PART 46b

「7時になりました。おはようございます!」
 栗山と麻衣子が爽やかな挨拶をして、次の30分の放送が始まった。

 ネット中継モニターには相変わらず、白い文字で麻衣子をからかう声が表示され続けていた。仮想着衣システムの故障は直らず、地上波放送のモニターにも麻衣子の全裸姿が映り続けていた。「ただ今、何者かにより、放送映像に加工が加えられております……」というテロップだけが、麻衣子の唯一の頼みの綱だった。そう、加工して服を消されているだけなんだから、いつもどおりに振舞わないと……麻衣子は小さく息を吸って、笑みを浮かべた。

 最初のニュースは麻衣子が読む番だ。放送映像には、麻衣子のバストアップの映像が映し出されていた。真っ白な美乳や淡いピンクの乳首が大きく映されていて、麻衣子ちゃんの乳首勃ってるぞ、見られて興奮してる?、とはしゃぐネット視聴者の声が脳内に溢れ、麻衣子の羞恥を煽った。
(お願い、番組の邪魔をしないで……)
 モニターにピンクの文字が表示され、さらにネットが盛り上がった。
「今日から始まる臨時国会において、4野党は共闘し、閣僚の疑惑を徹底追求する方針です……」
 いつもの美しく澄んだ声だったか、心なしか震えているように感じられた。

<おおお、麻衣子ちゃんのおっぱいドアップ!>
<大きすぎず、小さすぎず、かわいい感じだね>
<乳首がピンクでかわいい!>
<でもやっぱり立ってるよね?>
<オマ○コの中まで見られて、乳首ビンビンにして興奮か、エロいなー>
<うわ、今起きたけど何これ? なんで地上波でおっぱい丸出し?>
<視聴料支払いキャンペーンらしいぞ>
<それなら俺、今の倍払う!>
<10倍払うからオナニーショーして!>
 白い文字は際限なく流れ続け、同時に麻衣子の脳内にも聞こえていた。全国に双乳を生放送されているのは死ぬほど恥ずかしかったが、手で隠すことも許されず、原稿を読むのをやめることもできなかった。

「……一方政府側は、臨時国会中に、税制関連法案の成立を目指す方針です……」
(もういい加減にして!)
 麻衣子は頭の中が真っ白になりそうなのを必死にこらえていた。これは仮想脱衣のいたずらをされているだけなんだから、絶対にいつも通りに放送しなくちゃ……

 放送映像が与野党党首の演説姿に切り替わった。いつもの放送であれば、麻衣子は画面に映らなくなるのだが、今回はワイプ画面の中に映し続けられている。野卑な歓声に耳をふさぐこともできず、麻衣子は残りの原稿を読まなければならない。
「……来年度の税収の確保のため、財務省は本国会での成立が必須としていますが、増税となるサラリーマン層の反発が予想され、厳しい状況です……」

《ねえ麻衣子ちゃん、おっぱい見られながらニュースを放送するのってどんな気持ち? 興奮して乳首が勃ってるとこ、全国の視聴者がみんなガン見してるよ》
 意地悪な「声」が囁いた。

(お願い、邪魔しないで!)
 原稿を読みながら、麻衣子は内心で懇願した。
(それに私、興奮なんかしていません!)
 いや、乳首がばっちり勃ってるよ、アソコぐしょ濡れでしょ、とからかう視聴者の声が頭の中に溢れた。

「……内閣の支持率も減少傾向にある中、今後の動向が注目されます」
 たった30秒のニュースだったが、全裸姿を晒してからかいの声を浴びせられていたため、集中を切らさずに読み切るのはいつもの何倍ものエネルギーが必要だった。

 ようやく最初のニュースが終わった。麻衣子はすっかり顔を上気させ、全裸の肌もほんのりピンクに染まってきていた。地上波放送モニターには、麻衣子の全裸姿がはっきりと映し続けられていた。胸も下腹部も、隠すものは何もない……
(あと3つ……お願い、早く終わって)
 ピンクの文字が表示され、ネット視聴者達を盛り上がらせた。

「次のニュースです」
 栗山が冷静な声で次のニュースを読み始めた。
「この一週間、西日本や東日本では雨が少ない状態が続いていますが、、関東、東海、中国地方、それに四国の合わせて7つの水系にあるダムで取水制限が行われています……」

 麻衣子にとっては一旦休憩だったが、ワイプ画面には映されているので、澄ました表情を崩すことはできなかった。その最中にも、麻衣子の乳房の色や形、肌の張り具合などが遠慮なく批評され、卑猥なからかいの言葉が浴びせられていた。そして、乳首が勃っていることをからかわれた麻衣子がピンクの文字で恥ずかしがったり、反論したりするのがおもしろく、話題はそこに集中していた。

「……国土交通省によりますと、今月14日現在で取水制限が行われているのは群馬県のN村、K町など7町村となっております」
 栗山がそこまで読み終わると、放送画面が群馬県のダムの録画映像に切り替わった。水不足のため、ダムの水位は半分ほどになっていた。

 3番目のニュースは麻衣子の番だ。
「昨日のニューヨーク株式市場は、アメリカの主要企業の業績が拡大していることを背景に買い注文を出す流れが続き、ダウ平均株価は小幅に値上がりし、7営業日続けて最高値を更新しました……」
 麻衣子はいつもどおり、カメラ目線で平静な声で話すことができた。放送映像では、仮想着衣システムがしっかり機能していて、肩にフリル付きのレンガ色のセーターを着た麻衣子の姿が映し出されていた。

<え、あれ何だ?>
 その時、スタジオでは不思議なことが起きていた。ニュース原稿を置いているガラス台から、何か紐か鎖のようなものが宙に浮き上がってきていた。


(え、何!?)
 目の前で急に浮かび上がってきた鎖状の物は金色にきらきら光っていた。それは30センチほどの長さで、両端には三角状のものがついていた。また、鎖の真ん中から紐が下がり、その先には小さな鈴のようなものが見えた。

 一体なんなの?……麻衣子は嫌な予感を覚えながら、原稿を読み続けた。
「……昨日のニューヨーク株式市場は、最近発表されたアメリカ企業の決算内容がよく、景気の先行きに対する期待感から買い注文を出す流れが続きました……」
 そこまで読んだところで、麻衣子の眼が見開かれた。金の鎖の両端の三角の部分の先端が、下から左右の乳首に近づいてきて、小さく開き出したのだ。

<おお、乳首クリップ!>
<すごいな、どういう仕掛け?>
<鈴付きって意地悪だな(笑)>
<感じて悶えたら、鈴が鳴っちゃうな>
<鈴の音が聞こえたら、さすがに仮想映像に乗っ取られてるとは言えないよな>
<クリップに乳首挟まれる時の麻衣子ちゃんの顔に注目!>

(そんな、いや!)
 麻衣子が内心で悲鳴を上げ、それは瞬時にピンクの文字となってネット中継のモニターに表示された。しかし、建前では着衣なので、手でどけたり、身体を動かして逃げることはできない。
「……市場関係者は、『アメリカの政策金利の引き上げはゆっくり行われるという見通しに加えて、……あっ……しゅ、主要企業の業績が拡大し、投資家が株に投資しやすい環境になっている』と話しています」
 クリップに両方の乳首を挟まれた瞬間、麻衣子は思わず詰まってしまった。
 あはは、とちったー!という白い文字でネット中継モニターが埋め尽くされ、歓声が脳内に響いた。

《あーあ、いきなりとちっちゃうなんて、プロ意識に欠けるんじゃない?》
 嘲るような声が麻衣子の脳内に響いた。
《約束どおり、これからはずーっと全裸放送だね。もちろん来週も再来週も”
 わっとネット視聴者からの歓声が起こった。

(そ、そんな! お願いです、もう許して……)
 麻衣子は思わず訴えるような視線をテレビカメラに向けた。7時半まで頑張れば終わると思っていたのに、ずっとだなんて……


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