PART 8

 第3ゲームが始まった。スコアはまさかの浩の2ゲーム連取だ。
 その結果、彩はアンスコとトップスを脱ぎ、ピンクのブラだけの上半身を晒してコートに立っていた。レシーブをするためには右手でラケットを持ち、左手をそこに添えなければならない。陽光が直接肌に当たるのを感じ、彩は恥ずかしさに顔を歪めた。まさか、こんなことになるなんて……レシーブに集中しなければならないのだが、視界がじんわりぼやけていた。

 一方、ギャラリーとなった男子たちにとって、それは夢のような光景だった。サークルで一番人気だった少女がブラ姿で上半身を晒し、テニスをしようとしているのだ。薄く焼けた肌と水着後の白い肌のコントラストがはっきり見えるのがまた刺激的だった。
「いい絵だな、若杉のブラ姿」
「頬っぺた赤くしちゃって、やっぱり恥ずかしいんだな」
「日焼け跡、やっぱりエロいな(笑)」
「柔らかそうなおっぱいだな」
「やっぱでかいな、80以上あるよな」
 男子たちのヒソヒソ声が風に乗って聞こえてきた。

(ああ、みんな見てる……私、サークルでなんて恰好してるの……)
 いつも元気で負けず嫌いな彩が、羞恥に顔を歪め、口を半開きにしている姿は、男子たちの嗜虐心を一層煽っていた。

 反対側のサイドで、サーブを打つためにボールをつきながら、浩は考えあぐねていた。
(うーん、2ゲームでギブアップすると思ってたから、次を考えてなかったな。身体は直接触れないし、弄ってないのはリストバンドと靴下だけか……どっちも使えそうにないな)
 ネットの向こうの彩を見ると、いつものようなまっすぐな瞳ではなく、今にも泣きそうな顔だった。どこかへっぴり腰で、構えに力が感じられない。
(よし、とりあえずファーストを入れればなんとかなりそうだな……)
 浩は元気づいて、思い切ったサーブを放った。

 伸び伸びと打ったサーブはネット近くを越えると、サイドぎりぎりに突き刺さった。まさかのサービスエースだ。
「おお、やるなあ滝沢」
「エロパワーすご過ぎ(笑)」
「これはもしかするとスッポンポンか(笑)」
「ほんとにストリップになるかもな」
「頑張れよ滝沢、もう少しで若杉のオッパイが見れるぞ!」
 まさかの展開に、ギャラリーの男子たちは大喜びだ。浩を応援しながらも、皆の視線は彩の胸と腰回りに集中していた。

「先輩、ガンバ!」
「次取られたら下着だけですよ」
「そんなこと言ったら可哀想だよ」
 同情の目で見つめる女子たちの中、二人だけがどこか楽しそうな表情で声をかけていた。

 できるだけ周囲の声は気にしないようにしていた彩だったが、女子たちの声が聞こえてしまうと顔を歪めた。
(嘘、嘘でしょ、こんなの……このゲームを落としたら、今度はスコートを脱いでショーツだけの姿を見せなくちゃいけないなんて……)
 集中しなければならないと思うのだが、足が小さく震え、ラケットを握る手にも力が入らず、視界も少しぼやけていた。お願い、ファーストサーブは入らないで……いつもの彩らしくなく、必死に祈るしかなかった。

 彩の祈りが通じたのか、浩のファーストサーブはネットにかかり、フォルトとなった。さらにダブルフォルトを願ったがそれは叶わず、彩のフォア側にセカンドサーブが飛んできた。
「えい!」
 腰を捻ってスイングしたつもりだったが、ボールはラケットの芯を外れて当たり、力なく飛んで行った。ブラだけの上半身での初めてのスイングに男子たちが盛り上がるのが聞こえた。打つ瞬間に乳房が震えたことを囃し立てているのが聞こえてしまい、彩は顔がカッと熱くなった。気にしちゃ駄目、と自分に言い聞かせる。

 浩15−彩0からのセカンドポイントはラリー戦となった。乳房が震えるのを見られるのが恥ずかしくて思い切りスイングできない彩が、返すのが精いっぱいで決められないのだ。浩も攻めるが、彩のコートカバーに阻まれてやはり決められなかった。
 その結果、コートには「えいっ」、「おりゃ」、と二人の声が響き、黄色いボールはコートの左右を行ったり来たりした。しかしギャラリーの視線はほとんどそのボールを追わず、顔を赤らめてスイングする彩の上半身に集中していた。いつもはきりっと開いている大きな瞳が、どこか泣きそうにも見えるに潤んで見えるのがまた刺激的だった。

 そのラリー戦では、徐々に彩の球の力が弱くなり不利になっていった。調子に乗った浩の打ち込みに彩は必死に対応したが、どうしてもラケットに体重が乗らず、押され気味になってしまうのだ。
「へっぴり腰だぞ、女子部長」
「もうパンティはじっくり見せてるんだからいいじゃん(笑)」
「このまま取られたら素っ裸でテニスしてもらうよ」
「先輩、頑張って!」
「いつもの調子なら余裕ですよー!」
 男子からのからかい、女子たちの励ましの声が聞こえるが、彩はどうしていいか分からなくなっていた。注意をしても、スイングする度に乳房が震えてしまうのが恥ずかしかった。

 結局、長いラリー戦の挙句、ついに浩に打ち込まれ、彩はミスショットをしてしまった。
「サーティ・ラブ」
 武田の声が淡々と響いた。ああ、と小さく呻き、彩は顔を歪ませた。このままじゃ、私、もう一枚脱がなきゃいけなくなっちゃう・・・

 浩30−彩0からの3ポイント目。彩はレシーブの構えをしていたが、相変わらずボールに集中しきれずにいた。目はぼうっとしていて唇は半開き、ラケットを握る手にもどこか力が入らなかった。サークルの皆が見つめる中、ブラ姿を晒していることに慣れることはとてもできなかった。
(お願い、ファーストサーブは入らないで……)
 人の失敗に期待するなど、普段の彩ではありえないことだった。

 そんな彩の思いが通じたのか、浩のファーストサーブは入らず、セカンドサーブとなった。浩はボールを地面につきながら、彩の姿をじっと見つめた。
(よし、ここで時間停止を使ってフォーティ・ラブにするぞ……今まで弄ってなかったのは、ボールだけかな。いや、ブラのホックなら弄れないかな)
 浩は心を決めると宙に向けてボールをトスし、サーブの構えに入った。慎重に面を合わせてスイングし、ボールを打った。
(よし、これなら入るぞ。時間よ、止まれ!)

 時間が停止した。コートが薄青い靄に包まれ、静寂が訪れる。
 浩は素早く彩の背後までダッシュした。ブラしかしていない上半身を眼前にすると、その美しさと艶めかしさに息を呑んだ。心細そうに唇を半開きにしている彩の表情は、可哀想に感じると同時に、もっと恥ずかしい思いをさせてやりたい衝動を引き起こした。浩はそっと手を伸ばし、彩の身体に触れないように注意しながらブラのホックを摘まみ、くいっと引っ張った。
(動いた! よし、こうやって、ホックを外せば……できた! これで、彩ちゃんのオッパイ公開かな(笑))
 浩は興奮に口の中がカラカラになっていた。頼む、気づかずそのままスイングしてくれ……

 浩のみ動ける30秒が経過し、時間停止が解除された。
 浩のセカンドサーブが彩のサイドに飛んでいく。コースは良いが、スピードがあまり乗っていないサーブだった。レシーバーにとっては打ちごろの球だ。

(きた! これなら大丈夫)
 彩は恥ずかしさを堪え、ラケットを握る手に力を込めた。今は0−30なのだ。このポイントを取るか落とすかは非常に大事だった。瞬時に面の向きを確認したが、さっきのように変わってはいない。
 ぐっとラケットを引いた瞬間、背中に少し違和感を覚えた。しかし、今はボールを打つことに集中するしかなかった。
(気のせいよね、きっと……)
「えいっ!」
 彩は声を出して気合を入れると、一気にラケットを振った。

 パン、と軽快な音を立ててラケットがボールを捉えた瞬間、ギャラリーから悲鳴が上がった。
「きゃあ、先輩!」
「ブラ外れてます!」
 それは、いつも彩を慕っている二人の一年生の声だった。ホックを外されていたブラが、ボールを打った瞬間に跳ね上がったのだ。ブラのカップの左側は乳首に引っ掛かったが、右側は乳首の頂点を少し越えていた。その結果、右の胸は乳首以下が露出してしまっていた。

 二人の女子の声に男子たちが反応した。
「え、乳首見えてる?」
「まじ?」
「え、分かんない!」
「右だよな! ピンクかな……」

 同時に、彩も悲鳴をあげた。
「え?……きゃ、きゃああっ!」
 ブラのホックがなぜか外れ、右の乳首が露出していた。さらに振りぬいた瞬間の反動でブラが跳ね上がろうとしていた……
「い、いやあっ!」
 彩はラケットを放り出し、必死に両手で胸を覆った。

 おおっとどよめくコート。しかし、ギャラリーの期待に反して彩の動きは素早く、ブラが跳ね上がるのと、両手で双乳を隠すのはほぼ同時だった。その結果、彩はサークルの男女が見つめる中、いわゆる「手ブラ」姿で立ち尽くすことになった。
「ど、どうしてこんなことばっかり……」
 彩は涙目になり、唇を半開きにして呆然としていた。上半身下着姿だけでテニスをしているだけでも足が震えるほど恥ずかしかったのに、今はブラが捲れて、露出した胸を手で庇っているだけの姿を見られている……嘘よ、こんなの……しかし、両手が直接自分の乳房を触っている感触は現実そのものだった。乳首を手のひらで強く押し付け、少し快感を感じてしまうのが羞恥を増幅させていた。

 一方、サークルで一番人気の少女が露わな上半身を両手だけで隠し恥じらいに涙ぐむ姿は、男子たちを刺激するには十分過ぎた。
「え、ほんとに乳首見えたの?」
「一瞬だったからな」
「よく見えなかったよ」
「少しピンクが見えたかも」
「よかったな若杉、みんな見てないって」
「恥ずかしくって涙目、かわいい(笑)」
「手ぶらポーズいいね!」

 その一方で、浩は地団太を踏んで悔しがっていた。彩の乳首露出に気を取られ、返すだけで得点になったボールをミスショットしてしまったのだ。
「あー、くっそー」
(返すだけで40−0だったのに……もう1ゲームでパンティも丸出しにできるのに……)
 そう思いながらも、コートの向こうの彩の手ブラ姿から目が離せなかった。いかん、ゲームに集中しないと……

 その光景を見つめながら、女子達はあまりのことにしばらく呆然としていた。同性として、彩の恥ずかしさを考えると何も言えなかったのだ。しかししばらくすると、数名の女子達が声をあげた。
「よかったですね、先輩!」
「ちょっとしたハプニングで済みましたから大丈夫!」
「大丈夫、全然見えてませんでしたよ
 彼女たちの声には、どこか同情が少ないように感じられた。

 彩の手ブラ姿に意識を奪われたのは、審判役の武田も同じだった。しばらくの間のあと、ようやく
「サーティ・フィフティーン」
 とコールが響いた。

 その声に、彩が意外そうな表情を浮かべた。
(え、私のポイント?……滝沢くんがミスしたってこと?)
 このポイントを落としていればラブ・フォーティで絶望的な状況になるところだった……彩は少しだけほっとしたが、皆の前で裸の上半身を手で庇っている状況は変わらない。彩は恥ずかしさに顔を歪め、目にはじんわりと涙が浮かんできていた。

 さすがにちょっと可哀想だな……エッチなハプニングの連続に盛り上がっていたギャラリーが同情しかけた時、後輩女子達から声があがった。
「可哀想だから特別にタイムにしようよ」
「うん、それがいいよ」
「先輩、落ち着いてください」
「大丈夫ですよ」
 その声に他の女子達も同意し、彩を囲んで慰めた。

「よし、ちょっとタイムにしよう」
 空気を読んだ武田が宣言すると、女子達はコート脇に移動していった。

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