PART 40b

"残念だけど、仮想用データ作るのがすごく大変だから、麻衣子ちゃんの分しかないんだよね"
「声」の青い文字がネット中継のモニターに表示されると、スタジオに安堵の空気が流れた。

 ネット中継映像には、ニュースを読む栗山の姿と共に、左下のワイプ画面に麻衣子の姿が映し続けられていた。
すかさず視聴者のコメントの文字が流れた。
<麻衣子ちゃん、今ほっとした顔したよね?>
<やっぱり栗山は好みじゃないんだ>
<と言うより、処女だからだろ>
<公開フェラは許してあげるから、早く脱いでよ>
これらの言葉は、白い文字でネット中継モニターに表示されると同時に麻衣子の脳内にも直接聞こえていた。平静を装おうとしても、麻衣子は表情が強ばるのを止められなかった。

「……群馬県のN村、K町など7町村となっております……」
栗山がそこまで読み終わると、放送画面が群馬県のダムの録画映像に切り替わった。水不足のため、ダムの水位は半分ほどになっていた。

"ほら、麻衣子ちゃん、早く脱がないと"
「声」が麻衣子の脳内に響き、同時にモニター画面に青字で表示された。
"もう時間ないから、前に出てこなくていいよ。そこでそこでパンティを脱いで、手で掲げること"

 左下のワイプ画面の中の麻衣子の顔が一瞬、引きつった。
『無理よ、そんなの』
ピンクの文字がネット中継モニターに表示された。
『だって、今日はキュロットなんだから……!』
心に思ったことがすぐに文字になってしまう……余計なことは考えちゃだめ……目の前のテレビカメラを見ながら、麻衣子は放送に集中しようとした。

<おお、すごいリアルな仮想コメント!>
<顔が引きつってるのが芸が細かいな>
<今日はキュロットってほんとかな>
<これって、本当に仮想映像なの?>
<本当だったら最高だな。生放送中にストリップ!(笑)>

"へえ、キュロットなんだ。じゃあ、上を脱ぐだけでいいから"
青字が表示された。
"もう時間がないよ。できなかったらどうなるか、分かるよね?"

 麻衣子はちらりと視線を有川に向けた。気づいた有川が小さく頷いてみせた。今回が最後の全裸放送なんだから、やるしかないだろう……どうせ前回の放送はネットにばらまかれているんだし……有川が目でそう言っているのが分かった。

 栗山のコメントが終わりにさしかかっていた。あと10秒……麻衣子は諦めると、レンガ色の袖フリル付Tシャツの裾に手をかけた。早く脱げよ、オッパイ見せて、乳首可愛いよね、先週の全裸放送死ぬほど見たから覚えてるよ、それよりオマ○コ見せて……耳を塞ぎたくなるようなヤジが浴びせられたが、脳内に直接聞こえて来るのを止めることはできない。

『これは、仮想なんだから……』
麻衣子の内心がネット中継モニターにピンクの文字で表示された。

<そうそう、仮想なんだからぱあっと脱いじゃいなよ>
<ていうか、これって、本当に仮想コメントなの?>
<妙にリアルだよな>
<実は、本当に麻衣子ちゃんの内心の声だったりして>
<てことは、マジで生ストリップしてくれるってこと?(笑)>

(……!)
一瞬のうちに脳内にメッセージが認識され、麻衣子の手がぴくりと止まった。でも、脱がなくちゃ……麻衣子は慌ててシャツを握った手を上げた……

 しかし、時間が足りなかった。栗山がニュースを読み終えると麻衣子が放送画面に映るのだが、麻衣子はその時、シャツの裾を首の辺りまで持ち上げたところだった。もう間に合わない……麻衣子は仕方なく、その状態で手を下ろし、ガラステーブルの上の原稿に目を落とした。

「昨日のニューヨーク株式市場は、アメリカの主要企業の業績が拡大していることを背景に買い注文を出す流れが続き、ダウ平均株価は小幅に値上がりし、7営業日続けて最高値を更新しました……」
麻衣子はいつもどおり、カメラ目線で平静な声で話すことができた。放送映像では、仮想着衣システムがしっかり機能していて、肩にフリル付きのレンガ色のセーターを着た麻衣子の姿が映し出されていた。

 しかし、ネット中継モニターの中の麻衣子は、そのセーターを胸の上まで捲り上げており、その下からはレースに縁取られた白いブラジャーが丸出しになっていた。ぶりっ子ブラ、可愛い、早くオッパイ見せて!……からかいの声が脳内に直接聞こえて、麻衣子を羞恥にまみれさせた。

 ここからは、放送映像はニューヨークの証券取引所に切り替わり、ネット中継モニターでは左下にワイプ画面が表示され、ニュースを読む麻衣子の映像が表示され続けていた。

"麻衣子ちゃん、全部脱がなかったから、ペナルティだよ"
「声」が麻衣子の脳内に響き、同時にネット中継モニターに青字で表示された。
"ブラのホックを外しまーす"

 ブラの締め付けがふっと緩くなったのを感じた麻衣子は、一瞬顔を引きつらせたが、すぐに普段の表情に戻った。ブラを露出しているのは仮想脱衣システムであり、現実には着衣ということになっているなのだから、表情を乱すことはできない。
「……昨日のニューヨーク株式市場は、最近発表されたアメリカ企業の決算内容がよく、景気の先行きに対する期待感から買い注文を出す流れが続きました……っ」

 ブラジャーの両方の肩ひもがそれぞれ外側へとすうっと動かされ、腕に沿って落ちていった。それに引っ張られるように、双乳を覆うカップも乳房からはらりと剥がれ、落ちていった。ネット中継モニターのワイプ画面には、麻衣子の乳房が露わになる一連の動きが全て映し出されていた。

<おお、ニュース読みながらオッパイ露出!>
<分かってるねえ、仮想脱衣システムの作者!>
<生っ白くて、柔らかそうなオッパイ!>
<ピンクの乳首、すっごく可愛いよ>
<あはは、お澄まし顔でニュース読みながら、オッパイポロリ!>
<生放送のテレビと並べて見ると、最高だな!>
<着衣版と脱衣版同時放送(笑)>
ネット中継モニターに白い文字が溢れ、麻衣子の脳内に響いた。

 しかし、麻衣子はニュースを読み続けるのをやめるわけにはいかない。落ちたブラジャーの紐が肘のところに絡んで止まっていたが、両手を上げてもとに戻すこともできない。放送映像では、麻衣子はレンガ色のシャツを着たままなのだから……
「……市場関係者は『アメリカの政策金利の引き上げはゆっくり行われるという見通しに加えて、主要企業の業績が拡大し、投資家が株に投資しやすい環境になっている』と話しています」
麻衣子はとにかく原稿に集中して、なんとかそれを読みきった。しかしその間も、麻衣子の乳房や乳首を批評したり、もっと嫌らしい姿を期待する声が容赦なく脳内に響き、麻衣子の羞恥を煽っていた。柔らかそうなオッパイ揉んでみたい、パイズリしたい、ソーププレイしてくれたらいくら払ってもいいな、やっぱり乳首勃ってるよな?……

『いやあ、こんな姿を大勢の男の人に見られているなんて……駄目、考えたら……ああ、モニターに表示されちゃう……』
思ったことが逐一モニターに表示されてしまうことも、麻衣子の困惑に拍車をかけていた。乳房を露出した姿を生中継され、何万人もが見ていると思うと、羞恥に身体が熱くなってくるのを止めることは難しかった。しかも、男のいやらしい欲望を直接聞かされるのは、初な麻衣子にとってあまりにも辛かった。
『お願い、変なこと言わないで……嫌らしい目でみないで……』
しかしその内心の声は、却ってネット視聴者を喜ばせることになり、さらに嫌らしいからかいを誘うことになってしまった。

『麻衣子ちゃん、顔が赤いよ! 平常心、平常心!』
インカムから有川の声が響いたが、たくさんのネット視聴者のからかいの声に紛れ、麻衣子には届かなかった。

 次のニュースは栗山の番だ。今日のニュースはあと4つあった。ネット中継に表示される文字は栗山にも見えていて、隣で乳房を露出して恥辱に悶える麻衣子の内心の声が表示されるのが特に刺激的だった。しかしプロとして、淡々とニュースを読み始めた。
「N県K市の40代の男性職員が、生活保護を受けている世帯に支払う保護費を着服していたことがわかり、市は警察に告訴する方針です……」

"それじゃ麻衣子ちゃん、ストリップの続きをよろしく"
「声」が青字で表示されると、ワイプ画面の中の麻衣子の眉がぴくりと動いた。シャツは捲り上げ、ブラは落ちたままだったので、乳房は丸出しのままだった。その頬はすっかり朱に染まっていた。
"まずそのブラとシャツは全部脱いじゃって、早く!"

『い、いやあ……』
ピンク色の文字がネット中継用モニターに表示され、少し恨めしげな視線の麻衣子が映し出された。その被虐の色っぽさは、ネット視聴者だけでなく、放送スタッフ達も魅了していた。青い字の主がもっと麻衣子を苛めてくれないか……皆がそう思い始めていた。

 その間も栗山は淡々とニュースを読んでいく。早くしないと、またペナルティを課されてしまう……麻衣子は仕方なく、両手をシャツの裾にかけて持ち上げ、一気に脱ぎ去った。続けて腕に絡まったブラも外し、ガラステーブルの上に置いた。これで麻衣子は、上半身裸の姿をワイプ画面の中で晒すことになった。

 栗山のニュースは続き、K市役所の映像に切り替わっていた。

"それじゃあ次、そこでパンティ脱いで"
青い文字がネット中継モニターに表示された。
"キュロットスカートならそれも脱いじゃって。あと、ストッキングもね"
それじゃあ素っ裸じゃん、麻衣子ちゃん!、と白い文字が続き、麻衣子の頭の中は男たちの嫌らしい期待の言葉で満たされることになった。


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