PART 93

 「うん、お疲れ様だったね、有希ちゃん、よく頑張った。」
ネクタイで緊縛された全裸を必死に隠している美人社員に対し、部長の伊丹がにこやかに言った。
「で、車はもう呼んであるんだよね?」

 「え、車って・・・い、いえ、私は呼んでいませんが・・・」
接待相手を送るためのタクシーを呼んでいるのか、という問いであることは分かったが、有希は困惑して答えた。さんざん弄んでいて、私にそんな余裕が無かったことは分かっているはずなのに・・・

 しかしその瞬間、にこやかだった伊丹の顔がさっと変わった。
「何!? 宴席の終わりに間に合うように車を呼んでおくのは接待の基本だろ! 守口くん、ちゃんと指導してるのか?」

 「すみません、新人として当然の業務だと、まさか知らないとは思わなかったので。編集部はどんな教育をしているのか・・・誠に申し訳ございません。」
守口はそう言うと、G社の3人に頭を下げた。有希の頭の後ろに手を掛け、有希にも頭を下げさせた。いやいや、そんなに気にしないで、と3人は却って恐縮していた。
「おい、何をぼけっとしてるんだ、走れ!」
守口は有希の背中を押し、襖の方に追いやった。部下の米倉がすかさず襖を開け、有希の腕を掴んでそのまま廊下に引っ張り出した。

 宴席の部屋は、比較的店の入り口に近い場所にあった。
「さ、早く、お客様が出てくる前にタクシーを捕まえるんだ!」
米倉は慌ただしい口調でそう言うと、下駄箱を開け、2人の靴を出した。

 「え、あの、そんな・・・」
有希はまだ事態が呑み込めずに困惑していた。表面的な言葉の意味は分かるのだが、その内容があり得ないとしか思えないのだ。まさか、この格好で、お店の外に出て、道路を走っているタクシーを呼び止めなきゃいけないということ?・・・嘘、嘘よ、そんなこと・・・
「きゃっ! ひ、引っ張らないでください!」
苛立った米倉にぐいっと腕を引っ張られ、有希はよろめきながら抗議した。嘘、嘘でしょ・・・

 有希にとって僅かに救いだったのは、店の玄関に着くまで、誰にも会わなかったことだった。しかし、そんな幸運はほとんど意味がなかった。
「ま、待ってください、米倉さん! やっぱり無理です、そんなの・・・」
ガラッと開かれた扉の向こうに見えた夜の街の光景に、有希の表情が固まった。街灯、店の看板、行き交う車、歩道を歩く人々、街の喧騒・・・

 「何言ってんの、君のせいで僕まで叱られてるんだから、早く捕まえてきてよ。」
米倉は迷惑そうに言うと、そのまま腕を引っ張って有希を店の外に引きずり出した。
「きゃ、きゃあっ!」
全裸で路上に立たされてしまい、有希は思わず悲鳴をあげた。通行人が何事かと視線を向けて来るのを見て、有希は慌てて口を閉じた。

 しかし、やはりそれは手遅れだった。
「おおっ、なんだありゃ?」
「裸の女!? 何巻いてるんだ?」
「ネクタイだ、裸にネクタイ巻いてるぞ、あのねーちゃん!(笑)」
「おいおい、手で隠すなよ、そんな格好してるくせに!」
ちょうど目の前を歩いていた赤ら顔の4人組の男達が、指をさして大声をあげた。酔っていい気持ちになっている目の前に、いきなり若い美女が全裸にネクタイを巻いた姿で現れたのだから、それも当然だった。路上には他にも10人ほど、飲み会帰りらしきサラリーマンがいたが、いきなりのことに言葉を失って有希の裸身を見つめていた。AVのゲリラ撮影か?、ヤバイ筋かもしれないぞ、とひそひそ話をしながら、遠巻きになっていた。中には女性も数名いた。

 「あ、驚かせてしまってすみません。この子、接待なのにタクシー呼ぶのを忘れたから、裸になってお詫びすると言うんですよ。それで、3台捕まえるまでこの格好で頑張るそうです。」
米倉が張りのある声で通行人達に向けて言うと、有希の尻を後ろからぴしゃっと叩いた。
「ほら、お前からもお騒がせしたことをお詫びするんだ、通報されてもいいのか。捕まったら、大勢の見ている前で引き回しだぞ。それで、露出狂で逮捕ってことで全国に実名を報道されるんだぞ。」

 そ、そんな・・・目の前で呆然としている十数人の男女を見て、有希は顔が引きつった。私、公道で裸になって、知らない人達に見られている・・・脳裏にF町祭りの恥辱がフラッシュバックした。それに、あの時は祭りということで警察は見逃してくれたが、今見つかったら・・・
「そ、そうです! 私、裸で3台、タクシーを捕まえなくちゃいけないんです・・・すみません、お見苦しいかと思いますが、お許しください・・・」
頭が混乱したまま、有希は必死にそう言うと、皆に向かって頭を下げた。左腕で乳房、右手で股間を何とか庇っているのがいじらしかった。

 よし、それじゃあ頑張れ、と酔っぱらいの男達が大声で言うと、ぱちぱちとまばらな拍手が起きた。もちろん皆、突然始まったショーを堪能するつもりで、それぞれの場所から動かなくなっていた。ねえ、あの子、どこかで見たことない?、などと、ひそひそ話がだんだん大きな声になっていった。

 こうして、夜の公道上での、全裸緊縛美女のタクシー呼び止めショーが始まった。店の前で乳房と股間を隠し、心細げに立っている有希の姿を皆、ニヤニヤとしながら見ていた。タクシーを止める時には、どっちの手を上げるのかな?、などと笑い混じりに話す声も聞こえるようになった。

 (あ、ああ、早く来てくれないと、私・・・)有希は道路の両側に目をやったが、そこでさらなる課題に気付いた。大通りから少し入ったところにある通りには、タクシーがあまり通らないのだ。時々見つけても、乗車中のものばかりだった。

 有希が困惑していると、後ろの扉ががらがらと開いた。
「お、有希ちゃん、可愛いケツ丸出して頑張ってるな。」
すっかり上機嫌の上条がそう言うと、すっと有希の尻肉を撫でた。
「それで、タクシーはもう捕まえられたのかな?」

 「い、いえ、あの、なかなかタクシーが通らなくて・・・」
有希は上条の手を払うこともできず、小さな声で答えた。
「すみません、もう少々、お待ちいただけますでしょうか?」

 「ちょっとあなた、ここでぼーっと立って、タクシーを待ってるわけ?」
今度は中年の女性の声が聞こえた。それはこの料亭の女将だった。
「今時の若い子って、ほんとに常識ないのねえ・・・車がなかなか通らなかったら、捕まえやすいところまで走っていくのが当たり前でしょ?」
あはは、そうだそうだ!っと酔っぱらい達の声が続いた。

 まさか、そんな・・・有希の顔から血の気が引いた。10回の取材の中で、何度も裸にされたことはあったが、皆、秘密を守ってくれる取材先だけだった。でも今は、一般人が大勢いる公道上なのだ・・・しかし同時に、有希の身体の奥がじん、と疼いたのも否定できない事実だった。私、裸なんだ、普通の人が歩いている公道で・・・それで、今度はこのまま大通りに行くのよ・・・

 覚悟を決めた有希が走り出すと、またもや意地悪な拍手が起こった。有希は両腕で乳房と股間を隠していたが、後ろ姿までは庇うことができず、ネクタイが尻の溝に食い込んだだけで丸出しの尻肉を皆の視界に晒すことになった。おお、でかくてエロいケツ!、とからかいの声が飛び、わっと笑いが起きた。

 ・・・それからの数分間は、有希にとって永遠のようにも感じられた。乳房と股間を手で庇っただけの裸で大勢の人の間を駆け抜け、大通りに出た。そして、股間の手を離して大きく上げ、無毛の秘部にネクタイが食い込んでいる姿に悲鳴と歓声があがるのを聞きながら、必死にタクシーを呼んだ。ようやくタクシーが止まると、目を白黒させている運転手に話しかけ、店の前まで誘導した。

 「・・・お待たせしました。それではまず、上条部長、どうぞ・・・」
有希は相変わらず両手で恥ずかしい部分を隠したまま、上条の顔を見上げて言った。(あと2回、同じことをすれば・・・)

 「おい、何か忘れてないか、お前?」
有希の後ろから、課長の守口の声が聞こえた。
「宴会の時にお借りしたものを返さなくちゃ駄目だろ。」

 そのしばらく後。数十人に増えた野次馬達は、さらに面白いショーで目を楽しませることになった。あろうことか、全裸でネクタイ緊縛していた美女が、その股間を縦に縛っていたネクタイを自ら解き出したのだ。おいおい、一体何なんだ、これは?、やっぱりAVか?、くそ、正面から見たいな・・・ざわめきがまた大きくなっていた。

 野次馬達の好奇の視線とざわめきを嫌と言うほど感じながら、有希はネクタイを解き、股間からゆっくりと引き離した。(い、いやあ・・・私、下半身まで、丸出しにしているなんて、嘘・・・)
「・・・上条部長、ネクタイを貸していただき、ありがとうございました。・・・汚してしまい、申し訳ありません・・・」
借りたネクタイを秘裂と尻の溝に食い込ませ、愛液まみれにしてしまった・・・そしてそれを、貸してくれた男に返さなければならない・・・しかもここは公道で、自分は今、秘部も尻も乳房も丸出しで立っている・・・あまりに恥ずかしい状況の連続に、有希は目の前がぼうっとしているのを感じた。

 「いや、有希ちゃんのラブジュースで汚れるんなら、大歓迎だよ。」
すっかり相好を崩した上条は、夜闇に白く浮かび上がる有希の美しい裸身を見ながら言った。
「それはいいんだけど、そのネクタイ、どうせ返してくれるんなら、結んでくれないかな?」

 入社したての美人新入社員が、裸で自分の首に手を回し、抱きつかんばかりにしている・・・男のネクタイを結んだことなどない有希が苦戦する中、上条は至近距離の有希の美貌、時々ぶつかる弾力のある乳房の感触、白く輝く肌をじっくりと楽しんだ。

 有希がようやく上条にネクタイを結び終わると、米倉がまた、意地悪な思い付きを口にした。
「それじゃあせっかくだから、2人で記念撮影しましょう。そこに並んで立って・・・」

 店をバックにして立ち、有希は手で身体を隠すことは許されず、右手でピースサインを作り、笑顔を強要された。その横に上条が立ち、有希の肩に手をかけてにやけていた。
「はい、チーズ! ・・・もう一回、有希ちゃん、もっとにっこり笑って・・・」
スーツ姿の男性と、全裸にネクタイを掛け、乳房縛りで双乳をひり出され、無毛の秘部を丸出しにした若い女性・・・奇妙な構図の写真がしっかりと記録された。あはは、これならよく見える、最高だな、あの身体!と野次が聞こえた。

 「本日は本当に、ありがとうございました・・・」
去りゆくタクシーを見送りながら、有希は深々と頭を下げた。もちろん、両手はまっすぐ身体の横に付けるように指導され、女性として見られたくない部分を全て晒しながら上品に腰を曲げる様子を、5人の男達と野次馬達がすっかり楽しそうに覗き込んでいた。


 上条を見送るとすぐに、上司達は容赦なく、2台目のタクシーを呼んで来るように有希に命じた。今度は股間を庇うネクタイがないため、有希は左手を上げてタクシーを呼ぶことになり、大通りで丸出しの乳房を晒すことになってしまった。

 マネージャの仁藤には、ウエストに巻いたネクタイを解いて返さなければならない有希だったが、やはり仁藤も自分にネクタイを結びつけてくれるように依頼したため、有希は再び、全裸で男に抱きつくような姿を公道で晒さなければならなかった。もちろんさっきと同じ構図の記念写真も撮影された。


 仁藤を送った後、3台目のタクシーを呼びに行こうとした有希に対し、米倉が声をかけた。
「お前さ、運転手さんをちょっと待たせ過ぎじゃないか? ネクタイ、もうみんなに返しちゃえよ。」

 それはつまり、今ここで、全てのネクタイを外し、一糸纏わぬ姿になれ、という命令だった。そんな・・・と弱々しく抵抗しようとした有希に対し、ねーちゃん、もうオッパイもオ○ンコも丸出しで素っ裸と同じなんだからいいじゃん、と野次馬から突っ込みが入った。

 そして全てのネクタイを外し、それぞれを男達に抱きつくようにして締めてあげた有希は、もはや完全な裸になっていた。
「あのさ、俺のネクタイだけ使ってもらってないんだけど、これでも君を縛らせてくれないかな?」
全裸の身体を必死に隠す有希の背後に米倉は手を伸ばし、その両腕を引っ張った。

 え、何?、そんな、やめてっ・・・虚を突かれた有希が慌てた時はもう遅かった。有希は全裸のまま、米倉のネクタイで両手を後ろ手に縛られてしまったのだ。
「ちょ、ちょっと、何をするんですか、米倉さん・・・」
もはや手で隠すこともできなくなった有希は、乳房と秘部を晒しながら米倉を見つめた。
「お願い、早くほどいてください・・・これじゃあ、タクシーを呼べません。」

 しかし、男達は有希の訴えをあっさりと却下した。
「そこは信号なんだから、赤の時にでも止まってるタクシーのところに行けばいいだろ? ほら、早く行った行った!」
伊丹がそう言うと、有希の尻をぱしっと叩いた。それでも有希が躊躇っていると、今度は守口の手が有希の尻を叩いた。さらに、米倉が尻を撫で、いやらしく揉み込み始めた。

 有希はついに、全裸後ろ手縛りの姿のまま、大通りに向かって走りだした。目の前は真っ白になり、周囲の通行人の悲鳴や歓声もぼんやりした風景の一部と化してしまっていた・・・何台もの車のライトの光芒の前に自分の裸身をさらけ出すのが、この上なく気持ちのいいことのように感じられた・・・

------------------------------☆☆☆---------------------------☆☆☆------------------------------


次章へ 目次へ 前章へ

カウンター