PART 9
武田の判断により宣言された3分の特別タイムが終了すると、女子達からの励ましの声を受けた彩がコートに戻ってきた。その様子は先ほどまでとは異なり、いつものような明るい表情を取り戻していた。先ほどまでの泣きそうな表情がすっかり消えていて、周囲の男子たちは好奇の視線で見つめつつも、からかいの言葉をかけることはなかった。
ギャラリーの視線がブラだけの上半身に集中するのを感じながらも、彩は必死に自分を励ました。
(そうよ、いつも水着着てるんだから、このくらい平気よ)
そうは思っても、さっきはブラが外れて一瞬乳首を見られてしまったことを思い出すと身体がかっと熱くなった。しかし彩は、顔を振り、軽くジャンプしてなんとか気持ちを整えた。
第3ゲーム、浩30−彩15の4ポイント目から試合は再開された。
浩の思い切ったファーストサーブが入ったが、彩は素早く反応してきっちりレシーブを返した。激しいスイングに乳房が揺れ、スコートがまくれてパンティが露出したが、彩は気にせず次のボールに備えてステップを踏んだ。
一方、予想外の厳しいリターンに浩は慌てた。決まったと思ったファーストサーブがそれ以上の速さで返球されてきたのだ。
(く、くそっ!)
必死にラケットを振ったが面を合わせるのが精いっぱいだ。ボールはネットの上を越えたが、ふらふらと飛んでいき、コートの真ん中ほどに落ちていった。
(よし、もらったわ!)
ボールの着地点を予測して動いていた彩は、フォアハンドでラケットを引き、右手に加えて左手でもグリップを握った。ダブルハンドだ。そのまま、スコートが捲れるのも気にせず、思い切りスイングをする。
「えいっ!」
掛け声と共にラケットの真ん中で捉えられたボールは、快音を発して浩側のコートへ飛んでいった。
「お、パンティ見えた」
「でもなあ」
「ダブルハンドかよ」
「本気だな」
ギャラリーの男子は彩の下着姿をしっかり堪能しながら、彼女の開き直りに感心していた。
ボールはそのまま浩のコートの端に突き刺さり、エースとなった。あまりの鋭さに浩は全く対応できなかった。
「サーティオール」
武田の声がコートに響いた。
浩30−彩30の5ポイント目。
ファーストサーブに失敗した浩はここで時間停止を使うことを決意した。
(同じところはもう弄れないとすると、あとはボールしか弄れないな……)
考えながら打ったボールは力なく上がり、彩の方へと飛んで行った。このままではスマッシュされるのは間違いなかった。
(よし、空中のボールを10センチ高くしよう。それなら届かないだろ)
浩は時間を止め、ネットに向かって駆け出した。空中のボールの真下まで来るとラケットを伸ばし、そのボールを10センチ高く押し上げた。彩はスマッシュの構えに入っているが、時間停止を解除したら、突然浮き上がったボールに戸惑ってミスショットするはず……
時間停止解除。
(あれ、急にボールが!)
ふわっと浮き上がったボールに彩は目を見張った。このままではラケットの先端で捉えるのが精いっぱいだ。
(よし!)
彩は地面を膝を少しかがめ、地面を蹴ってジャンプした。スコートの前がふわりと捲れ上がったが気にせずスマッシュの構えに入った。
「おお、膝曲げジャンプ!」
「パンモロ!(笑)」
「写真撮りてえー」
「ピンクのパンティ可愛い」
すかさず男子のギャラリーがからかった。彩が動揺してスマッシュをミスすることを願う不埒な者もいた。
「うわ、若杉さん本気だ」
「かっこいい!」
「滝沢さんなんて相手じゃないもんね」
「男子が絶対に撮らないように見張ってますからね」
女子達は開き直って頑張る彩の応援一辺倒になっていた。
「えい!」
彩は空中でラケットを振り切り、ボールを捉えた。ジャンピングスマッシュが見事に決まり、ボールは浩のコートに突き刺さるように飛んでいく。
一方、真正面でパンティを見せつけられた浩は一瞬気を取られてしまった。
(うわ、パンティ丸見え……あ、まずい)
慌ててラケットを出した浩だったが、ラケットの先端に当てるのが精いっぱいだった。ボールは力なく飛び、ネットの手前に落ちた。
「あ、ちくしょー、くっそー」
大事なポイントだったのに、と浩は地団太を踏んだが、視線は目の前の彩に向けれていた。ジャンプしていた彩が着地した瞬間、スコートの前後左右までが大きく捲れ上がり、彩のパンティだけの下半身姿が完全に露わになっていた。
「よし!」
会心のショットに笑みを浮かべた彩だったが、次の瞬間、顔を引きつらせて悲鳴をあげた。
「……きゃ、きゃあっ!」
慌てて両手でスコートを押さえたが手遅れだった。数秒間、彩のパンティ姿はサークル全員の視界に晒されてしまっていた。
「おおお!」
「若杉の下着姿大公開!」
「これは恥ずかしい(笑)」
「デビュー作はコスプレか」
「これで全員見れたな」
「いい太ももしてるな」
男子たちはもはや遠慮を忘れ、大盛り上がりだった。
「ちょっと男子、いい加減にしなさいよ」
「ほんと、最低!」
「よし、ブレイクポイントですよ!」
「先輩、頑張って!」
一方の女子達は同情しながら声援を送った。
「サーティ・フォーティ」
少し遅れて、審判の武田の声が響いた。
次のポイント。
浩のファーストサーブが入ってきたが、すっかり慣れてきた彩はコースを読んでいた。
(やっぱりサイドに打ってきた……このポイントで決めるわよ)
小刻みにステップを踏み、腰を深く屈める彩。左側のスコートが大きく捲れるが気にしない。ラケットを構えて着地するボールを見ると、ボールは低く跳ね、少し方向を外側へと変えた。
(あ、スライスサーブね、もう一歩踏み込んで)
「えいっ!」
腕を伸ばして手首をぐっと曲げ、強引にボールを叩いた。スイートスポットで捉えたボールは、サーブ以上の速さで返された。
決まったと思ったサーブがあっという間に返ってきて、浩は慌ててラケットを差し出した。構えている暇はなかった。
(こんな厳しいショット、マジかよ)
「うりゃ!」
なんとか面を合わせてボールを返したが、その時には彩がすでにネットに詰めてきていた。
「はい!」
あっさりとボレーを決めた彩は、小さくガッツポーズを作った。
「ゲーム、若杉!」
女子達の歓声と共に武田の声がコートに響いた。
これでゲームカウントは、彩1ー浩2、となった。ついに彩が1ゲームを取り流れが一気に変わった。彩はウェアを着て上半身を隠すことができた。ただ、アンスコは脱いでいるので、スコートの下はパンティのままだ。一方の浩はウェアを脱いで上半身裸になった。
(ふふ、パンチラくらい仕方ないと思ったら怖いものなんてないんだから)
開き直った彩にとって、もはや浩はテニスの敵ではなかった。
第4ゲーム開始。
彩は小さく息を吸うと、ゆっくりと腕を伸ばしてトスを上げ、宙に浮いたボールを見つめた。その後、迷いのないスイングで集中してファーストサーブを放つ。勢いよく振りぬいたおかげで、スコートが捲れてパンティが露わになったが、気にしない。
(よし、いいコースに飛んで行った!)
会心の当たりに彩は小さな笑みを浮かべた。
浩の想定どおり、サイドの隅に向かってサーブが飛んできた。しかしあまりの速さにラケットが振り遅れた。
「あ、くそっ」
必死に伸ばしたラケットをボールに当てることはできたが、ボールは力なく飛び、ネットの前に落ちてしまった。
その後も彩のサーブが好調で、辛うじてレシーブしても切れのあるショットで返され、浩にはつけ入る隙が全くなくなってしまった。
そのまま3ポイントを連取され、このゲームは2分も経たずに終わった。
「ゲーム、若杉」
呆れたような武田の声がコートに響く。その声のトーンには、少し残念そうなニュアンスも感じられた。
ギャラリーの男子達はあからさまに落胆の表情を浮かべた。その様子を女子達が笑って見ていた。
「こりゃ駄目だ」
「滝沢、パンイチだな(笑)」
「やだー」
「見たくなーい(笑)」
ゲームカウントは、彩2ー浩2となり、2ゲームを連取した彩はアンスコも穿いて元の姿になった。一方、浩はズボンを脱いでパンツ一枚になってしまった。男子の方がブラとアンスコが無い分、2枚分の不利があった。
次のゲームを取られてしまったら、自分が全裸になってしまう……浩はラケットを握る手に力を込めた。しかし、サークルの女子達が見守る中でパンツ一枚だけの姿を晒すのは、男子と言えども恥ずかしかった。
今度のゲームは浩のサーブだ。左手でボールを地面に付きながら、浩は必死に心を落ち着けた。
(くそ、時間停止しても、もう触れる部分がない……頼む、サーブが入ってくれれば……)
左手でボールをまっすぐに上げた……つもりだったが、わずかに位置がずれた。ラケットを持った右手を振りながら微調整したものの、ボールはネットにかかってしまった。
次のセカンドサーブは甘くなり、すかさず彩に打ち込まれた。ラケットの先で浩がなんとか返したボールは、ふらふらとネットを越えていった。しかし彩が前に詰めていて、ボールが落ちてくるのを待ち構えていた。
(よし、スマッシュで決めるわ!)
軽くジャンプしながらラケットを振ると、パーンと快音を発してボールが浩側のコートへと突き刺さった。
スマッシュされた球に必死にラケットを伸ばす浩。しかしボールはあっという間にその先を通り過ぎていった。
「あ、くそっ」
浩は地団太を踏んだが、もはや力の差は明らかだった。
その後も彩のレシーブが好調で、浩は2ポイントを連取されてしまった。
(くそ、0−40か……サーブ入れ!)
やっとファーストサーブが入った。彩がレシーブを返してきて、このポイントは珍しくストローク戦となった。
もはや浩がパンツを脱ぐことになるのは時間の問題だった。ギャラリーたちは冷たい笑いを浮かべて二人のストロークを眺めていた。
一方の彩は全く容赦がなかった。さっきはブラを露出までさせられてしまったのだ。
(絶対にこのポイントで決めるわ!)
力を込めてスイングすると、浩がミスショットをするのが見えた。
「よしっ!」
彩は思わずガッツポーズを作った。
「ゲーム、若杉」
武田のコールが響き、試合の事実上の決着を告げた。
その瞬間、コートを取り囲んでいたギャラリーがわっと盛り上がった。
「全然駄目じゃん」
「滝沢、素っ裸かよ(笑)」
「やだー」
「ほんとに?」
「見たくなーい(笑)」
きゃーきゃー言いながら、女子達も好奇の視線で浩を見ていた。
「どうする? 確か男子はギブアップなしで全部脱ぐルールだったよね?」
彩は勝ち誇った表情で浩を見つめる。
「約束は守らないとね?」
「ああ、まあ……」
浩は呆然としながら呟いた。時間停止ができたのに、まさかこんなことに……
コート上が静かになり、ギャラリーのひそひそ声だけが聞こえた。
(ひえー)
(若杉厳しいな)
(ストリップ言い出したの滝沢君だし)
彩と浩を交互に見ながら、今後の展開をじっと見守った。
数秒の沈黙の後、彩が笑みを浮かべた。
「……嘘よ。一枚脱ぐ代わりに、女子全員に土下座して謝ってくれる?」
「ここで土下座だと……」
浩は屈辱に唇を噛みしめた。パンツ一枚の姿で、サークル全員の前で土下座する……それは、男にとっとあまりにも屈辱的だった。
「どう、少しは女子の気持ちが分かった? 言っとくけど、女の子にとっては、あなたの何十倍も恥ずかしいのよ」
彩は勝ち誇って言った。
「それとも、土下座よりも裸になった方がいい? それでもいいけど、そのまま6ゲーム終わるまで試合してもらうよ?」
「う、そ、それは……」
浩は言葉に詰まった。百パーセント、彩が正しいので反論はできないが、もう少し情けをかけてくれてもいいのでは……そんな勝手な思いで恨めしく思った。でも、どうしたら……
「はい、この試合はこれでゲームセット!」
審判台の上から武田の声が響いた。
「もうそのくらいでいいだろ。今日はこれで終わり。滝沢はしっかり反省すること!」
分かったよ、と浩が呟いて、その場が収まることになった。
こうして、浩の卑劣な企みは失敗に終わることとなった。
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