教師はコホンと咳をすると、授業を再開した。カツカツカツ、チョークで板書をする音と、ノートを取る音だけが教室の中で聞こえるようになった。

 しかし、皆の意識ははっきりと変わっていた。やっぱり、あのバイクの後ろに全裸で乗っていた女子は、梨沙だったことがはっきりした。さらに、謎のメールによれば、梨沙はアダルトビデオメーカーのイベントに自ら参加し、一般客の間を走りながら素っ裸になり、さらには公道を走ったのだという・・・

 そして今、梨沙はスカートもパンティも脱いで授業を受けるように脅迫されている・・・皆の視線がちらちらと梨沙に向けられた。

 そして数分が経過すると、徐々にあちこちからひそひそ声が聞こえるようになった。
(本当に脱ぐのかな?)
(いやいや、案外、自作自演かもしれないぞ?)
(生徒会長って、ひょっとして露出狂の変態!?(笑))
(もったいぶらないで、さっさと脱げばいいのに・・・)
(・・・てことはさ、この授業が終わったら、クラス全員の前ですっぽんぽんになって、オナニー見せてくれるってこと?)
(うーん、あの写真をネットでばらまかれるのと、どっちを選ぶのかな、梨沙ちゃん?(笑))
(・・・梨沙ちゃん、俺たちが見てやるから、校外にばらまくのはやめた方がいいよ!(笑))
(お前、梨沙ちゃんの生ストリップ、見たいだけだろ(笑))

 梨沙はかあっと頬が熱くなるのを感じながら、じっと俯いているしかなかった。それは、予想外の展開だった。黒木という名前は、黒川の偽名に違いなかった。なぜ、そんなことまでする必要があるのか・・・授業中に下半身裸になるなんて、できるわけないじゃない・・・でも、しなかったら、この写真、ばら撒かれちゃう・・・どっちも選ぶなんて、できない・・・ああ、こんな写真までクラスの皆に見られてしまった・・・違うの、これには、訳があるの・・・

 結局、梨沙が何もできないまま、その授業は終わった。

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 教師が教室を後にすると、再び女子の集団が梨沙を取り囲んだ。皆、携帯端末を取り出し、梨沙の恥ずかしい画像を表示しては、わざとらしく心配そうな表情を作っていた。
「ねえ、梨沙ちゃん・・・これって、合成じゃない、よね・・・」
「まさか梨沙ちゃんが、こんな・・・ねえ・・・何か、理由があるんでしょ?」
「私たちだけに教えて、どうしてこんなこと、しちゃったのか・・・絶対、秘密にするから・・・」
「だけどさ、さっきの脅迫、どうするの・・・ほっといたら、さっきの写真、ばらまかれちゃうんでしょ・・・」
皆、表面的には心配で声をかけた風を装いながら、意地悪な気持ちで目が輝いていた。ほら、男子達も見てる前でストリップ、しちゃったら、優等生の生徒会長さん(笑)・・・

 梨沙はもはや、表面的な会話もできなかった。何を言っても、信じてもらえるわけがない・・・いや、ごまかせないと言った方が正しかった。いやあ、どうしたらいいの、私、分からない・・・梨沙は救いを求めるように教室の一角を見たが、やはり芳佳はいなかった。

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