part 3
菜穂子は三たび立ちつくしていた。今度こそ絶体絶命だ。残っているのは、ブラジャー、スコート、パンティ。いずれを脱ぐこともできない。菜穂子は内心、佳子を恨んだ。
(私は手加減をしてみんなが恥ずかしい格好をさらさないようにしようと考えていたのに、佳子はどうして負けてくれないの?)
やや責めるように佳子を見たが、佳子は平然と見返して言った。
「ねえ、松井くん。もう30秒じゃないの? そしたらパンティよね」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
あわてて菜穂子がさえぎったが、直人は言葉はさらに酷だった。
「いや、もう2分経ってるから、30秒×4で、4枚じゃないか? 3枚しか脱ぐもん無いから、あとの1枚分は大股開きでもしてもらおうか?」
どっとギャラリーが沸く。
さらに男子の中からは、
「オナニーさせろ」
「いやフェラだ」
と勝手な声があがり、女子からは
「えー、何それぇ。高井先輩、やって見せて〜」
とカマトトぶった黄色い声が飛ぶ。集団心理のボルテージが急速にあがっており、このままでは収集のつかない事態になりかねなくなっていた。
さすがに見かねた俊之が言う。
「菜穂子。今すぐならパンティだけでいいから早くしろ。」
興奮したギャラリーからは甘すぎるとブーイングの嵐だ。菜穂子は俊之の提案に乗らないわけにはいかなかった。
観念した菜穂子が震える手でスコートに手を入れ、パンティを下ろし出すと、さすがにギャラリーもしんとなる。衆人環視の中で短いスコートの中からパンティを取り去ることは想像以上に困難で、かつエロティックだった。
パンティを完全に脱ぐためには両足首から抜かなくてはならない。立ち上がったままそれを行えば、当然、短いスコートから尻がほとんど剥き出しになる。しゃがんで行う場合、後ろからは半ケツを見られる恐れがあり、気を抜けば前からはあそこが見えてしまう。片手はパンティを取り去る作業に使うので、もう片方の手で隠すことができるのは前か後ろの一方しかない。
菜穂子は困惑したが、また待たせたら今度は何をさせられるか分からない。思い切って中腰になり、前を隠しながら、パンティを取った。
「菜穂子のお尻、見〜えた! たまごみたいに真っ白ね!」
「先輩、前も見せてぇ」
「おお、菜穂子の生パンティだぁ」
騒然とするギャラリーを制して、俊之が言った。
「よし。じゃあ次のゲーム行くぞ」
菜穂子は、脱いでしまったパンティを男子たちが取り合うのを見た。パンティは全く透けてなどいなかった。だまされた悔しさに菜穂子は再び唇を噛んだ。
第4ゲームは菜穂子が待ちかねていた自分のサービスゲームだ。普段であれば絶対に近い自信を持っている。ましてや相手は格下の佳子たちだ。
しかし、今はタイミングが悪すぎた。上半身がブラだけであることもあるが、何より下半身には短いスコートしか穿いていないノーパンなのだ。外気が直接下半身に触れるのが感じられ、なんとも心許ない気持ちになる。(こんな状況で思い切りサーブを打ったら、お尻が丸見えになってしまうわ。前だって見えちゃうかも・・・)悩んだ菜穂子はとりあえず、軽めのサーブを打った。
しかし、そんなサーブでは佳子にはおろか、恭子にも通用しなかった。二人とも菜穂子との勝負は避けて、前衛の真理に向けて厳しいレシーブを集中する。そして、最初から共犯である真理はあっさりそれを見逃してしまう。さらに、真理が見逃したボールを、スコートが気になる菜穂子はいつものダッシュで追うことができないのであった。
ポイントはあっという間に0−40になった。
「何やってるんだ菜穂子。これじゃ全然模範試合にならないぞ。ま、早く負けてみんなの前でヌードになりたいんなら何も言わないが。」
相変わらず俊之は冷たい口調だ。俊之がこの状況を楽しんでいることはもはや誰の目にも明らかであった。
「そんなにスコートが気になるんなら、さっさとゲーム落として脱いじゃえよ」
すかさず浩一がはやし立てる。
「やっぱりスコートは最後に脱がさなきゃ。私は先輩のおっぱいが見たぁい」
加奈子はもう菜穂子が全裸になると決めつけているように無邪気に言った。
ヤジを聞いて菜穂子はおびえると同時に決心した。(確かに死ぬほど恥ずかしいけど、このままあと3ゲーム取られたらそれどころじゃないわ。思い切ってやるしかないのよ)
菜穂子は急にぴんと背筋を伸ばし、高くトスを上げた。そして一番高い打点に向けてジャンプし、渾身のサーブを放った。見事にサーブはノータッチエースとなった。
(やったわ!)菜穂子は内心で小さなガッツポーズを取った。
しかし、その時。着地の瞬間にスコートが大きくまくれあがった。前は何とか押さえたが、尻は完全に丸出しとなってしまった。菜穂子は後ろもすぐに手で覆ったが、1〜2秒の露出は防げなかった。
ギャラリーは手を叩いて喜んでいる。
「菜穂子、ケツ丸出しにしてよく恥ずかしくないな」
「きゃー、あたしだったら絶対あんな格好できないよぉ! 恥ずかし〜っ!」
「あいつ、見られて結構喜んでるんじゃねぇか?」
しかし、気にしてはいられない。菜穂子は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、全力でサーブを打ち、走り回ってストロークを決め、初めてゲームを取った。しかし、その間にギャラリーはいやと言うほど菜穂子の尻を堪能していた。前が見えなかったことだけが残念ではあったが。
「ゲーム。よくやった、菜穂子。1枚着てもいいぞ。」
俊之が相変わらずクールに告げる。
ギャラリーが露骨にがっかりしているのを見ながら、菜穂子は自分が脱いだパンティを探した。それはコートを挟んで2つある審判台のうち、主審の俊之の向かいの台の上に置いてあった。そこに菜穂子が上ったら、当然その下に座っている男子達にスコートの中が丸見えになってしまう。
「松井くん、お願いだからあの上にある私の、パ、パンティを取って」
菜穂子が小さな声でお願いする。
「甘えないで自分で取れよ。」
直人が突き放す。たまたまその審判台の下に座っていた男子達は期待の目を菜穂子に集中する。
「お願い、松井くん」
泣きそうな顔で菜穂子が言うと、直人は意外にもあっさりと台の上に手をのばしてくれた。しかし、直人が菜穂子に放り投げたのは、パンティではなく、ウェアのシャツだった。
「これじゃなくて・・・」
言いかけて、菜穂子はあきらめた。サークルのみんなの前で、下半身をさらす屈辱を続けさせる気なのだ。今度こそ秘部を露出させようと思っているのは明白であり、それはギャラリーの総意でもあった。