PART 41b
「……市によりますと、この職員は、ことし1月から4月までの間に生活保護世帯に支払う保護費180万円を着服していました。この職員は……」
スタジオには、栗山の声が淡々と響いていた。放送映像のモニターには、取材に答える市の担当職員の姿が映っていた。
一方、ネット中継モニターには、放送映像と同じ映像の中にワイプ画面があり、上半身裸で困惑する麻衣子の姿が映っていた。その姿に被せるように、ストリップを促すコメントの白い文字が溢れていた。
<マイパイもいいけど、マイマン早く見せてー>
<引っ張るねえ、仮想脱衣のくせにい>
<本当は本物だったりして(笑)>
<まさか、生放送中にストリップする変態だったなんてなあ(笑)>
「ことし1月から、緊急を要する世帯に窓口で生活保護費を現金で支給する業務を1人で担当していて、架空の請求を9回繰り返したということです…」
ついに麻衣子の手が動き、スカートの裾を掴んだ。
『今はテーブルがあるから、映ることはないわ……』
自分の内心がすかさずピンクの文字として表示されたのを見て、麻衣子の顔が少し引きつった。
『これは仮想コメント。仮想脱衣なんだから……』
麻衣子はそのままキュロットスカートを脱ぎ、さらにストッキングを脱いだ。
「4月の支給額が、ふだんの月より多いことを別の職員が不審に思い、調べたところ不正が発覚しました。男性職員は、着服を認めて『魔が差してしまった。ご迷惑をかけました』と謝罪し、全額を返還したということです……」
『あと少しで読み終わっちゃう……脱ぐしかないのよ……』
麻衣子の内心は、非情にも全国のネット視聴者に向けて公開され続けていた。いいねいいね〜、一気に脱いじゃえ、ぬーげ、ぬーげっ、……すかさずからかいのコメントが溢れ、麻衣子は表情を崩さないようにするのが精一杯だった。
栗山が最後の文章を読み始めた。麻衣子は一瞬目をつぶると、一気にパンティを下ろした。片足ずつ膝を曲げて上げ、パンティを足首から抜いていった。これで麻衣子は、放送中のスタジオで素っ裸になってしまった。
《はい、パンティを大きく掲げて!》
「声」の命令がすかさず脳裏に聞こえた。
《顔の横まで持ってきて、カメラに向かってにっこり笑って!》
うわ、いくら仮想だからってひっでえ、などとコメントが盛り上がった。
『ひどい、こんなの……』
麻衣子は白いパンティを握った右手を持ち上げ、顔の横にパンティが来るようにした。しかし、とても笑顔を作ることはできなかった。右手も小さく震えてしまっていた。仮想脱衣システムすごーい、恥ずかしがり方が可愛い、よくできてるー、白いパンティ可愛い、と称賛とも揶揄とも取れるコメントが脳内に溢れた。
麻衣子が右手をガラステーブルに置くと同時に、栗山のニュースが終わった。次は麻衣子がニュースを読む番だ。ニュースはあと3つ、麻衣子が読むのはこれを含めてあと2つだ。しかしそのニュースを麻衣子は全裸で読まなければならなかった。先週までとは異なり、ネットでその姿は生中継されていた。唯一の救いは、ニュースを読む際には上半身しか映されないことだった。
すっと小さく息を吸い、ニュースを読もうとした瞬間、脳裏に「声」が響いた。
《麻衣子ちゃん、髪を直すの忘れちゃったね、残念でした、もう仮想脱衣ってごまかせないね》
「Y市で行われている高速道路の地下工事に伴って周辺の地域で地盤沈下が起き、住宅の壁にひびが入るなどの被害の情報が数十件寄せられていることがわかりました……」
『え、どういうこと?』
麻衣子は平静を装ってニュースを読みながら、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
『ごまかせないって、まさか……』
《さっき、シャツを脱ぐ時に髪が乱れたんだけど、放送映像でも同じように髪が乱れてるってこと。つまり、脱衣は仮想ではなくて事実ってことになるよね》
ニュースに被せるように「声」が聞こえ続けた。それは、同時に青い字でネット中継用モニターにも表示されていた。スタジオのスタッフ達がはっとした表情をしていた。
"残念だけどもう庇えないね。実は仮想脱衣じゃなくって、放送映像の方が仮想着衣だったってこと"
「声」は容赦なくネタばらししてしまった。それは、全国のネット視聴者が見ているモニターに同時に表示さているはずだった。
「……この工事は、ことし3月に開通した地下トンネルと地上の一般道をつなぐためのもので、6年前からY市で進められていたものです……」
麻衣子の声が少し震えていた。
(そんな! そんなことない、それも含めて仮想ってことにできるはず……)
その内心の困惑もまた、すぐにピンクの文字として表示されてしまっていた。
<嘘っ!?><すっげー><本当に素っ裸?(笑)><ちょ、ちょっとマジ?><確かに、放送映像の髪が乱れているのは仮想脱衣じゃ説明できないよな><じゃあこのオッパイ、ひょっとして本当に麻衣子ちゃんの?><すっげー、麻衣子ちゃんのオッパイ、白くて美乳!><乳首も淡いピンクで理想的!>……
予想外の事態に、視聴者達が困惑、歓喜するコメントが白い字で溢れた。「声」の指摘はもっともだが、公共放送の人気ナンバーワンの清楚系女子アナウンサーが、まさか本当にニュース番組の生放送中にストリップをして一糸まとわぬ姿を全国に向けて晒すなど想像できなかった。しかし、確かに麻衣子の頬は紅潮しているし、何より、服を脱ぐ時に乱れた髪がそのままになっている……
放送画面がスタジオから取材映像に切り替わった。放送画面には、地盤沈下が起きた現場の映像や影響を受けた住宅などが映し出されていた。しかし、ネット中継映像には左下のワイプ画面に、真っ白な乳房を晒しながらニュースを読む麻衣子の姿が引き続き映し出されていた。
<オッパイ、オッパイ!>
<てことは、先週の全裸放送の動画も本物ってことだよね?>
<柔らかそうで可愛いオッパイ、揉みたい>
<乳首、勃ってるよね?>
<勃ってる、勃ってる(笑)>
<早く下も見せて!>
<マイマン、見たい!>
<ぐしょ濡れだったりして(笑)>
仮想着衣システムで放送されないはずだったのに……丸出しの乳房をネットで生中継され、それを見たネット視聴者の卑猥な言葉が脳内に溢れる中、ニュースをいつもどおり読むのは、麻衣子にとってまさに羞恥地獄だった。
『嘘よ、こんなの……お願い、見ないで……』
麻衣子の内心はピンクの文字で表示されてしまうため、すぐに視聴者から反応があり、野卑なからかいが脳内に次々に閃くのも、辛かった。
ほんの数十秒だったが、今までよりもさらに刺激の強い羞恥体験に、麻衣子の頭は真っ白になりかけていた。それでも、しっかりと視線をテレビカメラに向け、平静を保った表情をしていられるのは、今までの経験と、強い責任感の賜物だった。テレビカメラの横に立っている有川が、無言で頷きながら励ましてくれているのも力になっていた。でも、7時半まではあと50分もある……本当に素っ裸のまま、ネットに中継されて放送を続けなければならないの……麻衣子の苦悩は即座にネット中継され、視聴者の意地悪な歓喜の言葉が返ってきた。
麻衣子が読み終わると、今度は栗山の番だ。ニュースはあと2つ。とにかく余計なことは考えないで、番組に集中するのよ……麻衣子は平静な表情を浮かべた。
現在、ネット視聴者の意見は真っ二つに分かれていた。麻衣子がどうやら本当に全裸で放送しているのではないか、と思う者は増えていたが、なぜそんなことが起きているのか……脅迫説・露出狂説・別人説など、様々な意見が溢れていた。一方、これは仮想脱衣システムによる映像であり、実際には放送映像のとおり着衣なのだ、髪の乱れは偶然に過ぎないと主張する者も根強く存在していた。ただ、いずれの意見を持つ者も、優美な白い双乳に釘付けになり、さらに淫靡な期待をしていることに変わりはなかった。
「流通大手のMホールディングスは、傘下のKデパートの首都圏にある2店舗を、来年2月末に閉鎖することになりました……」
放送映像に映し出された栗山が、いつもと変わらない口調でニュースを読み始めた。
《それじゃあ麻衣子ちゃん、テーブルの前に出てきて、下も見せて》
ネット中継モニターに青い文字が表示されると、歓迎の白い文字が続いた。
《みんな、麻衣子ちゃんの毛の生え方を知りたいってさ》
(……!)
麻衣子の顔がまた、少しだけ強張った。
『ひどい、知っている癖に、毛が生えてないことを……』
あ、と思った瞬間にはもう手遅れだった。麻衣子のその思いは、そのままピンクの文字としてネット中継画面に表示されてしまったのだ。
<え、生えていないって?>
<まさか、パイパン?(笑)>
<ひょっとして、剃ってる?>
<見せて、麻衣子ちゃんのパイパンオマ○コ!>
<これが本当のマイパン!(笑)>……
さすがの麻衣子も、これには耐えきれなかった。女性として、最も秘すべき部分の秘密を知られ、笑われているのだ……脚がカタカタ震え、表情が思い切り強張り、目が大きく見開かれた。唇も半開きになっていた。
『麻衣子ちゃん、落ち着いて!』
有川の声がインカムから響いた。
『大丈夫、絶対仮想脱衣システムってことにするから! 今は「声」の言うとおりにするんだ!』
麻衣子はテーブルの後ろから動けなかった。冷静に考えれば、有川の言っていることに一理があるとは思った。今日だけ「声」の指示に従えば終わりの約束なのだから、逆らうべきではないし、ネット中継されてしまっているのはどうすることもできないのだから、後で何とかするしかない……
しかし結局、残りの二本のニュースの間、麻衣子がテーブルの前に出てくることはなかった。理屈を頭では分かっても、身体がどうしても動かなかった。耳を塞ぎたくなるような卑猥なからかいの言葉が脳内に溢れているのに、自ら無毛の秘部を晒すことなどできなかった。それが、いくら虚しい抵抗と分かっていても……
ニュースコーナーが終わると、次は生活情報コーナーだ。軽快なメロディーが鳴り始め、コーナーのメイン担当である奈央がスタジオの袖から登場した。
それは同時に、コーナーのサブ担当である麻衣子も、スタジオの中央に出なければならないということだった。オマ○コ、オ○ンコ、と野卑な声が麻衣子の脳内に溢れた。
足がすくんだ麻衣子だったが、生放送の番組で躊躇は許されない。
(いつもどおり、冷静に……)
麻衣子は自分に言い聞かせ、スタジオの中央に向けて歩き出した。ただ、両手はさりげなく下ろし、股間を庇ったままだった。
<えー、またあ?>
<潔くオ〇ンコ見せろ!>
非難の声がモニター画面に溢れた。
《麻衣子ちゃん、今まで命令に逆らってどうなったか覚えてる?》
モニターに青い字が表示された。
”結局、命令どおりになったよね、最初の命令より恥ずかしい形で……早く言うとおりにした方がいいよ》
(ごめんなさい、やっぱり無理です。お願い、これで許して……)
ピンクの文字が表示されると、白い文字での野次が画面を覆い尽くした。
コーナーの始まりのメロディーが鳴り終わると、スタジオの中央には麻衣子と奈央が並んで立つ形になっていた。2人とも、いつもどおりにっこり笑顔を浮かべていた。
「はい、生活情報コーナーです!」
いつも元気な奈央が、快活な声で言った。
「本澤さん、バランスボールって知っていますか?」
奈央は麻衣子に向けてにっこり笑顔を向けた。麻衣子が本当は全裸であると疑惑を持たれているのは目の前のネット中継モニターを見て分かっていたので、努めて平静を装っていた。<奈央ちゃんも脱いでー><奈央の腰回り、エロイよな(笑)>とネット中継モニターに白い文字が表示され、奈央の表情は少し強張っていた。
「ええ、大きな丸いボールに座るんですよね……ダイエットとかにいいんでしたっけ?」
麻衣子は段取りどおりのセリフを口にした。手をどけるんだ、と有川の声がインカムから聞こえたが無視していた。ネット中継モニターには、全裸で辛うじて股間だけを隠している自分の姿が映っている。お椀型の乳房やピンクの乳首がはっきり映っている……白いお腹、小さめのおへそ、きゅっとしまったウエスト、ふっくらと優雅な曲線を描く腰回り……手で隠している部分以外の全てが、ネットで生中継されていた。
「そうですね。だけど今は、社員の健康を増進しながら業務効率をアップさせる手段として、企業でも取り入れられているってご存知でしたか? そんな取り組みをご覧ください……」
奈央がそう言うと、放送画面が取材映像に切り替わった。ネット中継モニターには相変わらずワイプ画面が表示され、全裸で直立している麻衣子と隣に立つ奈央の姿が映し出されていた。
(この後は、奈央さんがバランスボールに乗って感想を言って、私はそれに対してこう言って……)
麻衣子は段取りの確認に集中し、少しでも羞恥を忘れようとしていた。しかし、今この瞬間にも、何も身に着けていないこの姿が全国に生中継されている、少しで手がずれたら無毛の秘部が全国の人に見られてしまうと思うと、足がカタカタ震えるのを止められなかった。
バランスボールに座って業務を行う企業の取材映像が終わると、放送画面はスタジオに切り替わった。奈央がテレビカメラを見つめて、笑顔で口を開いた。
「すごいですねえ、バランスボールに乗ったまま電話をしたり、調べ物をしたりするなんて」
「すごいバランス感覚ですよねえ。集中していないと倒れてしまいそうですね」
麻衣子は笑顔で奈央に言葉を返した。放送映像のモニターには、優雅なレンガ色の袖フリル付Tシャツを身にまとって微笑む自分の姿が映っていた。うん、大丈夫……
「えー、今日は、スタジオにバランスボールを持ってきました。実際にこの上に座ってみて、少し放送をしてみたいと思います。」
奈央がスムーズに進行を続けた。その言葉に合わせるように、スタジオ脇からころころと大きなボールが転がってきた。それは透明でつやつやとしていて、天井のライトの反射でところどころが光っていた。
「はい、こちらのボールになります!」
奈央は腰をかがめてそのボールを受け取ると、麻衣子の方に笑顔を向けた。
「それでは、本澤さん、この上に座ってみてください!」
奈央の笑顔もいつもより少し引きつっていた。
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