PART 95

 G社との宴席は先方から大好評を得て、最終的な広告の契約の規模はさらに大きく、契約期間も長くなった。そしてこの大成功が、有希にとっては恥辱の業務の追加に繋がった。すなわち、毎週水曜日はSupershotの発売日で下着姿での緊縛姿が発売され、次号のための取材先で、最初はスーツで、結局は全裸を晒す羽目になり、翌日の木曜日は週刊Xの発売日で、「ゆり」として露骨な痴態を晒されていたのだが、それに加えて不定期に、夜の宴席に出なければならなくなったのだ。

 その宴席は毎回同じあの料亭で行われ、接待相手のネクタイを使っての緊縛ショー&絶頂ショーがメインイベントだった。それは何回やらされても、社会人の女性としてこの上なく恥ずかしく、屈辱的なショーだったが、女将と仲居はすっかり誤解し、騒ぎにならないように協力しながら、露骨に蔑みの視線を向けるようになっていた。

 しかし、有希の頑張りのお陰で、雑誌部門と広告部門の売上はうなぎ登りに上昇し、会社の四半期決算は過去最高の利益となった。出版不況の中での突然の躍進に、経済紙からの取材が殺到し、さらには一般紙でも取り上げられるようになった。社長は得意げに、社会のニーズに合わせた経営改革の成功を語ったが、一部では、老舗出版社が下品な大衆迎合戦略に転換した、と批判する声も出ていた。

 一方、有希は毎週水曜が来る度に、誌上で違う服装での緊縛姿を晒す恥辱を重ねた結果、もはや知らない者はいないほどの人気者になってしまっていた。テニスルックと学生服の後も、ナース、キャビンアテンダント、受付嬢、和服、浴衣、ウェディングドレスなどを着ては、服装を乱されて下着を露出させられ、様々な緊縛責めを受ける姿を全国向けの雑誌に掲載されてしまったのだ。ただ、普通ならAV嬢紛いの扱いをされるところだが、そうはならなかった。痴態を晒し続けながらも、有希の隠し切れない内面−−−品の良さ、美しさ、知性、可愛らしさ−−−が読者に伝わり、ぎりぎりのところで軽蔑を免れていた。エロケツ緊縛アイドル、と妙な愛称を付けられ、10回の緊縛教室の連載は大好評のうちに終了した。

 S書房にとっての問題は、その後だった。有希の取材と緊縛の連載が終了すると、Supershotの売上が急減したのだ。あわてて、可愛い新人のグラビアアイドルに際どい水着を着せ、プールで緊縛する企画を始めたが、読者の反応は思わしくなかった。営業についても、大口の相手への有希のネクタイ緊縛接待が一巡し、新規契約が取りづらくなっていた。

 有希にとって懐かしい相手からの招待状が届いたのは、そんな時だった・・・

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 ・・・ダダダダン、ダダダダン、ダダダダ、ダン、ダン!・・・有希にとって、懐かしいリズムが大音量で鳴り響いていた。それはあの、N県で出会ったサンバチームの得意の曲のリズムだった。

 「ユキ、イイワヨ、ステキネ!」
隣で踊っている、白い肌の外国人の美女が有希に向かって笑いかけた。彼女は、このサンバチームのセンターを務める、フランシスカだった。

 「ホント、ジョウズニナッタワ、ユキ!」
「ソノイショウモ、トッテモ、カワイイワヨ!」
斜め後ろで踊っている、マルシアとサンドラが声を掛けた。2人の褐色の美しい肌は、前回と同じ過激な衣装でほとんど露出してしまっていた。

 しかし、有希の衣装は前回と大きく異なっていた。この前は、乳房を覆うブラの面積も小さく、少し動けば尻肉が見えてしまうような衣装だったが、今日は、濃紺のワンピースをデコレーションしたような衣装だった。そのため乳房はすっかり覆われ、白いお腹も見えることはなかった。また、スカート丈も太もも半ばまであり、サンバの衣装としては大人しいものだった。それでも、ワンピースのために美しい身体のラインがよく分かり、また、激しく踊る度にスカートが捲れて太ももが大きく露出し、乳房がぷるぷると震える様子が見てとれたので、観衆の注目を浴び、歓声を受けていた。濃紺の衣装と白く光る肌の対比もエロチックだった。
 また、白い羽根に飾られた頭飾りとバタフライ状の背負子、衣装の上の様々な装飾、二の腕に巻かれた銀の手飾り、太股に巻かれた白い足飾り、銀色のサンバシューズがきらびやかに有希を飾っていた。


 −−−有希達は今、東京のサンバカーニバルに出演していた。田舎町の工場の外国人労働者で始めたサンバチームだったが、F町での祭りに参加して以来、人気が急上昇し、ついに日本で最大のサンバカーニバルに招待されたのだ。
 東京のサンバカーニバルに出場が決まった彼女達は、すぐに有希に参加を依頼する手紙を出した。そして、有希が仕事を理由に欠場する旨を返信すると、今度はS書房の上層部に対して陳情を行った。その結果、有希は業務としてそのサンバに出場を命じられたのだった。

 その話をもっとも歓迎したのが、Supershotの担当者達だった。以前、「お尻タンバリン」をスクープした美人女子大生が新入社員として入ってきて、10週連続の下着露出での緊縛教室を連載され、今度は、S書房の社員として、東京のサンバカーニバルに出場するのだ。例年だったら、血眼になって可愛い女の子を探し出し、顰蹙を買いながらもスケベなアングルで撮影し、目玉として雑誌に掲載するところだが、今年は、とびきり可愛い日本人の美女を確保しているだ。Supershotの担当者達は、アイリス映像と連携しながら入念に計画を立て、有希にその衣装を着るように命じたのだった−−−


 暑い・・・真夏の太陽がじりじりと照りつける中、大通りのアスファルトの上をサンバをしながら移動するのは、想像以上の激務でもあった。それに、通りを埋め尽くす大観衆の熱気・・・夕方から行われた田舎町の祭りの中でのサンバとは、何もかもが違っている気がした。

 しかも今の有希は、F町の時とは状況がもう一つ異なり、誰もが知っている有名人となっていた。有希が出場することは極秘にされていたため、東京では無名のサンバチームがスタートラインに立ち、その中央に有希が飛び入りの形で参加した時、大観衆がわあっと大きく盛り上がった。おおおっとざわめいた報道陣も、一斉に有希にカメラを向け、シャッターを切り続けた。

 「緊縛アイドルの有希ちゃんだ! 出場するなんて、聞いてないぞ!」
「うわあ、本物はすっごくかわいい!」
「有希ちゃーん、こっち向いて!」
「ちょっと衣装が大人しすぎじゃない?」
「今日はお尻タンバリン、見せてくれないの?」
「今日はサンバの体験取材?・・・てことは、袋綴じはサンバで緊縛?(笑)」
「緊縛教室の連載終わって悲しかったけど、新企画か!?」

 大勢の観客の歓声と野次が響く中、有希はにっこりと笑顔を振りまいていた。
(す、すごい人たち・・・こんな大勢の人の前で、私・・・そんなこと、できない・・・)
有希は、このサンバの中でするように命じられたことを考え、目の前の群衆がぼうっと霞むのを感じた。

 「あ、痛っ」
すかさずマルシアにお尻をぴしゃりと叩かれ、有希は悲鳴をあげた。おおっ、とお尻タンバリンを期待している観衆が一斉に沸いた。

 サンバのコースはL字型になっていて、大通りの交差点を曲がるところが一番の撮影ポイントになっていた。そこでは、一般人にも撮影が許可されていたため、早朝から場所取りをする者が大勢いた。

 有希達のチームは、L字型の最初の辺にあたる部分を順調に進み、撮影ポイントであるコーナーを喝采を受けながら通過した。観客達の拍手と歓声それまで通過したどのサンバチームよりも大きく、カメラのシャッター音が洪水のように響いた。マルシアやサンドラ、フランシスカ達は満面の笑みを浮かべ、時おり隊を離れて道路脇の観客達の間近で激しく踊ってサービスしていた。ただ、一番多いのは、やはり有希への歓声だった。可愛い!、やっぱお尻がいいね、笑って、こっち見てぇ・・・

 しかし、有希にとっての「本番」はそのポイントを通過した後だった。コーナーとゴールのほぼ中間点・・・そこが、恥辱のステージとして指定された場所だった。

 ダダダダン、ダダダダン、ダダダダ、ダン、ダン! 大音量のリズムと拍手、歓声に包まれながら、有希は羞恥と共に、どこか陶然としていた。もうすぐ私、こんな大勢の人達の前で・・・

 そしてついに、有希達のチームは指定のポイントに到達した。道路脇には、報道マークを付けた男が1人立っていた。もちろん、Supershotのカメラマンだ。有希の姿を見つけると、合図をするように、右手を軽く上げた。

 「あ、暑いわね・・・」
有希は踊りながら、両隣のマルシアとサンドラに声を掛けた。
「ちょっと、私のコステイロ、取ってくれる?」

 「エ、コステイロ、トルノ?」
マルシアは不思議そうな顔をしたが、有希がこくりと頷くのを見ると、サンドラと顔を合わせ、小さく頷いた。
「ソレジャア、トルヨ・・・セーノ!」

 次の瞬間、ギャラリーは意外な光景に息を呑んだ。2人のブラジル人ダンサーが有希の後ろに寄っていき、バタフライのような有希の背負い飾りを思い切り引っ張ったのだ。するとその飾りは、ビリッと音を立てながら有希の背中から離れた。
 その鋭い音は、背負い飾りに引っ張られ、有希の身体を纏う濃紺のワンピース型の衣装が縦に一気に引き裂かれた音だった。バタフライが身体から離れるにつれてその裂け目は横にも広がり、ついには全てが有希の身体から離れ、地面に落ちてしまった。

 「・・・おおおっ!」
一拍置いてから、地鳴りのようなどよめきが起こった。有希の身体を覆っていた衣装が剥がれた後に、衝撃的な光景が展開されていたのだ。

 実質的なミスK大とも謳われた美女は今、全裸に亀甲縛りの姿を晒し、サンバを踊っていた。赤い縄が二重になって白く美しい肌にまとわり付き、肢体にきつく食い込んでいた。綺麗な乳房は上下の縄と首からの縄に挟まれ、尖ったように飛び出していた。その頂点に白い花形のニプレスがちょこんと貼り付けられ、ぎりぎり乳輪を隠していた。下半身では、縦に3本の縄が走り、有希の秘部を辛うじて隠していたが、それ以外の腰の前面と、ふっくらとした尻肉は完全に丸出しになっていた。そして有希は、顔を真っ赤に上気させながらも、にこやかに踊り続けていた・・・

 最初は呆気に取られていたギャラリーだったが、有希が逃げ出しもせずに、にこにこ笑いながら踊り続けるのを見て、これは事故ではなく演出だと理解した。もちろん、有希ががんじがらめにされて仕方なく痴態を演じているなどとは夢にも思わなかった。

 「お、おい、一体どうなってるんだ?」
「すっげえ過激な衣装だな、ほとんど裸じゃん!」
「下にも何も穿いてないで縄だけなんて、ブラジル人よりもエロいぞ!(笑)」
「本当だよな、それに、アソコの毛、剃っちゃってるよな・・・すごい気合い!(笑)」
「ケツなんて、溝に縄が食い込んでるだけじゃん。やっぱり、見てほしいんだな、有希ちゃん(笑)」
「緊縛アイドルとしては、サンバでも緊縛を見せたいんだな。偉いぞ、有希ちゃん!(笑)」
「だけど、乳首にニプレスなんて、思い切りが悪いな。」
「もう、どうせなら、全部見せちゃえよ!」
「写真撮っちゃっていいかな? ばれたら消せばいいし。」
「携帯没収されるとしたって、撮らないではいられないだろ、有希ちゃんの亀甲縛りサンバ!(笑)」

 (あ、ああ・・・私、真昼の道路で、裸に縄だけの姿で踊ってる・・・こんなに大勢の人の前で・・・みんな、カメラで撮ってる・・・だめっ、そんなところ、撮らないで・・・う、うわああ・・・)
有希は今まで経験したことのない露出に、全身がぞくぞくと震えるのを感じた。東京のど真ん中で、何十万人もの観客が訪れるカーニバルの最中にこんな格好になったら、もはや無かったことにするのは不可能だ。今までだったら、田舎の町内や、学校、社内、取材先、取引相手と、何らかのクローズな関係だったので、何とか頼み、「ここだけの秘密」にしてもらうことができたのだ。大勢の見知らぬ男達が笑いながら携帯端末のカメラで写真を撮りまくっている姿を見て、有希は絶望的な気持ちになった。このうちの何人かは、インターネット上でこの光景を公開しているに違いなかった。

 しかし一方で、その破滅の予感は、どこかぞくぞくするような感覚を有希にもたらしていた。え、何なの、この気持ち?・・・


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