PART 97

 園城寺達が料亭で有希の今後について話している時、当の有希は、次のピンチを迎えようとしていた。愛液に濡れてしまった股縄に続いて、身体中を縛っている縄が、有希の汗で解け始めていたのだ。そしてそれはあっという間に広がり、一カ所の結び目が解けると、一瞬のうちに縄全体に伝播した。するするするっと赤い縄が有希の裸身の上でのたうったかと思うと、それはついに、有希の身体から離れ、地面へと落下していった。ほんの30秒程度のうちに、縄は完全に地面に落ちてしまった。

 それでもしばらく、有希はうっとりとした表情のまま、頭の後ろで両手を組み続けていた。ギャラリーには、言葉を失っている者と、有希が気付くのを少しでも遅らせようと黙っているものの2タイプがいたが、いずれも有希が全裸になったことを本人に知らせない点では同じだった。そしていつしか、サンバと合わせるように大きな手拍子が始まった。

 燦々と降り注ぐ太陽の光、大音量で激しいリズムのサンバ、周りで楽しそうに踊るダンサー達、見渡す限りの道路を埋め尽くす観客達、笑顔と大きな手拍子・・・ああ、気持ちいい・・・さっきまでは身体をきつく締め付けていた縄の感覚もなくなっている・・・有希はすっかり開放的な気持ちになり、頭の後ろで組んでいた手を離し、にっこりしながら観客に向けて手を振った。身体がゆっくりと回転したため、周囲の全員に向けて手を振ることができた。みんな、ありがとう・・・

 大観衆の注目を一身に浴びながら、にっこりと笑顔を見せ、軽くあげた手を振っている美女・・・それだけを見ると、まるで王妃のパレードのようだった。
 しかし、今の有希は、腕飾りと脚飾りとサンバシューズの他は何も身に付けていない全裸だった。形が良く張りのある乳房が陽光に白く光り、M字開脚の股間では、無毛の恥丘とその中心の秘裂、さらにピンクの肉壁までがちらちらと見えていた。後ろから見ると、ふっくらと柔らかそうな大きなお尻の膨らみが魅惑的だった。 

 ある意味で幸福の絶頂にあった有希だったが、それは唐突に終わりを告げた。観客達の視線がふと気になり、下を見た瞬間、有希の顔がさっと強ばった。
「・・・え?・・・えっ、あっ!・・・う、うそっ!」
沿道の観客達と「琴乃」の男女が意地悪な気持ちで注目する中、有希は目を見開き、悲鳴をあげた。
「お、お願い、下ろして、サンドラ!・・・きゃ、きゃあっ!」

 有希が悲鳴をあげたのは、身体を隠そうとした両腕を後ろから掴まれ、引っ張られたからだった。マルシアの手はそのまま、用意してあった紐を有希の両手にくるくると巻きつけて結び、あっという間に後ろ手縛りにしてしまった。


 ーーー無名のサンバチームが田舎町の祭りで少しばかり好評を博したからといって出場できるほど、東京サンバカーニバルは甘くなかった。彼らが今回出場できたのは、Fテレビからの強いプッシュがあったからだった。そして、Fテレビは、彼らを推薦するための条件として、有希を出演させることを提示したのだった。さらに、サンバの最中にFテレビからの指示を忠実に実行すること・・・サンバチームは、一も二もなくその条件に飛びついたのだった。−−−


 おおおっ・・・今まで拍手をしていた観客達が、後ろ手に縛られた有希の全裸M字開脚姿を見て、地鳴りのような歓声をあげた。有希を大股開きにして高々と掲げているサンドラは、明るい笑顔で楽しそうにステップを踏み、周囲に見せつけるように回り続けていた。

 「いや、やめて、サンドラ、お願い、下ろしてっ・・・マルシアっ、手をほどいてっ!」
有希は脚を少しでも閉じようとしながら叫んだが、大音量の音楽と沿道を埋め尽くす観客達の歓声に掻き消されてしまった。ゴールが約百メートルほど先にようやく見えてきていた。しかし、高々と掲げられ、開き切った秘裂に数千・数万の視線が食い込んでくるのを感じると、もはやこの羞恥地獄が終わる時を想像できなくなっていた。いや、これは地獄ではなく、天国かもしれない・・・有希はいつしか、男達の刺すような視線が、まるで秘裂の奥の襞を直に抉るように感じ、ぶるぶると腰を震わせ始めていた。あ、だめ、だめぇ・・・う、嘘っ、気持ち、いい・・・

 ダダダダン、ダダダダン・・・ゴールを目前にして、音楽隊のリズムが早くなり、音量もさらに上がった。腹の底に響くようなその振動が、有希の下半身を刺激していた。男達の視線が膣の奥まで突き刺さってかき回すように感じていた有希は、その大音量を全身で感じ、一気に官能が高まってしまっていた。

 「あ、ああ、あんっ、あっ、あっ、あんっ!」
ついに有希は、快感に悶えて唇を半開きにし、喘ぎ声をあげ続けるようになった。その声こそ聞こえないが、可憐な美女が性的な快感に悶えていることは明白であり、観客達はさらに歓声と野次を有希に浴びせた。もはや規則など気にせず、大勢の男達が本格的なカメラを掲げ、有希の姿態を記録し続けていた。

 いーっちゃえ!、いーっちゃえ!・・・有希にとって、聞き覚えのあるコールが観客から沸き始めた。それはS書房が数人の男達を使って仕掛けたものだったが、彼らの想像どおりの効果をあげることになった。仕掛け人の男達が始めたコールはあっという間に周囲に広がり、F町の時よりも遙かに大きな合唱に成長した。

 あ、ああ・・・有希はもはや、目の前がぼうっと濃霧に包まれたような感じがしていた。脳裏には、F町祭りの時に、初めて大勢の人たちの前で素っ裸になり、何度も絶頂に達してしまった時の記憶と感覚が蘇っていた。あの時の、死ぬほど辛くて、恥ずかしい気持ち・・・そして、もうどうなってもいいと思ってしまうような、ぞくぞくする快感・・・M字開脚姿のままの有希は、秘裂がぐっしょりと濡れている様子までも、夏の陽光の下で晒してしまっていた。あはは、おまんこぐしょ濡れ、という野次も聞こえなかった。うっとりと目を閉じ、唇を半開きで喘ぎ声を漏らし続け、快感に溺れていった。もっと見て、私の恥ずかしいところ・・・

 いつの間にか、有希を宙に持ち上げる役がマルシアに交代していた。
「ユキチャン、トッテモカワイイネ」
サービス精神旺盛なマルシアは、わざと沿道の近くに寄り、有希の全裸M字開脚姿を観客達の眼前に見せつけた。
「ホラ、アイサツシナサイ!」
後ろから近づいてきたサンドラが、有希のふっくらした尻をパシーンと叩いた。

 その刺激にはっと意識を取り戻した有希だったが、今度は至近距離に観客達がいるのを見て、またもや悲鳴を上げた。
「あ、い、いや、いやっ、いやあああ・・・」
しかし、お尻ペンペンの恥辱の記憶までもが一気にフラッシュバックし、有希の恥辱と官能は一気に頂点に達した。
「あ、ああ、ああん、だ、だめっ・・・あ、いやあああ・・・」
自分の意志に反し、腰がびくんびくんと震え始めたかと思うと、秘裂の中心からびゅっ、びゅっと飛沫が飛び始めた。あろうことか、サンバを見に来た大観衆に向けて潮を吹いてしまっている・・・有希はあまりの羞恥に首を左右に振った。こ、こんなの、恥ずかし過ぎる・・・しかし、潮は止まらず、観客に向かって迸り続けていた。うわ、すっげぇ、と男達がはしゃぐ声がさらに有希を悩乱させた。
「いや、だめ、もう・・・あ、ああ、ああぁぁ・・・」
有希は一際大きくビクンビクンと全身を震わせると、ついに絶頂に達した。しかし、股間から吹き出す潮は、なかなか止まらなかった・・・


 ・・・そしてその数分後。有希はうっすらと瞳を開き始めた。
(・・・え、私・・・あれ、ここは?・・・)
目の前がぼんやりしている有希は、不思議な感覚に目をこすろうとした。あれ、手が動かない・・・暑い、肌にじりじり熱を感じる・・・

 さっきまでは大音量に包まれていたような気がするのだが、今は周囲は静かだった。誰かが、私の身体を持ち上げている・・・私、脚を思いっきり広げられてる・・・あれ、ひょっとして私、服を着ていない?・・・ここは一体どこなの・・・

 必死に目をこらすと、視界を覆っていた霧が徐々に晴れていった。目の前には、大勢の観客、カメラ、ブラジル人のサンバダンサー、音楽隊、反対側の沿道の男の人の顔、カメラ・・・有希はようやく、自分が全裸M字開脚姿で空中で回転され続けていることを理解した。そして、その格好で快感に悶え、さらに潮を吹いて絶頂に達してしまったことも・・・

 ひ、ひぃ・・・と有希が悲鳴をあげかけた時、身体がふっと浮いたかと思うと体勢を変えられ、マルシアの肩の上に腰をかけられてしまった。お尻タンバリンの格好!・・・有希は尻を叩かれると思い、足をばたつかせて抵抗しようとした。

 しかしその時、有希は異様な感覚に口をぱくぱくさせた。予想と違い、お尻の穴にぐいっと何かが入ってきているのだ。それは棒状のもので、ジェルのようなものを纏って、有希の尻の穴の奥に向けて進んできていた。いや、やめてっ、と悲鳴をあげたが、それはさらに奥まで進み、ようやく止まった。

 「いや、やめてっ、取って!」
有希がまた、足をばたつかせたが、マルシアにしっかりと押さえられてはどうしようもなかった。そして有希の身体の動きに反応するかのように、尻の穴に入った棒が上下に動き、肛門の中を上下に抉りたてた。
「ん、んん、んぐぅぅ・・・」

 シャンシャンシャン・・・自分の呻き声と共に、どこか聞き覚えのある音が聞こえた。ま、まさか・・・いや、そんな・・・有希はまた、足をばたつかせた。
 シャカシャカ、シャン・・・再び肛門を抉られるおぞましい感覚に悶えながら、有希は嫌な予感が当たったことを悟った。ひどい、お尻にマラカスが刺さってる・・・

 抵抗する有希の動きが止まった。大観衆が見つめる中、尻でマラカスを鳴らす屈辱に耐えられなかったのだ。まさか、音楽が止まっているのも、観客が黙っているのも、私のお尻マラカスを楽しむため?・・・

 パシーン!・・・丸出しの尻がマルシアによって叩かれ、有希は思わず悲鳴をあげた。そして腰を震わせ、図らずもマラカスを鳴らしてしまった。ぷっ、と失笑が観客達から漏れたのが恥辱を煽った。

 「く、くああ・・・あ、あん、あぁぁん・・・」
尻を叩かれると、尻肉がぶるぶる震え、さらにマラカスが上下に揺れて尻の穴の中を抉り、有希の官能を波状的に責めたてられることになった。衆人環視の中での恥辱と異様な快感に、有希は顔を歪めながら、淫らな喘ぎ声をあげるのを止めることができなかった。だ、だめ、これ以上されたら、おかしくなっちゃう、有希・・・

 パシーン、シャンシャン、ひぃぃ、あぁあん・・・パシーン、シャカシャカ、あぅぅ、あぃぃ・・・パシィ、シャカシャンッ、あぁ、あぁっ、あぁぁぁ・・・夏の陽光の下、黒山の人だかりの視線が集中する中、奇妙なサンバが展開されていた。この頃には、他の地点にいた報道関係者達も騒ぎを聞きつけて集まり始めており、沢山の大型カメラやビデオカメラがその痴態をしっかりと撮影するようになっていた。一部のカメラマンは、たまらず沿道から道路に飛び出し、至近距離からレンズを向けた。集音マイクを突きつける者までいた。

 「有希ちゃん、可愛いよ、もっとお尻振って!」
「二階堂さーん、顔を上げて、こっちに視線くださーい!」
「お尻タンバリンとお尻マラカスの合奏して、どんな気持ちぃ?」
「緊縛とすっぽんぽん、どっちが気持ちいい?」
「さっき潮吹きショーしたんでしょ? もう1回お願いしまーす!」
「可愛い喘ぎ声、もっと大きな声でお願いしまーす」
「マラカスも、もっと腰を大きく振って、大きな音で鳴らしてくださーい!」
「あ、俺も撮り損ねた、回りながらの潮吹きショー、『人間スプリンクラー』って奴?(笑)」
「Fテレビでーす、もうすぐ生中継入りますが、この絵、放送してもいいですかあ?」

 「そ、そんなっ、駄目です! と、撮らないでっ! あ、あんっ、あぅぅ・・・」
この格好をテレビで全国に生中継される!!・・・有希の表情がさっと強ばった。もちろん、性器まで露出している姿を放送できるはずなどないのだが、冷静にそう考える余裕はなかった。しかし、マルシアは上機嫌で尻を叩き続けていたため、有希は図らずも淫らに悶える姿と可愛い喘ぎ声を提供することになってしまった。


 尻を叩かれ、マラカスが淫らな音を鳴らし、尻の穴を抉られ、カメラのシャッター音が連続して響き続ける、乳房・秘部・尻が丸出しになりギャラリーの視線が容赦なく突き刺さる・・・有希の脳裏で、再びフラッシュバックの連鎖が始まった。沢山の顔見知りの前で衣装を剥ぎ取られ、全裸にされ、快感に悶え、絶頂に達し、潮を吹き・・・祭りの熱気、学校のテニスコート、駅前広場での募金、学校の朝礼台、会社の会議室、取材先、アイリス映像、料亭、夜の公道・・・究極の恥ずかしさ、屈辱、そして露出の快感・・・怒濤のように押し寄せる感覚の洪水に、有希の目の前がまた、真っ白になっていった。こんなのひどい、ひどすぎる・・・でも、気持ち、いい・・・

 「ソレジャア、ユキチャン、ヒトリデヤッテミテ」
マルシアは唐突にそう言うと、肩に抱えていた有希の身体を、ゆっくりと地面に下ろしていった。有希はそのまま、地面で四つん這い姿を晒すことになった。高々と掲げられた尻には、まだマラカスが突き刺さっていた。

 「あはは、有希ちゃん、よく似合ってるよ。エロケツにマラカス!」
「ほら、早く見せてよ、一人でお尻マラカス!」
「Fテレビでーす、もうすぐ放送入りますので、派手にマラカス振っていただけますかあ?」
どこからともなく、マーラカス、マーラカス、と卑猥なコールが起こり、あっという間に有希を包み込んだ。

 「・・・え、そ、そんな・・・いや、いや、そんなの・・・」
全裸で四つん這い姿の有希は顔を上げ、救いを求めるように周囲を見たが、皆が笑ってコールし、拍手をしているのが見えただけだった。女性としてこの上なく屈辱的なポーズをやめたかったが、無数の視線に雁字搦めにされたかのように、なぜか身体が動かなかった。マーラカス、マーラカス、という地鳴りのようなコールの中、ギャラリーの視線が乳房や股間、尻に直接触れているような気がした。ああ、恥ずかしい、こんなの・・・き、気持ち、いい・・・有希は自分の秘裂の中にまた、愛液が溢れてきていることを悟り、恥辱に動揺すると同時に、どこか幸福感も味わっていた。



 −−−有希は知らなかった。今この瞬間が今後の人生の大きな分岐点となっていることを。

(a)羞恥と屈辱に耐えきれず泣き出した場合、今回のサンバについては、週刊Xの「ゆり」の企画だったこととし、有希はS書房の社員のままとする。
(b)快感に身を委ねて自らお尻マラカスを振り出した場合、アイリス映像からAV女優の「ゆり」としてデビューさせる。有希はS書房の社員とAV女優の二重生活を送らせる。もし、有希とゆりが同一人物とばれてしまった場合には、二階堂有希として「Supershot」上にヌードグラビアを掲載し、AV女優として正式にデビューすることを宣言させる。

 ・・・これが、有希が憧れ慕っていた園城寺幹雄が、有希のために用意した「シナリオ」だった。


 数十秒後、全裸で晒し者になって恥辱の限りを味わわされた有希は、ついに次の行動に出た。
その姿を見たギャラリーは思わず息を呑み、「琴乃」の一室では喝采と溜息が同時に響いた。

(完)


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