PART 94

 その日、全裸を隠すこともできない姿で車を呼びに行かされた後どうなったのか、有希の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。翌朝、一人暮らしのマンションで目覚めた有希は、自分がノーパンノーブラのスーツ姿であることに気付くと、料亭での出来事が夢では無かったと思い知らされ、がっくりとうなだれた。私、一体何てことを・・・でも、本当に、裸で道路の真ん中に飛び出して、タクシーを捕まえたの?・・・

 翌週の月曜日。会社を休みたかった有希だったが、今日は担当の作家を回る日だったため、絶対に出社しなければならなかった。

 「やあ、おはよう、二階堂くん。」
朝一番の担当内ミーティングが終わり、作家回りの準備をしていた有希に、編集部長の宮本が背後から声を掛け、その肩をぽんと叩いた。
「伊丹から聞いたよ、金曜は接待でだいぶ頑張ってくれたらしいね? お客様にも大好評だったそうじゃないか、一体何をしたんだい?」

 「・・・お、おはようございます、部長・・・」
一気に心臓がばくばくするのを感じながら、有希は笑顔を浮かべた。瞬く間に金曜の痴態の数々が脳裏に蘇り、全身が小さく震え出した。どこまで知っているの? い、いやあ・・・
「すみません、ちょっと私、飲み過ぎてしまいまして、あまり覚えていないんです・・・」

 「そうか。まあ、我を忘れて頑張ったってことかな、ご苦労さん。若いけど、飲み過ぎには気を付けた方がいいよ。・・・で、そのことで伊丹がちょっと話があると言ってるんで、行ってやってくれないか?」
宮本は柔和な笑顔を浮かべたまま、有希に言った。(お客さんのネクタイ使って股縄縛りの緊縛ショーして、すっぽんぽんで公道に出てタクシー捕まえましたなんて、言えないよな、有希ちゃん(笑))


 恐る恐る営業部に入っていった有希を見つけ、部長の伊丹が手をあげた。
「おう、おはよう、有希ちゃん。忙しいとこ悪いな。ちょっとそこの会議室で待ってて。」

 ・・・有希が会議室で一人で待っていると、数分たって、3人の男達が入ってきた。もちろん、伊丹・守口・米倉の3人だ。さっと表情を強ばらせる有希に対し、伊丹が笑いかけた。
「おいおい、そんなにかしこまらなくてもいいじゃないか、有希ちゃん。金曜は一緒に酒を飲んで羽目を外した仲じゃないか? 営業なんだから、お客様の前で裸になるくらいのことは、みんな経験してるから大丈夫だよ。」
裸、という言葉に有希の身体がぴくりと反応するのを3人は見逃さず、お互いに小さく目を見合わせた。
「君も分かってるとは思うけど、接待ってのは、終わった後の挨拶も大事なんだよ。」

 「・・・は、はい、分かります・・・」
さんざん痴態を晒してしまった男達に見つめられ、有希はいたたまれない気持ちで答えた。
「接待の後は、心を込めたお礼のメールを送ることが大事です・・・」


 ・・・その日の昼下がり、作家回りを終えた有希は、重い足取りでG社に向かった。急用が入ったから今日は会えないって言ってくれないかしら・・・

 しかし有希が受付で名前を告げると、受付の女性は内線電話でアポイントを確認し、あっさりと上条がいるフロアの応接室に行くよう案内した。
 そのフロアにエレベーターで行くと、上条の秘書が扉の前で待っていた。
「二階堂さん、こんにちは。上条はしばらくしたら参りますので、こちらの応接室で少々お待ちください。」
何度か営業をしていて顔見知りになっていたその秘書は、今日はどこか少しよそよそしい雰囲気だった。有希が、男性向けの写真雑誌で下着を見せての緊縛姿を晒したことを軽蔑しているのは明らかだった。

 3人掛けのソファの真ん中に座り、3分ほど待つと、応接室の扉がノックされ、3人の男達が入ってきた。もちろん、上条・仁藤・柳沢の3人だ。
「お待たせしました。金曜はどうもありがとうございました。本当にS書房さんにはよくしていただいて、感謝していますよ。」
上条は滑らかな口調でそう言うと、慌てて立ち上がった有希に席に座るように促した。
「それで、今日はわざわざお越しいただいて、どのようなご用件ですか?」
上条はそう言いながら、わざとらしくネクタイを直した。

 (・・・!)有希の表情が固まった。上条がしているのは、金曜日に着けていたネクタイそのものだった。見ると、他の2人も金曜日のネクタイだった。
(そ、そんな、ひどい・・・)

 「はい、先日は誠にありがとうございました。本日は、そのお礼に参りました。」
有希は固い表情のまま言った。やっばり、やりたくない、そんなこと・・・

 「あれ、なんか随分堅苦しいなあ、有希ちゃん。接待のお礼なんてメールでもいいのに、律儀だねえ。まあ、僕は可愛い有希ちゃんにまた会えて嬉しいけど。」
上条はそう言うと、有希のスーツ姿を嘗めるように見回した。胸や下半身でわざと視線を止め、その優美な曲線をじっくりと味わった。
「やっぱり、スーツを着ている有希ちゃんもいいねえ(笑)」

 「・・・あ、ありがとうございます・・・あの、いつも大変よくしていただいていますので、直接会ってお礼をさせていただきたいと思いまして・・・」
3人の男達の意地悪な視線を感じながら、有希はバッグの中に手を入れ、一つの封筒を取り出した。それは普通の茶封筒だったが、分厚く膨らんでいた。
「お手紙をお持ちしました。どうぞ・・・」
有希は封筒の中に手を入れると、一枚の便箋を取り出し、向かいに座っている上条に向けて差し出した。

 「ほう、手書きですか! いやあ、きれいな字ですねえ!」
縦書きの便箋に書かれた流麗な文字を見て、上条が思わず感嘆の声を漏らした。他の2人も横から覗き込み、感心しながらその手紙を読み始めた。

 手紙の内容自体は、ごく普通の、接待が終わった後の相手への御礼を記したものだった。ただし、その最後の一文が男達の目を引いた。そこには、『・・・御礼として、記念写真と記念品を同封させていただきます。』と書いてあった。頬をほのかに染め、分厚い封筒を押さえている有希の姿を見て、3人の男達はその内容を悟った。ほんとに、S書房さん、最高の接待をしてくれるな・・・(笑)
「二階堂さん、わざわざ手書きの御礼状、ありがとうね。感動したよ。・・・それで、記念写真っていうのは、そこに入っているのかな?」
上条はわざととぼけて尋ねた。

 「は、はい・・・」
できればこのまま帰りたい有希だったが、失礼があったら許さないからな、と伊丹に念を押されていた。これで許して・・・有希は封筒の中に手を入れると、3枚の写真を取り出した。
「こちらが、記念写真でございます・・・」

 それは、宴席の最初のうちに撮った、有希と男達の写真だった。上品なスーツを着ている有希が上条と仁藤の間に座ってにっこりと微笑んでいる写真。柳沢とのツーショット、宴席に参加した7人全員が写っている写真
・・・いずれも、有希の美しさ、上品さ、可憐さがよく分かる写真だった。

 「おお、可愛いねえ、有希ちゃん! いいねえ、この写真、大事にさせてもらうよ。」
上条は大げさに喜んで見せた。そして、さり気なく有希の手元を見て言った。
「・・・だけど、写真はまだあるみたいだね。そこに入っている写真ももらえるのかな?」

 その瞬間、有希の顔が引きつった。ああ、どうしても、渡さなければいけないの・・・
「は、はい・・・あの、もしよろしければ、このような写真もあるのですが・・・ご不用であれば、持ち帰らせていただきます・・・」
有希は再び封筒を開け、震える手で中からさらに3枚の写真を取り出した・・・

 その2分後、有希は顔を真っ赤に染めてソファに座っていた。目の前のテーブルには、10数枚の写真が並べられ、3人の男たちがニヤニヤしながら、その写真と有希の恥ずかしがる表情を見比べていた。

 伊丹達がG社にプレゼントするように命じた写真はあまりに意地悪なものだった。最初はスーツ姿の有希との写真、次に、スーツを脱いで下着姿になっていく過程の写真、下着姿で男達のネクタイで乳房縛り・股縄縛りに緊縛された写真、全裸にネクタイ緊縛だけで乳房が露出した写真、全裸ネクタイ緊縛でまんぐり返しにされている写真、店の前で全裸ネクタイ緊縛のままG社それぞれの男との記念写真、全裸後ろ手縛りで全てを晒して公道を走っている写真・・・

 「あ、あの・・・もう、しまっていただいてもよろしいでしょうか?」
有希はいたたまれなくなって言った。勤務時間中の取引先で自分の乳房や秘部が露出した写真をしげしげと眺められるのは、夜の接待での恥辱とはまた異なった屈辱があった。

 「うん、そうだね・・・たださ、ちょっとお願いがあるんだけど、ちょっと、この写真にサインしてくれないかな?」
上条は、自分と全裸ネクタイ緊縛の有希が店の前に並んで立っている写真を有希の目の前に置いた。
「名前の後には、『上条部長へ』とか書いて、最後にハートマークでも付けてくれないかな?(笑)」

 「は、はい・・・」
得意先の依頼を断れない有希が、顔を真っ赤にしてその写真にサインをしていると、応接室のドアがノックされ、失礼します、と女性の声が聞こえた。

 「あ、ちょっと、駄目・・・」
有希は小さな悲鳴をあげたがもはや手遅れだった。その女性はノックをしたのとほぼ同時にドアを開けて中に入ってきたのだ。

 「お茶をお持ちしました・・・え?」
その女性は、さっき有希を応接室に案内してくれた、上条の秘書だった。コーヒーカップを乗せたお盆を持ちながら、机の上に並べられた写真に気づき、絶句して立ち尽くしていた。
「ぶ、部長、あの、これは・・・?」

 「ああ、驚かせて悪かったね。」
サインペンを持ったまま固まっている有希を横目に、上条が鷹揚な口調で言った。
「ほら、S書房の二階堂くんのことはよく知ってるだろう・・・新入社員の研修として来た時には初々しかったのに、あっという間に緊縛アイドルになっちゃった有希ちゃん? それで、金曜には大口の契約をするならサービスしますってことで、俺達のネクタイで緊縛ショーしてくれたんだよ・・・ほら、この写真、すごいだろ? 俺達の今の3本のネクタイを、ここと、ここと、ここに使ってるんだよ。それで今は、有希ちゃんに記念のサインしてもらってるわけ。すごいだろ、オッパイとアソコ丸出しの写真に自筆のサインしてくれるなんて、営業の鑑だと思わないか? ・・・ほら、この写真を見てみなよ、有希ちゃん、アソコの毛を全部剃ってるんだよ。緊縛された時にはみ出ないように。(笑)」

 ・・・顔を真っ赤にした秘書の女性が震える手でコーヒーを置き、無言で退室すると、上条はサインの続きを書くように促した。すると、仁藤と柳沢も、自分と有希のツーショット写真にサインをするように依頼した。

 有希が震える手で3枚の写真にサインを終えようとしたところで、上条がまた卑猥な思いつきを口にした。
「それじゃあさ、ついでなんだけど、すっぽんぽんでタクシーを捕まえている写真にもサインしてよ。」

 「それじゃあさ、その写真、引き延ばして等身大のパネルにしてもらってもいいかな?」
「あと、アソコを指でぱっくり開いて、中のヒダヒダまで写っている写真も追加で欲しいなあ。」
「それでバイブでも使ってオナニーしてる動画なんかくれたら、もっと大口契約してあげてもいいよ。」
「なんならこのテーブルに乗って、今すぐM字開脚オナニーしてくれてもいいよ。」
「ギャラリーが多い方がいいなら、女子社員達も呼んで来ようか?」
「秘書の永石くんにはちょっと刺激が強過ぎたみたいだけどな(笑)」
真っ赤になって恥辱に震える有希が可愛らしく感じて、3人は言葉責めをなかなかやめなかった。

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